distant day/dream 作:ナチュルの苗木
なお、本編は基本的に半オリジナルで進行していくので知識がなくとも問題なくお読みいただけます。
#1 争いと協力と争いと
生まれ、栄え、争い。そして滅んだ、遠い世界の話。
*
遙か太古、大陸には平和を脅かす邪悪が存在した。
その名を『インヴェルズ』。
インヴェルズは邪悪の思念体『ヴェルズ』をその身に宿す悪魔。同族を喰らうことによりその力を高めていくという残虐な種族だ。
彼らが抱くのは目の前の者を食したいという捕食願望のみ。その捕食対象は敵味方を問わず、インヴェルズは欲望に身を任せ大陸中の生物を貪ぼり喰らい、平和を掻き荒らしていた。
また彼らの喰らった生物の亡骸は邪悪の思念、ヴェルズによって浸喰され、邪悪へとその身を堕としていく。インヴェルズの手によって大陸は邪悪に支配されようとしていた。
全てを喰らう絶対捕食者。正者を喰らい侵喰する者、それが『インヴェルズ』。
そんな彼らを良しとしない者達がいた。インヴェルズが悪ならば、それは正義。
その名を『セイクリッド』。
星の加護を受ける、星座の導きの下に集った星の騎士団。世界の秩序を守る者。
大陸の平和を脅かす邪念を廃除せんと天上より降臨した。彼らは対インヴェルズ用に開発した機械天使『ヴァイロン』と共に戦闘へと向かう。ヴァイロンは機械ゆえにインヴェルズの感染を受け付けない強力な戦力だった。
正義が存在して、悪が存在して、そして生まれるのは戦いだ。
光と闇の対立。『セイクリッド』と『インヴェルズ』はぶつかり合い、末にセイクリッドはインヴェルズを封印する事に成功する。
そうして大陸は滅びの一途を避け、世界を救った騎士達は天上へと戻っていったのだった。
*
邪悪が大陸を襲ってから時が経ち、大陸には繁栄が訪れていた。
そんな中、氷山に強力な力を持った龍が現れた。司るは氷の力。大陸ごとを氷つかせてしまいかねない、絶対的な力を持った氷龍が、3体。
龍はその力を目的なく振るい、氷山を暴れ回っていた。
そこを訪れる者がいた。彼は後に封印を得意とする一族『氷結界』を興し、『氷結界の伝道師』と呼ばれる者であった。
彼は鏡を用いた特殊な封印術を持って暴れる三龍を封じ込めてみせたのだった。
龍たちは氷結界の三龍として、『ブリューナク』『グングニール』『トリシューラ』とそれぞれに槍を関した名前が与えられた。その力はやがて人々の信仰の対象となる──。
*
どれだけの時間が経ったのだろうか。
大陸にはまた争いが起こっていた。
その争いに悪──絶対悪など存在せず、彼らは自身の版図を広げるためだけに争っていた。
部族間の領地を賭けた戦争である。
邪悪の脅威が消え、安寧の中いくつかの部族が栄えた大陸だったが、しかし栄えた先に芽生えるのは更なる繁栄を求める欲望であった。それは自身らの手にしたものでは飽きたらず、それ以上を欲するというものだ。他人のものまでをも求めた末だ、争いが起こるのは必然だった。
それまで各部族はどれも大きな繁栄を見せていた。それゆえ、部族間に大きな戦力差はなく戦況は拮抗していた。
部族同士が憎み合い、争い、決着が付くことなく時間が過ぎ、戦場と被害だけが広がっていった。
戦争は永遠に続くものだと思われていた。あるいは──全てが滅びるまで消えないものだと思われていた。
互いが強欲に利を求め合い、それが重なったのだ。譲ることも諦めることもないならば、そこに終結はないだろう。各地の戦争の度に恨みや憎しみといった負の連鎖は続いていき、更なる負を呼び寄せる。
ならば全てが滅ぶまで、争いは無くならないのだろう。
──だがそんな戦争に終わりが訪れた。
しかしながら、それは平和の訪れではなく更なる戦争の始まりだった。
星の外、宇宙より隕石が飛来した。『W星雲隕石』と後にそう称される隕石が各地に落下したのがきっかけだった。
隕石による被害は大した問題ではなかった。だが、問題はその隕石とともにやってきた者達だった。
正体不明の侵略者『ワーム』。
隕石に付着していたのは有機物。それは環境に適応し、増殖や進化を重ね、惑星を喰らい尽くす侵略生物であった。
ワームは圧倒的な数を持ってして大陸を襲った。個々の力は大したものでなくとも、戦場を埋め尽くすような数の制圧力は脅威である。宇宙よりやってきたワームの外見は元々大陸──星に栄えたものとは大きく異なり、その歪な体躯も相まって大陸全土に恐怖を与えた。
終わらないと思われていた戦争は──休戦を余儀なくされたのだった。
こうして始まったのが大陸に栄えた部族とワームの戦争である。
部族はそれぞれのやり方でワームを打倒し始める。各々の誇る戦力で群れなすワームを駆逐していった。
氷結界に至ってはかつて封印された氷龍の内1体『氷結界の龍 ブリューナク』を解放し、ワームの大群を押し返してみせた。
だがそれは仇ともなり、各部族による多種多様の攻撃を受けたワームはそれらに対応した進化をしてしまう。
終わりの見えないワームとの戦争は、時間が経つにつれ劣性になっていった。どんな攻撃をしようとも耐性をつくりだし、そして数を増やす侵略者に現住部族たちは為す術がなかった。
そこで持ち上がったのは、現住部族たちによる協力であった。
かつて互いを憎み、争いあった彼らは共通の敵を前にして初めて手を取り合ったのである。
そうして結成されたのが正義の同盟『
『A・O・J』は『氷結界』『
『氷結界』はかつて氷結界の三龍を封印した氷結界の伝道師が興した部族で、三龍を封印する結界、すなわち氷結界を守護する一族。三龍や封印に携わる聖獣を信仰の対象とする封印術に長けた一族だ。
『霞の谷』は常に霞のかかった渓谷、霞の谷に住む一族。鳥人が多く、また風や雷を操るなど特殊な力も持っていた。また谷の鳥獣と協力することもあり、戦闘においては見事な連携を見せる。そして谷には番人とも呼べる、霧を放つ蟲『ミストウォーム』も侵略者を打倒する。
『フレムベル』は『フレムベル・ウルキサス』の統制する、炎を操る龍種や悪魔の集う戦士団。また獣や精霊も属し、その全てが炎に通ずる同胞である。彼らが自在に操る紅蓮の炎にはワームには非常に有功打であった。
『Xセイバー』は10人の剣士団。『Xセイバー ソウザ』の立ち上げた用兵集団が基盤となってできた、『総剣司令 ガトムズ』が率いる精鋭剣術組織である。たった10人と言えど個々が確かな実力を持っており、加えそれぞれに数十という傘下が付く巨大な戦力だ。
多種の種族の中でも彼らは特に秀で、多彩な技能を備えていた。
無限にも思える数のワームと戦うのに、限りのある戦力のみで戦うのは得策ではないと判断した彼らはワームに対抗するための兵器の開発、製造に取り付いた。
造られた兵器は同盟の名である『A・O・J』を冠された。機械兵のA・O・Jたちは戦場に送り込まれ、多くのワームを狩り戦火を上げていった。中でも『A・O・J カタストル』はワームを狩るのに完全特化しており、各地で大きな実績を残していった。
戦況を持ち直した現住部族。だがそれだけでは安心など出来ない。ワームもまた日々進化を遂げて襲い来るのだから。
A・O・Jの技術者が次に目を付けたのは『ジェネクス』だった。
ジェネクス。それは大陸中に混在する、A・O・Jとは別の機械であった。
明確な目的は不明で、その成り立ちも不明。いつからか大陸各地で環境の保護、また改善に見える活動を繰り返していた機械である。ジェネクスもまた、ワームを環境を乱す外敵として認知し戦場に加わっていた。
A・O・Jは彼らの調査を進めていった。
一方戦場では変化が見られていた。夥しい数ながらも単調な動きでしかなかったはずのワームの群が、徐々に統制を見せ始めたのだ。
戦いを繰り返す現住部族とワーム。その中で、長く生きたワームが更なる進化を遂げ、高い知性を備えた個体が現れたのだった。単純な身体のつくりであった今までのものとは見た目も違い、より複雑になった他、その個々の戦闘力も飛躍的に上昇していた。
激しさを増す戦争にて、現住部族のXセイバーは苦戦を強いられる。幾ら傷付こうとも退くに退けない彼らは消耗し、やがてXセイバーの主要メンバーの多くが倒れていった。
それでも戦場へ向かおうとする彼ら。リーダーの総剣司令 ガトムズはXセイバーの意志を継ぐ者を選考し、次世代の剣士たち、『
戦争は終わらない。広がっていくのみだ。
ワームの進行は大陸全土に及び、ナチュルの森を始めとした侵略の手を免れていた区域まで戦場に巻き込んでいく。
ナチュルの森とは植物に昆虫、獣に岩石と更には竜まで、多種多様の魔物たちが平和に暮らす森である。『ナチュル』の民は皆普段から温厚で争いを好まないのだが、そんな彼らでさえも戦場に立たざるを得ないのが今のこの大陸であった。
拡大する戦争に対し、A・O・Jの打った手は新たな兵器の製造。それも今までにない技術の運用だった。
──彼らが手を出したのは、『ジェネクス』だった。
ジェネクスはあくまで環境保全に勤しんでいた在来の機械たち。A・O・Jの開発部は彼らを調査を進める中で、利用できると判断したのだ。
ジェネクスは優れた技術で造られており、その処理、制御においてはA・O・Jの技術を遙かに上回っていた。それに至った彼らはジェネクスを捕獲。そして、ジェネクスを演算装置として
造られたのは大型兵器『A・O・J フィールド・マーシャル』。『スペア・ジェネクス』を制御中枢コアに組み込んだ広範囲制圧兵器。戦場に聳えるその姿は士気を上げ、そして多くのワームを殲滅するに至ったものだが、しかしフィールド・マーシャルは激戦の末に大破。そのまま破棄されてしまう。
埋め込まれたスペア・ジェネクスは放置だった。ジェネクスは口なき機械であるが、そこには心らしきものはちゃんと存在する。戦場跡にはスペア・ジェネクスを労る『ジェネクス・コントローラー』の姿があったのだが、A・O・Jの技術者たちはそれを知る由もない。
心のないのはどちらだったろうか。A・O・Jの技術者が次に目を付けたのは、あろうことか『ワーム』であった。
敵であるワーム。それ自体を利用しようと言うのだ。ワームを運んだとされる隕石より未知の物質を発見した彼らはそれを兵器に運用した。試作されたのは『A・マインド』。実験の結果、A・O・Jの機械群の思考力は向上、全体の性能は底上げされた。
新たに制作が決まったのは『A・O・J コズミック・クローザー』。ワームを異次元に消し去ろうという次元に関与するという試みが進んでおり、開発部では期待が高まっていた。
そんな裏で。
『ジェネクス』に『ワーム』。利用できるものは全て利用する。そんな方針の『A・O・J』に対し、疑問を持つ者がいた。異議を抱く部族があった。
──『霞の谷』。
造られた機械兵を前にして、『霞の谷の雷神鬼』は思考を繰り返していた。
そこに、新たな魔の手が迫っていたことに彼は──彼らは、気付いていなかった。
*
突如、『霞の谷』が『A・O・J』からの脱退を表明した。
そこにあったのはA・O・Jに対する不信感。正義の意義を見失った彼らは組織を離れたのだった。
だがその意志は誇張されたものであった。手を引いていたのは『魔轟神』。
魔轟神は太古の昔に眠りについたと言われていた悪魔、そして神々たちだ。地上の乱戦に呼び起こされたのか、はたまた──A・O・Jの次元干渉実験が起因してなのか。真相は定かでないが、魔轟神は復活し、霞の谷たちに干渉、その悪意を増幅させ、脱退に至らせたのだった。
やがて魔轟神は地上へと姿を現した。そして彼らの理念“己の欲に忠実であれ”に従い、悪しき神は各地の戦場に介入していく。
どちらに加担するでなく。全て、道楽のために。
魔轟神はまず手近にいた種族『ジュラック』を襲った。比較的ワームの進行が少なかったはずのそこも、戦場に姿を変えたのだった。
『ジュラック』。誇り高き恐竜の一族。彼らは炎を身に纏い、戦に応じた。神の慢心か、狩りでもするような魔轟神を返り討ちにするよう炎で迎え撃ったのだ。
予想を越える反撃を受けた魔轟神。その傷は決して浅いものではなかったが、彼らが浮かべるのは笑みだった。獲物が決して弱者でないことを知って抱くのは愉悦。
この戦乱の時において、魔轟神は冒涜者のごとく。自らの快楽を満たすために活動を始めたのだった。
一方、A・O・Jであるが、彼らが魔轟神を目覚めさせた原因である可能性があることも、魔轟神が霞の谷を脱退させたというのも、露ほどに知らず。
その意識は『ジェネクス』へと向いていた。
魔轟神がジュラックを強襲する以前だ。本来環境を保全するために動いていたはずのジェネクスが、自ら戦闘向けの機体へえと改修を始めたのは。
ジェネクスもまた、ワームを本格的に駆除するために動き始めたのかもしれない。口なき彼らの真意はわからないが、しかしA・O・Jはこれをまた好機と見る。
この戦時において、やはり不足しがちなのは材料だ。戦力を賄うための機械造りであるが、それには多くの資源を必要とする。そして次に、エネルギー。どんな機械を造り、動かすにもエネルギーが必要だ。
そしてA・O・Jが動いたのは、エネルギーのためだった。
自身を進化させていくジェネクスにA・O・Jは『レアル融合炉』なる機関を移植。ジェネクスたちに自分たちの扱うエネルギーを生み出させようというのだ。
レアル融合炉を取り込んだジェネクスは『レアル・ジェネクス』へと進化を遂げることとなる。
現住部族とワームという大戦争に、魔轟神という強大な敵が現れて。戦争は更なる乱戦へと向かう。
大陸全てを喰らおうというワーム。敵味方関係なく戦場を掻き回す魔轟神。2つの敵に対し、対抗せんとしたのは、『氷結界』だった。
──2体目の氷龍、『氷結界の龍 グングニール』の解放である。
好戦的なその氷龍は戦場に赴き、長きに渡り封印されていたその力を存分に解き放った。瞬く間にワームと魔轟神を諸共氷付けにしてみせた。
そしてA・O・Jを脱退した霞の谷だが、彼らに危機が訪れていた。度重なる戦いは孤立した霞の谷には厳しく、ついには最大戦力である『ミスト・ウォ-ム』さえも倒されてしまう。
霞の谷の誰もが全滅を覚悟したそのとき、救援に現れたのは『ドラグニティ』であった。
竜操術という技術により竜に乗り共に戦う部族、ドラグニティ。
竜に相乗し一心一体となるその姿は『ドラグニティナイト』と呼ばれる。
竜の渓谷に住むと語られていたのみで、その現存は不明と伝説にもなっていた彼らは、霞の谷に現れ手を貸したのだった。
全滅を免れた霞の谷。それからやや遅れ、戦場に変化が訪れる。正確には、ワームとの戦争に、変化が訪れる。
──時を問わず、昼夜ともに途切れなく各所に進行していたワームが数を減らしたのだ。
絶え間なく続いていた侵略に、少しずつ、少しずつであるが間が空き始めたのだ。
ある者は歓喜した。ようやく戦争に終わりが見えたのだと。だがある者は言う。これは所謂ところの、嵐の前の静けさであると。
──それはどちらとも、間違っていなかった。
A・O・Jは、後者だった。それも、これから
量産型である他種のA・O・J兵器の生産を控え、多くの人材と時間が究極兵器に集められた。
核に埋め込まれるは『ジェネクス・コントローラー』。A・O・Jは最後まで、ジェネクスを利用するスタンスを崩すことはなかった。
完成から間もなくして、A・O・Jのワームを観測する装置が反応を示した。
場所はかつて『Xセイバー』が基地としていた地区、上空。
空間を引き裂き、現れたのは──『ワーム・ゼロ』。
夥しい数のワームが、溶け合い、融合した、ワームの始まりであり最終到達点である姿。
ワームとは同族を吸収、融合し進化していく生命体。その極地こそが星を埋め尽くすほどの数の融合体、ワーム・ゼロである。
ワーム・ゼロの出現した周辺の大地は一瞬にして汚染され、枯渇、正に死の大地と化した。
そして。出現地帯にて待ちかまえるのは究極兵器、A・O・Jの最終兵器となる浮遊砲台A・O・J ディサイシブ・アームズ。
激戦の末に。
多大な被害を出しつつも、侵略者ワームと現住部族の戦争は幕を閉じる。
A・O・J ディサイシブ・アームズとワーム・ゼロは相打ちとなり、地上からワームの驚異は消え去った。
──現住部族による正義の同盟、『A・O・J』が役目を終えたときであった。