オーバーロードは時を超越する   作:むーみん2

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ブルー・プラネット様、るし★ふぁー様、死獣天朱雀様の話です。


るし★ふぁー様の話は、「強いゴーレムを作った」ということを聞き、モモンガ一同が様子を見に行くと急に襲ってきて、AIのバグのせいと釈明した、という話が元になってます。


8. ギルメンとの会話(後編)

ブルー・プラネット

 

 

「羨ましい世界ですね」

 

「えぇ、夜空に関しては素晴らしいという言葉が陳腐に思えたほどでしたよ」

 

 転移後の世界の環境の話をしていた。透き通った闇に満面に散りばめられたダイヤモンドのように輝く星空、緑が生い茂る広大な大森林、農作物を栽培する村人たち、人工心肺をしている人など誰もいなかった。

 

「モモンガさんが助けた村……カルネ村でしたっけ? どんな感じだったんです?」

 

「うーん……一言で言えば寒村でしたね。最初、見て驚いたんですけど、お湯を沸かすのにすごい時間かけてたんですよ。火打石を打ち合わせて火種を作って、大きい火を作って、そこから竈で炊いて……リアルでは信じられませんよね?」

 

「すごいな~ まさしく自然と生きているって感じですね。畑とか見ました?」

 

「あんまり見てないですけど……あたり一面が麦畑だったような? どうやってるのかはさっぱり分からないですけど、小麦をパンにして食べてたみたいですね」

 

「うーん……実に興味深い……」

 

「そういえば、ナザリックでも栽培していたし、外でも牧場をやっていたんですよ」

 

「本当ですか!?」

 

「えぇ、大森林で助けた森妖精(ドライアード)が6層の果樹を育てていました。ウルベルトさんが作成したNPCのデミウルゴスは牧場をやっていましたね」

 

「へぇ~ あのデミウルゴスが牧場……イメージがつかないけど、そんなキャラだったんですか。果樹園はともかく、牧場なんて私も動画でしか見たことありませんよ……牧場ってどんな感じなんです?」

 

「うーん、俺は見ていないんで、よく分からないんですが、混合魔獣(キマイラ)を飼育していたみたいです」

 

混合魔獣(キマイラ)ですか? 何でそんなものを?」

 

「羊皮紙の供給源にしてたんですよ」

 

「なるほど……よく飼育できましたね、飼育って意外と難しいらしいですよ? 食料の調達とか体調管理だとか疫病だとか……」

 

「体調管理とか疫病は魔法でどうとでもなっちゃうんですよ、食料の調達なんですが、驚いたことに雑食で共食いもするらしいですよ?」

 

「うぇぇ、本当ですか!? よくそんな気持ち悪いのを飼育しようとしましたね」

 

「確かに、本人は両脚羊なんて言ってましたけど、俺は飼いたくないですねー」

 

 

「聞けば聞くほどに面白い世界ですね」

 

 ブルー・プラネットはどこか遠くを見るようにして語った。

 

「何で……リアルの環境って、こんなに悪いんでしょう?」

 

「……それは……経済の発展のために、こうなってしまったんでしょうが……」

 

「……現代ではあらゆる国が社会と福祉の発展という建前の元、自然に負担をかけて開発していますが、かつて人は自然を『神』と崇めて畏敬の念を持っていたそうです。一体、いつから自然保護だの環境破壊だの騒ぎ立てて『神』を上から目線で保護する立場になっていたんでしょうか? 産業革命が起こし始めた時か、公害が発生したときか、レイチェル・カーソンが『沈黙の春』を出版したときなのか…… 時折、こういったことを考えるんです」

 

「なるほど……」

 

「私は異世界へ行くことをまだ決めることはできません。私が行けなかった場合、もし、できるのであれば……その異世界の『神』が……この現実世界のように蔑ろにされぬよう、お願いしてもいいですか?」

 

「……当初よりそのつもりですよ」

 

「面白い話を聞かせてくれて、ありがとうございました。モモンガさん」

 

 

るし★ふぁー

 

「やぁ、モモンガさん、話って何だい?」

 

「……身に覚えはありませんか?」

 

「……何のことかな? 僕はただ単に強いゴーレムを作っていただけだよ?」

 

「そのゴーレム、俺らに襲いかかってくることなんて有り得ないですよね?」

 

「そ、そんなこと、ある訳無いでしょ!!」

 

「……という訳で、確認のためにゴーレムとAIの専門家をお連れしたんです」

 

「ぬーぼーです」

 

「えっ、ちょっ……」

 

「ぬーぼーさん、このるし★ふぁー氏が作られたゴーレム、どのように思われますか?」

 

「……ふむふむ、これは非常に強いゴーレムですよ!! レベルは98、打撃系武器には弱いものの、全状態異常耐性、高い魔法耐性を有していますね。おやぁ? 希少金属をふんだんに使っているためか、ゴーレムにしては珍しく高い魔力と機動力を有しているようですね」

 

「ほうほう、それは強そうなゴーレムですね~ 希少金属をふんだんに……というのが非常に気になりますが、今は置いておきましょう。AIの方はどうですか?」

 

「あ、ちょ、それは見んといて……」

 

「どれどれ……ふむふむ、これはなかなかに作り込んでいますね。様々な状況に応用が効くようにきちんとルーチンが組み込まれていますよ。これだけのAIを作るのはさぞ時間が掛かったことでしょう」

 

「おぉ、それは素晴らしい!! 他に気になる所はありませんか?」

 

「気になる所? うーん……おや、一部無効化されているAIの記述がありますね。うわっ、このゴーレムが起動したと同時にるしふぁー以外、誰彼構わず襲うようになってますね。……今は無効化されているから、普通に強い頼れるゴーレムだけど」

 

「そうでしたか、ありがとうございました。……おい、そこの糞ゴーレムクラフター、説明しろ……変なAIは無効化していた様だから、きちんと説明すれば今回は不問にしてやる」

 

「……正直に言うよ。最初は皆を驚かそうと思って、宝物庫の物資をちょっとだけちょろまかしてゴーレムを襲わせようとしたんだよ」

 

 ここまでは、恐らく自分が体験したときと同じだ。実際に今のゴーレムは襲ってきた時のゴーレムと似ている。

 

「でさ、タブラさんがマメに宝物庫の記録を付けてたみたいでさ、ちょろまかしてるのを見つかったのよ。それで怒られて……それがもう、めっちゃ怖くてさ、こんな感じに色々と封印しちゃったのよ」

 

 意外だった。タブラさんが宝物庫の記録をつけていたのもそうだが、別にいたずらを激怒するような人ではなかったはずだ。寛容的で、多少のおふざけでも笑って許してた人だった。……異世界での話、亡くなった娘をNPCとして復活させる計画、これらがタブラさんのプレイ方針を変えたのだろう。

 

「代わりにさ、普通に戦力の増強ために強いゴーレムを作るなら多少のちょろまかしは見逃してやるって言われてさ、その結果がこれ」

 

「なるほど……」

 

 勝手にアイテムを使ったのは許されないことだが、るし★ふぁーが作っているゴーレムはそれに見合うほどの強さを持っていた。

 

「次からは、ちゃんと言ってくださいね? 皆、るしふぁーさんのセンスと実力は分かってますから」

 

「まじで? それじゃあゴキブリ型のゴーレム作りたいと思ってたんだけど――」

 

「駄目に決まってんだろう!! このバカ野郎!!」

 

「えー!! なんでさ、センスは認めるみたいなこと言ったじゃん!!」

 

「レメゲトンの悪魔像とか9、10階層のレリーフのことを言ってたんですがね!! 転移後の世界でも絶賛されたんですよ?」

 

「まじで!? ……でもさ、そういうのも、いいけどさー、ずっとは飽きるじゃん?」

 

 確かに、そうかもしれない。同じ仕事をし続けるというのも疲れるし、モチベーションが下がりかねない。

 

「まぁ……確かに、ちょっとだけなら遊ぶのもいいかもな、レアメタルも今は十分にあるし……」

 

「さっすが、ギルド長!! 話が分かる!! ……言質はとったぜ!!」

 

「ちょっとだからな!? それと、皆にもちゃんと伝えておくんだぞ?」

 

「分かってる、分かってるって」

 

 本当に分かっているのか? と問いただしたくなる。

 

「そういえば、前から聞きたかったんだけど恐怖公って異世界じゃどんな感じだった?」

 

「実に紳士的なゴキブリでしたよ。プレアデスのエントマにはおやつの間とされてたようですがね……」

 

 

 るし★ふぁーとモモンガは異世界でのNPCのことを大雑把に話をした。

 

 

「へぇー、やっぱ聞く限りだと、異世界ってリアルよりも面白そう。俺も行ってみたいな」

 

「るしふぁーさんも異世界へ行くことをお考えに?」

 

「うーん、気分次第?」

 

「おまえ……気分って……これに関しては遊びじゃなくなりますよ?」

 

「俺はいつだって大真面目さ、仕事にしても遊びにしてもね」

 

「……今はまだいいですけど、異世界へ行ったら勝手な行動は慎んで下さいね?」

 

「分かってるって」

 

 ……不安だ。何が分かってるのか小一時間ほど問い詰めたいが、それほど暇ではなかった。

 

 

死獣天朱雀

 

「私の見解が聞きたいと?」

 

「はい、そうです。教授なら何か分かるかなと思って」

 

 ユグドラシル最終日に異世界へ行ったことについて、もしかしたら教授なら何か分かることがあるかもしれない……そういう淡い希望を抱いて聞いてみた。

 

「正直、何もわからないと思うが……せっかくだし、分かる範囲でその世界の環境だけ言ってみなさい」

 

 モモンガは人がいたことや、星が綺麗だったこと、大森林があったことなどを説明した。

 

「……やはり不思議だ」

 

「何がです? 教授」

 

「異世界では地球と同じ重力で、1日が24時間で年365日、さらに四季まであると…… 生物、それも人間が存在しているという時点で既に……」

 

「……何か変ですか?」

 

「その異世界というのは、おそらく地球と同じ体積と密度で自転速度も一緒、公転速度と温度から太陽と地球の距離も近いと考えられる。……太陽の質量すらも現実世界と同じということか? なんにせよ地球の環境と偶然にしてはあまりに一致しすぎている。地球に住む何者かの作為があったとしか思えん」

 

 確かに言われてみればそうだ。当たり前のことすぎていて失念していた。

 

「正直、話を聞いていると冗談を言っているようにしか聞こえんが、最近のモモンガ君の言動を見た限り、実際にその異世界とやらへ行ったのだろう」

 

「はい、それは間違いないです。そして、過去に戻ってきました」

 

「……正直、異世界に関してはさっぱりだ。最初に話を聞いたとき、君が見てきた世界というのはこのユグドラシルのようなDMMO-RPGのデータ世界なのかと思ったんだよ」

 

「しかし、データ量としては膨大なものになりますよ? 現代の技術では再現不可能なはずです」

 

「現代の技術では確かに不可能だろう。だが、未来の技術では可能なのではないだろうか?」

 

「……未来へ飛んでいたと? 異世界へ行ったのは一瞬でしたよ?」

 

「もし、君自身もデータ的な存在であったなら起動するまで時間という概念は無かったはずだ。見かけが一瞬のことであろうとも不思議なことではない」

 

 確かに、シャルティアと戦ったときはゲームのように感じたものだ。実際にユグドラシルと似たような仕様がいくつかあったのは確認済みだ。

 

「そう……私は異世界転移後の君自身ですらNPCと化していたと思った。しかし、そうでもないようだ。君は過去に戻ってユグドラシルのイベントだけでなく、実際に様々な現実世界で起きることを予言している。NPCであれば、現実世界に戻ることは有り得ない。よって、考えられるのは実際に異世界というものが存在しており、君はそこで生きていたということだ。もしくはもう一つ、別のパターン……」

 

「別のパターン?」

 

「現実世界で生きている我々すらもDMMO-RPGの中の存在でしかないということだ」

 

「はぁ!? 現実世界がDMMO-RPG!? それは幾らなんでも有り得ないでしょう!?」

 

「……そう言い切れるかね?」

 

「言い切れますよ!! そんなこと、ある訳ないじゃないですか!!」

 

「……モモンガ君、有名な例え話をしようか。『水槽の脳(brain in a vat)』というのは知っているかね?」

 

「いえ、知りませんが……」

 

「これは1982年、ヒラリー・パトナムという人物によって定式化された思考実験の一種なのだが、『意識とは何か?』『実在性とは?』といった話の内の1つの仮設だ」

 

 

『ある科学者が人から脳を取り出し、脳が死なないような成分の培養液で満たした水槽に入れる。脳の神経細胞を電極を通して脳波を操作できる高性能なコンピュータにつなぐ。意識は脳の活動によって生じるから水槽の脳はコンピューターの操作で通常の人と同じような意識が生じる』

 

 

「つまり、仮に君が公園を散歩していたとしよう。霧のようなスモッグ、工場の騒音、ヘドロみたいな悪臭、冷たい風、まずい空気……そういった情報を君は五感を通して神経から脳へと電気信号によって知覚する。だが、もし君が培養槽の中の脳だけの存在で先程のような電気信号を脳へと送られているだけの存在だとしたら? きっと君は公園を散歩していることを現実と思い込むだろう」

 

「なんか、DMMO-RPGと話が似ていますね……」

 

「そう、その通りだ。もしかしたら……ユグドラシルというゲームをしている現実の君は水槽の中の脳なのかもしれない」

 

「冗談でしょう?」

 

「根拠を持って否定できるかね? 間違っている可能性はあれども、可能性は否定できないはずだ。……だが安心して欲しい。そんな中でも確実に真実だと言えることがある」

 

「それは何ですか?」

 

「『我思う、故に我有り』デカルトの有名な命題だ……つまりだね、『今モモンガ君は真剣に悩んでいる、即ち、悩んでいる君というものが存在しているのは確か』だということだ」

 

「は、はぁ……」

 

「所詮、分かるのはこの程度のことだ。がっかりしたかね?」

 

「いえ、そんなことはないです」

 

 元々、教授にも分かるはずがないであろうという事は予想付いていた。

 

「モモンガ君、私が思うに重要なことはただ一つ、『心』だ。仮に君が異世界へ行って、人を辞めて骸骨、どんな存在になろうとも『心』持っているならば君自身足り得るのだと私は思う」

 

「そうですか……」

 

 異世界へ行っていた時の自分は異常だった。また異世界へ行ったら鈴木悟としての心は失うかも知れない。それでも自分は……

 

 

「ところで、モモンガ君。これまた言いにくいことなんだが、私はもうしばらくしたらユグドラシルを引退しようと思う」

 

「えっ!? そんな、引退って……もうしばらくって、どれ位ですか?」

 

 実際、ギルド全員が教授の忙しさを知っていた。さらに年齢のこともあり、大変な負担になっていたであろうことが予測できる。モモンガからしてみれば、よく今まで支えてくれたと思うほどだった。

 

「あぁ、今すぐには引退しないよ。そうだな、最近のナザリックの今練っている計画……何か大きなイベントが近々起きるんだろう?」

 

「えぇ、そうです。実を言うとそのイベントのせいで、現在のアインズ・ウール・ゴウンは存亡の危機にあります。そして、それに対抗するために隠し鉱山の熱素石(カロリックストーン)をひたすらに製造しています」

 

「それの手助けをしてから引退することにしよう」

 

「そうですか……残念です。教授には、まだまだ教わりたいことがたくさんあったのに」

 

「私が知っていることなど、大したことないよ。……私は元々、先程のような仮想実験に興味があってね、DMMO-RPGではどのような具合になっているのか知りたくて始めたんだ。すぐに辞めるつもりだったんだが、なかなか面白くてここまで続けてしまったな。これは君たち、アインズ・ウール・ゴウンというギルドのせいだろう」

 

「そうですか……そう言って貰えるとギルド長として嬉しく思います」

 

「そうだモモンガ君、せっかくだし君にプレゼントしようと思うものがある。準備に時間が掛かるから待っていておくれ」

 

「分かりました。楽しみに待っています」

 

 

 

 

 そして、今から数ヶ月後、2134年、初夏――

オンラインゲーム界史上、名高いナザリック地下大墳墓の防衛戦が開始された。

 




 ブルー・プラネット様の会話の一部は『天地創造』というゲームに出てくる名も無き学者
の言葉を参考にしました。

 水槽の脳に関する話はイメージがつきにくいと思いますので、後ほどwikiにある挿絵を挿入したいと思います。

-追記-
wikiにある画像を載せようかと考えたのですが、著作権などの問題に該当する可能性があることの指摘を受けましたので、ご興味のある方は検索の方よろしくお願いします。

水槽の脳(wiki)

https://ja.wikipedia.org/wiki/水槽の脳

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