もしも衛宮士郎が召喚したのが隻腕の騎士であったら   作:熊本

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 ◇

「私は今、とても怒っています」

 

 何故かわかりますか? と衛宮士郎が遠坂凛との一件を終えて豪華な武家屋敷の自宅にへと帰宅した時のことであった。

 玄関の引き戸を開けた矢先に開口一番セイバーはこう口を開いた。

 腕を組み、眉はつり上がっている。端正な顔はわかりやすく怒気を含んでいた。

 

「あの、こんな時間に帰ってきて悪かった。俺も色々あったんだ」

「……言いたい事はそれだけですか?」

「まずは居間に戻ろう。説教はそこで聞くからさ。ここは寒いだろ」

 

 靴を脱ぎ、セイバーを居間にせかす。

 そして玄関に入り、セイバーを見た時から頭の中を離れなかった疑問をつい洩らした。

 

「…………なあ、その服どうしたんだ?」

「? この服ですか? レディ・藤村が貸して戴いた物ですが」

 

 似合いませんか? と心配そうに士郎を見つめてくるセイバー。

 白地のワイシャツにスラックスと同色の黒のベスト、そして首を飾る蝶ネクタイ。所詮バーテン服と呼ばれる格好だ。それが今、セイバーの身を纏っている。

 とてもよく似合っていた。

 セイバーの見目麗しい顔立ちに男らしい体格が引き立ってまるで執事のように凛と佇む彼の姿。その姿に同性であるというのにこちらが照れてしまう。

 

「いや似合っている。似合ってるよ」

「どうしたのですか、シロウ?顔を背けて。それと話は終わってはいませんよ。聞かなければならない話は山ほどあるのです」

「話は居間でするよ。だからセイバーも行こう」

 

 ぐい、とセイバーの腕を引っ張る。彼の腕は驚くほどに冷たかった。

 

 

 ◇

 セイバーに放課後に学校で起こった事を話した。

 遠坂に襲われた事、他のサーヴァントに襲われた事。そして遠坂と同盟を組んだ事。

 これらを端的に話す。セイバーは静かに聞いてくれた。

 

「なるほど。マスターが選んだ事なら、私はそれに従います」

「え、いいのか?」

「同盟を組むとは別段悪い話ではありません。またシロウは未熟なマスターでありますからレディ・遠坂と組めば学校とやらでも危険が下がりますでしょう」

 

 セイバーは真っ当な意見を口にする。その背筋はピンと伸ばしていて見惚れてしまいそうなほどの綺麗な正座だった。

 

「ただマスターのその腕の傷です。生身で英霊相手に戦おうとしたのですか!」

 

 セイバーの視線は士郎の腕、正確に言えば腕にかけての至る所に巻かれた包帯だ。

 

「セイバー、生身と言っても武器は持っていたぞ。それに遠坂が治療をしてくれたし、今ここにいるだろ」

「それは結果論に過ぎません。マスター、何かあれば令呪でお呼びくださいといったはずです」

 

 士郎にとってはなんとも痛い所をついてくる。放課後にまさか遠坂に襲われるとは思ってもいなかった、そしてサーヴァントに遭遇するとも思ってはいなかった。だからこそセイバーの怒りは尤もだ。

 プライドもあるのだろう。剣士(セイバー)としてマスターに功績を捧げたいのだろう。何もせずじっと待つのが嫌なのだ。

 

「ですが他のサーヴァント、というのが気になります。レディ・遠坂の他に学校にはマスターがいるということです。危険なのではないでしょうか」

「それは俺も気になる。学校の結界を張ってるサーヴァントだとは思うが……」

 

 話は学校で襲われた女のサーヴァントの話に変わる。士郎はこの事を細かくセイバーに話した。

 ただこの時士郎はあの放課後、雑木林でサーヴァントを追っている時に見た慎二の名前は出さなかった。

 士郎の見間違いかもしれない。またこの話を慎二に問い詰めても賢い彼ならのらりくらりと逃げるだろう。決定的確証が無いためこの件を保留とした。

 

「やはりシロウのサーヴァントたるこの私が伴に行動できればよいものの……」

「大丈夫だって、セイバーは心配症だな。俺は死なないし、死ぬ気もない。安心してくれ」

 

 この話はこれで終わりだというように席を立つ。夕飯にしよう。恐らく桜が用意してくれただろうと台所に向かう。

 だがセイバーは士郎の態度が癪に障るのか眉を顰めるのみである。

 

「セイバー、この後稽古を頼んでもいいか?」

「シロウ、それは」

「もちろんサーヴァントに勝とうとは思わないさ。ただセイバーの剣を知っていればサーヴァントに遭遇しても逃げやすくなるだろう」

 

 本心である。何もできないよりは、何かを身につけた方がよいだろう。英霊であるセイバーの実力は初めて会ったあの夜にわかっている。

 

「……まあ、一理ありますね」

「ありがとう。飯が食べ終わったらすぐに道場に行こう」

 

 その後、道場で妥協をしないセイバーにコテンパンにやられるのは別の話。

 

 

 ◇

 

  ——夢を見た。

 

  美しい夢であった。

  白亜の城。金銀の調度品。笑う民草。剣を携える勇猛な騎士達。

  国を治めるは一人の幼い王。

  誰もが彼の王を理想と崇めた。

  とある騎士もその一人だった。

 

  ——あの日の貴方の笑顔を今も覚えているのです。

 

  日が傾き、空が緋色に染まったあの日。

  あの語らい、あの笑顔、騎士は忘れはしなかった。

  だからこそ騎士は歩き続けた。その果てに救いがなかったとしても。




更新が遅くなりました。どうもすみません。
そして全然進まないです。
だいたいの構成はできているのですが文を書くのはとても難しいですね。

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