◇
夢を見た。
そこは豪華絢爛の白亜の城。国で最も栄えた豊かな都。
国を治めるのは一人の王。清廉潔白、滅私奉公を貫いた王。
その黄金の剣。勝利を見せる剣。王は民の為に剣を振るう。
その王に騎士達はかしずき剣を捧げる。
例外もなく誰もが王を尊敬した。
一人の騎士もそうであった。
王の輝きに魅せられた。王の力となりたかった。王の笑顔が見たかった。
しかし騎士の望みは叶わなかった。
◇
夢を見ていた。
いつもの悪夢ではない。高貴を孕んだ誰かの夢。
一体誰の夢だったのか——。
「シロウ、起きたのですね」
「セイバー!?」
目を開けるとセイバーがいた。目の前に。
セイバーは男だが女性のように端整な顔立ちは目に毒だ。
慌てて視線を逸らし布団から飛び起きた。
「? どうかされましたか?」
更に悪いことに彼には自覚がない。自身がどんなにも美しい顔立ちをしているのか気づいていない。顔を近づけられるのは心臓に悪い。
「飯の用意をするか!」
逃げるように、気を紛らわすようにと張った声が思いの外大きかった。
◇
朝食、というよりも時間が遅く、どちらかと言えば早めの昼食をとっていた。
「あの、私はサーヴァントなので食事は必要ありませんが……」
「絶対必要ないという訳ではないだろ。それに二人で食べたほうが美味しいしな」
食卓の上に置かれた料理はだいたいは昨夜の残り物だ。時間はそうかからない。
「おいしい……」
「そりゃよかった。作った甲斐がある」
セイバーの口に合ったのか、箸の進むスピードも速い。
傍目から見てもセイバーの美味しそうに食べる姿は微笑ましい。そして美味しいと口出されるのは士郎にとっても嬉しいことだ。
「なあ、セイバー。好きな食べ物ってあるか?」
「好物、ですか? 蒸した野菜が好きですが、何故?」
「今夜は蒸し野菜料理を作るよ」
蒸し野菜ならどんなレシピがよいだろうか、頭の片隅で考える。夜は後輩の桜やお隣の大河もいるだろう、多めに作らなければいけないな、と考えているうちに早めの昼食は終わった。
◇
「セイバーには聖杯への願いがあるのか?」
食後の一服、とはいかないセイバーから聖杯戦争のルールを教えて貰っていた。
要約すると、士郎の魔力が少ししか供給されないせいで実力の半分も出せないとのこと。士郎の実力ゆえに真名を明かさないとのこと。宝具の解放はセイバー自身に任せるとのこと。最後についてはセイバーは驚いた様子を見せたが潔く受け入れた。
「私の、願いですか」
「セイバーにもあるんだろ」
願いがあるから魔術師はサーヴァントを召喚する。願いがあるからサーヴァントは聖杯戦争に参加する。
ならばセイバーにもあるのだろう。
「……ええ、確かに私は願いを持っています」
目を伏せながら、しかし確かな決意を目に灯しながらセイバーは言う。
「果たさなければならない望みが」
「それってどういう」
電話の鳴る音。それが士郎の言葉を遮る。
セイバーの顔が頭にこびりつく。悲しみを帯びた、複雑な表情。
しかし思考は相手の騒がしい虎の声によってかき消される。
「あっ、士郎? あのねー。私、士郎のお弁当が欲しいなーっ!」
小説を書くのが大変と身をもって知りました。
円卓礼装、欲しいです。