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凛の言うことは右も左もわからない士郎に聖杯戦争を取り仕切る監督役に詳しい説明を受けてもらうために新都へと向かうとのこと。より現実を知ってもらうためのこと。
しかし外に出る際にある不都合が生じた。
「霊体化できないですって!」
普通のサーヴァントなら霊体化という簡潔に言うと姿を消すことができるらしいがセイバーにはそれができないとのこと。
そのために一悶着起きたが鎧を外して同行、という形で収まった。
「霊体化もできない三流サーヴァントで面目ごさいません、マスター……」
「できないことがあって当たり前だろ。そう落ち込むな」
実際サーヴァントという存在に実感が湧いていない士郎にはどうということない事だった。セイバーが過去の人といっても彼はごく普通の青年としか思えない。
「あとマスターって言うのは止めてくれ。士郎でいい」
「シロウ、シロウ……。はい、わかりました。シロウですね」
唐突に綺麗な笑顔を向けられた。周りに花が咲いていそうなほどの笑顔だ。こちらが照れくさくなるほどの笑顔で、セイバーが男という事実を忘れてしまい、士郎は一瞬見惚れてしまう。
「仲いいのね」
凛の言葉により我に帰る。
セイバーは男だ、と己を自制の心を持ち夜の冬木を歩く。
今は新都に向かうための道すがら。今この場にいるのは士郎、凛、セイバーの三人だが、凛のサーヴァントは霊体化させているとのことだ。
「まあいいわ。もうすぐで着くわよ」
「着くって、冬木教会にか?」
「知っていたのね」
「……名前だけな」
この道には何度も覚えがある。
もしかしたら自分も居たかもしれない教会。あの日同じように家族を失った奴が行った教会。
士郎は養父に引き取られたので教会には行くことはなかったが、彼らは教会にいる。その事で何度か足を運ぼうとした。が、行けなかった。何度か近くに寄ることはあったがそれは士郎の中ではフェアではなかった。会うのなら町の中で、そう思っていた。
「士郎、私はここで」
「着いていかないのか?」
「何か起こったらすぐ駆けつけますので、その時は令呪でも何でも使って呼び出してください」
凛の後をついて行き教会の中へと入る。
夜中の教会は厳かな雰囲気を醸し出し、重い空気をだしていた。
◇
「衛宮君、次会う時は容赦しないからね」
教会の監督役、言峰綺礼。士郎はあの男に多大なる嫌悪感を隠せずにはいられなかった。何故か。ただ漠然とした嫌悪がそこにあった。
そしてその教会からの帰り道。凛からそんなことを言われた。
「? 何でだよ。遠坂と闘う必要があるのか」
「はあぁぁぁぁ。貴方、まだわかってないの?」
大きな溜め息をつかれ、つっけんどんな態度をとられる。
「私達は敵同士なの。今回助けたのは何もわからない貴方とフェアになるためよ。こんなの本当は心の贅肉なんだから」
「贅肉って、遠坂太っているのか?」
「あぁっ?」
「シロウ、淑女に言う言葉ではありませんよ」
正直な気持ちを吐露したものが、仇となったのか凛に一層睨まれる。セイバーには呆れたように溜め息をつかれた。
この空気はいけない。大変居心地が悪い。それは士郎の姉ともいえる大河で何度も経験したことだ。
「もうお話は終わり?」
その時だった。
重く、冷たい空気。ピリピリとした、殺伐もした雰囲気が流れこむ。
少女がいた。雪の妖精を想わせるような白い少女が。
「初めまして。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
イリヤと名乗った少女がスカートの端を摘み、まるで貴族のようにお辞儀をする。その姿に可愛らしいと感じるがそれよりも後ろの存在に脅かされる。
「うそ……」
「あれは……」
「■■■■■■■■■■!!!!」
圧倒的質量をみせる巨体。その殺気に当てられてしまい脚が竦む。
「どう? 私のバーサーカー」
イリヤの背後のバーサーカーは第五次聖杯戦争における最強のサーヴァントといえるだろう。
戦闘描写が大変です。
ちなみに所々端折らせていますので詳しいところが変わっておりますがストーリー的には問題ありません。
ちなみにこの物語にあたって一番の問題はバーサーカーとギルガメッシュと聖杯のことだったりします。
今はベディルートと輪廻ルートを平行しています。