ベディヴィエールはきませーん。かなしいー。
◇
衛宮士郎には理解できなかった。いきなり青年が現れたのだ。今にも殺されようとした、その時に。
だが青年を見て何を思ったのか、綺麗だ、と思った。彼の在り方を綺麗だと思ったのか、それとも別の何かか。月に照らされた青年の髪が風に吹かれ揺れる。
「話は後で、マスター。まずは外の敵を片付けましょう」
「お、おい!」
そのまま外に向かい赤い槍を持った男とかち合った。
危険だ、とも思った。しかし何処かで士郎は感じていた。あの青年は槍の男と同じ存在だと。
青年と槍の男の闘いは士郎の想像を遥かに絶するものであった。金属の音が響き渡り、火花を散らす。二人の闘いに目が追いつけない。
「ぐっ……!」
しかし青年が少し、いやかなり押されているように見えよう。
槍が青年に迫り、剣で押し返そうとするが力量が足りないのか弾かれてしまう。
だが槍の男はいきなり青年から離れたと思うとこのような提案をしてみせる。
「ここで痛み分けといこうじゃねえか、セイバー」
「断る。と言いたいところですが、私の実力では貴公を倒せそうにはない。その提案を受け入れましょう」
「だが一つ聞かせてもらおうか。てめえのその右腕はなんだ?」
青年の右腕。それは白銀に輝く腕であった。
士郎にはその銀の腕は何らかの魔力を帯びた礼装であると感じた。
「……さあ? ただ私が言えることはこれは借り物の宝具ということです」
「そうかよ」
槍をどのようにか片付けた男は背を向け軽々と塀を越え何処かへと行ってしまった。士郎にはその背中を見つめることしかできなかった。
「マスター、ご無事でしょうか」
突然現れた青年。その彼が近寄り士郎に話しかけてきた。
青年は顔に似合わず存外体格があり、士郎を見下ろす形になった。
「……! お前何者なんだ」
未だ士郎には状況が理解できていなかった。校庭の件にしても今目の前で起こった件にしても、この青年のことにしてもてんで予想がつかなかった。
「何者、と聞かれますとマスターが呼び出したセイバーですが……」
「セイバー? ああ、名前か。俺は衛宮士郎だ」
検討違いのことを答えている気がするが、名前を告げる。
「いやそうじゃなくて、さっきのあれは何なんだよ」
「聖杯戦争なので他サーヴァントと闘うのは必然です。マスターはその為に私を呼び出したのでしょう」
「聖杯戦争てなんだよ。それに俺は使い魔を呼び出せるほど優れた魔術師でもない。それに人型の使い魔なんて聞いたことがないぞ」
ここまで言うとセイバーというらしい青年は驚いたような表情を見せた。
「何も、知らないというのですか?」
「だから聞いているんだろ」
「そう、ですか……」
考える素振りを見せたかと思うとセイバーは急に塀の外を見た。
「サーヴァント反応です、マスター。撃ちますか?」
「外に? まさか——」
◇
「まさか家に上がらせて貰えるなんて思わなかったわ」
ランサーの襲撃を受けた衛宮邸にあの長い神の女性がいる。
士郎の通う穂群原学園のミス穂群原を二年連続で獲得した、容姿端麗、文武両道、才色兼備という言葉が似合う女性。遠坂凛だ。
そんな彼女が家に上がったと思うと破れた硝子を魔術で治した。そして今は客間に座り茶を啜っている。
あの遠坂凛が家にいるという事実に士郎の昂ぶるかと思えば、彼女の印象は急降下し始めた。
「なんで衛宮君みたいなヘボマスターにセイバーがくるのよ」
「わ、私はそれほど優秀なサーヴァントではありませんよ」
学校では猫を十枚ほど被っていたんだな、と遠い目をする。セイバーは士郎の後ろに正座の姿勢で座っている。
見逃す代わりに聖杯戦争のことを教えて貰っているがこのような悪態を幾度となく吐かれた。
つまり聖杯と呼ばれる願望器を得るための儀式。つまりそのために魔術師は殺し合いを始める。つまりそのためにサーヴァントと呼ばれる英霊が召喚される。つまり衛宮士郎は参加者としてセイバーを召喚した。
凛の話によるとこうだ。
士郎は巻き込まれたといってもいい。
「さて、行くわよ」
「行くって何処にだよ」
「隣街の新都よ」
ベディヴィエールがあまり目立ちませんね。
ちなみに原作セイバーのようにならなかったのはベディでは兄貴はキツイだろうと思いまして。結果無傷です。
恐らく次回、ベディの目立ったシーンがきます!たぶん。