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かつて民の幸せを一途に思う王がいた。
彼の王はただ冷静に、私欲を打ち消し、まるで人形かのように国を治めていった。
ある騎士が言った。去り際に嘆いた。“王は人の心がわからない”と。
その騎士を境に次々と多くの騎士は去っていった。王はただ無常に彼等を見つめるだけであった。
しかしある騎士は最後まで、最期の時まで王の傍に付き従った。
何故か。騎士は知っていた。あの時の王の笑顔を知っていた。
ただそれだけだ。王の笑顔が見たいと思った。王としてではない、人間としての王を見たいと思った。
最期の時、忠義の騎士は命令を果たせずにいた。
一度、二度として不忠を働き、三度にして騎士は————。
最期、王は王としてなくなった。
◇
——ああ、と騎士は嘆く。
自身の罪が怖いのだ。自身の行いが恐ろしいのだ。
罪を犯して云千年。彷徨い果てて云百年。騎士は後悔と罪の意識を糧に生きていた。
我が王にある物を返すために。
しかし何もかも遅かった。何もかも手遅れだった。
騎士のあるたった一つの過ちが王を人ならざるものへと変化せしめた。
純粋に、王の幸せを願っただけであったのに。
騎士は自身の行いを嘆くしかない。騎士は自身に決着をつけるしかない。
◇
騎士はかつての王を殺した。
銀の腕を持ち、盾の騎士と共に、人類最後のマスターと共に。
貴方の笑顔を覚えているのです、と騎士は頭を垂れる。
貴卿は王の命を果たしたのだ、とかつての王は笑った。
その言葉は騎士をどれほど救ったのか。
騎士は笑顔を浮かべ朽ちていった。
◇
騎士の身体は心身ともに疲れ果てていた。
その生、実に千五百年。例え肉体の老化は防げても精神の崩壊は止められないだろう。
騎士は王に会うために生きてきた。心は清らかなままで、静かな狂人ともいえるだろう。
肉体、精神、魂の三位一体の全てが苔むした騎士。魂は燃え尽きた。動かぬ肉体を動かすために、精神も尽き果てた。同じく肉体を動かす燃料として。
いや、騎士の精神は今も彼の王の光に向けられている。
騎士は輪廻の道から外された。
しかし何の計らいか、彼は英霊として昇華された。行いが人理に認められたのか、それともある王の粋な計らいか。
光の輪に導かれるように騎士は召喚される。
それは正義の味方になる少年に。
隻腕の騎士は月光を背に少年を見やる。
「貴方が私のマスターでしょうか」
「此れよりは、貴方の剣となりましょう。マスター」
衛宮士郎のサーヴァントとなる英霊はベディヴィエールであった。
そしてその時、少年は思った。あの青年は正義の味方なんだ、と。
ベディが士郎に似ていると思い衝動的に書いてしまいました。
ロマンにもベディは正義の味方だと言われていますし。
続きも書けたらいいな。
ただこのまま話を進めるとベディルートと言う名のホモにはいりそうです。