ん? クリスマス?
知らない子ですね・・・・・。と言ったら、限定グラまで否定することになってしまうので言えませんね。
東京。
瑞穂国の、政治・経済・文化の中心であり、名実ともにこの国の象徴たる世界有数の大都市。史上初の総力戦に遭遇し、大戦初期には数回の空爆を受けたものの、その繁栄と活気は衰退を知らない。見渡す限りの大地を埋め尽くすビル群と住宅街。地上を、高架を駆け抜ける無数の自動車。圧倒されてしまうほどの人ごみ。
この街は大戦を経てもなお、進み続ける瑞穂を体現していた。
東京。
日本国の、政治・経済・文化の中心であり、“かつて” 名実ともにこの国の象徴であった世界有数の大都市。
アジア・太平洋戦争以来、いや史上初めて国家・民族の生存を賭けた真の総力戦に遭遇し、無数の空爆を受け、極度の飢餓に襲われた街。見渡す限りの土地を埋め尽くしていた高・中・低層ビル群は廃墟と化し、住宅街は灰塵に帰し植物の楽園となった。
地上を、高架を駆け抜けた無数の自動車。圧倒されてしまうほどあふれていた人ごみ。
それはすべて過去。記憶と記録上の存在になり果てていた。
この街は生戦を経て、かつての繁栄と栄光を失った日本を体現していた。
どちらも並行世界という枠を超えた、同じ東京。
「うわぁ~~~。すっご~~~~い!!」
今、みずづきはなんたる数奇な巡り合わせか、“瑞穂の東京”に立っていた。
「人、人、人っ!!! 懐かしいなぁ~~~~。こんな人ごみを見たのっていつ以来だろう」
自分の周囲を、離れた場所を、各々の目的地に向かって歩いていく数え切れない人たち。内装からも歴史を感じる丸の内口は、朝か昼かの区別が今一つ分けづらい時間帯にもかかわらず、人でごった返していた。ホームからここまで来る道中も人ごみに揉まれてきたが、駅を出るまでこれは続きそうだった。日常の一節としている者ならば、ただの苦行。しかし、みずづきはそれを苦行とは一切、感じなかった。むしろ、目を輝かせてさえいる。
外観に気を遣った清潔な駅舎。太陽に代わり駅舎内を煌々と照らす照明。例え、無表情であろうとも未来への希望をもって、各々の目的地へ歩みを進めていく人々。聞こえてくる軽快な音楽。
かつての故郷と同じ光景。細部は異なるが、失われた、もう2度見ることは叶わないと思っていた活気が目の前に広がっていた。
以前ならばここまで純粋に感激はできなかったかもしれない。だが、己の内に溜まった真実を吐露し、確固たる居場所を確保した現在。そのような
「お眼鏡に叶ったようで良かった。やっぱり、日本も科学水準はさておき、世相は瑞穂と変わらなかったようだな」
慎重に言葉を選びつつ、優し気に微笑む百石。その表情からは容易に彼の心情が察せられた。
彼は、そして艦娘たちは今の日本を知っている。みずづきがどのような状況で生きてきたのか、今の日本人がどのような生活をしているのか、知っている。
日本の東京駅。西洋風赤レンガ造りの荘厳かつ伝統・歴史を感じさせる東京の玄関口は、岡山駅と同様に各所が焼け落ち、駅機能の維持に必要不可欠な部分を除いて修復は放置されていた。駅の中には軍歌や勇ましい歌謡曲が響きわたり、「生戦遂行・宿敵撃滅」などのスローガンと日章旗が至る所に掲げられ、89式小銃を持った警視庁の警察官や陸防軍の普通科隊員が、1人でも火あぶりにしようと不審者(非国民)に目を光らせていた。そして、誰が設置したかも分からないボロボロのトタン板を使った掲示板には、東京駅周辺で行方不明となった少女たちの情報が張り出されていた。人身売買、臓器窃盗、労働者確保のための拉致。かつて、世界一安全と言われた日本も、海を越えた諸外国と同様に、安全はタダではなくなっていた。以前知山と共に東京へ来たとき、彼がその掲示板を深刻な表情で見つめていたことを覚えている。その少女たちのほとんどが身寄りのない戦災孤児たちであった。
深海棲艦だけではない。目を覆いたくなる人間自身の醜さを突きつけられる光景が日本の現実だった。だから、百石はこちらに気を遣っているのだろう。だが、その心配は無用だ。
「はい! 正直、思っていた以上のものです!! 横須賀とはやはり規模が違いますね。このような活気を感じると、自然に気分が高揚してきます!!」
この身は踏ん切りをつけた。それに眼前の光景は鬱積する感情など吹き飛ばしてしまうほどのものだった。
「やっぱり、みずづきは人間なのね・・・・」
だが、輝く目と明らかに正反対の色彩を帯びた声がすぐ隣から聞こえてくる。声の主は声色から分かるため、「へ?」と首をかしげて、表情を覗った。
「か、陽炎? ど、どうしたの?」
振り向いた先には、人ごみを背景に顔色を悪くし、虚ろな瞳で見てくる陽炎がいた。
「気分でも悪いの? 自分の顔見てないから変わらないけど、横須賀駅の私みたいになってない?」
その様子は明らかにおかしく、いつもは元気な彼女とはかけ離れていた。
「そこまではひどくない!!」
おちょくったわけではなかったのだが、怒られた。どうやら、いつもの元気は有り余っているようである。だが、さすがに心配になったのか、百石の傍に控えている長門が「大丈夫か?」と声をかける。それに対し、「大丈夫です。それにもう少しの辛抱ですから」と無理に笑顔を作る陽炎。「本当につらかったら、言うんだよ」と頼りがいのある笑みを浮かべる川内。
東京駅からは迎えの車で市ヶ谷の軍令部へ向かう手筈となっている。そのため、人ごみはここを切り抜けると、明後日の観光中または帰路に東京駅へ来るまで遭遇することはない。
「私、あんまり人ごみは得意じゃなくてね。横須賀ぐらいなら平気なんだけど、東京駅レベルになると、ちょっと・・・・」
「あ~。まぁ、これはもう慣れの問題だからね。私は神戸に住んでたから、三ノ宮とかの大きな駅に行く機会もあって、耐性は持ってる方かな。私も最初はさすがに参ったけど」
「私たち艦娘は人と変わらない生活を送っているとはいえ、“人”としての人生は長い子でも6年程度。30年以上生きてきた提督や20年以上のみずづきには到底敵わない。置かれている立場上、あまり、目立つわけにもいかないからより一層、順応していかなければならないな」
長門は笑いながら、周囲を見回す。一見、普通に見えたが、彼女の笑みは明らかに硬かった。長門も程度の差はあれ、陽炎と同じ心情を抱えているのだろう。
では、黒潮たちはどうか。それはいちいち視線を向けなくても、耳が外界の音を拾い続けている限り把握できた。
「うっわぁ~~~。すっげぇ! こっちの東京ってこんなに電車が走ってるんだ! 俺たちの東京とは比べもんになんねえな~」
「ほんまや、ほんまや! 大阪ともこりゃ比べもんにならへんわ~。なんか、負けた気分や・・」
「うーん。私、鉄道のことは分かんない。深雪ちゃんや黒潮ちゃんは知ってるの?」
「いや、知らない」
「右に同じや」
「へ!? だったら、なんで?」
「感覚と直感」
「初雪、大正解!! さすが、俺のお姉ちゃんだぜ!」
「お姉ちゃん・・・・・」
「よっ!! 深雪の姉! 吹雪型の三女!! ここぞと言うときに頼りになる姉の鑑や!」
「姉の、鑑・・・・・」
「初雪ちゃん、嬉しいのは分かるけど、そのグッドサインは早く下した方が・・・。直感と感覚の話はもう分かったから」
「おっ! こっちには東京駅の地図が!!」
「さすが、深雪や!! って、待ちんさいよ!!」
「って、ちょっと、深雪ちゃん!! 初雪ちゃんまで!! あんまり、司令官たちから離れたらダメだよ~~~~!!」
あまりの自然体が、自然体になれない陽炎たちを強調。結果、笑うに笑えない。
「黒潮たちは順応できてるようなんですけど・・・・」
「あの子たちは駆逐艦だ」
「そうそう」
長門の逃避に、うんうんと頷く陽炎。百石と川内は「へ?」と当たり前のように頷いているオレンジ色の髪をツインテールにしている艦娘を凝視する。もちろん、みずづきもだ。
「そうそうって、陽炎も駆逐艦でしょ。なんでさも私関係ないみたいな感じで頷いてるの?」
何か素早い影が視界の左端を横切った。
「だって、私はあんなお子さま駆逐艦じゃないもの。私は陽炎型駆逐艦の長姉!! そんじょそこらの駆逐艦とは違うのよ!!」
「おいおい、聞きましたか、黒潮さん。あなたのお姉さん、人ごみにすら適用できないくせにあんな大口叩いてますよ」
「いやぁ~、お恥ずかしい限りで。いっつもうちが手綱を握っているんですが、離すとすぐこれで。大口など叩かず、いつも正直に自分の気持ちを話される深雪さんのところの吹雪さんを見習ってほしいものですわ」
陽炎の真後ろに移動後、にやにやを抑えきれない様子で口元を手で隠し、井戸端会議を再現する素早い影。傍から覗うまでもなく、非常に楽しそうだ。その素早さを少しでも演習で発揮できたなら、全身塗装されずに済むものを。
「おやおや、ありがとうございます。お姉さんもいつか吹雪のようになるとよろしいですな」
「まったくで」
『あはははははははっ!!!!!』
数多の存在が作り出す喧騒の中で、確かに響き渡る駆逐艦の高笑い。それに紛れて「ブヂッ」と何かが引きちぎられる異様な音が聞こえた。
「あ、あんたたち・・・・・」
俯き、爪が食い込まんばかりに拳を握りしめる陽炎。血相を変えた百石がなだめようと機関銃並みに言葉を連射するが・・・・・・・。
陽炎は絶対零度の笑みを2人に向けた。
「あんたたち、そこでまってなさ~~い。姉を馬鹿にする行為の恐ろしさ、たっぷり味わわさせて、あ・げ・る」
「うわぁ~、余裕がないくせに怒った!!」
「深雪!! ここは戦略的撤退や!! あんな深海棲艦もどきと無理に戦う必要はあらへん!!」
「了解!! 機関全速!! 撤退!!」
「待ちなさい!!! この私を馬鹿にした罪の重さ、今日こそ思い知らせてやるわぁぁ!! 東京だからって手加減すると思ったら、大間違いなんだから!!」
必死に広い駅内を駆使して逃げ回る、深雪と黒潮。対して、2人の進行方向を読み、常に先回りしようとする陽炎。大勢に人がいるにもかかわらず、ここに盛大な鬼ごっこが勃発する。
「とっつかまえて、営倉にぶち込んでやるわ!!! 覚悟しなさいぃぃ!!!!」
「営倉? 東京駅に営倉があるんかいな?」
黒潮が走りながらはてとほほに人差し指を当てた。あれはダメだ。いくら黒潮にその気がなくとも、他人から見れば煽っているようにしか見えない。
「横須賀に決まってんでしょうが!!! このどアホぉぉぉ!!」
「うわぁ!? 陽炎が関西弁を!?」
案の定、陽炎はますます燃え上がる。白雪が血相を変える。顔面蒼白もいいところだ。
「ちょっ、ちょっと2人とも! 場所をわきまえて! 周りをよく見て!」
「陽炎~~~。営倉って、どこの? 横須賀には営倉、3つあるけど」
「え? 2つじゃないの?」
好奇心を刺激され、つい初雪に質問する。
「潮から、聞いた。あの子、意外に博識だから」
「もう! 2人とも!!!」
白雪の怒号が飛んできた。普段聞かない分、威力は絶大。全身がすくみ上がる。だが、白雪はあくまで駆逐艦。そこからの怒気も、駆逐艦の領域は逸脱していない事実を、この直後突きつけられることとなった。
「「へ?」」
首根っこを掴まれ、2人の両足が地面から離れる。まだ、初秋だというのに、背後を震え上がらせる風が漂ってきた。同時に直視すら本能的に拒絶してしまう禍々しいオーラも。それに身動きが取れないようで、2人はそのまま百石の前に放り出される。2人の背後から出てきた無表情の長門は百石の傍らに立つと、眉間にしわを寄せ、額の血管がわずかに浮かび上がる。その阿修羅を前に、2人は顔を引きつりただただ冷や汗を流すだけとなった。
「あ、はは・・・あはははっ」
乾いた笑みを浮かべ、先ほどまで怒りに怒っていた2人の憐れみの視線を送る陽炎。
「さすがに、あれは・・・ねぇ~」
「はい・・・・・・。ここにいても怒気というかもう殺意すら感じますし」
「長門、怖い・・・」
「うん・・・・うん・・・・・・」
白雪と初雪がみずづきと川内に背後に震えながら隠れる。つい、好奇心の誘惑に勝てず、先ほどは空気を読めない外野と化してしまったが、一歩間違えれば長門の逆鱗に触れる恐れがあった。これからは自重しなければならないだろう。
このまま長門の静かなお怒りを眺める羽目になるのかと思いきや、舞台の転換は唐突に訪れた。
「もし、少しお尋ねしますが?」
誰とは言わず、全員にかけられる声。振り返ると、そこには百石と同様に濃紺色の第1種軍装に身を包んだ1人の若い海軍軍人が立っていた。
「あなたたちは横須賀鎮守府所属にする艦娘の皆さんですね?」
「はいそうですが・・・あなたは・・・」
代表して、川内が答える。
「あっ。すみません。申し遅れました、私は・・・・・」
「おお! 山内じゃないか!!」
青年軍人が名前を名乗ろうとした瞬間、目を輝かせた百石がお取込み中の三人を放置してこちらに走ってくる。それを捉えると青年軍人も嬉しそうに破顔した。
「お久しぶりです!! 百石先輩! あっ、し、失礼しました! 今はもう・・・」
「よしてくれ。いくら横須賀鎮守府司令長官になろうが、俺は百石健作のままだ。そういう堅苦しいのが嫌いなことはお前も良く知っているだろう?」
「はい、仰る通りです。やっぱり、先輩は何も変わっていませんね」
「あ、あの・・・・・?」
勇気を振り絞って声を上げる。みずづきの傍らにはいつの間にか、長門ご一行が立っていた。
「百石司令、この方は?」
「ああ、すまない。久方ぶりの再会でつい・・・、おい、山内自己紹介だ」
「・・・・・・・・・」
百石に応えず、こちらを見つめてくる山内と呼ばれた男。
「山内? 山内?」
「・・・あ。す、すみません! つい。そうか・・・・・この子が」
目を見開いて独り言を呟いた後、彼は背筋を伸ばして話し始めた。
「初めまして、艦娘のみなさん。私は海軍軍令部作戦局軍備課課員の
礼儀正しくお辞儀をする山内。そこにはこちらを卑下するような態度は一切ない。御手洗の一件もあり、軍令部の人間に警戒心を抱いていなかったといえば嘘になるが、少なくとも軍令部にも百石のような人間はいるようだ。
「すまんな、ダラダラと来てしまって」
「いえ、時間の方は大丈夫です。ただ・・・・・・」
山内は百石やこちらから視線を外し、周囲に向ける。そこにはかなりの人だかりができていた。
「ねぇ、ねぇ、あの子たちって・・・もしかして・・」
「普通の女の子が尉官クラスやそれ以上の軍人と行動を共にするかよ。もしかしてじゃなくて、確実に彼女たちは・・・・・」
「お母さん! お母さん!! ねぇねぇ! あのおじさん、お父さんの読んでた新聞で見たことある!!」
「すげぇ・・・・俺、本物を生で初めて見たよ」
「いや、俺もだって・・・・」
スマホやらデジカメが大衆品であったころの日本ならば、無数のシャッタが切られている雰囲気。しかし、ここ瑞穂にはそのような最新デジタル機器は存在しない。
どれも羨望の眼差しであったが、軍人にとってみれば、あまり好ましくない状況で。
「とりあえず、こちらへ。これから、市ヶ谷の軍令部へお連れします」
つい1時間ほど前に腹痛の原因となった未来。それがいよいよ近づいてきた。
~~~~~~~~~~~~
電線が張り巡らされ、せいぜい5階建てほどの低層ビルや2階建ての木造家屋がひしめき、みずづきにとってレトロ感満載の自動車が無数に走る街中を進むこと、約30分。博物館に収蔵されていそうな山内が運転する黒塗りの高級車は、建物が密集する周囲の中でひときわ異彩を放つ区画へ堂々と進入。そして、その中でも異次元な建物の前に堂々と横付けする。
東京都新宿区市ヶ谷にある海軍の最高司令部、軍令部。海軍設立当時の流行りであった西洋風赤レンガ造りの3階建て。それだけ見ると横須賀鎮守府の1号舎と同じに思えるが、大きさが段違いであった。建物の全長は優に3倍を超えている。また、1号舎も整備や清掃は行われていたが、赤レンガの色合い・窓ガラスの輝き・植樹されている木々の
誰もが思わず感嘆してしまう、歴史的建築物。
それに思わず「うわぁ~」と感心してしまったのも束の間。山内に見送られ、百石に先導される形で軍令部の一階、エントランスホールに入る。
「うわぁ~~~」
マナー違反とは重々承知の上だが、ついきょろきょろと頭を動かしてしまう。一点のシミも汚れも塗装のハゲもなく、雪のように真っ白な壁と天井。真上には、少し塗装やガラスがくすみ、年季を感じさせる西洋風の照明。ただそこにあるだけで踏むことを躊躇してしまう石材が敷き詰められた廊下には、人が通りそうな箇所に真っ赤な絨毯が敷かれている。
過去ここに勤めていた百石や彼と共に軍令部を訪れたことのある長門はいざ知らず、陽炎たちもさぞかし珍しがっていると思いきや、みずづきを除いた全員の顔が目の前にある階段の踊り場に向けられていた。その視線は例外なく、鋭い。みずづきも顔を向けた瞬間、一同と同様の視線となった。
そこにいたのは・・・・・・・・・・。
「お久しぶりです、御手洗中将」
排斥派のリーダー格であり、みずづきを力ずくで東京へ連行しようとした、あの御手洗実中将であった。
彼は1人で眉間にしわを寄せることもなく、罵声を吐くこともなく、百石の敬礼に応えることもなくただ2階へ続く階段の踊り場からみずづきたちを見下ろしていた。
「ん?」
妙な違和感。彼はこんなつかみどころのない人間だっただろうか。あの御手洗なら、こちらを認めた瞬間、罵声を吐いてきそうだが。
「失礼します・・・・・・・」
明らかに苛立った様子の百石は御手洗にもう一度敬礼すると、足早にその場を立ち去る。黒いオーラを放つ長門と不快そうな顔をした陽炎たちも彼に続いた。
御手洗の視界から百石と艦娘たちが消えた瞬間。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
2人の視線が交差する。あれ以来の対面。今度こそ、何か言われるかと思いきや、御手洗は無表情のまま、「早く行け」というようにこちらから見て左側に顎を向ける。
「失礼します!」
一応、中将であるため敬礼をし、その場を立ち去る。
(なんだったんだろう・・・・・)
ただ、こちらを見てきただけの御手洗。今までなら「良からぬことを企んでいるのでは?」と疑念に駆られただろうが、不思議にもそのような気持ちは湧きあがってこなかった。
~~~~~~~~~~~~
「・・・・・・・・・・・・・・・」
約4ヶ月ぶりの再会。百石とはあの騒動以降もたびたび顔を合わせているため、特段の感傷はなかった。だが、あの艦娘はあの時こちらに銃を、怒りを向けてきたときのままだった。いや、少し変わったのかもしれない。
「嘆かわしい・・・・。誉れある海軍の最高司令部たる軍令部に、深海棲艦もどきや蛮国の軍人を招き入れるとは・・・・・。擁護派の愚行もここに極まれり、ですな」
顔を怒りで歪めながら、階段を下りてくる少将の階級章を付けた男。御手洗は以前のように同調することもなく、男を一瞥して言った。
「そんなことを言うためにわざわざ、やって来たのか? 今は国難の真っ只中である。用がないなら、今すぐ戻れ」
「大変失礼致しました、閣下。あやつらが到着しましたが故、もうすぐ統括会議が始まります。・・・・・・・閣下は参加されないのですか?」
こちらの顔色をしきりに窺う問い。それにゆっくりと頷いた。
「既に総長には通してある」
「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「私がいてもプラスには働かん。・・・・それだけだ」
「!?!? そのようなことは!! 閣下は我らにとっての師であり、擁護派の目を覚まさせる急先鋒。閣下のお言葉の前にはやつらもタジタジとなることは自明の理であります」
「あの会議には富原や宮内も出る。あの2人がいれば、十分だ」
「しかし!!!」
なおも食らいつく少将。相変わらず無表情だった御手洗は眉間にしわを寄せる。
「私は出ないと言っている。・・・・・・ほかには?」
蒸し暑い空気が滞留しているにもかかわらず、寒気を感じるほどの低い声。少将は背筋を伸ばすと「いえ、申し訳ありませんでした!!」と叫ぶ。
彼を見ることもなく、御手洗は階段を上がっていった。
~~~~~~~~~~~~
(やばい・・・・・・吐きそう・・・・・・)
表情では平静を装いつつ、自分の置かれた環境に屈服しそうになる。一目で世間の大富豪御用達と分かる、カーテン・絨毯・照明・テーブル・机・花瓶・絵画などの調度品から水の入ったグラス。身の丈に合わない品々に包囲され、居心地の悪さが最高潮だというのに、眼前の世界はみずづきに追い打ちをかけていた。
柔和な表情でこちらを見てくる軍令部総長的場康弘大将に、演習の際に顔だけを見た作戦局副局長の
また彼らなどの軍令部幹部に加え、
彼らとみずづきたちが座っているロ字型の机の左右後方には、各鎮守府・警備府の参謀たち。そして、艦娘部隊及び鎮守府・警備府直轄部隊以外の全通常戦力を統括指揮する連合艦隊司令部、連合艦隊司令部の下で航空戦力を指揮する航空戦隊司令部、陸戦隊などの地上兵力を指揮する陸戦隊司令部、統合艦隊や第二・第五艦隊の残存艦艇で新設された海上護衛艦隊などの水上戦力を指揮する艦隊司令部の幕僚たちが座っている。
まるでこれから開戦方針を採決するような、文字通り海軍の上層部全員が一堂に会した統括会議。いつもは軍令部の局長級以上が参加する会議だったのだが、この後に開かれる会議の関係もあり、これほど壮大なメンバーがみずづきたちの前に顔を揃えていた。
さすがの深雪や黒潮も眼前のメンバーに絶句し、ガチガチに緊張して冷や汗を流している。百石も含めた一同はそのような感じだが、唯一長門だけが堂々たる風格を維持していた。さすが、かつて世界に名だたるビック7と呼ばれ、連合艦隊旗艦を務めただけはある。
「さてと、メンバーも揃ったようであるし、そろそろ統括会議を始めたいと思うが・・・」
軍令部総長的場康弘大将の言葉にざわついていた幹部たちは一斉に口を閉じ、軍人らしい厳しい表情となる。ほとんどの視線がみずづきから外れた。
「よいようだな。では、これより、統括会議を始める。通常なら、ここで松本次長に本会議の趣旨を説明してもらうところだが・・・・」
的場は一同の顔をゆっくりと見回し、笑顔を見せた。
「今日は必要ないだろう。時間的な問題もあり、また趣旨は今までになかったほど明確である。・・・・横須賀鎮守府司令長官百石健作提督!」
「は!」
寸分のブレもなく、まるでロボットのように百石が顔を的場へ向ける。
「貴官に1つ確認しておきたい。この報告書に書かれていることは、真実であるか」
的場は真剣な表情で、目の前に置かれていた冊子を持ち上げる。
「はい! 瑞穂海軍軍人の誇りにかけ、真実であることをここに宣言いたします」
百石は即座に応える。それは百石が作成した、みずづきに関する報告書であった。内容は把握していない。だが、おおよそあきづき型護衛艦の戦闘能力や房総半島沖海戦における戦闘経過、そこから推察される“瑞穂海軍にとってのみずづきの価値”などが事細かに記されてるのだろう。
「そうか。分かった」
そういうと的場の視線はこちらに移動した。それに呼応し、そうそうたる顔ぶれの軍人たちの視線も。思わずうめき声を上げそうになるが、ここで非常識な言動することは雰囲気と海防軍人、それ以前に人としての矜持が許さない。努めて、長門のように平静を装う。
「あの演習で会って以来だな。久方ぶりだ、みずづき。それに長門たちも。このような堅苦しい場に出席してくれて、ありがとう。本日、ここに来てもらった理由は百石から聞いていると思うが、ここにがん首を揃えて座っている、海軍の趨勢を決めていると言っても過言ではない軍人たちに“君”を知ってもらうためだ」
再び周囲に視線を向ける的場。追随することはあまりの緊張感に憚られた。
「ここにいる全員、君のことは知っている。だが、人間と言う生き物は複雑で、いくら伝聞で聞かされても、実物を見るまでは踏ん切りがつかない。私も紛れもない人間だから、その気持ちは良く分かる。今まではそれでよかったかもしれない。しかし・・・・・・、これからは違う。君には近々の実施が予想される次期作戦“MI/YB作戦”において、唯一無二にして戦局を左右する重大な位置・・・ポジションについてもらわなければならない」
軍人たちの眼光がより一層鋭利さを増した。
「この作戦は、瑞穂の将来を左右する失敗の許されない作戦だ。その成否の一翼を君に任せる前に、瑞穂海軍として確認しておかなければならないことがある」
一拍の沈黙。瞑目した的場はゆっくりと静かに、その言葉を呟いた。
「君は、命に代えてでも、この国を、私たちの祖国を護ってくれると言ってくれるか?」
人間とは不思議なものだ。答えなければならない問いに思考が集中すると、あれほど流れていた冷や汗がぴたりと止まるのだから。
「・・・・・・・・・・・」
「その答えを聞く前に、1つ確認しておきたい。君は今でも日本海上国防軍人か?」
熟考するまでもない。その問いに、今までのおどおどした雰囲気を消し去って、みずづきは即答した。
「はい」
一部の軍人が明らかに睨んでくる。
「・・・・・・・・・」
「私は1人の日本人であり、この身を犠牲にしようとも祖国を、家族を護ると誓った1人の軍人です。例え、祖国がなくとも、家族がいなくとも、日本海上国防軍人としての誇りを捨てる気は毛頭ありません」
「そうか。では、それを踏まえた上で、先ほどの質問の答えを聞きたい。君は、瑞穂を守ってくれるか?」
一度目を瞑ると、みずづきは決意と覚悟を感じさせる真剣な表情で答える。これは、嘘偽りのない、本心だ。
「はい!」
「っ!?」
目を大きく見張る的場。今まで静寂に包まれていた2階にある大会議室がざわつく。だが、彼らとは対照的に百石たち横須賀組は不敵な笑みを浮かべていた。
「的場総長、そしてお集まりいただいたみなさんに、1つお伝えしたいことがあります」
その言葉にざわめきが消えていく。完全に収まったことを確認した後。
「瑞穂は、良い国ですね」
「っ!?」
「自然が豊かで、人は優しくて暖かくて、いつも笑っている。食べ物もおいしくて、どこに行っても活気にあふれている。本当に平和で、深海棲艦と戦争をしていることを忘れてしまいそうになるほどです。・・・・・私もかつて、あの中にいました。中国との戦争が始まるまで・・・・深海棲艦と国家・民族の存亡をかけた総力戦が始まるまでは・・・・」
「み、みずづき・・・・・・」
的場が戸惑うように声をかけてくる。みずづきの瞳からは・・・・・一筋の涙が流れていた。
「私たちは、私たち日本人はどん底の中を生きてきました。空爆で街を、家を焼かれ、爆弾や飢餓・病気で家族を失い、いつ深海棲艦に食い殺されるか、いつ自分が肉の塊と化すのかという恐怖の中を生きてきました。その中でも、かつての栄光を取り戻し、平穏だった日常で再び暮らすために無数の犠牲を払い闘ってきました。・・・・・・・・瑞穂には、私たちが失ってしまったものが、私たちが取り戻そうと躍起になっている“かつての日常”が紡がれ続けています。今、この時も。悲劇を体験した者として、なにもかもを失ってしまった国の軍人として、何より人々の笑顔を護ると誓いを立てた一人の日本人として、瑞穂は命に代えてでも守るべき存在であると断言いたします」
そう。並行世界でも、国名が違っても、技術水準が異なっても、瑞穂はあの頃の日本に似ていた。
「瑞穂が、第二の日本と化すことは絶対に容認できません。私はもう死体も、苦しみ、悲しみ、嘆き、絶望し、この世の不条理に怒る人々を見たくありません。また、いきなりこの瑞穂に出現した私に様々なご厚意を与えて下さった瑞穂海軍の方々には御恩があります。それに・・・・」
みずづきは隣に座っている横須賀組を一瞥する。
「帰るべき場所もできましたので」
こちらの笑顔に応えるように、みな笑顔を向けてくれる。横須賀は紛れもない、みずづきの帰るべき居場所なのだ。
「そうか・・・・・。ふっ」
嬉しそうに微笑む的場。
「さすが、艦娘たちの絶対的な信頼を勝ち得た子だけはある。君の信念、しかと受け取った。この国を愛し、この国のために身を捧げる同志として、これからもどうかよろしくお願いする」
腰を10度ほど折り曲げ、頭を下げる的場。彼に呼応して、一時期はみずづきを睨んでいた軍人も含め全員がみずづきに頭を下げる。
その光景を前に、果たして慌てふためかない肝の据わった人間は世界にどれほどいるだろうか。
耳や風聞で掴んだ伝聞情報と直接相手の顔を見て得た視覚情報。双肩に瑞穂の未来と瑞穂国民8200万人の生命・財産・幸福を背負う立場の人間にとって、後者は非常に大きな意味を持っていた。
~~~~~~~~~~~~
軍令部に務める海軍軍人たちが腹を満たすため、休憩をとるため、談笑を楽しむため、見たくもない上司の顔から逃れるために利用する、軍令部内の食堂「紺碧」。個室は店内の奥にあるため分からないが、もう昼時をとうに過ぎた仕事真っ盛りの時間帯。広い面積を持つテーブル席やカウンター席にはちらほらと軍人が見られるものの、周囲はガラガラに開いていた。それを考慮してか無意識か、魂の抜けきった脱力感満載のため息が、大きく吐き出された。
「はぁ~~~~、つ~か~れ~た~」
4本の足によって、全ての重荷を床に伝えている椅子の背もたれに、体重を預ける。わがままに力の向きを急激に変えたため椅子も気を悪くしたのか、バランスが崩れるもののなんとか立て直す。内心で若干焦っていると、店員が持ってきてくれたジュースを川内が手元に置いてくれる。お礼を言おうとしたが、ニヤけ顔を前にしては黙らざるを得ない。
「お待たせしました、みずづき大臣。ご立派な演説、お疲れ様です」
「なんですか~~? ちょっと勘弁してくださいよ、川内さん。私は今、酸欠状態の金魚です。少し、体力回復の時間を」
「なに言ってるの?、あんだけ心を揺さぶる演説をかましたのに、みずづきときたら・・・。もう少し、威張っても私たちは怒ったりしないわよ?」
川内の同様の表情で、ジュースを仰ぐ陽炎。この2人、見えないところで示し合わせていたに違いない。悪意が露骨に構い見えていたのなら対応のやり方など様々だが、一番厄介なものは悪意も何もない、ただ純粋な羨望による喝采だ。
「そうやそうや。みずづきの心意気、くぅぅぅぅ~~~! うち、つい目の前にお偉いさんがぎょうさん(※たくさん、大勢などの意味)おることを忘れて聞き入ってしもうたわ」
拳をギュッと握り、目を輝かせる黒潮。嫌な予感がして、黒潮の左に座っている深雪や初雪を見る。「あ・・・・・、やっぱり」と思ったら時すでに遅し。みずづきが口を開くよりも早く、深雪が機関銃を乱射した。
「俺は・・・俺は・・・感動したよ!! みずづきの真剣な顔、熱のこもった言葉、誰も逆らえないオーラ!! 揺るぎない信念!! 血がたぎって、心が吠えるぜ!! みずづき!! 俺はあんたのことそれなりに一目置いてたけど、今回のことでますます尊敬せずにはいられなくなった!!」
「へ・・・? えっ!?」
感化された熱血教師のように暑苦しさ全開で叫びまくる深雪。同時に話が変な方向に進んでいる気がする。川内があちら側に回りいまだにニヤケを宿し続けていることから、白雪に視線で助けを求める。深雪とはベクトルが異なるものの、無言で眩しい瞳を向けてくる初雪は論外だ。
しかし・・・・・・。
「これ、吹雪ちゃんたち聞いたら、喜ぶだろうな~~。絶対に言わないとだめだよね!」
と、肝心の白雪は1人で決意を新たにしている。それは例え震度7の地震が来ようとも揺らぎそうになかった。
「こりゃ、だめだ。・・・・・み、深雪たちだって、あんなそうそうたるメンバーを前にしても、堂々と振舞ってたじゃない! 私、正直びっくりしちゃったよ」
みずづきの“演説”が終わった後、長門や第3水雷戦隊のメンバーも海軍上層部から様々な聴取を受けていた。特に多かった内容は、やはりというかみずづきに関する事項である。
最初は「最近はどうだい?」から始まり、「訓練の状況は」と実務的な事柄に推移。そして、場が温まったと全員が認識できる状況に達すると、いよいよ本題。「みずづきの戦闘を見た感想は?」などの比較的軽いものから「我々がみずづきと共闘する上での、注意点は? 例えば戦略的見地の相違による誤解発生の危険は?」などかなり専門的なことまでが艦娘たちに質問されていた。当然、考え込んだり、「分かりません」と答える場面も存在したが、総じて全員的確に答えていた。いつもバカ騒ぎをして、百石とも特に緊張感なく接している姿ばかり見てきたため、黒潮や深雪の応対は意外だった。
「いやいや、みずづきの驚愕とうちらの感動は、もう比べもんにならへん! そない謙遜せんでも」
「黒潮の言う通り、軍令部大会議室でのMVPはみずづきに決定!!」
「異存、なし・・・・・」
「私も!」
人の気も知らずに大盛り上がりの、吹雪型駆逐艦姉妹と陽炎型駆逐艦の2番艦。「少し大口を叩過ぎたかな?」と後悔し、もともとあまり褒められることが得意ではないみずづきとして、これはあまりにも苦行だった。
「長門さんがいれば、諫めてくれるんだろうけど・・・・。長門さんはいないし」
大会議室退出後、長門は「作戦局と打ち合わせがあるのだ」といって、みずづきたちとは別行動を取っていた、そのため、今ここに長門がいない。
だが、助け舟はみずづきかおろか、この場にいる全員が予想もしなかった人物によって差し出された。
「随分と騒々しいな。これだから、艦娘どもは・・・・」
こちらへの不快感を隠そうともしない、失礼な口調。聞こえた瞬間、賑やかだった雰囲気は四散し、全員がある人物の顔を思い浮かべる。
振り返ると、そこには想像通り、作戦局副局長の御手洗実中将が苛立たし気に立っていた。
「なっ!! 傲慢ちきなおっさん!!」
「なんで!! 排斥派の棟梁がここに何しに来たんや!!」
嫌悪感をたぎらせて、飛び上がるように立ち上がる深雪。それに黒潮と陽炎が続く。川内・白雪・初雪は座ったままだが、向けられた者の心を再起不能にするほどの憎悪に満ちた視線を突き刺す。もし、御手洗の立場だったらな、みずづきはおそらく引き込もり決定だろう。
「私は、軍令部に勤める軍人だ。ここに来て、何が悪い」
だがそんな視線を向けられ、深雪と黒潮に暴言を吐かれても平然と対応する御手洗。
「来たことを言ってるんじゃないわ!! 私たちはなんで、わざわざここに来たのかって言ってるのよ!!」
みずづきたちが座っているテーブル。ここは店内と軍令部の廊下を結ぶ出入り口からは少し離れた位置にあたり、出入り口付近の席が混んでいない限り来ようとは思えない位置にあった。みずづきたちは軍人たちの視線を気にし、ここを選んだのだが、御手洗は1人。知れ渡っている彼の性格を鑑みるに、ここへ来る理由は皆無に思われた。
ただ、1つを除いて。
「答えなど簡単だろうに。そんなことすらお前たちは分からないのか?」
「なんですって・・・・」
怒りに歯ぎしりする陽炎。御手洗はそのような陽炎に構うことなく、こちらに目を向ける。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
あの階段以来、またもや2人の視線が交差した。
「何か?」
いい加減、中高年のオヤジに見つめられることに疲れたため、理由を問う。すると御手洗は眉毛を上げることもなく、机に置かれた伝票を手に取り、体を180度反転。
「ついて来い」
そのまま、歩き出す御手洗。深雪などは「あ~行った行った」と清々していたが、御手洗が一同の飲食代を払っている姿を見て、凍り付く。
あの御手洗が、他人の飲食代を払った。
この事実が受け入れられず、第3水雷戦隊はしばらく動けなかった。だが、みずづきは違っていた。
「とりあえず、行ってみよ。なんかあの時や噂と全然雰囲気が違うし・・・・」
「あっ!! ちょっと、みずづき!!」
陽炎の静止に躊躇することなく、みずづきは足を踏み出す。
不愛想に会計を済ませている御手洗へ近づくにつれ、「ど、どうする・・・・?」と深雪が戸惑いを大きくする。しばらく沈黙が流れた後、「仕方ないね」と川内が立ち上がった。
その言葉が最終決定となったのだろう。素早くジュースを飲みほした第3水雷戦隊は急いでみずづきの後を追った。
ちょくちょく、登場してはいましたが、みずづきと傲慢ちきなおっさんが再会するのはあの事件以来ですね。
今話では特に、新たな登場人物や軍令部内の組織がかなりたくさん出てきました。軍令部内の組織が出てきた箇所は思わず飛ばしてしまった方もおられたのではないでしょうか(苦笑)。第3章からこれまで新たに登場した設定を設定集に追加したいとは思っているのですが、いろいろなことに時間を取られて、ずるずると後回しになっているのが現状です。一応、私的なパソコンやノートなどに設定を練っているので、今までのようにおいおい追加していこうと思っております。