水面に映る月   作:金づち水兵

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イベント、中規模って・・・・・・。


43話 準備

相模湾 海軍訓練海域

 

 

演習で激闘を繰り広げて以来の海。あの時はいかにも梅雨の訪れを感じる天気であったが、今日は時々雲で日光が遮られるものの良い天気。梅雨入り2日目にしてこの陽気。今頃、東京の気象庁では「やっちゃったかな?」とお偉方が冷や汗を流しているかもしれないが、あの不快な湿り気を感じる日が1日でも少ないのは嬉しいものだ。昨日降った雨の影響か空気は澄んでおり、雪化粧をなくし火山の風格を漂わせる富士山がはっきりと見える。海上を駆け抜ける風も珍しく爽やかだ。そのおかげで海上の視界も良好。貨物船やタンカーなどの大型船なら訓練海域の中にいても、ぎりぎり水平線に邪魔されつつも見ることができる。

 

そこを7人の少女たちが足元から白波を生み出しながら疾走していた。

 

「合図と同時に陣形変更! 周りをよく見て、打ち合わせ通りにね!!」

『了解!』

「・・・・・今っ!!」

「っ!」

 

単縦陣から輪形陣へ。全員が自分の指定された配置へ周囲の状況を把握しながら、素早く移動。陣形を整える。そこに穏健な表情はない。

 

「みずづき! 遅れてる!! 初雪はああみえて、海の上ではしっかりしてるから、変な気は使わないで!!」

「は、はい。分かりました!」

「・・・・・・・・・」

 

川内の至極当然の言葉に仏頂面の初雪。だが、ふざけているのではなく、あくまで真剣なやり取り。状況次第で受ける印象はこうも変わるのだ。

 

「みんなもいきなりならともかくちゃんと打ち合わせしたんだから、自信もって。・・・次、単縦陣に戻してからの一斉回頭! 少々ブサイクでもいいから、周りとの距離を意識して! 陽炎! 回頭後の先導、頼んだよ!」

「了解!」

 

自信ありげな笑みを浮かべる陽炎。川内の指示を聞いたみずづきは、失敗しないよう打ち合わせの内容と自身が取るべき行動を反芻する。メガネの透過ディスプレイに投影される航海レーダ画面。出入港時や近接での艦隊行動などでは、探知距離よりも精度を重視した航海レーダを用いるのが一般的だ。光る6つの影。それを見れば彼我の相対速度・距離は一目瞭然。

 

「行くよ!」

 

発せられた声と同時に動き始める各々。川内たちは無論、みずづきのような高性能の電子機器など装備していない。にも関わらず正確な動きを見せる。彼女たちより遥かに恵まれているのに、迷惑をかけたり無様な姿を見せれば恥ずかしいことこの上ない。自然と体に力が入る。が、その理由は目の前で繰り広げられる見事な乱舞だけではなかった。

 

 

 

――――

 

 

 

「船団護衛、ですか?」

 

雲に押さえつけられ、五月雨という言葉がぴったりの静かな雨。シトシトと気分を落ち着かせる清涼な音があちこちで聞こえる中、みずづきは第3水雷戦隊とともに百石から提督室に召集された。突然のことで戸惑ったが川内たちも同様だったようで、百石と対面して初めて呼び出しの理由を知ったのだ。だが、知ったところで頭は疑問符だらけだった。

 

「そうだ」

 

みずづきの、疑問に満ちた問い返しに対しては、あまりに簡素な言葉。これでは問い返した意味がない。

 

「提督? 船団護衛自体は分かったけど、なぜみずづきも一緒に? みんなぴんぴんしてるし練度は提督も知ってると思うんだけど」

 

みずづきはおろか、第3水雷戦隊全員の内心を代表するように挙手して川内が語った言葉。川内はおろか陽炎たち駆逐艦もこちらと同じように、百石がなぜ船団護衛と告げたのか理解できないらしかった。第3水雷戦隊は部隊名どおり、軽巡洋艦1隻と駆逐艦5隻で構成された、典型的な水雷戦隊である。対潜戦闘や輸送だけでなく、船団護衛もお手の物だ。第3水雷戦隊のみならば今まで行ってきたことと同じであるため、「そう」で終わりだが、今回は共同作戦だ。彼女たちが真意を気にするのは同然だろう。

 

「それは重々承知している。今回の船団護衛は今まで君たちが行ってきたものとはわけが違う。なにせ、軍令部直々の命令だからな」

「具体的には?」

「詳細は固まり次第通達するが、君たちには横須賀港から出港する民間船舶を那覇港まで護衛した後、そこから出港する軍の輸送船を横須賀港まで護衛してもらう。ここで重要なのが那覇港から出る輸送船だ。これの護衛のためみずづきの割り当てが要請された言っても過言ではない」

「那覇・・・・・ですか?」

 

思わずみずづきは聞き返した。後半の、いかにも重要そうな言葉を無視して。聞き逃していたわけではないが、気に止まらなかった。はっきりと確認したいと思ったのはそれだけだったのだ。

 

 

 

 

なぜなら、那覇は・・・・・・・・・。

 

 

 

 

「ああ、そうだ。那覇・・・沖縄に行ってもらう。少し遠いが辛抱してくれ」

「行き先は了解っと。んで、その那覇から護衛する船ってのは一体、何を積んでんだ?」

 

任務を命じられたものなら当然抱く疑問。みずづきも深雪の言葉に大きく頷いた。不本意とはいえ鬼神とさえいわれるようになってしまった自身を、しかも公式に初めて瑞穂海軍の任務に参加させるほどの積荷とはいかに。

 

「・・・・・俺も知らされていないが、今後の戦局に大きく影響するほどの代物だそうだ」

 

百石の顔から表情が消える。疑似的にピリピリとしびれを感じてしまうほど張りつめる空気。この場にいて深雪の問うた積荷がどれだけの価値を有するのか、察する事が出来ない鈍感な人物はいないだろう。深雪をはじめいつも百石を困らせている駆逐艦たちも誰1人、それ以上言葉を発しようとはしなかった。

 

「軍令部の大号令で君たちの航路上はあらかじめ、他の部隊による掃海や警戒監視が行われる。いつもそうだが、今回はいつも以上に失敗は許されない」

 

こちらへ向けられる百石の視線。それは、参加意思の確認を帯びていた。既に「共に戦う」と宣言し、この世界にきて日数が経つにも関わらず、意思確認を行ってくれるとは彼も律儀だ。だからこそ、横須賀鎮守府の将兵から、軍令部のお偉方から、艦娘たちから信頼されているのだろう。そして、だからこそ百石が下した命令に疑念を抱くことなく、素直に受け入れることができるのだ。ふっと肩の力を抜くと頼もしい笑みを浮かべた。これを拒否する理由は何処にもない。

 

それを見て、両者の反応をただただ静かに待っていた川内たちもにこやかな笑みを湛えた。

 

「了解しました。このみずづき、お力になれるよう精進する所存です」

「そうか。ありがとう。・・・・・よしっ。みんな、心して出撃までの訓練、そして任務にとりかかってくれ」

『了解!』

 

見事に重なる敬礼。大日本帝国海軍と日本海上国防軍、そして世界を越えた瑞穂海軍の間に所作の違いはない。

 

 

 

ここにあきづき型特殊護衛艦みずづきの初出撃が決定した。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

だから、こうしてみずづきは第3水雷戦隊と艦隊行動や戦闘時の対処方法などを訓練しているのだ。艦船の陣形や航行特性などはほとんど双方の間に違いはなく、訓練は比較的に順調に進んでいた。多少の遅れや陣形の乱れなどはあれど、回数を重ねれば改善するものばかり。接触などの重大事故は未遂も含めて一切なかった。初回にしては合格点だ。ただみずづきはともかく川内たちは基本的に6隻1艦隊で行動しているため、7隻という中途半端な数は初めてらしい。6隻での行動が染み込んだ状態ではどうもやりにくいようだった。口々に出てくる愚痴に若干心配になったが、川内曰く「すぐなれるさ~」、だそうだ。だが、安堵も束の間。実際に航行してみて初めて分かることもある。

 

「よ~し。進路そのまま」

「あの、川内さん」

「ん? どうしたの、みずづき? なんかおかしいところとかあった?」

 

川内に近づくみずづき。無線を使っても良かったのだが、今の陣形では目の前に川内がいたのだ。

 

「いえ、そういうことでは。ただ、その少し不都合な点が・・・・」

「不都合な点?」

「打ち合わせで把握してたつもりだったんですけど、思った以上に陣形の密度が濃くて、ソナーにみなさんの航行音が干渉してるんです」

「ソナー? ・・・・ああ、水中探信儀と水中聴音機を兼ね備えた優れものね」

 

みずづきの対潜戦闘方法については既に説明済みだ。みずづきにとっては「説明した」という簡素な言葉で済むが、川内たちにしてみれば先に行われた演習並みの衝撃があったことは言うまでもない。それも漠然とした衝撃ではなく、明確な衝撃だ。潜水艦を主要敵とする自らとは隔絶した能力に彼女たちの間では「やっぱり、未来の日本すごい・・・」という意識が共有されていた。そして、今更ながらなぜ軍令部や百石が今回の護衛任務にみずづきを投入するのか理解できた。彼女を前にしては、艦娘が苦戦している敵潜水艦など敵ではない。

 

「でも、それだと厄介だね。かといって、今更陣形の変更とかできないし」

「そこで提案なんですけど、常に私を最後尾にしていただけませんか?」

「最後尾に?」

 

怪訝そうに聞き返す川内。対潜戦に関わらず、もっと実力のある艦を最後尾につけるなど、撤退戦のように殿が全部隊の命運を左右する状況でもなければあまり推奨はされない。どんな速度で航行しようが、もっとも敵遭遇率が高い艦隊位置は先導艦なのだ。

 

しかし、位置云々をそこまで神経質にならなければならない存在は川内たちと同じ土俵の存在。

 

川内はみずづきが「どこにいようが、誰よりも早く敵を料理できる」ことを咄嗟に思い出したようだ。

 

「ということは・・・・・えっと、あの、あれ、しっぽみたいに海中に垂らす・・・えっと、あれ・・・あれを使うんだね!」

 

「曳航式ソナー」という名前が出てこず、笑顔と覇気で誤魔化す川内。みずづきも物覚えが優れていると胸を張れるほどではないので、あえて指摘はしない。

 

「そう、それです。最後尾のほうが後続艦に気を遣うこともなく、状況に応じて曳航式ソナーの展開や回収ができますから」

「了解。今日はもう佳境だから無理だけど、明日からの訓練で実践してみよう」

 

安堵。これで一番の懸念事項に解決のめどが立った。今回の護衛任務では常に本土近海を航行することになっている。みずづきにとって最大の敵は潜水艦だ。演習で様々な方法で裏をかかれたため、大声ではとても言えないがFCS-3A多機能レーダーとESSMの前に深海棲艦の航空機は敵ではない。だが、潜水艦は全くの別物だ。

 

 

 

 

やつらには幾度となく苦汁を舐めされられ、そして大切な存在を奪われたのだ。妥協や慢心は自身が最も許さない。

 

 

 

 

「ありがとうございます! やつら、スクリューを使わずに足で泳ぎますから、ソナーを持ってても油断できないんですよね」

 

眩しいほどの笑顔。

 

「あははは。やっぱりみずづきにとっても潜水艦は嫌なやつか。私も散々遊ばれてきたからね。あんたとは紛れもない同志だよ」

「川内さんと同志とは、嬉しいです。では、私はそろそろ元の位置に戻りますね」

 

川内から離れるみずづき。心の重荷がとれたせいか体まで軽く感じる。

 

 

 

「ん? 同志・・・・・」

 

そんな想いを抱えながら離れていくみずづきを見届けた後に、やっと川内は内心に急浮上した違和感に気付く。それは些細で、小さなもの。記憶の海に浸っての呟きは、容易に周囲の音でかき消されていく。くしくも彼女は陣形の先頭にいたため、その表情を見れる者はここに誰一人としていなかった。

 

 

 

―――――

 

 

 

「ああ~、疲れた。これからどうしよっかな」

 

手持ち無沙汰な様子で、疲労のせいか少しゆっくりと足を進めるみずづき。いくらミサイルも撃たずに海上を走り回っただけ、といってもやはり疲れるのだ。共同行動をとるのは同じ海防軍の部隊ではない。気配りや想定・学習しておかなければならないことは膨大で、きりがない。それに身を晒していればおのずと疲れの質も日本とは違ってくる。慣れれば幾分マシになるのだろうが、いくら横須賀鎮守府に馴染んできたとはいえ、そうなるにはにはまだ時間がかかりそうだ。

 

「あ、みずづきさん!」

 

肩を回しながら、これからの訓練に想いを馳せていると、唐突に声がかけられる。海浜公園からばっちり見える艦娘用桟橋から上がり、艤装を外し、川内たちと別れてから数分。ちょうど重要施設が集中している横須賀鎮守府中央区画に差し掛かったところだった。周囲の人や自動車をはじめとする機械の喧騒にも負けず、はっきりと聞こえた。目を向けると、第5遊撃部隊の吹雪、金剛、瑞鶴と第6水雷戦隊の球磨、4人がいた。吹雪は相変わらずの調子で手を振っている。眩しいほどの笑顔に少しだけ肩が軽くなったような錯覚を感じる。

 

「吹雪! それにみなさん。こんにちは」

「こんにちは、みずづき」

「hello! みずづき!!! ひょっとして、訓練の帰りデスカ? すこ~し、塩の香りがシマース」

「ほ、ほんとですか!? うそ~。波の穏やかであんまり海水を被ってないと思ったんですけど・・・・・。おっしゃる通り、ついさっき帰ってきたところです」

 

自身の制服をつまみ、鼻を近づける。地上ではまず嗅がない独特の匂い。残酷だがそれはしっかりと体にまとわりついていた。確かに金剛の言ったことは事実だった。がっくりと肩が落ちる。

 

「大丈夫ですよ、みずづきさん。気になるでしょうけどそこまで強いとか、そういうことではありません。それここは鎮守府内ですから」

「そうそう、それを言ったら私たちも同じだし」

「お互いさまだクマ。正直クマは分からないし、分かっても気にしないから気にする必要はないクマよ。将兵さんたちも、将兵さんだからそこまで気にしないと思うクマ」

 

気にする様子もなく、自然に励ましてくれる瑞鶴と球磨。2人の気遣いには涙が出てきそうだ。「ありがとうございます」というのは当然だったが、改めて見ると不思議な組み合わせだ。いやここに来て初めて見るのではないだろうか。吹雪たちはともかく球磨はいつも軽巡のよしみで夕張や川内などと一緒にいる印象なのだ。好奇心に駆られて理由を聞くと、吹雪たち第5遊撃部隊と球磨がいる第6水雷戦隊が共同訓練を行っていたそうで、これから4人でお茶をしに「橙野」へ行くところだとか。醸し出される雰囲気を見るに、この組み合わせも把握してなかっただけで初めてではないようだ。

 

「そうだ。良かったらみずづきさんもご一緒にどうですか? まだ橙野には夜しか行かれてませんよね?」

「そうだけど・・・・・」

 

吹雪の提案。そこには暗黙の内に「一緒に行きませんか」というお誘いが含まれている。みずづきも特段彼女たちに苦手意識はないし、ちょうど暇をしていたため「はい!」と言いたいのだ。だが、険しい表情となってしまう。

 

「どうしたクマ? なにか用事でも?」

「いえ、特に用事とかは。時間はもあるんですけど。その・・・・・・・私、手持ち金が」

 

瑞穂海軍と共に戦うと決めたみずづき。百石にも言われた通り相応の報酬が約束されはしていたのだが、まだここに来て1ヶ月も経っていないため、いまだに音沙汰はない。そこまでお金に飢えている訳でもなく、ランニング時に使っている作業時やシューズなどほとんどのものは支給品として受け取れていた。またその支給品も日本と比較すれば品質の差は歴然で、わざわざ売店などの商品が欲しいとは思わなかった。そのため今までやってこられたのだが、やはり一文無しというのは心も体も寒い。現在、それを久しぶりに痛感していた。

 

「ああ、そのことなら気にしないでください。こっちからお誘いするんですから、私が持ちますよ」

「え? ・・・・・いいの?」

「お気遣いなく。わたしもみずづきさんとお話したいですし」

 

なんだろう。目頭が熱くなってきた。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。このお礼は絶対にするから!!」

「いいですよいいですよ」

 

ここまでしてせっかく誘ってくれたのだ。みずづきもこの4人とこうして日常の1ページを共にするのは嬉しい。

 

「そうと決まれば、さっそくlet’s go!! この金剛、英国生まれとして紅茶で最高のおもてなしをしなければ!!」

「金剛さ~ん、趣旨が崩壊してるクマ。クマたちはおもなしをされる側」

「また、厨房に介入して料理長さんたちをひっかきまわす気? みずづきをもてなしたいんなら、榛名とやってるお茶会にみずづきを招待したら?」

「おおお!! 瑞鶴、good!! その手がありマシタ!!」

「な、なんだろ。恐ろしく精神力を使いそうな気がする・・・・・」

 

日常の1ページが日常にならないような気がしてならないが、とにもかくにも橙野に向け出発だ。

 

 

 

―――――

 

 

「続きまして、次のニュースです。官房長官は神津(こうづ)記者会見でおととい、趣味のサイクリング中に皇居沿いの歩道で対向してきた自転車と接触し、転倒。額に大けがをした佐影(さかげ)総理の容体について、精密検査の結果、異状は見受けられず経過も良好で、一週間後には公務に復帰できるだろうとの見解を示しました。佐影総理はおととい、午前7時20分ごろ東京都千代田区皇居周辺の歩道を自転車で走行中、正面から走ってきた自転車とすれ違いざまに接触。佐影総理は転倒し、顔面を強打。額を12針縫う大けがをしました。事故当時、佐影総理はSPと2人で、相手側にけがはないとのことです。佐影総理はサイクリングを趣味とし、自転車愛好家として有名で、自転車の展覧会にはたびたび私的に保有している希少価値の高い自転車を出品しているほどでした。現在、事故による総理の入院を受けて、副総理兼大蔵大臣の米重(よねしげ)大臣が総理の職務を、自由憲政自憲党総裁としての職務を水破(みずは)幹事長が代行しており、国政への影響は最小限にとどまっている模様です。しかし。共和革新共革党などの野党からは総理の危機管理能力を問う意見があがっており、開会中の通常国会における法案審議に影響が出ることは必至と思われ、今後の政権運営に暗雲が立ち込めることも予想されます。では、次のニュースです・・・・・・」

 

 

横須賀鎮守府にある居酒屋「橙野」。比較的高い位置の壁に備え付けられたラジオから娯楽の時間には聞きたくもない堅苦しい音声が流れているが、居酒屋ということもあり、店内には酒の雰囲気がかなり漂っている。これだけを見るとおじさんたちが群がっている典型的な居酒屋の印象を抱いてしまう。しかし、それはあくまでカウンターの話。女将や店主、従業員たちが歩き回っている厨房と反対側の席。窓がすぐ横にあり、その気になれば外の景色も見れるここはかなり状況が違っていた。

 

「うわぁ~、すごい和菓子から洋菓子までいろんなのが揃ってるっ」

 

個室ではなくつい立てで分割されている座敷。新聞を読んでいる男性の隣に空いている座敷があったのでそこに座る。お品書き、いわゆるメニュー表を手に取り、中を見るとそこは居酒屋らしからぬ物のオンパレードだった。お品書きだけではない。店内の雰囲気も夜とは大きく異なっていた。酒の雰囲気はあるものの、親子づれでも立ち寄れるような定食屋とも甘味処とも取れる姿に変わっていた。

 

「でしょ? ここ、店名に堂々と居酒屋ってつけてるけど、実際は純粋な居酒屋じゃないのよね」

「夜は鎮守府の将兵さんたちのたまり場クマ、だけど昼間はもう少しこう・・・・健全な方向に変わるクマ!」

「球磨さん、健全って・・・。でも、私たちもこうしてお茶できる場所があるのはとてもありがいです! 市街に甘味処はありますけど、なにぶん遠いですから。外出許可も必要ですし」

 

吹雪の語った言葉こそが橙野が居酒屋と名乗りつつ、様々なサービスを提供している理由だ。横須賀鎮守府はあまりに大所帯で鎮守府機能が数カ所に分散しているが、それでも1つ1つの規模は辺境にある基地よりも遥かに巨大。特に今みずづきたちがいる区画は艦娘部隊の全機能、そして各部隊の中枢機能がおかれ、横須賀鎮守府の中心である。そのためここを勤務地としている海軍将兵の人数はバカにならず、それだけ需要はあるのだ。叩けば叩くほど需要の創出が可能ならば、後は供給を整えるのみ。娯楽が欲しい鎮守府にとっても利益があげられる橙野にとってもおいしい話だ。もっとも橙野に料理の腕だけでなく、顧客の需要を正確に把握できかつ多方面との調整能力に長けた人材が揃っていたことも、「橙野」が横須賀鎮守府にとってかけがえのない存在に昇華した理由である。

 

ちなみに、お酒から筆記用具、制服までの日用品一般を取り揃えている「売店」も横須賀鎮守府には複数個所存在している。ひと昔前までは「酒保」と呼ばれ、今でも年配の将兵たちは売店のことを「酒保」と口々に言っているが、時代の流れか横須賀鎮守府のみならず海軍内では「売店」派が年々増加している。

 

「う~ん、いっぱいあって悩むな~。みなさんはもう決めましたか?」

「Yes!!」

「は、早い・・・・。えっと、みなさんのおススメとかありますか?」

「おススメというか、私たちはいつもこれにしてるネ」

 

金剛が縦書きの文字が踊っているお品書きのとある部分を指さす。そこには「クリーム白玉あんみつ」という、いかにもおいしそうなものが構えていた。想像しただけで昇天しそうだ。これほどのものは深海棲艦によるシーレーン断絶で深刻な食糧難が起きて以来数年間口にしていないし、現在の日本では考えられないほどのぜいたく品だ。例えクリームの原料となる牛乳、白玉の原料となるもち米、あんみつの原料の1つである砂糖を生産できても、それは全て生活必需品の生産に回され、ぜいたく品には供給されない。

 

「ぜいたくは敵」。アジア・太平洋戦争中に、そして現在でも街の至る所に掲げられる標語が世相を分かりやすく、明確に反映していたのだ。

 

 

皇室でも手に入るかどうか・・・・・・・・。

 

 

「じゃあ、これにします!! ほんとごめんね吹雪、おごってもらちゃって・・」

「いいです、いいです。それにみずづきさんを見ると、その、もった甲斐があるというか・・」

「ん? なんで?」

 

言いづらそうに視線を逸らす吹雪。理由を求めて吹雪の隣にいた瑞鶴へ。彼女はからかうような目つきで口元を示した。

 

「みずづき、涎」

「!?」

 

そこでようやく気付いた。女子力激減必至の醜態に、真っ赤に染まるみずづきの顔。爆笑が忙しさの峠を越えて比較的落ち着いている店内に響き渡る。明るく考えるなら、ここが吹雪たちのいる場所で良かった。

 

もしおきなみたちの前ならば、ほぼ失墜していた隊長としての威厳がさらに低下するのは必然であるし、知山の前ならば・・・・・・彼だと「チャーミングな所もあるじゃないか」と普段通りに言ってくれるだろうが恥ずかしさで、正気でいられるかどうか。

 

両手で顔を覆い、首を左右に振りまくっているみずづきを尻目に、吹雪は注文を取りにきた店員に「クリーム白玉あんみつを4つお願いしますっ」とにこやかに告げる。結局、店員がお盆に4つのあんみつを運んでくるまで、周囲から励ましの言葉をかけられつつもみずづきは「うわぁぁぁあ~」と沸騰したままだった。だが・・・・・・・。

 

 

 

「うわぁぁぁ、すご~~~~い!!!」

 

 

 

それも目の前に鎮座する、クリーム白玉あんみつの神々しさの前にはひれ伏すしかない。こしあんにソフトクリーム、白玉に加え、パイナップルやみかんなどの果物、そして中央に添えられた真っ赤なさくらんぼが彩りに華を生み出している。それぞれが放つ輝きといったら、もう感動だ。気を抜くと意識が吸い込まれそうだ。

 

「これだけのものは橙野みたいに軍お抱えのところぐらいじゃないと食べられないのよ。ユーラシア大陸との交易路が復活してから久しいけど、まだまだ一般庶民にここまでのものは・・・・って聞いてないし」

 

このあんみつにどれほどの価値があるのか、似合わない風格を漂わせながら意気揚々と瑞鶴が説明しようとするも、みずづきは瑞鶴など、どこ吹く風だ。

 

「ふえ!! す、すみません! えっと、なんの話でしたっけ?」

 

苦笑し、ほほかくみずづき。その純粋な反応に怒りを覚えるはずもなく、ただただ呆れるのみだ。

 

「もう・・・・まったく、いいわよ、なんでもない。みずづきも目を輝かせてることだし、食べよっか?」

「そうですね。では」

 

個性豊かな「いただきます」を唱え、好きな具材を口に運ぶ吹雪たち。

 

「~~~~~!! delicious!! やっぱり、最高デース!!」

「クマクマ!」

 

幸せそうな表情。球磨は具体的な言葉を発しなくなっている。それを見てごくりと喉をならし、木製の匙であんことソフトクリームを口に運ぶ。

 

 

 

 

 

 

一言だけ言おう。最高だ。

 

 

 

 

 

 

「~~~~~~~!!」

 

したばとと悶えながら次々とどんぶりのなかに盛られた具材を口に運んでいく。白玉のモチモチと食感に、濃厚で舌に触れた瞬間、液体へ戻っていくソフトクリーム。あんこの控えめな甘さとパイナップルなどの直線的な甘酸っぱさが上手く調和し、ほどよいまろやかさを生み出す。もはや言葉も出ない。その様子に金剛ですら若干あっけに取られているが、それを気にする余裕は皆無だ。自然と匙を持っている手が動き、高速で減っていくあんみつ。だが、それに比例して目頭が熱くなってくる。必死に抑えようとしたのだが、それはついに眉間の力では抗えない領域に達した。

 

 

ほほを伝う感触。あの日、ベンチの上で感じて以来だ。但し、そこに宿る感情の割合は正反対のものだった。

 

 

「ちょっと、みずづきさん!!」

「みずづきが泣いてる!?」

「ど、どうしたんデスカ? そんなにぼろぼろと・・・まさか!?」

 

金剛の驚愕。それを言葉に出して確かめたのは球磨だった。

 

「そんなにおいしかったクマ!?」

 

こくりと静かに涙を流しながら頷く。一気にこの場に脱力感と安心感が広がる。

 

「美味しいのは分かるけど、泣くほど? 食いしん坊とは聞いてたけど、まさかここまでとは」

 

口の中に広がる幸福と目頭とほほから感じる熱に意識を持っていかれていたが、それでも看過できないことはある。

 

「なんですか、その不名誉な流言は!? 私、全っ然そんなのじゃないですよ!!! しょうがないじゃないですかっ。美味しいんですもん!」

 

涙をふきながら、ニヤついた瑞鶴へ必死に反論する。そう、美味しかったのだ。どうしようもなく。それに感動し、涙を流したのは紛れもない事実。そこに宿った感情はみずづきと吹雪たちの表情を見れば一目瞭然だ。だが、みずづきは自身のことだから分かっていた。この涙が透き通った感動のなかに、濁りを含んでいることを。

 

 

 

 

 

 

 

昔、これが当たり前だった。友達と話して、家族と笑い会い、発展途上国では高級品とされるものを大衆食として食べる。

 

それが当たり前だった。特段、感謝することもない日常。

 

だが、それでも今は・・・・・・過去なのだ。世界的に見ても、そして個人的に見ても。

 

いつも共に笑い会っていた仲間と上官は、もういない。みんなが、そして家族が、見ず知らずの誰かが、想像するすらできない幸福の中に身を置いている。それに見てみぬふりをし続けられるほどの冷酷かつ身勝手な人間なら、彼女は「笑顔を守る」といって自衛隊に入隊したりはしなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~。ここだけ見ると演習で翔鶴姉たちを粉砕した鬼神さんと同一人物とは思えないよね。あの鬼気迫る表情と、ほっぺた落としそうにしながら泣いてる表情。吹雪もそう思うでしょ?」

 

「誰が鬼神ですか!?」というもはや定番と化したツッコミを見事に無視する瑞鶴。

 

「・・・・・・えっ!? そ、そうですね。でも、みずづきさんらしいといえばらしいというか」

「なによそれ。なんか複雑・・・」

 

吹雪の反応にしょげるみずづき。吹雪は慌てて釈明を始める。

 

「ち、違うんですよ!! みずづきさん!! 私はバカにしているとか・・・そういうことは一切ないですから。ただ、感情表現の豊かなところがみずづきさんの第一印象ですから・・・。御手洗中将が来たときとか?」

「うぐっ!」

「そう痛々しい反応しなくでも大丈夫デスヨ!! 喜怒哀楽がはっきりしてることはいいことデース!! 言葉を交わさなくとも相手の気持ちや性格が分かりますし、コミュニケーションのきっかけにもなるネ!」

「金剛さん・・・・。いい言葉だけど、机をがたがた揺らしているから、効果半減クマ!!」

「ちょっと、あんたたちうるさい!! みんなの迷惑でしょうが!!」

 

こういう場合は、注意する本人が一番うるさいパターンである。案の定、客観的にみて一番大声を出したのは、金剛や球磨を注意した瑞鶴だ。店内にいる他のお客は温かい目で見守ってくれているが、「ゴホン」という咳払いが厨房の方から聞こえてくる。

 

「っと、まあ、じゃれ合いはここまでにしといて・・・・。聞いたわよ、初出撃の件。護衛任務だって?」

 

瑞鶴の瞳に少し真剣な色が宿る。それはなにも瑞鶴に限らないが、和やかな雰囲気を凝固させるほどではない。みずづきの涙は既に止んでいる。

 

「はい、そうです。なにを隠そう、みなさんとお会いしたのはそれに関連した訓練の帰りだったんですよね」

「三水戦ですよね? 白雪ちゃんたちから話は聞いてます。みんなが・・・・・・特に下の二人がご迷惑かけてないですか?」

「ううん、全然。むしろみんな真剣で圧倒されたぐらい。吹雪型って、根はみんな真面目なんだね」

 

それに吹雪は「そ、そんなことないです」とほほを赤く染めながら謙遜する。

 

「川内たちの一緒に横須賀から出撃デスヨネ。目的地はえっと、ウ~ン・・・」

「お・・」

「沖縄だ」

 

頭をひねる金剛をみずづきが助けようとした瞬間、投げかけられる男性特有の低い声。あまりの突然さに声すら上げらず固まる一同。だが、その声には聞き覚えがあった。みずづきの後ろ。座敷をいくつかの空間に分けている衝立から、立ち上がった1人の男性が姿を現す。手には今日の朝刊が握られていた。

 

「みずづきの行き先は沖縄だ」

「ふ、筆端副司令!!」

 

一同を代表し、みずづきや吹雪と異なり真正面から向き合う形になった瑞鶴が驚愕の声を上げる。そこには「なんでここにいるの!?」という疑問も含まれていた。

 

「失礼だな。横須賀鎮守府副司令官の俺が、息抜きに甘味を食べてはいけないのか? だいたい、先客は俺だ」

 

みずづきは記憶を巻き戻す。確かに来たときには既に座って、あんこのおはぎを食べている人物が座っていた。だが、まさか筆端だったとは。こちら側に背を向けており新聞を読んでいたことから顔が見えず、全く気付かなかった。

 

「す、すみません、副司令。ごあいさつもせず」

「ん? いやいや、いいよみずづき。俺も記事に没頭していて、気付くのが遅れてしまったからな。それに・・・・・いいものも見れたからな」

 

瑞鶴のようなニヤついた笑み。筆端がなにを思い浮かべているのか手に取るように分かる。急速に熱くなる顔。先ほどは羞恥だけだったが、今は乙女の会話を盗み聞ぎした怒りも混ざっている。

 

「まあ、そう恥ずかしがるなって。これを見ても、同じ態度をとれるかな?」

 

机の上に置かれる一万円札。日本のものと肖像画や偽造防止のシールなどが異なるが、全体的なデザインはよく似ている。

 

「俺のおごりだ。これで払え。おつりはみずづきに渡してやってくれ。いくら使う機会が少ないとはいえ、現金がなかったら不便だろ? 給料の支給はもう少しかかるみたいだからな」

 

思わず目が丸くなる。しかも、一万円とは太っ腹すぎる。5人いるとはいえ、合計しても2000円でおつりが出る程度。8000円近くがみずづきの手元にわたることになる。

 

「筆端司令、そんな!!」

「いいですいいです! 悪いですよ」

「遠慮すんなって。実際今日だって一文無しで困ってただろ? こういう機会もめったにない。もらえるものはもらっておいた方が得だぞ」

「う・・・・・」

 

ここまで言われてしまえば、反論は失礼だろう。筆端は純粋な善意で、行ってくれている。

 

「では・・・・・・すみません、頂戴いたします。ありがとうございます!!」

「よし。じゃあ、俺はこれで失礼するよ」

 

軽く片手をあげて、勘定をすまし出ていく筆端。彼の姿を見送り、机の上に置かれた一万円札を手に取る。彼の懐に財布が収められていたせいだろうか。お金とはいえ紙のお札が、ほんのりとした温かさに包まれていた。

 

 

~~~~~~~~~

 

 

「はぁ、ついてない・・・・・」

 

体育館裏の少し湿り気がある道に伝わっていく大きなため息。それをかき消すかのように大きく膨れた紙袋のこすれる音が、足を地面につけるたび発生する。両手に1つずつ持っているため、途切れることはない。

 

紙袋の中身。

 

それはゴミだ。今日は寮のごみ回収日だったのだが、同室の全員がそのことをすっかり失念。結果、たまりにたまったごみは回収されず、自ら体育館と工廠がある整備区画の中間にある焼却炉へ持っていくこととなってしまった。出たごみはすべて可燃物で特別な分別や処理を必要としないので、置いておけば当番の将兵たちが燃やしてくれる。だから、ただ運ぶだけでものもそこまで重くないのだが、訓練終わりのこれは倦怠感が半端ではない。本当なら、今頃自室でごろごろしていたはずなのだ。なのに、今両手にごみ袋を抱えて、人通りの全くない道を1人で歩いている。

 

では、なぜ彼女は1人で、ごみ出しをするはめになっているのか。

 

「じゃんけんに負けたりしなければ・・・・・」

 

結局これである。“この世で最も公平な判断を下せる手段”と彼女は言った。前回の悲劇に懲りず、また。しかも言い出しっぺである。彼女の表情は未練に満ちていた。

 

「あのときと全く同じ展開じゃない。私、運はそこまで悪くないんだけどな~。最近、罰が当たるようなことしたっけ? ・・・・・・ん?」

 

焼却炉の近くまでやってきたところで、人の声が聞こえてきた。だが、姿は見えない。どうやら音源は体育館を隔てた焼却炉前の広場のようだ。最初はただ声が聞こえるのみだったが、近づくにつれ、複数の人間がいて誰かが話しているのを把握する。会話の詳細はまだ分からない。気付かれないようにゴミ袋を体育館のそばに置き、忍び足で向こうから見た死角の端まで足を進める。そこでふと自分のしていることに気付いた。

 

なぜ、自分はこんな、盗み聞きするような真似をしているか、と。いつも通りに「こんなところで何してるの?」と胸を張って声をかければいいのに、今日は違っていた。理由は分からない。だが、そうするという考えは全く思い浮かばなかった。

 

耳を澄ませるとはっきり聞こえてくる会話。話している者たちの表情は分からないが、声色から笑っていないことは確かだ。

 

「んっと、まあこんな感じです。わざわざ足を運んでもらちゃってすみません。ただ、お伝えしておこうと思って」

「いや、謝られるどころか、お礼を言うべきところだ。お前が教えてくれなければ、私たちは零れ落ちた重要な要素を見逃すところだった。しかし・・・・」

「どうして彼女が潜水棲艦の特徴を知っているのでしょうか? 提督から?」

「可能性は高いがどうだろう。提督は知っての通りご多忙だ。そうそう鎮守府内で偶然出会うことは考えにくいし、もしあれば私に伝えて下さるはずだ。私がいる間も、そんな話はなかった」

「資料室はどうでしょうか? この前、時間があれば行くと言ってましたが」

「仮に行っていたとしても、スクリューを使わずに足で泳ぐなどという具体的な情報はない。それは機密に該当する。だから、彼女が足を運んだ、もしくは運ぼうとしている資料室からは知りようがないはずなんだ」

「ですが、彼女は知っていた・・・・。本当に自然体だったのよね?」

「ええ。あまりに自然すぎて、私も一拍置いてからおかしいと・・・」

「考え過ぎなのでは? 三水戦や吹雪から聞いている可能性も排除できません」

 

「っ・・・・・・」

 

一瞬、息が止まる。

 

「それはそうだが・・・・・・」

「確かに言われる通りですが・・・・。やつらって言ったんですよ? 深海棲艦のことを。勝手な推察で参考にならないかもしれませんが、そこにはこの世界の人間にも引けをとらない軽蔑と憎悪が込められていたように・・・・・・私は感じたんです」

「・・・・・・・・・そう。あなたが言うなら考慮しないわけにはいかないわね。もし、それが本当なら、彼女は・・」

「ああ、歓迎会の時の発言や態度からもそうだが、やはりなにか隠し事をしている。それも大きな何かを」

「最近、提督や副司令に妙な動きがあります。それは・・・・・」

「提督も優秀な方。おそらく私たちと同じように何か感じておられるのかも」

「そ、そうですか・・・・」

「とにかく、この話は内密に。各人、気になったことや引っかかったことがあれば遠慮なく報告してくれ」

『了解』

 

遠ざかっていく気配。緊張の糸が切れ、こわばっていた足から力が抜けていく。地面の上にへたれこまないよう、体育館の壁に体重をかけ直立を維持する。震える手。

 

 

 

 

“聞いてはいけないことを聞いてしまった”

 

 

 

 

その事実の前に、しばらくの間、体は言うことを聞いてくれなかった。




今まで長々と、そしてのらりくらりと進んできましたが、ついにみずづきの出撃が決定です。船団護衛というと華々しい任務でないかもしれませんが、戦略的重要性はバカにできません。川内たちとみずづきの奮闘(←深い意味はありません)に期待したいところです。

っと、ついに春イベ2017の情報が運営さんより伝えられ始めましたね。聞くところによると中規模とかなんとか。(・・・・・鬼畜ではないかもしれないが、鬼と言いたい・・・・)
リアルで動き回っている身としてはタイプの子が来ないこと祈るのみですが、もし来てしまったり、簡単なマップで「秋月」ドロが生じたりすれば手が煩悩のままに・・・・・・・。

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