水面に映る月   作:金づち水兵

39 / 102
いろいろ想定外に見舞われるみずづき、そして翔鶴たち。ついでに百石たちも。
幕引きは一体・・・・・。



37話 演習 後編

「全航空目標の撃墜を確認。対空戦闘用具収め・・・・・・」

 

淡々と発せられる言葉。口はみずづきの勝利を紡いでいるが、外見ではとてもそんな雰囲気は感じられない。どちらかといえば、敗者がまとっている空気だ。

 

それも致し方ない。目に映る乱れまくったメガネの多機能レーダー画面。脳裏に焼きつく最後まで健闘した赤城航空隊の天山。それらはみずづきから勝者としての歓喜を完全に奪い去っていた。

 

「まいっちゃったな・・・・・・。まさか、ここまでやられるなんて。対空、対水上ともにレーダーの不明瞭域拡大。第一次攻撃の時にまかれたチャフは落下したみたいだけど、その代わり第二次攻撃時のチャフが至近に展開。こりゃ、主砲管制をレーダー照準から光学照準に変えた方が良さそう・・・・・。それにしても・・・・」

 

主砲という単語から、先ほど見た信じられない光景が頭によぎる。

 

「赤城航空隊の練度が高いとは散々聞いて知ったつもりだったけど、まさかこの主砲の砲撃をかわすなんて・・・・・。深海棲艦じゃなくて良かったぁ~」

 

みずづきが装備しているMk.45 mod4 単装砲はあらゆる軍事技術で世界の最先端を突き進んでいたアメリカが開発し、対地重視砲とされつつも音速越えが当たり前の戦闘機や対艦ミサイルの撃墜も可能な艦載砲である。レーダーや光学照準器と射撃指揮装置の連携により、目標の未来位置を瞬時に計算。コンピューターの力がいかんなく発揮され、砲弾の装填も全自動である。それゆえに命中精度は非常に優秀なのだが、決して必ず全弾が命中するわけではない。対地目標への砲撃は敵の位置を知らせる目標情報しだいで変動するが、対空目標はいくらスーパーコンピューターを用いても外れる。だからこそ、連射性能が高められてきたのだ。

 

だが、今回は音速越えの戦闘機でもなければ、無慈悲に突進してくるミサイルでもない。せいぜい、時速4、500kmしかでないレシプロ機なのだ。そんな機体が現代の艦載砲の攻撃をかわすなど、衝撃以外のなにものでもない。

 

それゆえに吐露した「深海棲艦じゃなくて良かった」という本音。それがまさか神業を披露した天山側も同じことを思っていようとは夢にも思わない。

 

天山の空気を切り裂く甲高いエンジン音やESSMの空気を押しのけるロケット音、2つが交り発生する爆発音。それらがなくなりみずづきの耳には自身の息遣いや艤装の駆動音、そして、静かに揺れる波の音しか聞こえない。ほんのわずかばかり離れただけなのに、懐かしさを覚える静寂。

 

しかし、懐かしさを覚えるだけで、心は少しも休まらない。言い知れぬ不安。それはいまだにみずづきの心に影を落としている。「嵐の前の静けさ」。この言葉がいくら振り払おうとも、頭の中に浮かんでくるのだ。だからこそ、みずづきにはそう思えてならない。不安の根拠らしきものを上げればきりがないが、ただ1つ言えることがある。それは・・・・・・。

 

 

 

 

「百石司令官の手の上で、踊らされてる」

 

 

 

 

天山が自らを犠牲にして一矢報いるためにばらまいたチャフ。だが、その効果は半永久的に持続するものではない。重力の助けによって、しだいに本来の力を回復していく多機能レーダー。鮮明になった電子の目は見たものを瞬時に解析、メガネに探知目標情報として警告音を伴い、可視化し表示する。それに胸を撫で下ろしたのも束の間、レーダー画面を見た途端、天山に必中の砲撃をかわされたときと同等、もしくはそれ以上に顔が凍りつく。

 

「嘘、でしょ・・・・・・」

 

 

 

 

メガネの透視ディスプレイには信じられない物が映っていた。

 

 

 

 

「なんで・・・は? うそ・・・空母も戦艦も重巡も全部沈めたはずなのに・・・・・・」

 

そこには、高高度を飛行する偵察機らしき機影と赤城航空隊には劣るもののかなりの低高度を飛行する60機の大編隊、そしてこちらへ突進してくる4隻の艦影がはっきりと映っていた。レーダーの故障や幻覚では決してない。全身から嫌な汗が流れはじめる。

 

「SSMは確かに全弾命中して、8隻を葬った。これで空母2、戦艦1、重巡1を含む第1機動艦隊は全滅して、軽巡と駆逐しかいない第3水雷戦隊も2隻を喪失したはず。どういうこと・・・・・って、あぁっ!!!!!」

 

汗で湿った手を若干痙攣させるみずづき。そんな彼女の頭に演習開始直前に抱いた違和感が深海に潜った潜水艦並みに急速浮上してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“・・・・・・おっかしいな~”

“う~ん・・・・。深海棲艦と違って1人ひとり特徴が違うから、吹雪たちのデータは使えない。そもそもこの世界の兵装データがないから詳しいことは・・・・・。乱反射してるのかな?”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦隊構成メンバーと一致しない不自然なレーダー反応。残存艦隊の進路上にばらまかれ、レーダーによる探知を阻んだチャフ戦術。現在映っている大編隊と艦影。

 

バラバラの事象が、今一つの糸で繋がった。その瞬間、みずづきは感覚ではなく事実として、自身が百石の手の上で踊らされていたことをはっきりと認識した。もはや、悔しがるどころではない。抱いていた不安がこれでもかというほど明確に具現したのだ。

 

「マジ・・・・・? つまり、あらかじめ艦隊の編成を変えていた、と・・・・・・レーダーで分からないよう偽装までして・・・・・・・・・・・。まんまとはめられた」

 

そういうことである。ここで第1機動艦隊・第3水雷戦隊改め第1特別艦隊・第2特別艦隊の編成を確認しよう。

 

第1特別艦隊は赤城を旗艦とし、川内を除いて第3水雷戦隊のメンバーをそのままスライドさせ、陽炎、黒潮、白雪、初雪、深雪で構成。第2特別艦隊は赤城が抜けた第1機動艦隊の穴に川内を加えた、旗艦翔鶴、榛名、摩耶、川内、曙、潮で構成されている。そして、第1特別艦隊は輪形陣、第2特別艦隊は単縦陣をとっていた。

 

みずづきが空母、戦艦、重巡。つまり翔鶴、榛名、摩耶という最優先目標をうち漏らしてしまった理由、それは輪形陣をとっている方は第1機動艦隊、単縦陣の方は第3水雷戦隊と先入観で決めつけ、真実を知らせようとしていた不自然なレーダー反応を飲み込んで攻撃してしまったからだった。

 

 

 

“挑んでくる艦隊は平時の編制そのまま。わざわざいじって演習専用の艦隊など編成しない”

 

 

 

無意識のうちに抱いていた思考。それが今、バッサリと一刀両断されたのだ。百石たちはみずづきに勝つため、わざわざ特別艦隊を編成し、本気で向かってきている。

 

「こんな、裏をつく初歩的な戦法使ってくるなんて・・・・。安直に構えすぎてた、かな。・・・・知山司令に見られたらなんて言われるか」

 

慢心などしていないはずだった。しかし、現状はみずづきに慢心の二文字を痛烈に叩きつけていた。今までこんな戦法とってくる相手がいなかったなどの言い訳は通用しない。

 

 

しかし、いくらそうでも愚痴は出るものだ。

 

 

「チャフといい、これといい、ほんっとやってくれるわね・・・・あの畜生司令官!」

 

そう言うと噴出した額の汗をぬぐい、より一層鋭くなった眼光でメガネを睨みつける。ここからが正念場だ。

 

「ECMにシステムのリソースを割いてる場合じゃない。それにもう私の位置は知られてるだろうし、ECM解除!! 対空戦闘よーい‼ 目標、翔鶴航空隊!! ESSM、発射よーい‼ 」

 

言葉を発する間にもみずづきへの距離を縮める総数60にものぼる大編隊。そして、航空隊の後を追う現代艦には重たすぎる編成の残存艦隊。もし、迎撃が間に合わず、海空からの同時攻撃に晒されれば、いくらみずづきといえどもたない。爆弾1つ当たれば戦闘不能になるほどペラペラという擬音語がぴったりなほど装甲の薄いみずづきに勝ち目は、ない。ESSMの残弾は赤城航空隊との戦闘で32発を消費したものの、今回の演習では潜水艦がいないためアスロックを搭載せず、ESSMをMk.41VLSにフル装備している。イージス艦が装備しているSM-2やSM-6などはVLS1セルにつき1発しか搭載できないが、ESSMは1セルにつき4発搭載可能。あきづき型のMk.41VLSは32セルなので、最大ESSMを128発積めるのだ。そのため、あと96発残っている。主砲も残弾は心配いらないのだが、問題はあと11発撃つと砲弾が装填されている給弾ドラムが空になり別の給弾ドラムに入れ替えなければならない。砲弾が装填されるまでの間、1分ほど主砲が使えなくなることだ。そして、給弾ドラムに装填されている砲弾数は20発。それを使い果たすと当然別の給弾ドラムへ変更が必要になり、その都度主砲が使えなくなる。相手の数を見るに主砲での迎撃は確実。はたして、乗りきれるか。

 

「主砲が使えない間は、CIWSの手動管制で乗りきるしかない。自動管制のままだと後先考えず、この暴れん坊は弾を消費しちゃうし・・・・」

 

Mk.45 mod4 単装砲やMk.41 VLSに搭載されるESSMと異なり、高性能20mm 機関砲 CIWSは完全に独立した近接防御火器システムである。対空ミサイル・主砲による二段構えの防衛網を突破された最終防衛線として、自前のレーダーと射撃指揮装置によって捜索・探知・追尾・迎撃を全て自動的に行う。自動管制のままなら、みずづきが操作せずとも、それこそ勝手に迎撃を行うのだ。

 

毎分3000~4500発。1秒に直すと50~75発という、もはや呆然とするしかない連射速度をまともに食らえば、戦闘機は瞬時にスクラップ処理が完了する。

 

しかし、どの兵器にも弱点はつきもので、CIWSの代表的な弱点は驚異的な連射速度を前に、携行弾数が少なすぎる点である。みずづきは980発しか携行できなかった初期型Block0の能力向上型であり、ドローンなどの低高度目標、自爆ボートなどの対水上目標にも対処可能なBlock1Bを搭載している。初期型のBlock0から弾倉が拡張されたため、6銃身の下部にくっつしている給弾ドラム内には1550発を携行可能となっている。それでも広範な視野を持たず、脅威度が高いとはいえ目の前の敵のみをむやみやたらに撃てば、連続射撃で約26秒経つと終わり、弾切れである。もし、特殊護衛艦ではなく実際の護衛艦でそうなれば本体約17億円、1550発の86式20mm機関砲用徹甲弾薬包 約1億850万円も含めた計18億850万円という10式戦車2両が買える血税の塊はただのおもちゃに早変わりである。

 

重要な防御手段の一角を失った上では、例え相手が時代遅れのレシプロ機といえどもあまりに危険すぎる。最後まで生き残り、Mk45 mod4 単装砲の砲撃を躱すという神業を成した赤城航空隊の天山を仕留めたのも、このCIWSなのだ。

 

「そうならないため・・・・・・・・」

 

メガネに表示される準備完了報告。解放されるVLS。照射される火器管制レーダー。

 

「ESSM発射ぁぁぁーーーー!!!!」

 

1隻対60機。偵察機も加えれば61機。41機の猛攻をしのいだみずづきだが、彼女にも結果は全く分からない。翔鶴航空隊は既に主砲迎撃圏に侵入。みずづきと距離、12km付近を飛行している。赤城航空隊よりも数が多いにも関わらず、対処時間・距離ともに減少。戦闘はもはやみずづきですら、予測不可能な領域に達していた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

曇天のもと、大海原に白い航跡を残していく4隻の艦影。天気のせいかお世辞にもいい雰囲気に見えないが、()()()()()の姿に戻った翔鶴・榛名・摩耶、そして曙を含めた4人の表情を見るとここに重苦しい空気が漂っていることが一目瞭然だ。かっこよく、またはおしとやかに偽装目的でつけていたカツラやら偽艤装を取り払った時の様子が信じられない。残滓すら皆無なのだ。

 

「やっぱりよ、赤城の航空隊は……………」

 

海風と波音、そして艤装の機関音しか聞こえない空間。そこに摩耶の呻くような呟きが響く。弓を持っている手を握りしめる翔鶴。

 

「回復した無線の呼び掛けに応答する機体は、1機もいません。私が存在を確認できるのは自身の航空隊のみ」

「信じられない………………そんなことが。対深海棲艦用の新戦術も使ったのに」

「航空機41、しかも艦娘の中で屈指の練度を誇る赤城さんの航空隊が・・・・あいつたった1隻に」

 

心のどこかで冷静な自分が下した非現実的な現実を信じられずにいた榛名と曙も、明確な事実の前には膝を屈するしかない。

 

 

赤城航空隊41機は、全滅した。

 

 

これを受け入れざるを得なかった。突然始まり、突然収束した謎の電波障害。謎などと言ってはいるが十中八九みずづきの仕業であることは翔鶴たちも気付いていた。電波障害によって無線が使用不可能になった時は戦局が分からず不安を抱いたが、いざ無線が回復してみるとそこには分からない不安より遥かに残酷で衝撃的な現実が待っていた。

 

翔鶴自身もこの状況を完全に飲み込めたわけではない。そう簡単に信じられるわけがないのだ。自身の憧れであり大先輩である赤城が血潮をかけて育てたきた航空隊が、全滅するなどと・・・・・・・・。

 

“翔鶴姉なら私みたいに加賀さんにねちねち言われるようなへまはしないと思うけど・・・・・気をつけてね。みずづきは1隻だけど、とてつもなく大きいよ”

 

思い出される瑞鶴の言葉。それが今になって胸に染み渡ってくる。

 

「でも仮にそうだとしても、航空隊はどこまで奮戦したんでしょうか?」

 

思案顔になる榛名。まだ「全滅」の衝撃から脱出できたわけではないが、これから自分達は赤城航空隊を全滅させた相手に殴り込みをかけるのだ。起きてしまった過去に囚われていてもいい結果は生まれない。全滅した、ということはみずづきと交戦したことを示す。

 

「さすがに無傷とは考えづらいのだけれど・・・・」

「あたしも榛名と同意見だ。赤城の連中がみずづきの目である電探をある程度は潰したはずだからな。しかし、大隅からの知らせがない以上、少なくとも中破はしていないってことだ。みずづきはミサイルなんていうバケモン武器を持ってるし、広範囲の電波妨害だってして見せた。あたしたちの常識が通用しない。最悪の状況も考えとかないといけないんじゃねぇのか?」

「何? 怖じ気づいたの? 重巡が聞いてあきれるわ。仮にあいつが無傷だったとしても、今翔鶴の航空隊、60が殺到してる。いくらミサイルなんていう非常識の塊みたいなものを持ってたって、深海棲艦の機動部隊もびっくりなこの飽和攻撃を乗りきれるわけ・・・・・・」

 

いつも通りの不機嫌さをまといながら話す曙。演習開始時の「変なものでも食ったのか?」や「熱でもあるんじゃねぇのか?」と言われそうだった様子は、非常識が常識のように乱舞するこの場において完全に四散していた。過去の光景に縛られている余裕は、もうないのだ。

 

しかし、突如回復した曙の言葉が不自然に止まる。

 

「こ、こちら偵察6番機!! 前方下方から、光を放つ物体が!? ・・・・・・・・・っっ!?!?」

 

緊迫した声。必死に何かを伝えようとした矢先、うめき声と激しいノイズが走り、パタリと途絶える。

 

4人に緊張が走る。

 

「こちら翔鶴。偵察6番機、何があったの? 偵察6番機? 偵察6番機応答して!!」

 

ただならぬ雰囲気に翔鶴は思わず悲鳴に近い声をあげる。反応はない。砂嵐と比喩される雑音が聞こえるばかり。

 

だが、偵察機との交信途絶の原因はすぐさま翔鶴たちに届いた。聞こえてくる航空隊からの無線。自然に意識が集中する。時間が経過するにつれて、4人の表情が再びみるみるうちに青くなっていく。

 

航空隊各機からの悲痛な叫びが無線機により空間を越え、耳ともを流れる海風よりもはっきりと木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

「こちら第3飛行隊!! ミサイルとおぼしき攻撃を受け、隷下の3機が四散、消滅!!」

「偵6と交信途絶!! やられたぞぉぉ!!」

「なんなんだあれは!? 早い、早すぎる‼ 回避できない!!」

「話が違う! チャフ攻撃はどうなったんだ!? バリバリミサイルが飛んでくるぞ!!」

「逃げても逃げても、ついてくる!! 生き物かよぉぉぉ!!」

「こちら隊長機!! 全機、散開!! 最終機動に移行!! 犠牲に構うな!! 突き進め!!」

「ダメだ!! 取り付かれた‼ 振り切れ・・・・・うわぁー!!」

「隊長機がやられた! これより第6飛行隊の指揮は俺がとる!!」

「第2、4、5、8、9、10飛行隊全滅!! 消耗率6割を越えました!!」

 

 

「っ!! おいおい冗談だろ!! まだみずづきを視認すらしてないっていうのに・・・・・」

 

摩耶の悲鳴。他の3人はあまりの事態に声が出ない。翔鶴はわずかな音も聞き漏らさないように、耳に手をあてている。自身の航空隊が遭遇しているあまりにも残酷な状況。そのつらそうな表情は見るのも忍びない。

 

「クッソ!! ・・・・・っ!? こちら編隊長機、みずづきとおぼしき・・・いや! みずづきを視認!! これより突撃を開始する!!! 艦戦は艦攻・艦爆の護衛、いざとなったら盾なれ!! 行くぞぉぉぉ!!」

 

電波にのって聞こえるレシプロ機のエンジン音。みずづき発見の報に若干ながら安堵の空気が広がる。しかし、それは束の間でもない、ほんの一瞬。赤城航空隊も体験した驚愕の大波が容赦なく襲いかかる。

 

「ん? みずづき発砲。こんな距離で? 威嚇のつもりでしょうか?」

「いくらなんでもこの距離だ。しかも俺たちは航空隊、そんな簡単に当たるわけ・・・っ!?」

 

 

「隊長ぉぉぉ!!」

「え・・・・・・。う、嘘だろ!? あ、あり得ない・・・。え・・えっ!?」

「大砲を航空機に命中させるなんて・・・・・」

 

「っ!?」

 

衝撃を通り越して凍りつく一同。曙ですら、口を半開きにして固まっている。聞こえてくる言葉がえらく他人事に思えてくる。

 

 

「みずづき、発砲発砲発砲ーーーーー!!!」

「第1飛行隊全滅!」

「・・・・・砲撃が止んだ?」

「た、弾切れか?」

「んなことどうでもいい!!!! この好機を逃すな‼ 一気に取り付けぇ!!」

「了解!・・・・・・・・・・・な、なんだのあの銃撃は」

「彗星が一瞬で蜂の巣に!?」

「ダメです! 銃撃が桁違いでとりついたら相手の思うつ、ぼ・・・・・・・」

「おいっ!! チクショウ・・・・」

「砲撃、再開されました!!」

 

時間の経過と共に静かになっていく無線。気づけば聞こえる声は二人だけになっていた。

 

「くっ・・・・・。翔鶴さん、お役に立てずすみません。我々ではとても・・・・、あのような神業を駆使する化け物には・・・忸怩たる思いです。空からは無理でしたが海上からなら、あるいは」

「砲塔、こちらに旋回!!!」

「・・・っ!? ご武運を」

 

凄まじい轟音と即座にとってかわった砂嵐。航空隊からの無線は全て途絶えた。艦隊に痛々しい沈黙が訪れる。翔鶴航空隊60機は赤城航空隊41機に続き、みずづきへ一撃すら加えられずに全滅。みずづきの対空戦闘能力の異常さがここに証明された。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

艦娘母艦艦 大隅 待合室

 

「う、うそでしょ・・・・・」

「信じらんねぇ、んだよこれは」

 

しんと静まり返り、存在する人間の息遣いとモニターのスピーカーから淡々と流れてくる30式水上偵察機のエンジン音のみが支配する待合室。そんな中、設置された液晶画面へ目を釘付けにした陽炎と深雪の言葉が、やけに大きな存在感を持って響きわたる。中破した体に掛けられた上着。2人はそれを固く握りしめ、驚愕のあまりに震えている。そして、それは彼女たちだけではなく、待合室を埋め尽くさんばかりに集まった大勢にも言うことができた。世紀の瞬間を一目でも見ようと待合室の収容能力ギリギリまで集まった将兵たちと、みずづきの対艦ミサイル攻撃で早々に退場となり「大隅」に帰還した赤城一行や、予定が入っていない第5遊撃部隊、第6水雷戦隊の艦娘たち。演習開始直後は談笑なども交わされていたが、現在はそれすら許されない、する余裕がない雰囲気に満ちている。ここにいる誰もが2人と程度の差はあれど、同じ心境に陥っていた。全員一応に言葉を失い、無意識に海とみずづき、第2特別艦隊を映している画面に視線を固定させている。そこに艦娘や人間の垣根は全く意味をなさない。

 

艦娘と幾分の相違もなく海上を堂々と進むみずづき。これまでとどこも変わらない。変わったといえば艤装を装着していることぐらいだ。駆逐艦が力強く思えてしまうほどの貧弱な武装に、それでも軍艦かと問いたくなるような簡素な各種装備。艦娘たちや横須賀鎮守府の将兵と異なり、みずづきの艤装を始めてみた大隅の将兵たちは、あまりの弱々しさに嘲笑すら浮かべたほどだ。

 

「こんな装備で、艦娘に勝てる訳がない」と。

 

だが、その嘲笑はブーメランのように外見と自らの常識のみでみずづきの力を判断した彼らと自身に猛スピードかつ容赦なく突入していた。衝撃は計りしれない。そして、それは決して嘲笑などしていなかった艦娘たちにも激震をもたらしていた。

 

まるで生き物のように意思を持ち、視認圏外の艦艇・航空機を瞬殺した光の矢。

自分達の大砲が子供の水鉄砲のように思えてくる百発百中かつ連射可能で対空目標すら撃ち落とす主砲。

壁のような弾幕を一瞬で形成する対空機関銃。

 

それになすすべもなく敗れさった、深海棲艦と渡り合う艦娘たち、そして彼女たちの優秀な艦載機。

 

だからだろうか。いつも変わらないはずなのに、みずづきの姿に形容しがたい畏怖を感じるのは。

 

「夕張さんは知ってたのですか? みずづきさんの力を」

 

周囲の雰囲気や磁針の動揺にいつも以上に挙動不審になりながら、電はここで唯一顔を紅陽させている夕張に話しかける。さすがに空気は読んでいるようで、試射の時のように暴走状態には陥っていなかった。夕張は嬉々とした表情から一転。電の言葉に込められた意味を理解し、気まずそうにほほをかく。

 

「そりゃ、工厰担当艦娘だからね。みずづきが使った武器の試射も同行したし。だけど、知ってたのはせいぜいそこまで。電波妨害が出来て、あそこまでの飽和攻撃を無傷で切り抜けるほどだなんて思いもしなかった。そういう意味では私も電と一緒かな」

「やっぱり、これは現実なんだね」

 

夕張の反応を受けた響の呟き。青筋を立てて彼女たちを見ている暁と雷もおそらく同じ心境だろう。

 

「私たちも本当の意味では、みずづきを知ってはいなかったということデスネ」

「金剛さん・・・・・・」

 

的確な言葉。第5遊撃部隊の誰もそれに頷くしかない。

 

「私たちが垣間見たものは、まさしく垣間見ただけだったのね」

「深海棲艦との戦いは、みずづきにとって準備運動程度でしかなかったっていうの。しかも雑魚じゃなくて本土攻撃を目論んでた機動部隊だったのに」

 

金剛や加賀が語った紛れもない事実に瑞鶴は、他の部隊と比べて事前知識という名のクッションがあったにも関わらず動揺を隠しきれない。まぶたから、幾度となく戦場をもとにしてきた赤城の、翔鶴の航空隊が無惨に果てていく光景が離れない。そして、それが重なって仕方がないのだ。

 

 

 

 

あの時と・・・・・・。

 

 

 

 

「準備運動どころか、みずづきにとってあの戦闘はお遊び程度だったかもしれないね。これを見ちゃったらそう感じても仕方ないよ」

「あんた、他人事みたいに・・・・・!」

 

北上を睨みつける瑞鶴。睨みつけること自体はじゃれあいの一環としてさほど珍しいことではない。だが、今回のように怒気を露にしたものは完全に本気だ。それを見た吹雪と大井が慌てて仲裁に入る。

 

「ちょっと、瑞鶴さん! らしくないですよ。落ち着いて、落ち着いてください」

「北上さん! 私はいつ何時も北上さんの味方ですけど、今回は・・・・」

 

日頃、北上のことしか考えていないと言っても過言ではない大井が、常識を逸脱した行動をとる。いつもなら「北上さんになんてことを!!!」と瑞鶴に食って掛かる場面だが、なんと北上の行動を控えめに諌めたのだ。それにはさすがの北上も驚いたようで、目を大きく見開く。大井も当然だが大好きな北上の肩を持ちたいのだ。しかし、瑞鶴の顔を見てしまえばその想いは揺らぐ。彼女が心の中で何を想い浮かべているのか、分かってしまったのだ。だが、北上は引き下がらない。口調はいつもとなんら変わりないが、瞳には戦闘時とは異なる真剣さが宿っていた。

 

「いや、大井っち。言うべきことは言わなくきゃ。私たちが観たものは紛れもない現実。現実は現実。夢でも幻覚でもない、逃げてたら大事なことを見落とすよ。・・・・・・・私たちにそれはもう許されない。誤魔化しも逃げも・・・・・・」

 

その言葉に、北上の肩に置かれた大井の手がわずかに震える。

 

 

 

 

 

「決して、許されないんだよ」

 

 

 

 

 

瑞鶴を睨み返す北上。彼女が睨まれても微動だに着なかったのに対して、瑞鶴はあっさりと後ずさる。

 

「そんなの言われなくても、分かってる。でも、でも。なら、私たち空母は・・・・」

 

薄々感じていた予感が的中し、成り行きを見守っていた加賀と赤城が表情を険しくする。

 

(全く。普段は勝ち気で生意気な癖に、どうしてこういざって時にしおらしくなるのかしら。これだから、目が話せないのよ)

 

「はぁ~」と面倒くさそうに心の中で加賀はため息を吐く。

 

(これは元凶さんに、一役勝ってもらうことになりそうね)

などと思っている後輩想いの正規空母を温かい視線で見守る赤い正規空母。いつもの流れからして、バレるのも時間の問題だろう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

「・・・・・・全艦、進路そのまま。戦局から第二次攻撃隊の必要を認めます。航空機発艦準備開始!」

 

沈黙を破り悲痛な表情のまま、弓をつがえる翔鶴。矢を取り出すのに躊躇してしまうがそれを理性で押さえつける。それに他の3人は一切口を挟まない。翔鶴の残存機は予備機も含めると、24機。だが、60もの大編隊を無傷て退けたみずづき相手では焼け石に水ということを誰も分かっていた。しかし、それでもこの状況では出さざるを得ないのだ。

 

狙うは海、空からの同時攻撃。深海棲艦相手にもよく使う戦法だ。 二正面戦闘は対空・対水上の捜索・追尾・戦闘を同時に行わなければならないため、集中力が散漫しやすくミスも生じやすい。これなら、みずづき相手でもつけ入る隙ができるかもしれないのだ。

 

 

 

 

 

だが、かねてより計画されていたその作戦が実行に移されることはなかった。突如、艦隊の至近に衝撃波を持って立ちあがる水柱。それは今まで散々見てきたものだ。

 

 

 

 

 

「ほ、砲撃!?」

 

 

 

 

 

反射的に叫ぶ榛名。そう、これは紛れもなく砲撃だ。

 

「待てよ!! みずづきはまだまだ先にいる。とてもじゃないが、初弾で目視外に、これほどの精度で落とすなんて不可能だ!!」

「だったら、誰がやってるって言うわけ!? 深海棲艦が性懲りもなくまた来て、たまたま演習中の私たちに喧嘩売ってきたって!?」

 

あまりの理不尽さに半分キレたような摩耶と曙。そうしている間にも、次々と艦隊の至近に砲弾が着弾していく。そして、ついにいつかは訪れる事態が起きてしまった。

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

周囲に絶大な破壊力を持って響き渡る悲鳴と爆発音。黒煙に全身を覆われる翔鶴。

 

「翔鶴!!!!!」

 

そして、摩耶の絶叫。眼前で生じた信じられない、その身に砲撃を受けても揺さぶられない常識をいとも簡単に揺らす現実。

 

それはくしくも摩耶の言動を否定し、曙の言動に説得力を持たせるには十分すぎる威力があった。翔鶴たちは赤城航空隊41機、翔鶴航空隊60機、計101機の猛攻を防ぎ切った強大な敵であるみずづきを相手にする以上、哨戒-レーダーがないため目視だが-を念入りに行っていた。このような状況で深海棲艦がこちらに砲撃してくるなど、みずづきの力以上にありえない。もしあり得てしまえば、自分たちの哨戒がザラと白日のもとに晒らされることになる。深海棲艦の可能性がついえてしまえば、必然的に可能性は1つしかない。

 

再び迫る風切り音。それに尋常でない危機感を覚えるものの、いくら艦娘とはいえ反射神経は人間と変わりない。摩耶が、榛名が、曙が声を上げかけた時には全てが終わっていた。

 

「っ!? あ・・・・・・、いっ・・・・・・・・」

 

常識をあざ笑う事象の連続でパニックに陥りそうな頭を無理矢理押さえつけ、翔鶴へ視線を向けた3人は、翔鶴の姿を認めて、息を飲む。黒煙が晴れた翔鶴には、もう以前の姿はなかった。真冬の雪原を思わせる真っ白な髪はところどころが煤で黒ずみ、瑞鶴とお揃いの白と赤を基調にした弓道着は破け、各所で肌が露出している。例に漏れず肌も爆発の影響を受けていた。そして、なんといってよいのか運の悪いことに艤装も航空隊の発艦に必要不可欠な弓は弦がちぎれ、飛行甲板も見事に穴が空いていた。痛々しいことこの上ない。

 

中破。

 

この文字が被弾した翔鶴を含め全員の頭に浮かび上がる。翔鶴が戦闘能力を失ったことは火をみるより明らかだった。そしてこれは海、空から二正面同時攻撃が不可能になってしまったことも意味していた。百石たちが血潮をかけて編み出した狩月作戦は、重大な岐路にたった。

 

「翔鶴!? 大丈夫? 」

「ええ、ありがとうございます、榛名さん。でも・・・・・・」

 

翔鶴はそう言いつつ自身の体に視線を這わせ、再び榛名へ顔を向ける。そこにはもう戦えないことに対する悔しさと申し訳なさを称えた苦笑があった。一瞬だけ訪れる静寂。不思議と翔鶴に命中したあと、砲撃は止んでいる。

 

「すみません。こんな大事な・・・・・・1隻でも1機でも戦力が必要なときに」

 

傷付きつつも心と同じくまだ輝きを失っていない白髪をたなびかせ、翔鶴は視線を下に落とす。無風と言いつつも海上には微風が吹いている。本当にささやかな風。それでも翔鶴の髪はさらさらと舞っていた。非常に厄介な女の嫉妬を一身に受けかねないほどの儚げな美しさに見とれてしまい、榛名は言葉が詰まる。摩耶も同様なようで「うわぁ~」などの感嘆詞を排出している。本人は全くもって気付いていないようだが。

 

「反省会も心象に浸るのもあと。今はそんな状況ではないでしょ! 今は止んでるけど、翔鶴に命中した事実から考えて、あいつはどんな手使ってんのか分からないけどこっちの位置を正確に把握してる。もたもたしてると被害が拡大するわよ」

 

緊迫感が薄れかけていることに耐えかねた曙が一喝を放つ。摩耶は曙がいつも以上に張り切っているところを見てからかいを含んだ意味深な笑みを浮かべているが、それに一睨み。確かに曙はいつも以上に真剣になっているがそれは張り切っているなどと少し軽い部類に入る理由ではない。曙は駆逐艦である。艦隊決戦がまだまだ海戦の決定打とされていた戦前においても、駆逐艦の装甲はペラペラだったのだ。砲弾の命中は、分厚い装甲で跳ね返したり被害を矮小化できる戦艦や重巡と異なり、致命傷を意味する。そんな彼女が翔鶴を2発で中破に追い込んだみずづきの砲撃を受けたらどうなるか。装甲はペラペラでも曙より遥かに船体の大きい翔鶴がそうなのだ。もし当たれば戦線離脱と激痛は避けられないだろう。その危機感が曙を突き動かしているのだ。少なくとも摩耶には伝わっていないようだが。

 

加えて、だ。その危機感、いや焦燥感ともいうべき感情には翔鶴が被弾した際、頭に点滅した過去の記憶も大きな影響を与えていた。曙の前で翔鶴が被弾するのは、これが初めてではない。

 

この世界においても、そして・・・・・・・・・・・あの世界においても。

 

「曙さんの言う通りね。榛名さん? 第2特別艦隊の指揮権は、私が中破した時点であなたに委譲されてるわ。後は任せます、後悔なき戦いを」

 

全身を痛みで覆われているだろうに翔鶴は背筋を伸ばし真剣な瞳で榛名に敬礼する。それをされれば答えないわけにはいかない。榛名も同じように答礼を行う。それを終えると榛名は摩耶と曙に視線を向ける。

 

「全艦最大戦速!! 進路そのまま!!」

 

ほぼ止まっていた艦隊が再び動き出す。回転するを上げる機関。速力に応じて激しさを増す足元の白波。

 

「作戦を変更。みずづきには正々堂々と砲撃戦を挑みます!!」

 

高々と宣言する榛名。それにガッツポーズを決める摩耶。砲撃屋の二人には静かな決意が浮かんでいる。そんな二人の後に曙が翔鶴の前を通りすぎる。その刹那に交わされる言葉なき会話。若干頬を赤らめながら顔をそむけ、急速に離れていく曙。彼女たちの姿が見えなくなると翔鶴は優しげな笑みで、独り言を呟く。

 

「またあの子に負担をかけてしまったわね・・・・こうならないように気を張ってたつもりだったけど、やっぱりこういう立ち位置からは逃れられないのかしら」

 

 

 

その遥かに彼方。曇天の影響で快晴時より狭まった有視界ギリギリの空域。より敵に近づかなければならないため曇天は迷惑なことこの上ないが、機体の白い塗装がうまく雲や霞に溶け込み視認性を下げているため、一概に無下にはできない。太平洋戦争時はマイナーで、瑞穂世界では試作段階の異質な航空機。直上に付いたローターによって得た揚力で、母艦の脅威を追跡していく。合成開口レーダーや赤外線監視装置、高精度カメラを用いて。

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

「榛名、摩耶、曙、急速接近中・・・・。金剛さんの艤装を見たあのときは何も思わなかったけど、大砲載せすぎでしょ。うまく立ち回れるかな・・・。作戦通りことが運ぶ前にやられたら笑うに笑えない」

 

メガネに表示された、ロクマルから送られてくる映像。まだ、相手に気付かれた様子はなく、ばっちりと榛名たちの映像を記録し続けている。低速度かつ低機動力で装甲が完全にないロクマルは敵にばれれば、問答無用で終わりだ。しかし、そんな格好の獲物を野放しにしているところを見るに、どうやら瑞穂側はみずづきがヘリコプターの対潜哨戒機を持っていること自体を把握していないようだ。これはみずづきにとってまさしく僥倖である。

 

僥倖と言えば、翔鶴航空隊との戦闘もそうである。60機にものぼるかつて経験したことのない大部隊が、幾分ましになったとはいえ赤城航空隊のばらまいたチャフによってレーダーが乱れた状態で殺到したのだ。今日ほど探知、ロック、発射までのリアクションタイムや、ESSMが遅く感じたことはなかった。そして、案の定、主砲が自動装填に入り、手動管制のCIWSで迎撃したときはもう無我夢中だった。相手がまだ大人しかったというか理性的で、赤城航空隊のようにやけを起こしてなかったからよかったものの、CIWSの攻撃に怯んだり味方の損耗を気にせず特攻をされていたら、おそらく被弾していただろう。なんとか猛攻を防いだことは防いだが、精神力の消耗は大きい。

 

「さてとそろそろお出ましかな?」

 

額にだらだら汗をかきながらも誰に見せることもなく平静を装い、艦外カメラを向ける。実際は汗が示している通り、緊張で心拍数はとんでもないことになっている。耳を澄ませばハッキリと心臓の乱暴な鼓動が聞こえてくるほどだ。本音をいえば、ロクマルの着弾観測を使い視認圏内へ入られる前にダメージを与えておきたいのだ。しかしいくらロクマルがいるからとは言え、着弾観測を用いた砲撃は本来、対地目標への戦術であって対水上では「うじゃうじゃいるのに、SSMがないっ!!!!」といった非常時にしか使わない。まだ、止まっていたり低速力で航行しているのならいいが、軍艦が一般的に出す巡航速力で航行している目標への命中はそれなりに難しい。当たる前に砲撃の弾道から位置を特定され、深海棲艦航空隊の攻撃を受けることも珍しくないほどには・・・・・・。翔鶴の場合は、それに折り合いつけた上で撃ったのだ。もちろん空母である翔鶴を狙い、一撃で仕留められるよう対艦用弾種たる多目的榴弾を用いた。しかし、まさか2発で中破に持ち込めるとはさすがに予測していなかった。勝利の女神がこちらに微笑んでいるのか、はたまた日本世界の因果がいまだに翔鶴を縛っているのか。

 

それはみずづきには分からない。だが、1つだけは確実に言える。翔鶴を中破に持ち込めたのは、単に運が良かっただけ。他の3隻に通用する考えるのは甘すぎる。どのみち、相手は戦艦、重巡、駆逐艦。SSMを撃ち尽くしたみずづきはロクマルがいようとも、相手の土俵である有視界で勝負しなければならない。海の王者と言われ、5インチ砲など蚊に刺された程度にしかならない戦艦、それに劣るもののみずづきより遥かに強靭な装甲を持つ重巡洋艦がいようとも。

 

「・・・・・・・・・・来た」

 

艦外カメラに映る、演習開始以来初の艦影。それは徐々にハッキリとしてくる。見間違うわけがない。みずづきを仕留めにやって来た榛名、摩耶、曙だ。前の二人に隠れがちだが、曙もみずづきと同口径の12.7cm連装砲を持っているため、彼女の砲撃すら一溜まりもない。誰からの弾だろうと当たれば、戦闘の継続は厳しい。

 

「ふぅ~・・・・・・」

 

ここで深呼吸。息が震えているが気にしないでおく。砲撃戦による殴り合い。典型的な現代艦たるあきづき型護衛艦がもとになっているもののみずづきは砲撃戦が初めてというわけではない。艦娘になったから数はそうないものの、深海棲艦と殴り合いになったことはある。だから、痛感している。自分にとって現状がどれほど不利なのか。だが、こうなってしまった以上は最後まで勝利を掴みにいくだけだ。

 

榛名たちもみずづきを補足し交戦可能と判断したのか、速力を落としみずづきとは比較ならない規模と数を有する砲塔を旋回させる。Mk.45 mod4 単装砲と比較して、ゆっくりな動き。だが、それだけでも迫力は抜群だ。

 

「これが、最後の戦い」

 

いよいよ時空を越えた戦いの決着がつけられる。双方に衝撃を与えまくった喜劇のフィナーレだ。向けられる主砲。

 

 

「対水上戦闘よーい!! 目標曙!! 弾種、多目的榴弾!」

「合戦よーい!! 目標みずづき!! 弾種、徹甲!!」

 

 

相手を寸分違わず睨み付ける砲身。そして・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「「うちーかた始めーーーーーー!!!!」」

 

 

 

 

 

一斉に火を吹く主砲たち。空気中には炸薬の爆発によって生じた衝撃波が駆け抜け、海面にも白波が発生し、もとからあった波を打ち消す。砲身から吐き出される硝煙。そして、一足早く音速のギリギリ手前で飛翔していく砲弾。

 

「うわぁ・・・・・・、まるきし映画じゃん」

 

斉射時の迫力といい飛んでくる砲弾の数といい、比較にならないみずづきと榛名たち。

 

何も知らないこの世界の人間からみれば、例え航空機をハエのように叩き落とした光景を目の当たりにしても大艦巨砲主義の申し子たる榛名たちの勝利を思って当然。瑞穂世界も第二次世界大戦期と同じく控え目ではあるものの大艦巨砲主義が信じられているのだ。

 

だが、その常識は日本世界では過去のもの。榛名たちが砲弾を装填している間に、次々と放たれる小さな砲弾。Mk.45 mod4 単装砲は、比較的遅いものの3秒に1発の連射速度を誇る。時間は日進月歩の技術革新をあますことなく反映し、大砲そのものの性能を変える。それだけで充分驚愕ものだが、さらなる驚愕が彼女たちに降りかかる。時間と人類の努力は何も連射速度のみに反映されたわけではない。

 

みずづきの周囲に林立する巨大な水柱。体に当たる着弾時の衝撃。巻き上げられた海水が若干霧雨のようにかかるが、みずづきは表情をなにひとつ変えない。前後左右の彼方に落ちる砲弾たち。榛名たちが放った射撃はむなしく全弾外れ。だが、対するみずづきの放った砲弾は正確に曙、彼女が進むであろう未来位置に向かって猛進し・・・・・・。

 

 

―――――――

 

 

「ぐはっ!?」

 

当たり前のように命中する。

 

「曙!!」

「何よ!! たかが、主砲と魚雷管やられただけだっていうのよ!! ・・・・・・・・ん?」

 

榛名の叫びに余裕綽々で答える曙。そこには危機感の欠片すらなかった。しかし、一拍遅れて、顔が青くなる。

主砲と魚雷管が使用不能。これはどう繕うと、とある結論しか導き出さない。それにようやく曙は気付いたのだろう。それを摩耶が、主砲をみずづきに撃ちこみながら半分呆れて口にした。

 

「いや、それ、戦闘不能じゃん。奇跡的に小破で止まってるけど・・・・」

「うるっさいわね!! そんなこといちいちあんたに言われなくても分かってるわよ!! でも、私はまだ戦える!! なんなら突撃して、体当たりでも噛ましてくる??」

 

いきなり、とんでも発言を噛ます曙。噛まされた側の摩耶は厄介ごとを増やすなと言わんばかりに大きなため息をつくと、血気盛ん、いや無鉄砲な駆逐艦を宥めようとするが、怒気すら含んでいそうな榛名の大声で遮られた。

 

「曙!! なにしてるの!! 早く回避行動を取って!! みずづきの待つ単装砲の連射速度は常識を逸脱しすぎてる!! 早く動かないといい的に・・・・・」

 

自分たちのものにしては迫力に欠ける主砲の炸裂音。しまったと思った時には、結果が具現していた。砲弾が砲身から無限とさえ感じられる広さの大気に滑り込んだ瞬間に発生する黒い硝煙と衝撃波、轟音、瞬く閃光。それらが絶え間なく、聞こえ、発生し、見える中、榛名と摩耶は曙を見て、苦し気に顔を歪めた。

 

「あ、曙・・・・」

「いった・・・・・・。あ~あ、やっぱり最初に脱落するのは私か」

 

損傷した主機に、砲身が折れ曲がった12.7cm連装砲。破れた制服に、ところどころ血がにじんでいる肌。誰がどう見ても中破だった。痛みに顔をしかめつつ、悔しそうに地団駄を踏んでいるあたり、戦意は残っているようだが、演習の規則的にも、そして曙の状態的にも戦闘の継続は不可能だ。だから、一隻でも多くの戦力が欲しいとはいえ、翔鶴から艦隊の指揮を任された榛名がいう台詞はこれしかなかった。

 

「曙、あなたはもう戦えない! 今すぐ、安全圏に下がりなさい!」

「え、いやでも・・」

「いいから、下がりなさい!!」

 

躊躇する曙に一喝を入れると、意識を摩耶に向ける。

 

「摩耶!! 回避行動をとりつつ、不規則航行!! ただ進んでたら曙みたいにいい的になるだけよ!!」

「了解!!」

 

直進から一転、額に汗を浮かべながら蛇行運動を開始する二人。そこに規則性は皆無。これではさすがのMk.45 mod4をもってしても百発百中の命中精度を維持することはできない。しかし、それでも榛名たちとの差は歴然で、体をかすめるような至近弾ばかりだ。それでも砲撃がやむことはない。蛇行しながらも瞬時に方位角や仰角を修正、必殺の一撃を雨あられとみずづきへ降らせる。だが、みずづきはまるで未来が読めているかのように、着弾地点を避けていく。

 

「そんな・・・・!」

「まぐれじゃない!! やつは正確に読んでる!! 超能力者かよ、全く」

 

あり得ない芸道に舌を巻く二人。いや、3人だ。曙も体の痛みを忘れて、その光景に目を見張っていた。普段の彼女なら戦闘不能になれば文句を言いながらも、周りの迷惑にならないようすぐに戦線を離脱するのだが、今日は違った。目の前で繰り広げられる、凄まじくあり得ない戦い。みずづきの主砲を見るとつい、自身の持っている主砲に目が言ってしまう。同口径の砲。あちらは単装砲のため、連装砲であるこちらの砲が攻撃力が高い、高いはずだった。だが、これはなんだろう。同じ砲で、自分では逆立ちしてもできない、戦艦と重巡2隻との砲撃戦をこなしている。それには速力や機動性も噛んでいるのだろうが、ただただ驚くしかない。

 

「は、ははっ・・・・。榛名たちでも無理なのに、肉薄なんて出来るわけないわね」

 

昨夜、見たもの。戦闘時に垣間見える彼女の本当の姿を探れる良い機会だと思ったのだが、観察できるぐらい近付くなど、はなから無理だったのだ。それ以上に潮の仇をとることも。

 

「曙!! 何度言えば分かるの!! 早く戦線を離脱しなさい!! これは命令よ!」

 

先ほどまでは口調がきつくとも促し程度だったが、今回は明らかに怒気を含んでいる。こうなっては後が怖いため、曙も従う素振りぐらいは見せなければならない。ここからは背中しか見えないが、いつも肩を並べている2人には柔和な雰囲気は皆無。

 

「い、言われなくても分かってる!! ・・・・・あ~怖い怖い」

 

と、答えたものの、大隅へ帰る気などさらさらない。曙もこの勝負の行方は、みずづきの涙と関係なく、非常に気になるのだ。

 

 

――――――

 

 

「曙はやったけど、全然状況が好転しない!! 分かってはいたけど、火力が違いすぎる!!」

 

曙とは正反対に無我夢中のみずづき。榛名たちのように額に汗を浮かべている点は同じだ。いや。汗の量は彼女が明らかに多い。レーダーに捉えられる当たれば終わる死の鎌。どれも直撃軌道には入っていない。だが、砲撃の回数を重ねるごとに精度が増してくる。当然といえば当然だが、その心理的圧迫感は尋常ではない。自身、そして榛名たちから発せられる閃光や衝撃波がそれを重圧に変え、思考の冷静さをゆっくりと奪っていく。ちらりと視線に入れる対空情報画面。そこにはいくつかの光点が映っているが、とあるひとつの点が強烈な存在感を放っている。「いつでもいける」、光点はそう言っている。だが、みずづきはそれを流す。

 

「駄目、まだ・・・・・あともう少し。もっと私に注意を引き付けないと、周りが見えなくなるぐらい」

 

発射される多目的榴弾。給弾ドラムの交換が近づいてきた。しかし、榛名たちが曙の被弾後、すぐに蛇行運動を始め、また砲弾の軌道予測には手慣れているようでなかなか当たらない。

 

「・・・・・経験のなせる技、か」

 

しかし、みずづきも負けてはいない。射撃指揮装置と速射を可能にする自動装填のコンビネーション。それによって質と量を両立させる。それにはいかな太平洋を駆け回った強者でも、かわし続けるのは困難だ。

 

「クソが!! 次から次へと反則にも程がある・・・って」

 

曙が中破した衝撃。その正体を身をもって知る時がついに来た。

 

「う゛・・・・」

「摩耶!!」

 

背後から轟いた爆発音に、榛名は血相を変えて叫ぶ。人の声など軽く凌駕する大音量が支配する世界のため、普段の彼女からは想像できないほどの大声だ。

 

「大丈夫だ、高角砲や機銃がいくつかのやられたが、まだいける!! ・・・運がよかったぜ」

 

摩耶は心配させまいと笑顔を浮かべながら、お返しと言わんばかりに砲弾をばらまいていく。その笑顔は彼女がよくやる誤魔化す笑顔ではなく、純粋な笑顔。榛名はそれには安堵し、摩耶に続く。

 

が、榛名の回避もここまで。摩耶に気を取られたせいか、未来の洗礼が訪れる。

 

「くっ・・・・」

 

榛名を覆う黒煙。

 

「榛名!! って」

 

だが、その黒煙は何事もなく撒き散らされた砲撃時の衝撃波で完全に四散する。少し艤装が焦げているものの、目立った損害は皆無だ。

 

「あははっ!! さすが、名高い金剛型戦艦だぜ! あたしも負けちゃいられないな!!」

「ふふっ。それは摩耶も同じでは?」

 

少し余裕の表情。だがそれに頭を抱えている人間が一人。

 

「かったぁぁぁあ~。摩耶さんには何発か撃ち込めば勝機はあるだろうけど、榛名さんは・・・・・大艦巨砲主義の軍艦は違うな・・・」

 

そう愚痴を言いつつ、引き金を引く。その直後、警告音がなり、引き金と主砲の操作がロック。

 

「ちっ」

 

きちんと残弾を追いかけていたため動揺はないが、軽く舌打ち。攻撃手段を一時的にしろ失った者にできることはただひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

突っ立っていてはいい的。奥の手は榛名用、というか摩耶まで対応できる火力がないため、まだまだ使えない。今はいかに攻撃に当たらないかただそれだけだ。加えて、こちらが逃げの姿勢を見せれば、榛名たちは追撃に移るだろう。蛇行しながら追撃にでる馬鹿はいない。速力を上げなければならないため、取る陣形はまっすぐ航行する単縦陣。それに命中させるなど、Mk.45 mod4では造作もない。給弾の終了後が勝負だ。

 

だから、逃げる。

 

「あっ、逃げた」

 

20.3cm連装砲を斉射しながらも、自然と出た呟き。現在の雰囲気を比較すると場違いなことこの上ない。

 

「砲撃がやんだと思ったら・・・・一体どうして? 弾切れ?」

 

榛名もみずづきの突然の行動に首をかしげる。その背中に向かって、35.6cm連装砲を発射する。常人なら即死確実の衝撃でも、髪が舞う程度でなんともない。

 

「それはないだろ。もしそうなら降参するだろ? あの機銃じゃ、あたしたちには豆鉄砲だし」

「罠、かしら・・・・・」

「かもな。だが、どのみち追うしかあたしたちには選択肢がない。それにこれは好機だ。お前も感じただろ?」

「ええ」

 

ハッキリと答える榛名。彼女たちはどうして曙が2発で中破に追い込まれたのか、身をもって知ったのだ。みずづきが放っている砲弾は、自分達が知っている砲弾ではない。原理は分からないが破壊力は曙たちが装備している12.7cm徹甲弾とは比べ物にならない。

 

「さっきはああいったけど・・」

「何発も食らうと、きついな」

「とりあえず、追うわよ! 対処の施しようがないし、砲撃戦は当てられる前に当てるだけ」

「おうよ! あたしたちの魂をあいつに刻み込んでやらないとな」

 

蛇行運動をやめ、砲撃戦開始時と同じ単縦陣で追撃を開始する二人。情け容赦なく砲弾が放たれ、みずづき近辺の海上をかき乱す。射撃も正確。夾叉一歩手前の射撃も出てきた。水柱で浴びる海水も霧雨から土砂ぶりに変化している。いくら未来位置を予測できるとはいっても、回避には限界がある。相手は1度に10発以上を撃ち込んでくるため、周囲が着弾地点で埋め尽くされ身動きが取れなくなるのだ。しかし、みずづきの表情に恐怖はない。

 

メガネに給弾完了が表示され、主砲のロックは解除。一瞬不敵な笑みを浮かべると、みずづきはキレイに180度回頭。推測通りにこちらを追いかけてくる二人。その一人である摩耶へ即座に照準を合わせる。正確には摩耶の背負っている主機へと。

 

「もらった!! 主砲うちーかた始めー!」

 

戦艦や重巡とは比較にならない小さな衝撃。だが、それでも絶大な攻撃力を持っていることには変わらない。「5インチ砲ナメるな」と言わんばかりに突き進む砲弾は、正確に、吸い込まれるかのように摩耶の主機へ飛び込み、成形炸薬弾の真骨頂、メタルジェットで主砲や体と異なり比較的薄い装甲を突破。内部で火薬を爆発させる。

 

「ぐはぁっ!?」

 

先ほどとは明らかに異なる爆発、衝撃。そして、痛み。

 

「摩耶!!」

「まだだ・・・・まだ、私は!」

 

しかし、体中が煤まみれになっても、激痛が駆け抜けようとも決して闘志を捨てようとしなかった摩耶に、勝利の女神は慈悲の手を伸ばさなかった。果敢に反撃するも、外れる砲弾。対して、引き金を引いた分だけ、正確に主機へ吸い寄せられていく“みずづきの砲弾”。己が背負っているものに磁石でも入っているのかと乾いた笑みを浮かべた時、一際大きい閃光が瞬いた。

 

「そんな・・・・・これで、残存戦力は・・・・・」

 

目をそむけたくなる現実だが、いやいやと頭を振っている場合ではない。みずづきは摩耶が戦闘不能になったことを確認すると即座に、目標を変更。榛名も撃破するべく攻撃を続ける。

 

12隻いた仲間も残すところ、榛名一人。回避行動を取りつつも、パターンが見破られたのか、次へとみずづきの砲撃が命中していく。

 

「くっ・・・・・」

 

損傷していく艤装。握りしめられる拳。いくら装甲が厚くダメージが少ないとはいえ、駆逐艦を一撃で葬る攻撃をその身に受けているのだ。痛くないわけがない。だが、そんな身勝手な理由で拳を握っているわけではない。撃破された仲間の顔が、悲鳴をあげる妖精の声が甦る。

 

(このまま、何も出来ずに終わるの。一矢報いることもできず、ただただ未来の、あの子との差を見せつけられて、一方的に蹂躙されて)

 

「榛名!!」

 

砲撃音に紛れて聞こえる声。その方向を向くと摩耶が煤と血で汚れた顔に笑みを浮かべて立っていた。痛みを我慢し無理していることがまるわかりの儚い笑顔。

 

「あきらめるな!! 赤城さんだって言ってただろ!? 意地の悪さを見せつけてやれって!! あきらめたら・・・・あきらめたらそこで終わりだ!! あたしたちのことに構うな!! お前が納得できる戦いをやれ!! それで得られた結果なら誰も文句は言わないぜ」

 

目を丸くする榛名。その彼女にみずづきの放った多目的榴弾が着弾する。充満する黒煙。しかし、それは速力を最大まで上げ、みずづきへ猛進する榛名自身によって無理矢理、こじ開けられる。そこには痛みに悶える表情も、無力感にさいなまれる表情もない。あるのは戦艦としての誇り。ただそれだけ。

 

「私の納得できる戦い。それは・・・」

 

脇を掠める砲弾。命中精度ではどう足掻いても敵わない。連射速度も桁外れで、当てられ続ければ、いかな戦艦と言えども中破は避けられない。だが、榛名には戦艦の象徴たる艦載砲、その中でも劣らない35.6cm連装砲を持っている。当てられれば、勝ちなのだ。まだ、勝機はある。

 

「正々堂々と、最後まで抗う!! そうよ・・・そう。諦めたら勝てるものも勝てない。私の・・・いや、私たちのあきらめの悪さ、とことん教えてあげるわよ!!!」

 

制空権がなく着弾観測ができない状態で、命中精度を上げる方法はだだ1つ。みずづきとの距離を縮めることだ。

 

闘志をみなぎらせて自身へ向かってくる戦艦。それだけでも恐怖なのに、常に微笑んでいる印象の榛名が、戦艦オーラ全開なのだから、恐怖倍増だ。

 

「ヤバイ!! これ以上間合いを詰められたら、回避が難しくなる!!」

 

急速接近してくる榛名。みずづきも必死に応戦しているが、当てても当てても榛名の足は変わらない。ところどころ損傷が見受けられるため、ダメージは与えられているのだろうが戦艦の装甲に阻まれていた。砲撃の隙を見計らい、35.6cm連装砲が一斉に火を吹く。尋常ではない衝撃波がみずづきまで届く。

 

「うっ!? なにこれ・・・・・・嘘でしょ!!」

 

だが、それに驚いている場合ではない。自身を挟み混むような着弾。

 

「っ!!」

 

ついに夾叉された。これは完全に榛名がみずづきを捉えたこと、そして、いつ直撃弾がきてもおかしくないことを意味する。みずづきも負けじと撃ち返すが、戦艦が固すぎる。もう20発以上撃ち込んでいるのに、ピンピンしている。再び振られる死の鎌。

 

レーダー情報から直撃を判断した艤装システムが本能的に危機感を感じさせる警告音を盛大に響かせる。自動的に発射されるチャフ。だが、相手が無誘導の砲弾である以上、無意味だ。みずづきは必死に回避行動をとるが間に合わない。最後の砦であるCIWSに望みをかける。が、CIWSは砲身を向けるだけで、肝心の迎撃を始めない。

 

「ちょっ、弾は残ってたでしょ!? どうし・・・・」

 

直撃判断の警告表示を押し退けて、別の警告が表示される。それを見た瞬間、みずづきの心臓が止まる。

 

甦る翔鶴航空隊との戦闘。あの時、みずづきは何をしたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“主砲が使えない間は、CIWSの手動管制で乗りきるしかない。そうならないためにも・・・・・・”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CIWSの手動管制。新たな警告はCIWSが自動管制ではなく、手動管制になっていることを知らせるものだった。ということは、だ。みずづきが引き金を引かなければ、毎分3000~4500発を誇るCIWSから、20mmタングステン弾は発射されない。

 

初歩的なミス、だ。

 

みずづきはゆっくりと、上を見上げる。透過ディスプレイが視界のとある一点を囲い、その下に数字が添えられる。命中までの時間。それはもうCIWSでの対処が不可能なことを意味していた。ゆっくりとゼロに近付く数字。

 

そして、黒い砲弾が見えた瞬間、とてつもない衝撃が体を襲う。大音響に鼓膜が揺さぶられバケツをひっくり返したかのように、海水が頭上から降り注ぐ。

 

“ったく、お前は・・・・”

 

そのとき耳鳴りに混じって、懐かしい声が聞こえた気がしたが構っている余裕は今のみずづきにない。

 

(ん? 海水を被ってる?)

 

衝撃は受けたが、痛みはない。直撃なら激痛が走るはず。自身の体に当たるのだから。急いで目を開けたみずづきは、榛名の放った砲弾が至近に落ちたことを知る。システムがいい方向に誤報をだしたのだ。だが、安堵も束の間。メガネにシステムエラーが一斉に表示される。

 

「嘘でしょ、こんなに・・・・」

 

艤装の詳しい構造は最高機密でみずづきですら、詳細は知らされていない。しかし、スマホやパソコンと同じく、デリケートな電子部品の塊であることは想像にかたくない。その精密さはスマホやパソコンの比ではない。そんなか弱い存在の隣に着弾したのだ。機関や武装などハード面は無事だが、コンピューターといったソフト面の影響は深刻だ。そして、ハード面はソフト面があってこそ動く。例え本体が無事でも、それ動かすプログラムがやられてしまえば、動かない。

 

「っ!! 機関システム、エラーによりダウン!! 速力低下!!このままじゃ、航行不能に!」

 

よりによって機関システム。運が悪いことこの上ない。そんなみずづきに構わず、誤差を修正し、砲撃準備を整える榛名。みずづきは鈍る足を抱えつつ、Mk.45 mod4の引き金を引く。榛名は次で決めるつもりなのか、みずづきの砲撃を浴びても微動だにしない。機関が動かなければ、当然回避行動はできない。次、撃たれれば、大手。それを少しでも遠ざけるため、みずづきは撃ち続ける。

 

「え・・・・・」

 

だがそれは、給弾ドラムの交換開始表示と引き金のロックで終わりを告げる。虚しく唸るMk.45 mod4。

 

絶体絶命のピンチ。何か行動しなければ、終わってしまう。

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!! このままじゃ、やられる!! えっとえっとえっとえっと!! まずは機関システムの復旧? それとも賭けでCIWSで迎撃してから? ロクマルが待機してるからそっちを先行? えっとえっとどれが最善策なんだろ?? えっとえっと!!」

 

必死に対抗策を考えるみずづき。しかし、予想外の頻発と絶体絶命の危機感とそれによって訪れるであろう未来が、頭の中を駆け抜け考えがまとまらない。いわゆるパニック状態だ。

 

「えっとえっと!!」

 

そんなみずづきを尻目に、眼光を鋭くする榛名。それだけで、未来が分かる。それなのに思考が働かない。このままでは、本当に・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

“なにしてるんだよバカ!! それでも第53防衛隊の隊長か!!”

 

 

 

 

 

 

「え・・・・」

 

あり得ない、聞こえるはずのない声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

“素早い行動は戦闘において極めて重要だ。だかな、なにかしなければならないっていう強迫観念に取りつかれて、一度にたくさんの対処事項が押し寄せてきたら、どれを優先しどれを後回しにするかの判断が鈍くなる。それによる焦りがパニックを生み、さらなるパニックを生む悪循環の始まりだ。常に行動するのはお前の長所だが、そうなって周りの状況が見えなくなるのが短所だ。こういうときは、例え敵が目の前にいようとも、一度立ち止まって、周りの状況、持っている情報をしっかりと把握することが大切だ。急がば回れって言うだろ? あれほどさんざん言ったのにもう忘れたのか? 始末書の山が増える訳だよ”

 

 

 

 

 

「知山、司令・・・・・」

 

 

 

 

 

 

“分かったら、さっさとやるんだ。勝ち負けなんてどうでもいい。大事なのは勝ち負けではなく、勝ったなら勝った、負けたなら負けたことから得た経験だ。これも口が酸っぱくなるほど言ったが、覚えてるよな?”

 

 

 

 

 

 

「・・・・馬鹿にするのもいい加減にして下さいよ。それはもう、耳にタコが出来るほど・・・・、司令の言葉、そう簡単に忘れるわけ・・・・・・忘れるわけないじゃないですか!」

 

 

 

 

 

 

“なら有言実行だな。周りをよくみて、自分が最善と思った道を進むんだ”

 

 

 

 

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

みずづきは深呼吸を行うと、さきほどのパニックから一転。冷静に状況を整理。そこで気付く。今、榛名には自分しか見えていないことに。即席だったが、戦闘と戦闘のわずかな合間に立てた作戦。それを実行する土壌は整っていたのだ。

 

「ロクマルに伝達! AGM-1の発射を許可する!! 頼んだわよ!!」

 

それを受け、即座にレーダー画面のロクマルを示す光点がさきほどまでと一転して、榛名に近づいていく。これがみずづきの立てた作戦、奥の手だ。AGM-1もとい30式空対地誘導弾2発を積んだロクマルを着弾観測も兼ねて空へ上げ、待機。榛名がこちらへ意識を向けている間に肉薄、AGM-1を発射し中破に持ち込む。

 

 

後は、みずづきが榛名の砲撃をCIWSで叩き落とせるかで決まる。だが、もちろんCIWSも自動管制に戻すため、みずづき本人ができることは、作戦がうまくいき、機械であるCIWSが外さないことを祈るのみだ。

 

「これで終わり!!」

 

榛名は勝利を確信し、渾身の一撃を放つ。衝撃波ともとに海上を駆ける轟音。飛翔してくる35.6cm砲弾。それを睨み付けるみずづきとCIWS。

 

そして、CIWSがついに火を吹く。あまりにも高速過ぎて一つ一つの発射音が聞こえず、チェーンソーのように唸っているとしか思えない。それらが2門、自らの母艦を守るため、ひたすら20mm弾をばらまく。急速に減っていく残弾。鳴り響く直撃警報。迫り来る砲弾の前に諦めかけたそのとき、みずづきの前方上空で複数の爆発が発生する。直後、周囲に水柱が立ち上ぼり、海水と砲弾の破片が一緒になって、降り注ぐ。痛く、不快なことこの上ないが、それを上回る歓喜がみずづきを包み込む。それを後押しするかのように、ロクマルからAGM-1を2発とも無事に発射したとの報告が届く。

 

「やったー!!」

 

海水で濡れた手でガッツポーズを決める。何か聞こえた気がしたが、意識がそちらに向くことはない。

 

 

 

 

 

声は聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

 

「砲弾を、撃ち・・・・撃ち落とした。そんな、そんな! 音速に近くの速度で、こんな至近から撃ったのに。それをいとも簡単に・・・・」

 

またも降臨した非常識。勝利を確信していただけに、その衝撃は凄まじい。だが、演習開始から非常識に連打され耐性がついたのか、榛名は恐怖しつつも再攻撃の準備を始める。

 

「落ち着け榛名。まだ損傷は軽微で残弾数も大丈夫。対するみずづきは、航行不能に陥っていると見て間違いない。まだまだ機会はある」

 

だが、その機会を刈り取る鎌は既に投げられた。

 

「ん?・・・・・この音は、っ!!」

 

聞こえてくる大気を無理やり押しのけてでも、敵を倒すという獰猛さを感じさせる轟音。一瞬、首をかしげる榛名だったが、演習開始直後の惨劇が脳裏によぎり、音の正体がなんなのか看破する。正確には全く別の代物なのだが、榛名からみれば同じようなものだ。音のする方向に目を向けると、それはいた。赤城たちを葬ったミサイルよりも噴煙が濃いように見える。わずかに別のミサイルのような気がするが、濃い噴煙のおかげで視認性が対艦ミサイルよりも高まっているため好都合だ。

 

「迎撃開始!」

 

みずづきどころではなくなった。一斉に火を吹く、主砲、副砲、高角砲、機銃。

 

「お願い! 当たって!!」

 

しかし、榛名の悲痛な叫びは射撃音に虚しくかきけされる。当たらない砲弾、銃弾。そのなかを悠々と進んでくる白い矢。みずづき用に装填していた徹甲弾を撃った主砲に大慌てで対空弾である三式弾を装填するが、遅い。そう感じる。みずづきの主砲を見たからだろうか。

 

「ま、間に合わない!!」

 

弾頭部に内蔵されたアクティブレーダーによって、正確に怯むことなく突き進む30式空対地誘導弾。そこに感情は一切介在しない。あるのは、目標を葬るという使命だけ。どれだけ弾が掠めようが関係ない。

 

そのあまりにも迷いがない矢に、恐怖を覚える。まるで自分が、魚や獣のように、ものとして狩られる立場に立ったように。

 

急速に大きくなってくる矢。命中を確信し身構えた瞬間、体にみずづきの砲撃とは比べものならない衝撃と激痛が走る。しかも、2度。黒煙に覆われる榛名。摩耶が撃破された時と異なり黒煙は彼女によってではなく、風によって四散する。

 

現れる榛名。

 

その姿にみずづきが、そして零式水上偵察機のカメラの向こうにいる一同が固唾を飲んで見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・やられてしまいました」

 

 

 

 

 

 

 

痛みに耐えつつ、苦笑を浮かべる榛名。艤装はボロボロではないが各所が損傷し、巫女服のような制服も破れたり、焼け焦げている。

 

「勝った・・・・・・・・・?」

 

さきほどまで歓喜していたにも関わらず、いざその時が来ると信じられず固まってしまった。時間的にはそう経っていないが、感覚的にはとてつもなく長いように感じた演習。だから、だろうか。いまひとつ、実感が湧かない。

 

だが、それを否応なく認識させる言葉が無線機から届く。

 

「榛名の中破を確認。横須賀側、全戦力を喪失。よって、勝者はみずづき。これをもって光昭10年度第1回横須賀鎮守府演習を終了する。全艦、帰投せよ!」

 

冷静さを装っているものの、興奮が隠せていない百石の声。伝わってくる百石がいるであろう場の空気も相当、上気しているようだ。

 

みずづきは、それを聞いて空へ視線を向ける。相変わらずの曇天だが時の流れに従い、灰色からくすんだ橙色へと色彩を変えている。わずかに雲の隙間から見える太陽は、地球の別の場所を照らす準備に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ふっ。まったく。なぁ、みずづき?俺は君が考えて選んだ道ならなにも言わない。だから、とことん考えて、悩んで、迷って、自分で考えた道を進むんだ。それがどれだけ悩ましいものでも、俺は否定しないし、ましてや・・・・・・軽蔑なんか、しない。”

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

見渡す限り広がる海。視界には自然物しかなく、いつも我が物顔で航行し自然の調和を乱している貨物船や漁船は1隻もいない。時たま、自身の命を刈り取ろうと、飛び回っている航空機がいるが、今日のような曇天では相手がこちらを見つけるより先に、エンジン音が聞こえるため隠れてやり過ごすことは容易。だから指示された情報収集は上手くいった。艦娘ならともかく通常兵器での哨戒は穴が多すぎる。だが、だからこそこうやって命の危険を感じることなく帰路につくことができるのだ。そして、海上は静か。いつものようにびくびくせず、新鮮な空気を吸えるかと思いきや、世の中はそううまくできていなかった。

 

闇を全て吸い込んだかのような漆黒の髪に、血の気が全くなく雪のように白い肌。体にまとわりついている機械的な何か。おおよそ人間離れした外見だが、胸が少し膨らんでいるところや顔つきを見るに、性別的には女性のようだ。ただそんな奇々怪々の容姿とは裏腹に、彼女は空に顔を向けたまま、ポカンと口を開け固まっている。物々しい外見のせいだろうか。その姿はひどく滑稽に見える。何度か頬をつねりここが現実か確かめるが、痛みがある以上ここは現実だ。

 

少し前と比べてだいぶ水温が上がり、泳ぎやすくなった海中。ここ数日は南方にいる台風のせいか塩分濃度の変化が激しいものの、魚や鯨類ならともかく彼女たちへの影響は皆無。そこを進んでいると、わずかに衝撃波を感じたのだ。不思議に思った彼女は海上の様子を慎重に確かめて、空気補給も兼ねて海面に出た。暗闇が支配する海中から出て安堵したのも束の間。断続的に響く爆発音が聞こえてきた。艦娘たちの熱意に感心しつつそちらへ視線を向けたのだが、そこには自身の想像とは次元が異なる信じられないものがあった。艦娘ものと思われる航空機を追尾し、命を刈り取る何か。それが乱舞し終え、辺りに静寂が戻っても彼女はしばらく放心状態だった。

 

それを終わらせたのは、彼女の敵だった。近づいてくるエンジン音。気を取り直し見つからないよう潜航の用意をするが、運良くこちらに来ることもなく明後日の方向に飛んでいったようで、姿すら確認できなかった。明確に視認できずとも、自身の体に意図せず反射してしまった光があれば、発光信号の如く敵に自分の位置を知らせてしまう。それを警戒し、自分自身の状態を確認するが、首から下は海面下にあるため、反射光を発生させる可能性は皆無。反射しやすい機械的な艤装はもちろん海面下。髪の毛や顔からの反射は微々たるもので警戒する必要はない。

 

それに安堵した後、彼女はさきほどの光景を思い出し、海上に姿を晒したまま大きくため息を吐くこととなった。そこには敵に見つからなかった安堵の色合いもあったが、悩ましさの方が多い。だが、実際に見たのだ。これも報告しなければならないだろう。補給を充分に終え、瑞穂近海にいてはならない存在が潜航していく。この世界にとっては手出しできない未踏破領域へ。気泡をたてることなく。但し、来るときと異なりその足取りは、いや海水を蹴る足さばきは重そうだ。




というわけで、この度の演習はみずづきの勝利に終わりました。ここに来るまでくせつ三十数話・・・・・・。いかがだったでしょうか?

これとは違う結末を考えなかったことはなかったですけど、私の頭では80年近い技術格差を覆せる展開は・・・・・・・・。みずづきが! というか現代兵器がチートすぎるんですよ!! 年が進むごとにまたチート度合いが進んでいきますから、科学ってすげぇ~。
そして、お値段も・・・・・・・。

何気に、あのCIWSが17億もするなんて度肝を抜かれました。そこらへん走り回って、120mm弾に耐えられる戦車より高いじゃないですか!?(ガセかと思いましたが、防衛省のHPで公開されている国会答弁書にそう書いてありますし・・・・・・)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。