様々なところで伝統となっているお風呂回ですが、作者はそういう表現が苦手なためその点でもマイルドになってます。
横須賀鎮守府 艦娘専用浴場 灯の湯 (通称:お風呂)
人の目でぎりぎり認識できる極小の水滴が空間を満たし、霧の中にいるような錯覚を覚える一面の白世界。それの発生源である水面。穏やかに波打っていたが突然ぶくぶと泡を立てはじめる。
「ぶはぁーっ!!」
そして、飛び出す1人の人間。
「最高ぉぉぉ!! やっぱりお風呂はこうでなくっちゃ! 体を好きなだけ伸ばせる湯船に、たくさんの風呂! 癒されるぅ~」
独り言とは思えない歓喜が、浴場内の天井・壁に反響し狭い空間独特の奥行きを持たせる。はたから見ればドン引き確定のハイテンションぶりだが、みずづきはそれを抑えようとせず本来はマナー違反の遊泳を行ったりなど、まるで小さい子供のようにはしゃぎまわっている。他に人がいれば非常識極まりないが、なんと運のいいことか、現在露天風呂もあるこの大浴場を使っているのはみずづきただ1人だけである。いつ終わるか分からないが貸し切り状態だ。これだけでもテンションがあがってしまうが、みずづきがこうなっている理由はもう一つある。彼女はおとといと昨日、風呂に入っていなかったのだ。なにもせずとも、日本や瑞穂のような温帯気候では、必然的に身体は汚れる。今は5月。さすがに毎日入浴しなければ、いろいろとマズイ。ましてやこの2日間は激動であり、汗や海水でべたつく肌や髪の不快感は形容しがたかった。また、最後に入った須崎基地の風呂は、水風呂だったのだ。というか、温かい風呂はいくらか改善したとはいえ昨今のエネルギー事情では毎日入れず、約半分の頻度で水浴びという有様だったのだ。それが頻度は夏に比べて圧倒的に低かったものの、冬にもあったのだからたまったものではない。「電力がひっ迫してるから、今日は水浴びです!!」とどや顔を決め込んで死刑宣告をする知山に、みずづきたちはさすがに耐えかね殺意のこもった視線を送ったものだ。無論、そういう時は指揮官などの幹部も水風呂だ。それにも関わらずどや顔を決めていたのだから、知山も相当悟りを開いていたのではいないか・・・・・・
加えて、露天風呂も完備された大浴場の名にふさわしい入浴施設。これだけ条件がそろえばみずづきのハイテンションも必然だ。昼間のことを差し引いても・・・・・・・。もちろん、百石に許可は取ってある。さすがに百石もそれは気にしていたようで、艦娘と会う可能性が少ない終業時間ぎりぎりに入ることを条件に、認めてくれた。宿直室には当然ながら風呂はない。但し、いくら気にしていたとはいえ、あれだけのことを艦娘たちの“目の前”でしでかしてしまった以上、部下に不信感を向けられる危険性を負ってまでみずづきを隠す必要性がなくなってきた、ということだが。
「それにしても、ここすごいなぁ~。須崎は中くらいの湯船が一つしかなくて、The Furoって感じだったけど・・・・。ここは別格。お風呂がいっぱいあるし、立派な温泉施設と同等」
みずづきは今、ここで最大の面積を誇る室内の大風呂に身を沈めている。室内にはほかに1人用の小さな湯船が6つある。露天には大小3つの湯船があり最も大きい風呂からは横須賀本港を見渡すことができるようになっていた。みずづきもさきほどまでそこに入っていたが、星空と人工の明かり、それを反射する海面のコントラストは、絶景の部類に十分入るほどだった。ちなみに露天風呂の上には屋根が完備され、雨の日でも室内から湯船までの短い距離を耐えれば、利用可能となっていた。
「あ゛っ~。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
昼間のやらかしから完全に目を逸らし、極楽の気分を満喫していが一気に現実へ引き戻される。更衣室から複数の声が聞こえてきたのだ。緩み切っていた顔も現実に真っ逆さまだ。あまりの急機動に表情筋が悲鳴をあげる。
(来ちゃった・・・・・、天国も終わり、か)
正直誰にも会いたくなく百石の条件は好都合だと思っていたばかりに、ついていない。
「今日も、結局どんちゃん騒ぎで終わったネ~。これで2日連続デース。さすが、この私でもヘトヘトになりマース」
「どんちゃん騒ぎっていうのはどうかと思うけど、疲れに関しては完全同意。今日も一筋縄ではいかないと覚悟してたけど、ここまでって・・・・。ついにはあのクソオヤジも来る始末だし」
「文句を言っても始まらないわ。今は明日に向けて一日の疲れをとることが先決。まだこの騒ぎは当分の間続くでしょうから」
「そう言って、クソオヤジのことを思い出したくないだけじゃないの? 私も思い出したくないけど」
「う・・・・・・。別にそういうことではないわ。五航戦と一緒にしないで」
「はい?」
「モォォ、加賀は相変わらずデース!! 顔にかいてありマスヨ」
更衣室と浴場を仕切る扉を開け、聞き覚えのある声が3つ入ってくる。
(ん? ・・・・・・この声って)
正体をこの目で確かめようと目を凝らすが、湯気が徹底的に妨害しよく見えない。
「・・・・さすがにこの時間じゃ、誰もいない、か」
「私の予測が大アタリ!! 今は俗にいう貸し切り状態、スイミングOKデショ?」
「ダメ」
「エェーッ!! Why??」
「私たちもいるのよ。いくら広いって言っても、水しぶきがかかるじゃない! どうせこの間みたいに暴れまわる気でしょ?」
(あ、あれ・・・・? 気づかれてない・・・・・)
よく見えないだけでこちらから3人の影ははっきりと捉えられているので、てっきり向こうもすぐに分かると思っていたのだが、予想外だ。腕を組んで現状維持かこちらからあいさつをするのか、二択の間で揺れる。初見の艦娘と鉢合わせになるよりは、第5遊撃部隊の艦娘たちと会う方がはるかにマシである。ここは全ての艦娘が利用する施設。むしろ前者の可能性の方が高い。しかし、昼間の件を考えると正直気まずい。
「金剛の予測は外れよ。一人先客がいるわ」
「っ!?」
慌てて声のした方向へ振り向くと、バッチリ加賀と目が合う。その顔に驚きはなく、この人工的な濃霧にうんざりしているかのようだ。
「えっ? なに言ってんのよ。こんな時間に入るもの好きなんてそうそういるはずが・・」
「Really? どこデスカー? ・・・見えないデース。加賀の視線の先・・・・・」
「あ」
「ア」
「あ・・・・」
きれいに重なるみずづき・金剛・瑞鶴の間抜けな呟き。そのハモり具合はそうそうなせる所業ではないほど、完璧だった。
「ど、どうも。お先に失礼してます」
社交辞令で用いる完全な作り笑いを浮かべ、肩までお湯につかりながら軽く会釈する。昼間のことで何か言われるのではないかと少し動揺し、たどたどしい言葉になってしまう。しかし、それは杞憂であった。
「なによ、水月じゃない。いるなら声かけてよ。知らずに鉢合わせたら・・・その・・」
「怖いのね」
「怖いデスネ」
「ち、ちが・・!! いや、別に違わないけど、違うと言うか・・」
自身を目にしても、表情1つ変えることなく3人は昨日となんら変わりなかった。その姿を見て、みずづきの心に安堵が広がっていく。
「すいません。どうしようかと思ったんですが、浴室内はこんな感じですし、タイミングを見てたら加賀さんに発見されました。でも、加賀さんは私がいることを知ってたようですけど?」
「えっ!? なんで?」
「はぁ・・・・。まったく、注意力散漫も甚だしいわ。ロッカーが1つ使われてたじゃない。それを見れば誰だって、中に人がいることは分かる。それに五航戦の言葉を借りる訳ではないけど、こんな時間に入るもの好きはそうそういないわ。しかも、1人で人目をはばかるように。まあ、水月以外の可能性も無論あるけど、その可能性が最も高いと踏んでいただけ。こういうところの癖は、戦闘時にも反映されるわ。前しか見ない癖が露わになった瞬間ね」
「っっ!? なにを偉そうに・・・。私は出撃と休息の切り替えをしっかりとしているだけ。あんたみたいにこんな時までちまちましてるほど、余裕もないし暇でもないの」
「負け犬の遠吠えって、知ってるかしら」
「な、なんですってーーー!!!」
いつも通りの戦闘を勃発させながら、2人の横でニヤニヤしている金剛を含め、3人がこちらへ歩いてくる。徐々に影が濃くなり、ついに濃霧が敗北する。明らかになる3人の姿。そのあまりの美しさと神々しさに思わず目を細めてしまう。と同時に心を蝕む絶大な敗北感。みずづきは湯船で世界の理不尽さに打ちのめされてしまった。しかし、まだだ。まだ、体全体の美しさでは勝負にならないが、みずづきにも勝てる要素がまだ残されている。そんな言い訳を立てながら、吸い込まれるようにみずづきの視線が3人の胸部に向く。そして、次に自身の胸部。涙が出てきそうになるのは気のせいだろうか。だが、世界はそんな乙女に救いをもたらした。涙が出そうになったのは、あくまで2人と比較した場合。他の1人と自身を比べる。そこには歓喜してしまう現実があった。
「やったっ。ふふっ。勝った」
みずづきはここが浴場であることをすっかり忘れた状態で、誰にも聞こえないと思い込んだ声量で勝利宣言を行う。水面下でのガッツポーズも当然ついてくる。
「・・・・・・・・・・・・・」
刺さるような視線を感じ冷静さを取り戻すと、さきほどまでの戦闘が収束し、浴場内が静寂に支配されていることに気づく。お湯につかりぽかぽかのはずなのに、浮かびあげる冷や汗。おそるおそる顔をあげ、視線の発信源に目を向ける。
「ど、どうされたんですか、瑞鶴さん? い、いやだな~、顔が・・・・顔が怖いですよ」
ゴゴゴゴゴッという効果音が聞こえてきそうなほど、瑞鶴の体から怒気が噴出している。みずづきの歓喜は、加賀と戦闘中でもばっちり瑞鶴の耳に届いていた。恐るべし。そんな瑞鶴の肩に無表情の加賀が手を置く。それに動揺するも一瞬のこと。
「・・・・・・・なに?」
「あなたの負けよ瑞鶴。現実を受け止めなさい」
あまりに予想外の言葉に、瑞鶴は固まる。情け容赦ない爆弾投下は金剛からも行われる。
「ほほ~。水月も私や加賀には遠く及びまセンが、瑞鶴とは・・・・・・悲しかったら私の胸に飛び込んできてもいいネー!!」
「なによ、なによなによ!! あんたたちまで!! 私になんの恨みがあるのよーー!」
瑞鶴の心からの悲痛な叫びが木霊する。怒りはどこへやら。今では悲しみに支配されているようだ。その姿が過去の自身と重なり、なんだか複雑な心境になるみずづきであった。
「そうなんデスカ。2日ぶりのお風呂・・・。ジャア、そんな表情になるのも納得デース! ウンウン」
「えっ? そんな表情って・・・・今、私どんなしてるんですか?」
「至福の一時。という言葉がぴったり当てはまる顔よ。気持ちよさそうでなにより」
「えぇっ!? 私、無意識にそんな表情を!!」
みずづきは慌てて顔面を両手でペタペタとさわり、意識的に顔を引き締める。それを見て金剛は豪快に笑い、加賀は目を閉じているものの穏やかな表情を示す。現在、恥ずかしさで真っ赤になっているみずづきは金剛・加賀と共に1日の疲れを癒している。みんな大好きお風呂の効果なのか、昼間のような緊張感は皆無でゆっくりと時間が流れる。出会って2日。それなりに彼女たちとの距離を縮められたかもしれない。みずづきの心配は着実にお湯によって溶かされていく。和やかな雰囲気。
「ブクブク・・・・ブクブク・・」
・・・・・・・1人は違っていたが。
「ずーいーかーく~っ! まだ機嫌治らないんデスカ?? そんなところでしょげてないで早くこっちに来るデース。気にした方が負けデスヨ」
「ブクブクブクブクッ!!!!(あんたに言われたくない!!)」
金剛は大浴場の隅で三角座りをして、顔の半分近くまでお湯にうずめている瑞鶴をいい加減見かね、声をかけるがブクブク音で返される。何を言っているのか全く不明だが、なんとなく表情と雰囲気から感じ取れる。それはみずづきも同様だ。だが、瑞鶴から放たれる負のオーラは半端ではない。自身もそちら側へ回ることが多々あったので、瑞鶴の気持ちはよく分かる。しかし、ここで瑞鶴よりほんの少し、ほんの少しだけ胸が大きいと判明したみずづきが何を言っても火に油を注ぐだけなので、ここは彼女の戦友である金剛と加賀に一任だ。
「いつまでそこにいるつもり? あなた、その行動は自ら敗北を認めることと同義よ。いじけて変えようのない現実を恨むより、そのことに気付いたらどうなの?」
「・・・・・・・」
その言葉を受け瑞鶴は顔の半分を沈めながら、加賀の方を向く。一瞬、視線があらぬ方向へとび、一際大きな気泡が発生する。表情から察するにため息をついたようだ。
(その気持ち、よく分かります!!)
今まで断固として動かないという姿勢から一転。なにかを諦めてしまったかのような表情をたたえながら立ち上がると、ズンズンという効果音がぴったりの速さでこちらへ来て、当然のように加賀の隣に腰を下ろす。その際、勢いがよすぎて加賀へもろに水がかかる。先輩へ水をぶっかけても平然としている瑞鶴。それを加賀は髪の毛から水滴を垂らしつつ睨むが、その顔に迫力はない。まるで、瑞鶴の機嫌が少しでも改善されたことを喜んでいるような・・・
それを見て、微笑むみずづき。そこでふと、あることが気になった。
「そういえば、吹雪さんたちはご一緒じゃないんですか? なんだか不思議な感じがします」
まだ出会ってたった2日だが、みずづきにとって大日本帝国海軍の艦娘の中で最も接点を持っているのが第5遊撃部隊だ。その第5遊撃部隊といえばいつも6人でいる姿しか目撃していなかったので、こうして3人だけというのは少し違和感を覚えてしまう。
「北上と大井は私たちより早く時間が空いたからって、先に入ったみたいよ」
「そうなんですか。じゃあ、吹雪さんは・・・・・え? み、みなさんどうされたんですか?」
みずづきが吹雪の名前を出した瞬間、場の空気か一気に沈む。金剛や瑞鶴ならまだ軽い雰囲気だが、加賀まで加わってしまえばますます重くなってしまう。
「吹雪は・・・・うん」
「ブッキー・・・」
「・・・・・・・・・」
「ちょ、ちょっと、みなさん。なんですか、その意味ありげな反応は? 聞くのが怖くなってくるじゃないですか・・」
金剛・瑞鶴は乾いた笑みを浮かべ、加賀に至っては悲し気な無表情。3人は遠い目をしていましがたの光景を思い出す。
「ちょっとあれ、どういうことなの!? あの子、艦娘じゃなくて人間!?」
「銃もってたで、銃!! しかも、ごっつ凄そうなやつ。あれ、どう考えてもうちらの知ってるもんやないし、ここのもんでもない。ほ、ほんまに未来・・ん? 未来になるんやろうか・・
もう!!! 訳分かれへん!!」
「あのお手洗いを下した動きは完全に正規の軍人・・・・。でも、提督は艦娘って、ん? んん?」
「日本海上国防軍って何? そんなの記録にも載ってないよ?」
「吹雪!! あんた、あんなもの見せつけておいてまだしらばっくれる気っ!? いい加減にしてよ!! こんなんじゃ、まともに眠れないじゃない!!」
「曙ちゃん、冷静に、冷静に・・・・・・・。でも、私もかなり気になります」
「吹雪、いい加減、白状して。司令なんて知ーらない」
「あれを見てしまってはもうみんなを止めることは不可能よ。大丈夫。提督のことだから、許してくれるわ。万一の時は私たち一機艦も一緒にいくわ」
好奇心の塊と化し、艦種の差なく恐ろしく平等に詰め寄ってくる艦娘たち。その対象は第5遊撃部隊全員であったが、空母である加賀や瑞鶴、フレンドリーとはいえ戦艦である金剛よりも詰め寄りやすい相手がいた。もちろん旗艦であり最古参の駆逐艦の1人に数えられる吹雪だ。彼女が駆逐艦というのもあるが、基本的にお人好しで友人たちに恵まれているその性格が、今回大いに災いしていた。そして、それを見過ごすほど、歴戦の艦娘たちはバカではなかった。
「相変わらずブッキーは人気者デスネ! 私は必要ないようデス。なので・・・後はよろしくお願いしマース。・・・・goodbye!! 」
「私、ちょっとめまいが。ごめんなさいね、吹雪さん」
「(めまい? 顔赤くして何言ってんの)・・・・私も急に大事な用事を思い出しちゃって、後は任せた」
「えっ!? ちょ、ちょっと、朝に続いて夜もこれですか!! み、みなさーーん!! お願いだから帰ってきて―――!!!」
心からの叫びにかまうことなく吹雪を取り囲む艦娘たち。拳を握りしめ、唇をかみながら3人は背を向け一刻も早く離れるため、走る。
「さぁ、吹雪、舞台は整ったぜー。これだけの艦娘を前にしらを切り通すほど根性腐ってないよな、お姉ちゃん!」
「大丈夫よ。私たちは真実を知りたいだけ。煮たり焼いたりするわけではいないわ。だ・か・ら、どうぞ!!」
響く喧騒。時々悲鳴が聞こえるのは気のせいだろうか。それでも3人は足を止めることはない。吹雪の犠牲によって自分たちは解放されたのだ。これを噛みしめねば・・・・・。
「・・・っとまぁ、こんな感じ」
「なんですか、この茶番。大分、都合のいいように書き換えられてる気がしますが、要するに見捨てた訳ですよね? 吹雪さんを」
「もとはいえば、あなたが原因よ。あんなところで、冷静さを失うから」
「う゛・・・・」
大正論&純然たる事実がみずづきの心を穿つ。自分でもそれはとても反省しているので、反論の余地は全くない。
「まぁ、そうよね。あれとはいえ、一応中将の肩書きを持つ人間に発砲しちゃって」
「取り巻きを、パンチっ! And背負い投げしちゃッテ」
「最後は、目に涙を浮かべながらの一喝」
「来てそうそう、大活躍にもほどがあるよね」
言葉が重なるごとにみずづきは身体が小さくなっていく。今回は珍しく加賀も加わってからかう。金剛・瑞鶴のニヤニヤは止まらない。みずづきは肩身が狭くなるだけにとどまらず、段々と恥ずかしさで、もともと赤くなっていた顔がさらに赤くなる。
「も、もう、やめて下さーいっ!! わ、私だって、やっちゃったって自覚あるんですよ!!」
あまりの恥ずかしさに、さきほどの瑞鶴みたく顔の半分までお湯に沈むみずづき。その反応は小さい子供のようで、金剛と瑞鶴は爆笑する。加賀も例にもれず、うっすらと笑みを浮かべている。
「確かに、あなたの行動は問題だらけで決して褒められたものではないけど、間違っていたとは思わない。あなたがやらなければ、私や二人を含めた誰かが絶対に動いていたわ。これは誰もが分かっている周知の事実。・・・・本音で言えばみんなあなたに感謝しているのよ。艦娘、神様だなんだと言われていても、結局人と同じように一歩を踏み出すのに時間がかかってしまう私たちの代わりに動いてくれて」
優しい声色で語る加賀に驚き、みずづきは顔の半分を沈めたままその言葉に聞き入る。
「それはとても、とても価値のあること。おかげであれに一泡吹かせることができた。・・1つ言わせて、ありがとう。そして、同時に嬉しかった」
「嬉しかった・・・?」
ありがとう。その思ってもみなかった言葉が頭をグルグルと回転する中、これまた出てきた予想外の言葉が出てくる。
「あれの言葉は、いちいち私が言わなくても覚えているでしょ? あれは言ってはいけないことを平然といった。私たちの祖国である日本を、あんなふうに・・・」
加賀はわずかに身体を震わす。それだけで加賀も気持ちは誰にも伝わる。
「あの怒り並大抵のものじゃなかったわ。でも、あなたも私たちと同じ怒りを抱いていた。祖国を侮辱された怒りを。それを見てわかったのも私自身、どうかと思うのだけれど、あなたが人間や艦娘関係なく同じ故郷を持つ
加賀は一旦、言葉を区切るとしっかりその瞳にみずづきを映す。みずづきも顔を水面から出し姿勢を正す。
「あなたが、私たちと一緒に戦うのか戦わないのか、それに口を出す気はない。但し、これだけは覚えておいて。あなたは1人じゃない」
あなたは1人じゃない。その言葉と加賀の優しさに覆われた表情が心に染み渡る。
「私だけじゃなくて、金剛も瑞鶴も吹雪も北上も大井も、他の艦娘たちもみんなあなたの仲間よ。なにかあれば1人で抱え込まないで」
(何かと思えば、こんなの反則・・・・・・・)
自分とこの世界の距離が一挙に縮んだような気がする。自分が生まれて、生きてきた世界とは違う世界。疎外感・孤独感ばかりが心に募っていた。そんな心に暖かさがじんわりと広がっていく。ここもあの世界と同じだ。急に目頭が熱くなってくる。一本取られた。
「あれ~? 水月~。目の端がきらきらとbeautifullyに輝いてマスヨー」
「ほんと。水月~、もしかして泣いt・・・・」
「泣いてませんっ!!」
邪悪な笑顔を浮かべる瑞鶴の言葉を途中で一刀両断する。
(ここで泣いたことを認めちゃえば恥ずかしすぎて死ぬ! なんとしてもしらを・・)
「いやでもね、それ明らかになみd・・」
「いやもでもも涙もありません。これはお湯です!! さっきまで目の下まで浸かってましたから、きっとそれですっ! ええ、そうです。そうに違いありませんっ!!!」
そう宣言するとマッハで再び顔の半分までお湯に体を沈め、真実がばれないように顔を明後日の方向に向ける。それはもはや子供っぽさを越え、可愛いとさえ感じられるほどだ。耐えられなくなった金剛と瑞鶴は再び爆笑し、加賀も「やれやれ」と言った様子で機嫌よく肩までお湯に浸かる。湯船から出て、外で別れるまで4人の話は途切れることなく続いた。
やっぱり日本人にはお風呂は欠かせませんね。(瑞穂も)
みずづきのテンションが前話と今話で全然違うことに驚かれるかもしれませんが、軍人をとっぱらった1人の女の子としては、こちらが本来のみずづきの姿です。めちゃくちゃ、ハイテンションですがね(苦笑)。
加賀たちの回想にも出てきましたが、横須賀鎮守府には大人数ではないものの第5遊撃部隊、第1機動艦隊以外のも艦隊があります。セリフだけですが、その中の一部の子たちに登場してもらいました。口調だけで誰か分かってしまう子をあえて選んでます。
16話では、多くのご質問やご感想をいただきました。
誠にありがとうございますっ!