水面に映る月   作:金づち水兵

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どうも、お久しぶりです!



14話 二日目

横須賀鎮守府 1号舎 第6宿直室

 

世界を覆い尽くしていた闇は、この星の自転運動によってゆっくりと終わりを告げ、再び数え切れないほど繰り返されてきた新たなる1日が始まる。夜空に浮かんでいた星たちと月は太陽に負け見えなくなるが消えたわけではない。今この時も空に存在している。窓から差し込む憂いのない朝日に照らされる少女。その神々しさをもろともせずぐっすりと眠るみずづきの耳に日防軍と全く同じ起床ラッパが、気持ちよさげな彼女の表情に躊躇することなく全力攻撃を開始する。軍人になってから嫌というほど聞いてきたメロディーに、本能が「寝たい」という欲を押しのけ無理やり脳と体を覚醒させる。

 

「っ!?!?!? やばい朝!! 早く支度しないと・・・・・・・・って」

 

飛び起き布団を畳もうとして、みずづきは昨日の出来事を思い出す。ここは須崎基地でもましてや日本でもない。

 

「・・・・・・そっか、そうだった。・・・・・・道理で誰もいないわけね」

 

目の前にあるのは自身の布団と畳だけだ。壁にかけてある時計に目をやる。時刻は午前6時をほんの少し過ぎたところ。本来なら特別な任務がない限り身支度を整え、布団の中でモジモジしている仲間を叩き起こさなければならいない。寝坊は厳禁だ。しかし、今日はその必要がない。いつもは嫌だったのにも関わらず、いざやらなくてもよいようになるとなんだか寂しい。昨日、百石や長門から特になにも言われていないので二度寝は可能だが、慣れというものは怖く、目がばっちり冴えてしまっている。どうしようか迷った挙句、長門が朝食を持ってくるまで窓から景色を眺めつつ、みずづきは物思いにふけていた。

 

 

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食堂

 

 

陽の光と白熱灯の明かりによって光度が増し、朝らしい眩しさに包まれた室内は今日1日の活力を得ようとする人々でごったがえしていた。交わされるあいさつや雑談、食器類の軽い音や椅子を引く音、ラジオから聞こえる音声。様々な音の交差は、人の営みと相まって見る者に活気を感じさせる。

吹雪たち第5遊撃部隊も、昨日の一件もあって気が進まなかったものの、日常を演出するためここで朝食を取っていた。いつもなら気兼ねなく談笑しつつ、朝食を堪能することが可能なのだが、今日はそうもいかない。食堂に入った瞬間から今に至るまで数多くの視線が吹雪たちに向けられている。それは一般将兵に限ったことではない。普通にあいさつを交わした他の部隊に所属する艦娘たちも凝視ではないが、チラチラと遠慮がちな視線を向けてくる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

分かっていたことだが、いざそれが現実になるとたまらない。居心地の悪さが尋常ではないのだ。視線が気になり大事な朝食を堪能できない加賀や瑞鶴、大井は平静を装っているものの、明らかに怒りを抑えている。周囲からは分からないだろうが、加賀や瑞鶴の真向かいに座っている吹雪には刺さるような緊張感がひしひしと伝わってくる。吹雪はついこれからのご機嫌取りを思うとため息が出てしまう。あの前代未聞の出来事が1日で収束するわけはない。むしろ憶測が憶測を呼び横須賀鎮守府内の人間の関心を一挙に集めていた。そこへ百石が筆端と共に、普段通りの表情と足取りでやってくる。鎮守府の最高・副司令官の役職に就く高位の軍人ならば自身の私室で食事を取るのが一般的だが、百石と筆端は一般将兵との距離感を重視し、たいていはここで食事を取っている。今年配属されたばかりの新人ならば驚きのあまり硬直してしまう光景だが、勤続日数をある程度つんだ人間には日常の風景であり特筆するものではない。しかし、今日は違った。2人とすれ違った者は瞳に戸惑いを浮かべ敬礼し、他の者は失礼に当たらないよう視線を向けずに意識を飛ばす。2人は平然と食事を受け取り、空いている席に朝食がのったお盆を置く。いつもなら2人とも腰を下ろし談笑を交え食べ始めるのだが、筆端が腰を下ろしても百石は立ったままだ。何事かと喧騒に包まれていた食堂内はすぐ静寂に覆われる。百石は周囲を一瞥し、横須賀鎮守府の主要幹部と所属艦娘全員の所在を確認すると口を開く。

 

「諸君、おはよう。それぞれに重要な職務があるなか急で悪いが本日0800より運動場にて朝礼を行う。出席は艦娘のみであり、時間までに集合するように。その他の各員は当該事項を頭に入れ無用な混乱を引き起こさないよう注意して職務に励んでもらいたい。以上だ」

 

言い終わった百石の着席と同時に、ぽつぽつと会話が始まり瞬く間に先ほどの喧騒が舞い戻ってくる。朝礼。それ自体はあまり珍しいものではない。各種事項の伝達、大規模作戦の概要説明、士気の鼓舞など目的は様々だ。艦娘限定も比較的少ないが、先日も行われており希少度は高くない。だが、朝礼はそう頻繁に行うものではない。せいぜい週に1回だ。にも関わらず今週2回目の朝礼を艦娘限定で行い、しかも当日の朝に通達して急きょ予定に滑り込ませている。昨日の一件と関連付けられるのは必然だ。吹雪たちへの視線は解かれ、食堂内は朝礼の内容へ話題の軸足が完全に移行した。

 

「朝礼って、もしかしなくてもあの件についてですよね?」

「おそらくは、な。あれ以上のことなんて何も起こっちゃいないし、それしかない」

「だが、どういったことを話されるんだろうな? 少し興味が湧いちまうぜ」

「噂程度の情報しか回ってこない末端兵士には見当もつかんな。あとで隊長にでも発破かけてみるか」

「え・・・。いいんですか?」

 

喧騒はなにも一般将兵によってもたらされているわけではない。艦娘たちも当然それに力を与えている。

 

「みなさんのおっしゃるとおり、やっぱりあのことかな?」

「・・・・・眠い・・・・・」

「おそらくね。てか、それしかないでしょ」

「司令はんもこの状況を無視できんようになったんやろうな。なにがあったか詳しくは知らんけど、曙の元気もちーとないようやし」

「よっしゃ! これで少しはこのモヤモヤが晴れるだろ! どうもこういうのは性に合わねえんだよなぁ~」

「夜戦に関係ないんなら、出なくてもいいよね?」

「「「「「いやいや」」」」」

 

そのようなやりとりはもちろん百石と筆端も耳にも入っているが、2人は平然と白ご飯を口に運び、みそ汁をすする。吹雪たちも百石たちと同様にみずづきのことを知っている立場だが、顔には驚きの色を浮かべお互いに顔を見合わせる。昨日吹雪は赤城にああ言ったものの、まさかこんなに早く動きがあるとは全く思っていなかったのだ。食事に余念がない正規空母の加賀や瑞鶴を含めた全員が朝食そっちのけで今にも口を開きたそうにしているが、ぐっと言葉を飲み込む。話題が第5遊撃部隊からそれ視線が解かれたといっても完全に、ではない。艦娘・一般将兵問わず中には吹雪たちの心境を看破し、紡がれるであろう言葉に耳を傾けている者もいる。ここでは無理と判断し、吹雪はアイコンタクトで命令を下す。他の5人は同じくアイコンタクトで頷き返すとマッハで朝食を平らげ、心置きなくいつもの調子で話し合える安住の地を求めて、食堂を後にする。

 

「ええっ!?!? ちょ、ちょっと、待って下さいよ! みなさん、早すぎます!!」

 

ご飯を口にかき込みながら、目に涙を浮かべ5人の背中を見つめる吹雪。吹雪なりにマッハなのだが、やはりどうしても駆逐艦では戦艦や空母にはかなわない。では重雷装巡洋艦はどうか。それは2人の顔色を見れば一目瞭然。軍医が鬼の形相で駆けつけてきそうなほど真っ青だ。吹雪の必死の訴えにも関わらず、5人は颯爽と歩いていく。吹雪の慌てふためく様子は会話に没頭していた者の表情をつい緩ませるには十分すぎる威力があった。

 

 

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横須賀鎮守府 正門

 

 

赤レンガの門柱に歴史を感じさせる重厚な門扉。「横須賀鎮守府」と漢字で縦書きされた表札。それらは訪れた者に一種の緊張感を与える。だが、そこに接続し正面に見える交差点にそのような緊張感は皆無であり、様々な車種の自動車が走り抜け、通勤・通学に急ぐ老若男女が横断歩道を渡っている。外界とは隔絶された場所に届く日常の風景。一時は深海棲艦の攻勢に伴い過去の記憶になりかけたが、艦娘と瑞穂国民の奮戦によりこの日常は日常として現在も刻まれ続けている。それに一点の黒いしみが現れる。よく目を凝らすと、それが1台の自動車であることが分かる。なにも珍しいことではない。ここは正門。敷地を機密保持と安全確保のため塀や金網で仕切っているため、自動車と人の出入りは裏門もあるが一般的にここが使用される。警備隊所属の門番はこちらへ向かってくる自動車を確認すると、特に不審に思うこともなく詰所の前まで誘導する。黒塗りの高級車。運転手のみならず後部座席に乗る人物を認めると、門番は即座にいずまいを正す。しかし、その人物からの言葉には戸惑いを隠せない。詰所にいた他の門番たちが出てくるが同様だ。対応に苦慮していると、噂に聞く耳障りな罵声が周囲にこだまする。後部座席の人物だ。この場で最上位の門番は不審に思いつつ、その人物の言い分を信じてゲートを開ける。それを確認し自動車が発進した瞬間、その人物はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

 

 

 

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運動場

 

 

いつもならまだ鳥たちの鳴き声に支配されて遮るものなく日光に照りつけられている運動場。しかし、今日ばかりは朝の余韻に浸る時間はない。まだ、百石たちの姿はないが艦娘たちの凛々しい声と確固たる影は時計の針が刻限に近づくにつれて増えていく。もちろん吹雪たち第5遊撃部隊もその一員だ。だが、のんびりとあいさつや談笑を交わしながらやってきた他の部隊と異なり、吹雪たちは昨日の赤城たちほどではないにしろ少々焦りながら運動場にやってくる。近くに設置されている時計の針は午前8時にもう少しで迫る位置だ。

 

「なんとか間に合ったぁ~。ぎりぎり」

「ふぅ~、よ、よかった。あと少し気付くのが遅れてたら、完全に遅刻するところだったわよ」

 

時計を見て大井と瑞鶴は安堵のため息を吐く。いくら彼女たちが艦娘であり、百石や筆端たちが優しいからといっても、ここは紛れもない軍隊である。遅刻などはもってのほかで余程の理由がない限り情状酌量の余地はなく、厳罰に処せられる。それは、鎮守府を走るマラソンやトイレ掃除などいわば定番のお仕置きである。しかし、侮ってはならない。鎮守府を一周する、と言葉でいえば実感がわかないが、ここでいう一周は瑞穂海軍最大である横須賀鎮守府の()()を、である。また、トイレ掃除も敷地内に存在する()()のトイレが対象である。もはや苦行を通り越して修行の領域であり、これにはさすがの北上も冷や汗を想像しただけで冷や汗をかいてしまう。

 

「ちっ。なんで瑞鶴さんが北上さんの隣に。ここに加賀さんがいるんだがら逆でしょうに」

「なにかしら」

「っ!?!? い、いえっ。なんでもありません!!」

 

加賀にギロリとにらまれ大井は光速で姿勢を整え、背筋をピンと伸ばす。いかな大井でも加賀の眼光には太刀打ちできない。直立不動で微妙に震えている大井に昨日の件と絡めて第5遊撃部隊の面々を見て話しこんでいた周囲の艦娘たちが同情の視線を向ける。その中に一足早くかけていった北上もいればよかったが現実は甘くない。とうの北上はそんなこと知る由もなく瑞鶴と仲良く談笑していた。心のなかに先ほどの発言と同じような激情が沸き上がるが、それに比例して加賀の眼光も厳しくなる。なにもかもお見通しもようだ。

 

「と、とりあえず、間に合ってよかったですけど・・・・はぁ~」

 

それを見た吹雪は真っ青な天を仰ぎつつ、ため息を吐く。瑞鶴たちと同じ恐怖を抱き少し遅れて着いてみれば既にこの有様。対策を考えていた周囲の視線が大井のおかげで和んだとはいえ、精神的にきつい状況変化の連続はその小さな身体に重くのしかかる。

 

「もう・・・・。加賀さん、なにがあったかは聞きませんけど、もうすぐ朝礼が始まります。ここは穏便に」

 

吹雪は苦笑しながら、加賀の気に障らないように柔らかく話しかける。朝礼のこともあるが普段は決して北上以外には向けないすがるような目を大井から向けられれば、旗艦として仲間として見過ごしたり、叱責したりすることは困難だ。

 

「・・・・・・・・・」

 

吹雪を無言・無表情で見つける加賀。少し機嫌が悪いためか、それと相まっていつも以上に迫力がすごい。思わず身を固くしてしまう。

 

「・・そうね、あなたのいう通りだわ。いろいろあって私も殺気立ってたみたい。ごめんなさいね大井さん。半分八つ当たりじみたことをしてしまって」

 

そういうと加賀は頭を下げる。正規空母でありプライドも高く比較的頑固な彼女だが、自分に非がある場合は素直に謝ることもしばしばだ。だが、こうしてなんの躊躇もなく頭を下げるのは艦娘なかでも信頼を置いている者に限定される。吹雪はそれを見ると、第5遊撃部隊が結成された当初との違いに心が温かくなる。

 

「い、いえ、私も加賀さんの気分を害するような、こと、をしてしまったわけ、です、し・・ここはお互いさま、ということ、で・・・・・。き、北上さんが待ってるのでっ」

 

顔を赤くした大井は照れ隠しのためか、全力で北上がいる方向へ走っていく。しかし、北上が他の艦娘と談笑している様子を目にした瞬間、顔が照れによる赤から怒りによる赤に変化し、猛スピードで北上に接触を図ろうとしている。さっきの動揺した姿は一体どこに行ってしまったのか。

 

それを吹雪・加賀・金剛の3人は苦笑しながら温かい目で眺める。

 

「まったく、あなたたちはちっとも変わらないわね。いつも言ってるでしょ! 朝から騒ぐなんてレディーとして失格よ」

 

突然、投げかけられる声。北上と話す艦娘を追い払おうと奮戦している大井に意識を向けていたため、思わず驚いてしまった。声で誰か分かっているが、吹雪たちは声の主がいる方向へ身体を向ける。

 

「ちょっと暁ちゃん。あいさつもせずに、いきなりのそれは失礼になると思うのです」

「えっ!? ・・・・そ、そうかもしれないけど」

「なんで吹雪たちびっくりしてんの? ん? あっちになにか・・・・ああ、大井さんまたやってる」

「どれどれ・・・、おお今日はまた絶好調みたいだ。だが、相手もなかなかやる」

 

そこには同じセーラー服でも吹雪とは異なった制服を身にまとった、可愛らしい小学生ほどの女の子たちが年相応の眩しい笑顔を浮かべて立っていた。身長もほとんど同じで人間の実の姉妹のように見える。

 

「みんな」

 

それを見て吹雪・金剛はいうまでもなく、加賀までも無表情であるものの優しい表情となる。

 

「今日初めてお会いしたのですから、まずはあいさつなのです。おはようなのです。吹雪ちゃん、加賀さん、金剛さん」

「そうそう電のほうがよっぽどレディーじゃない。おねえちゃんは私だけど! みんなおはよう!」

「それをいうなら私は2番艦。おはよう、今日もいい天気だな」

「なによなによ! 私はみんなのおねえさんで立派なレディーなんだから!! お、おはようっっ!!!」

 

お互いに仲良くじゃれ合いながら、周りをしっかりと把握する吹雪と比べても一回り小さい4人。第6水雷戦隊に所属する特Ⅲ型駆逐艦の暁・響・雷・電がいつも通りのついほほが緩んでしまうはきはきとしたあいさつをしてくる。昨日から今まで散々好奇心に染まった視線を向けられ続けていた吹雪たちにとっては、彼女たちの純粋な笑顔と瞳はいつも以上に心に染み込んでくる。加賀は撫でたくてつい出してしまった右手を左手ですぐに回収する。吹雪と金剛の顔を見て安堵しているが、2人はバッチリと目撃していた。吹雪たちも昨日の朝以来の和やかな雰囲気の中で、周囲に気を向けなくてよい普段通りのあいさつを行う。

 

「みんな、おはよう」

「・・おはようございます」

「Good morning!! Kidsのみんなは相変わらずenergy and cute デーース!!」

 

ここで金剛は笑顔は笑顔でもニヤリという効果音が付きそうな悪い笑顔を浮かべる。「kids」。確かに暁型の4人ははたから見れば完全にkidsであり、それを分かっている響・雷・電は特に反応しない。しかし、それを言われて反応しないわけにはいかない艦娘がいた。

 

「き、キッズいうなぁぁ!!」

 

暁は小さな手を震わせ腕を前後に回転させながら金剛に突進するが、腕の長さが暁と金剛ではお話にならない。金剛に頭をつかまれたら最後、暁はいくら腕を回しても金剛の胴体に届くことはない。

 

「うりゃーーー!!! ってまた、これ!!! もうなんで!? これじゃお子さまじゃない!!」

 

片手で頭をつかまれその下で懸命に前へ進もうと足と手を動かす暁。その必死な姿は場をさらに和めてしまう。吹雪・加賀だけでなく、響たちや響たちを少し離れたところから見ている第6水雷戦隊所属の軽巡たちも同様だ。

 

「very cute!!! Kidsの破壊力は相変わらずネ」

「だから、キッズ言うなー!!」

 

何度やっても飽きず、何度やられても反応し、何度も見ても和んでしまう。金剛の言葉をこの世の真理を見事に言い当てていた。吹雪は無意識に過去に繰り返されてきた光景と今を重ね合わる。

 

「あ、あっれ~??」

 

そこで、ようやく相違点に気がついた。暁たちについ温かい目をしてしまっていたが、彼女たちの指導役である第6水雷戦隊の軽巡洋艦、夕張と球磨がいないのだ。あたりに目を向けると、まるで吹雪が探し出すことを予測していたかのように2人の姿を見つけると相手も吹雪へ視線を向けていたため一発で目が合う。

 

「あ、あんなところに。おはよーございまーす! 夕張さん、球磨さん!! ・・・・ん?」

 

あいさつを口にしながら近づこうとした刹那、2人の瞳に違和感を抱き、足を止める。それを見届け2人は笑顔を浮かべ、他の部隊と話すためか吹雪から遠ざかっていく。それで2人の、特に夕張の真意を理解する。

 

 

 

聞くなといわれても聞きたくなるのなら、いっそ聞けない距離を保つべき。

 

 

 

ここでも例の件だ。昨日、横須賀鎮守府を離れるまで気兼ねなく話せていた仲間との間に出来てしまった壁はあまりにも悲しい。艦娘になってから周りの艦娘たちと仲良くすることが当たり前だった吹雪にとって、このような自分がまわりとは違う存在になってしまったかのような錯覚に陥る経験は初めてだ。

 

少し気落ちする吹雪の肩に覚えのある感覚が生じる。

 

「なにしているの? ほら」

 

加賀の手を肩に感じつつ、目で示された方向を見ると真っ白な軍服に身を包んで2人組がこちらへ歩いてくるのが確認できる。それに気付いた艦娘たちは気づかず談笑したりじゃれている艦娘に百石と筆端の到着を伝え、部隊ごとに整列しはじめる。時計を見るともうすぐ8時、その5分前になろうとしていた。

 

「す、すみません。つい、ボーとしちゃってて。旗艦なのにちゃんとしないとだめですよね。あはは・・」

 

吹雪はどうしても割り切れない悲しさを隠すようにほほをかきながら苦笑する。

 

「そう」

 

加賀はそれだけいうと吹雪の肩から手を下ろし、いまだに続く金剛と暁たちのバカ騒ぎを止めに一足早く足を進める。吹雪はそっと加賀が手を置いた場所に自分の手をあてる。心なしか他の部分より温かい気がした。

 




お待たせしました。約1週間半ぶりの投稿です。現実世界では投稿を開始して1か月半が経過しましたが、物語の中ではまだ日本での戦闘を入れても3日しか進んでいません(汗)。視聴したり読む側だったころは時間軸の乖離に疑問を持っていましたが、いざ自分が書く立場になるとその大変さが身に染みてわかりました。

今回の話は当初、次話の15話とまとめていたのですが文字数が2万字近くになったのでやむなく分割しました。なので少し中途半端に感じられるかもしれません。

少しシリアスな雰囲気も個人的には好きですが、第6駆逐隊とのシーンのように艦娘たちがわいわいはしゃぐ場面も書きたいのです。しかし、いまはまだ・・・・・。早く物語を進めないと。

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