水面に映る月   作:金づち水兵

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10話 対談と驚愕

「失礼します!」

 

一足先に見事な敬礼をして入室した川合に続き、みずづきも失礼にならないよう声を張り上げ提督室に足を踏み入れる。入ったいいものの一瞬これからどうしたらよいのか迷うが、川合に促され百石の前に歩み出る。警戒隊の西岡と坂北が入室するとドアが閉められ、外界と隔絶された。静寂。

 

「君が・・・・水月だね?」

 

それを破ったのは、やはりこの場で最高位の百石だった。

 

「はい。私がみずづきです」

 

有無を言わさない強い意志をこめ、百石自身へ言い聞かせるような問いに答える。

 

「私が瑞穂海軍横須賀鎮守府最高司令官の百石健作だ。状況がよく呑み込めていないだろうが、ようこそ鎮守府へ」

 

百石の笑顔が張りつめていた室内の空気をいくらか弛緩させる。どうしても軍の上層部に悪いイメージが染みついているので、内心ではどうような人物かひやひやしていたがひねくれた年寄りではなく、礼儀をわきまえた好青年のようで一安心だ。

 

「日本国海上国防軍第53防衛隊隊長のみずづきです。歓迎感謝いたします」

「で、こっちが」

 

百石は傍らに立つ長門に目を向ける。

 

「私は秘書艦の長門だ。横須賀鎮守府所属の艦娘を代表し、貴官の来訪を歓迎する」

「あ、ありがとうございます!」

 

形容しがたい重厚な威厳と静かなるも力づよい敬礼に応えようと、みずづきはつい返礼に力が入ってしまう。だが、心が平静さを取り戻すと彼女の名乗った名前が頭に引っかかる。

(・・・・・・・・・・、な、長門・・・・・?)

またしても旧軍と同名の艦娘だ。ここまで来たら、偶然の一言では片づけられない。

 

「自己紹介も済んだことだし、さっそく本題に入ろう。君も我々と同じように疑問だらけだろう?」

「ええ・・・・、ご推察の通りです。正直、夢であってほしいと思っています」

「はははっ、確かに。だが、白昼夢にしては実体感がありすぎる」

 

いくら現実と分かっていてもあまりに現実離れした事象が起これば、目をそむけてしまうのが人間であり長門たち艦娘も同様だ。夢といわれた方が、素直に受け入れられるかもしれない。しかし、いくら現実逃避しようとこれは紛れもない現実だ。

 

提督室のドアがノックされる。時間的に第5遊撃部隊が艤装の着脱を終え、やってきたようだ。

 

「第5遊撃部隊の吹雪以下5名、ご命令通り報告に参りました」

「ちょうどいい。彼女たちがいた方が話を進めやすいだろう。・・・入ってくれ」

「失礼します!」

 

百石の許可を受け、吹雪たちが次々と入室してくる。普段と違い静かな面々に、少しだけこのままここ以外でも静かになってくれたら、と淡い願望を抱く百石。表情から察するに長門も同様のことを思っているようだ。

 

「・・・これで役者はそろったな。では水月、単刀直入に聞く。・・・・・・・君は一体何者だ?」

 

面と向かって言われると自身が異端みたいで案外心のダメージが大きい。無線越しに言われたのとでは大違いだ。だが、みずづきも百石と同じセリフを吹雪に言っているので、お互い様だ。

 

「君は自身を日本国海上国防軍と名乗った。既に聞いていると思うが、この世界にそんな軍事組織や日本という国家はない。また、君が身に付けている艤装。私も見たことない代物だし、上に照会しても該当するものはなかった。なにがどうなっているんだ?」

「それはこちらも同じです。私の知っている世界には瑞穂などという国はありません。私は日本国海上国防軍の軍人であり、日本人です。・・・・・私もわけが分かりません。気付いたら、大海原のど真ん中にいて、現在位置も分からず、航行して救難信号出したら、瑞穂海軍などという聞いたことない所属先を名乗る、彼女たちがやってきたんです」

 

みずづきは若干意識を後ろに控えている第5遊撃部隊に向ける。

 

「ですが、聞いたこともない組織がいて見たこともない艤装をつけた部隊がいるのに、横須賀や伊豆大島、浦賀水道など細部は違えど私が知っているものと同じ地形や地名があります。また、身体的特徴や外見、使っている文字、おおまかな社会形態は日本と全く同じです。違うことといえば、国号や技術レベルぐらいです」

「技術レベル?」

 

同じことを今まさに聞こうとしていた百石を含め、一同の視線が長門に集中する。みずづきの話を聞き、長門もついに自身の疑問を抑えられなくなった。

 

「は、はい。そうですね・・・例えばこの銃とか」

 

まさかここで長門から聞かれるとは思わず動揺気味なみずづき。簡潔な説明を行うため川合の後ろに控えてる西岡と坂北が持っている銃を説明材料にする。

 

「見たところ、こちらでは比較的新しい銃のようですが、私たちの世界でこのようなボルトアクション式の銃をいまだに前線の部隊に持たせている国なんて、発展途上国でもありません」

 

瑞穂の高度な工業技術によって生み出された24式小銃をあからさまにバカにされ、川合が少し不機嫌気味になる。

 

「これは世界的に見ても見劣りしない優秀な小銃だぞ。じゃあ、君たちは一体どんな銃を持っているんだ?」

「自動小銃ですけど・・・・」

「「えっ!?」」

 

予想外の返答に百石と川合が同時に驚愕の声をあげる。川合の気迫に押され刺激しないよう静かに言ったつもりだったのだが、どのみち自動小銃という言葉の重みが両者で異なる以上、こうなることは避けられない。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。それは俺みたいに前線の司令官や優秀な兵士が持つ、特別な銃のことか?」

「い、いえ・・・。一般兵士が普通に使う銃のことですが・・・」

「それではなにか? 君たちの世界では全ての兵士に自動小銃なんていう金食い虫で、高度な製造技術がいる代物を持たせていると?」

「ええ、そうですよ」

「・・・・・・・・・・」

「・・・具体的には?」

 

あまりの衝撃に川合が休息という名の思考停止に入ってしまったので、百石が更なる情報を得ようと動く。

 

「具体的・・・・。えっと、国防軍では89式小銃といって1989年に制式化された自動小銃が全隊員にいきわたっています。ボルトアクション式の銃は連射性能が重視されないスナイパーライフルしかありません。現在、89式小銃の後継銃も開発が進められています。また、世界視点でもそれがごく普通です」

「なんとも・・・・」

 

みずづきはさも当たり前のような口調だ。それがまたみずづきと百石たちの認識の相違を際立たせる。川合が言ったように、瑞穂はおろか世界の先進国の技術力を持っても、自動小銃―連射が可能で戦闘能力が桁違い―を製造・開発するには高度な製造技術が必要である。また、それだけ費用もかかるため、実戦配備は開発できたとしてもごく一部の部隊に限られてしまうのだ。それを1989年、今から44年前の時点で何気なく開発・実戦配備し全兵士にいきわたらせるなど、もはや恐怖だ。

 

「それに失礼を承知で言わせて頂きますが、この銃、見覚えがあるなぁと思ったら旧日本軍が今から約90年前のアジア・太平洋戦争中に使用していた99式小銃にそっくりなんですよ」

「っ!?」

 

再び何気ない事実を口にするみずづき。しかし、それを聞いた瞬間、室内の雰囲気が一変する。百石たちが抱いていた漠然とした予想が確信に変わったのだ。

(え・・・・・私、なにかまずいこと言っちゃった!?)

何も知らないみずづきはただただ動揺する。長門はみずづきが動揺していることを分かったうえで、みずづきの発したある単語を復唱する。

 

「太平洋戦争・・・・」

 

その単語に吹雪たちは表情を心なしか暗くするが、長門は違った。どうやら、百石と長門のふざけた仮説が当たったようだ。

 

「君は、“太平洋戦争”を知っているのだね?」

 

笑顔をたたえつつも、嘘は許さないという強い圧力を感じさせる。それだけで、百石たちがこの問いを重視していることが一目瞭然だ。みずづきとしても別に嘘をつく理由はない。

 

「・・・はい、私も日本人ですから。自国が無条件降伏という前代未聞の戦争を知っているのは当然です」

「そうか」

 

その一言には深い響きが伴う。だが、みずづきは疑問に思う。ここは、日本ではない。第二次世界大戦期レベルの科学技術水準であるためこちらの世界でも類似の戦争が起きた可能性は十分に考えられる。しかし、深海棲艦というイレギュラーの存在があるが、それらにしても横須賀鎮守府や市街地を見るに、国家の存亡をかけた熾烈な戦争の面影は全くといっていいほどない。では、なぜ百石たちは知らないはずの()()()()()()()()()のことを知っているのか。それがありありと表情に出ていたため、百石が誤解を招かないように捕捉する。

 

「ああ、ちなみに瑞穂は君の祖国日本のように他国と全面戦争を行ったことはない。またそれはこの世界の全国家に言えることだ。この世界では近代以降国家間や民族間の大規模な戦争は運よく起きていないのだよ。小規模な戦争は多々あったが・・・」

「え・・・・・・」

 

百石の言葉を聞いた瞬間、思考が停止し頭が真っ白になる。それもう驚くほどに。「戦争がない」、この言葉が何度も何度も頭のなかでリフレインする。いつもどこかで戦争をしている世界、何度悲劇を経験しても同じ悲劇を繰り返す世界。そんな世界に生まれたみずづきには、到底信じられなかった。例え小規模な戦争はあって、大規模な戦争がない、など・・・・・・。

(そんなこと、あり得るわけがない・・・・私たちは人間。人間である以上、戦争は・・・・・)

 

 

 

 

 

 

『先日、東シナ海日中中間線付近公海上で発生した中国海軍東海艦隊所属駆逐艦2隻の沈没事件を受け、中国政府外務省は沈没を「日本の潜水艦によるものだ」とし、日本に対し「中国が被った人的・物的損失への賠償と責任者の身柄引き渡し」を要求する緊急声明を発表いたしました。これに対し日本政府は即座に抗議。「事実無根であり、隣国として戦略的互恵関係を有する国として大変遺憾に思う。このような緊張を高める一方的な行為は、両国の国益に深刻な打撃を与える」とコメントいたしました。また、中国軍の活動活発化を受け防衛省自衛隊に対し、万全の体制をとるよう指示した模様です。専門家の間には、中国との武力衝突を懸念する声が一層高まっています。日中の緊張激化は、この瞬間にも深刻さを増しています』

 

『治安出動に関する条文が大きく見直された改正自衛隊法が与党や一部野党の賛成多数により、参議院で可決・成立しました。昨今の社会情勢を受け、法案は異例ともいえる即日公布がなされ、3日後に緊急施行されます。改正自衛隊法施行により、自衛隊の治安出動時における権限や警察官職務執行法に準じていた武器使用基準が大幅に拡大され、諸外国で日常的に行われている市中警備も可能となります。日本全国で無差別テロが頻発する中、テロの抑止・鎮圧することがこれまでより迅速化できるのかが注目されます』

 

 

 

 

「ミサイル発射情報、ミサイル発射情報。当該地域に着弾する可能性があります。屋内に退避しテレビ・ラジオをつけて下さい」

 

 

 

突如として、日常に鳴り響いた本能的恐怖を掻き立てる警報音。わけが分からず逃げ惑う人々。各所で打ち上げられる防空ミサイル、対空砲火。着弾し、廃墟となった街。転がるかつて人間だったもの。その中を息絶えた子供を腕に抱え、さまよう男性。それを現実と受け止められず、テレビの前で呆然とする自身を含めた日本国民。これが現実と、自分たちが無差別に殺される対象であることを理解した時には、すべてが手遅れだった。

 

 

「こちらは、防災・・市役所、です。・・地域複数カ所ににおいて、大規模な、テロ攻撃が、発生いたしました。住民の方々は、自衛隊、警察、消防、市、の指示に従い、落ち着いて、身の安全を、確保して、下さい」

 

もはや突然テロが起きることが、当たり前となった日常。爆弾で、銃弾で、毒ガスで、刃物でただただ日本人と資本主義の支持者というだけで、殺されていった無数の人々。

 

 

みずづきの親友も・・・・・・・。

 

 

何もしていない。ただ生きていただけ。あの戦争を教訓とし、先制攻撃されるリスクまで負って、他国との平和を望んだにも関わらず、その他国による一方的なこの仕打ち。何の罪のない家族を、友人を、知人を無残に惨殺された日本人の恨みと復讐心は、果てしない業火となって日本をのみ込んだ。それは例え深海棲艦が現れなくても、避けられなった運命。

 

 

 

 

 

 

ある政治家の言葉。

 

 

 

「日本は、日本人は変わってしまった。もうあの頃には戻れない。例え、化け物どもを一掃できたとしても・・・・・」

 

 

 

 

(いたっ・・・・)

頭痛によって遠のいていた意識が回復する。思い出したくない数多の記憶を見たため気分は最悪だ。ただ、それはほんの一瞬だったようで、だれもみずづきの異変には気づいていない。それに安堵のため息を吐く。しかし、みずづきも気づかない。己の中にふつふつと湧きあがるドス黒い何かの存在を。いや、気付けなかったと言うべきか。淡々と語る百石の言葉に意識を持っていかれる。

 

「だから、私たちは太平洋戦争なる戦争は知らないし、知る由もないはず、だったんだ・・」

「だった?」

 

思わずみずづきは聞き返す。百石はみずづきの目を、みずづきが自身の所属を語ったときのようにしっかりと見つめる。

 

「だが、君も既に察していると思うが、私たちはそれを知っている。君がさっき言った言葉で私たちと認識の相違がないこともわかった」

 

つまりは、百石たちも架空戦記のような太平洋戦争ではなく、みずづきが知っている忠実の太平洋戦争を知っているということだ。

 

「ここで1つ君にしっかりと認識してもらいたいことがある。中途半端じゃ、無用な混乱を生むだけだ。聞くが、今日は何年何月何日だ?」

 

いきなり、話の流れとは関係なさそうな質問を投げかけられ、百石の真意を疑う。だが、その目は真剣そのものだ。決してはぐらかそうとしたり騙そうしたりしている様子ではない。はやる気持ちを我慢し、自身の認識を答える。

 

「今日は西暦2033年5月27日・・・・だと思います」

 

昨日、つまりみずづきが日向灘沖で沈んだ日が5月26日だった。これは間違いない。ただ、そこからが問題なのだ。一応、目覚めたのが今日の日の出だったので、沈んだ日の翌日と考えているが、意識が完全に飛んでいたためよく分からない。百石はみずづきが自身に向くのを待って、そっと左手で右側の壁にかかっているカレンダーを示す。随分とレトロなデザインのカレンダーだ。白黒で写真もなく日付だけが並んでいる。見やすさでは一番かもしれない。

 

「えっと・・・・。!?!? 2033年5月!?」

「ちなみに今日は27日だ」

「そんな・・・。私の認識と同じ時間軸」

 

みずづきが目にした範囲では日本と、特に技術レベルの差がありすぎてとても2033年だとは思えない。吹雪たちの艤装といい、99式小銃もどきいい、昭和中期そのものだ。

 

「次にこれだ」

 

みずづきの疑問は後回しにし、百石はカレンダーがかかっている反対側の壁を示す。そこには見慣れた東アジアの地図があった。しかし、見慣れている日本の東アジア地図との一致点は地形だけで、書かれている国名に見知っているものは何一つない。華南も台湾も中国も北朝鮮も韓国もロシアも、別の国名が掲げられ国境も異なっている。分かっていたが、こうして見える範囲だけでなく、遠い見えない範囲も自身の知っている存在がいないというとは、精神的にきつい。

 

「・・・こういうことだ。今日は2033年5月27日。君の認識も2033年5月27日。時間軸は同一だが、技術をはじめ様々な点が違う。これらを総合的に判断すると・・・・」

()()()()、ですか・・・・やっぱり」

「そういうことだ。というか、これ以上に納得のいく仮説は立てられないだろう」

 

まさか、本当にSF映画やアニメ主人公の立場になるとは・・・。まさに「現実は小説より奇なり」だ。この言葉をつくった人物は天才ではないか。

 

「だが、そう驚くことでも・・・まぁ心底驚愕したが・・・・天地がひっくりかえるような出来事ではない。前例があるしな」

「ん?」

 

さらりと、とんでもないことを口走る百石。あまりに普通すぎて聞き逃して危うく聞き逃してしまうところだったが、みずづきはなんとか受信に成功した。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 前例が、って・・・私のほかにも日本人が?」

 

百石にとってこの反応は想定内だ。慌てることもなく自然体で話す。小銃のときと立場が逆転していた。

 

「それが、“太平洋戦争”を知っている理由だよ。君は長門や吹雪たちの名前を聞いて、なにか思ったことがあるんじゃないか?」

「た、確かに、アジア・太平洋戦争で活躍した大日本帝国海軍艦艇の名前と同じで、不思議だなと感じていましたが・・・・」

「なら分かるだろ? 同じ艦娘なのだから。彼女たちは大日本帝国海軍の艦娘だよ」

 

ここに“艦娘”の定義が違う両者の誤解が露呈した。

 

「・・・・・・へ? ちょ、ちょっと待って下さい! おかしいじゃないですか? ここ並行世界ですよね? しかも2033年! 90年近く前に壊滅した旧海軍の艦娘がなんでここにいるんですか!? だいたい、特殊護衛艦システムが開発されたのは2028年ですよ!!」

 

みずづきの豹変ぶりに一同は若干身を引いてしまう。疑問のマシンガンを食らい続ける百石は後ろに下がりたいが、あいにく下は絨毯で椅子に座っているため椅子の足がもこもこの摩擦に抗えず、なかなかを後ろに下げられない。

 

「ど、どうした? 急に・・・・・。なにか俺変なこと言ったか? 君、艦娘だろう?」

「そうです」

 

即答。

 

「だったら、君も艦の転生体だろ?」

「は?」

 

これも即答。だが、あいた口がふさがらない。聞いた言葉が信じられず、まばたきを繰り返す。

(なんじゃそりゃ!!)

 

「ん? 艦の転生体、君も人の身になった生まれ変わりだろ?」

 

・・・・・頭が痛くなってきた。鎮守府の最高司令官とされる男がオカルト大好き人間や新興宗教が言いそうな危ないことを平然と口にしている。確かに、日本では神道の八百万信仰に伴い物の擬人化は昔から行われてきたが・・・。

「何をおっしゃってるんですか・・・。そんなわけないでしょう、神様じゃないんだから・・・」

「えっ!? じゃあ君は一体?」

 

今度はみずづきを吹雪たちと同じ転生体と考えていた百石が驚く番だ。みずづきは疲れてきたのか、声量がさきほどをピークに減衰してきた。

 

「人間ですよ、日本人ですよ! さっきから言ってるじゃないですか・・・。ちゃんと私には両親や兄弟がいますし、生まれ育った故郷だってあります」

「え? どういうことだ・・」

 

(それはこっちのセリフ!!!)

いきなり大海原のど真ん中にいて、未知の艦娘と接触して、戦闘して、別世界の横須賀についたら完全武装の兵士に囲まれて、並行世界に来たと分かったら、今度は神様扱い。いくら軍人とはいえ妙な疲労を感じたり、情緒不安定になるのは仕方ないだろう。

 

みずづきが百石の変な誤解をどう解くか思案していると、一連の応酬を見て艦娘としての勘からある結論を下した長門が調停に入る。

 

「提督、彼女の言う通りです。みずづきは人間であり私たちのような“艦”ではありません」

 

大きく目を見開く百石。

 

「私たちは、故郷が日本でも自らを決して“日本人”とは言いません。しかし、彼女は心のそこから自身を日本人と信じています。あの動揺は嘘ではないでしょう。それに、提督や大佐がたにはお分りにならないでしょうが、彼女は私たちと明らかに違います。言葉では何とも形容しがたいのですが・・・・・」

 

(なら、彼女は一体・・・・・)

絶対の信頼を置く長門の言葉に百石は急速に頭を冷やす。彼女は重大な事項について嘘を言わない。勘など不確実性の塊だが、これまで幾度となく彼女たちの勘によって救われてきた身としては、信じないにはいかない。だが、それだとみずづきの存在が説明できない。

 

長門は百石の次にみずづきへ言葉をかける。

 

「そう簡単に信じられないことは重々承知している。艦であった私もこの世界で目覚めたときはだいぶ混乱したものだ。ましてや、人間ならなおさらだろう。だが、提督のおっしゃったことは全て真実だ。私たちは太平洋戦争を戦った大日本帝国海軍の艦艇が人の身となり転生した存在だ」

 

長門のまっすぐした瞳と揺らぎの堂々とした言葉がみずづきの心に突き刺さる。現代の発達した科学技術の中で生きてきた身にとってはにわかに信じられないが、これを嘘と言える人間がどれほどいるだろうか。それほどの圧倒的な力が長門の瞳に言葉に宿っていた。

 

「ということは・・・・」

 

いきあたった目の前の真実に、みずづきの心拍数は急上昇する。声と手足の震えを抑えるだけで精いっぱいだ。

 

「そう、私はかつてビック7の一角に数えられた長門型戦艦一番艦の長門だ」

 

かつてない衝撃が全身を駆け巡る。目の前にいる人物が、あの長門・・。あまりの非現実さに意識が飛びそうになるが、なんとか持ちこたえる。海防軍人をなめてはいけない。と、ここで後ろに控えているそうそうたるメンツの第5遊撃部隊の姿が浮かぶ。長門が長門なら、彼女たちは・・・・。ギギギっいう効果音がぴったりな壊れかけのロボットのように後ろを振り返る。彼女たちが大日本帝国海軍艦艇の転生体ということは、例え直接戦闘を行っていた乗組員ではなくとも日本を守るため、少しでも祖国を豊かにするために戦った大先輩だ。しかも、ほとんどが熾烈な消耗戦の末、大勢の乗組員と共に2度と日本へ帰ることができなかったのだ。明らかに自分と格が違う。

 

「ええっと・・・、吹雪型一番艦の吹雪です」

 

みずづきの狼狽ぶりに同情し、苦笑を浮かべる世界を驚愕させた特型駆逐艦のネームシップの吹雪。

 

「長門の言った通りネー!! 私は金剛型一番艦、英国生まれの金剛デース!! シュパッ」

 

かっこよく榛名と共に練習していたキメポーズを初めて披露する、武勲艦金剛。

 

「・・・・一航戦の加賀です」

 

日本海軍将兵の技術と根性を世界に知らしめ、突如として栄光に幕を閉じた加賀。金剛のキメポーズを無表情で眺めている。何気に怖い。

 

「五航戦、新生一航戦の翔鶴型2番艦瑞鶴よ」

 

何故か新生一航戦をいれる、幸運艦瑞鶴。そのままみずづきを見ていればいいものをわざとらしく加賀へ視線を向ける。またなぜか金剛から瑞鶴へ視線を向けていた加賀。静かなる戦いのゴングが鳴った。

 

「重雷装巡洋艦の北上でーす。改装前は球磨型軽巡洋艦の3番艦でした~」

 

長時間たちっぱにされ、退屈さがにじみ出ている北上。そんな雰囲気を醸し出せば、厄介ごとが増えるのでできれば控えてほしい。

 

「同じく重雷装巡洋艦の大井です!」

 

少しキレ気味の、北上が大好きな大井。その目は「早く帰りたい」という燃え盛る意思が宿っている。その理由は隣でだれている相方であることは火を見るより明らかだ。だから、言わんこっちゃない。

 

ここにきても第5遊撃部隊であることに長門たちは頭を抱えるが、みずづきはそうではない。長門1人だけならなんとか持ったが、5連続コンボは許容範囲外だ。第5遊撃部隊のじゃれ合いは一切目に入らず、あまりの衝撃と非現実さに頭が機能停止し、意識が急速に遠のいていく。

(あっ、やっぱこれ夢かも)

途切れる寸前になっても、現実逃避は健在だった。




やってきました最高司令官との会談。
終始、みずづきは驚きっぱなしでしたね。

小銃のくだりは拙者のにわかぶりが露呈していないか、ひやひやしています。

普段艦これをプレイして「運」の悪さに悶えてるときはなんとも思いませんが、ふと艦これをクソ真面目に考えると・・・・・・いろいろな面で恐ろしいです。

妄想が浮かんで浮かんで仕方ないですが!

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