戦姫絶唱シンフォギア 戦姫と鬼   作:MHCP0000

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遅くなってすみませんでした。千の刃濤、桃花染の皇姫はわりとすんなり終わったんですが、そのあとにFortune Arterialに手を出したのが間違いでした

それでは第六話です。今回はシンフォギア側のキャラクターは登場しません


第六話 語られる過去

「要するに、安達さんはキョウキさんと同時期にヒビキさんの弟子になった人で、いろいろあって鬼にはならなかった人、ということですか?」

「そうそう、そんな感じ。いやあ、ヒビキさんが新しく弟子をとってたのは知ってたけど、君だったんだね」

 

あきらから紹介を受けた後、明日夢は自分とヒビキのことを快翔に説明した。そこで、快翔は以前香須実日菜佳に言われたことを思い出す

 

「あ、香須実さんと日菜佳さんが言ってた『鬼じゃないヒビキさんの弟子』って、安達さんのことですか?」

「うん、たぶんそうだね。僕にとって、ヒビキさんは人生の師匠みたいな人だから」

 

明日夢が少し恥ずかしそうに、そして誇らしげに答える

 

「最近はたちばなにも忙しくて行けてないから、また今度会いに行くって伝えておいてよ。あと、僕のことは明日夢でいいよ」

 

そう言い残すと、明日夢は機械の設定を終わらせる

 

「さあ、検査するから、そこに横になって。検査を済ましちゃおうか」

「はい、よろしくお願いします。明日夢さん」

 

明日夢に促されるまま、快翔は用意された寝台の上に横になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話 語られる過去

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天美さん、猛士に戻ったんだね」

 

検査室をガラスを隔てた部屋から見ながら、後ろにいたあきらに話しかけた。通常のMRIであれば人が付いている必要があるが、二課の設備は一歩再起の技術なのか一度設定してしまえば異常がない限りすべて機械が行ってくれる。明日夢は使うたびに、「これがほかの病院にも配備できればなあ」と思っている

 

「ええ。いろいろありまして。大学は卒業したんですが」

「そうか、俺は卒業してからまだ3年しかたってないけど、あきらさんたちはもう5年だもんね」

 

明日夢は機械の操作を終えると、あきらのとなりに座る

 

「でも、香須実さんからヒビキさんが新しく弟子をとったって聞いてびっくりしたよ」

「そうですね。キョウキくんも、後から聞いて驚いてましたから。『俺たちの苦労は何だったんですか!』って」

「あはは、確かに、京介ならそう言いそう」

 

ライバルであり、親友でもあり、でもやっぱり負けたくない人物の姿を思い浮かべながら明日夢は笑う

 

「でも、他にいなかったというのもあるんです。あのころ弟子をとれるほどの技量があって、手が空いてるのが安達くんがご存じの三人しかいなかったんです。そうなれば、必然的にヒビキさんになってしまうので」

「確かに、トドロキさんが師匠をやっている姿はちょっと想像できないかも」

 

脳裏に「そりゃないっすよ明日夢~」と情けない顔をしているトドロキが浮かぶ。あきらも同じような想像をしたのか、二人して苦笑いである

 

「やっぱり、明日夢君はそう思いますよね。でも、一番最初に立候補したのはトドロキさんだったんですよ」

「えっ、ほんとに!?」

「はい。すぐに日菜佳さんや、香須実さんに止められましたが」

 

笑みを浮かべながら話すあきらを見て、明日夢は思わずドキリとする。高校の同級生だったころから美人だったが、10年たった今でもやっぱり美人だな、と本人には到底言えないようなことを考えていた

 

「どうしましたか安達くん?」

「い、いや、何でもない、何でもないよ! それより、彼ヒビキさんの弟子ってことは、やっぱり太鼓なの?」

 

明日夢は誤魔化すように話題を強引に変えようとする

 

「え? ええそうですね。快翔くんが最初の人に教わってた頃からそうでしたし」

「そうなんだ…ってあれ?」

 

そこまで会話して、明日夢は会話の違和感に気付く。今の会話もそうだが、一連の会話の中でもどこか違和感があった。少し考えてその正体に思い至り、あきらに尋ねる

 

「そういえば、彼、快翔くんって鬼の名前はなんていうの? 天美さんも名前で呼んでるけど」

 

鬼には、それぞれコードネームが与えられる。ヒビキやイブキ、トドロキもそうだ。だが、今までの会話の中で、快翔が鬼の名前で呼ばれているのを聞いたことがない。それが違和感の一つだった

 

明日夢の問に、あきらは一瞬迷って、慎重に言葉を紡ぐ

 

「まだ、無いんです」

「え?」

 

予想外の答えに、明日夢が間抜けな声を出す

 

「快翔くんはまだ、鬼としての修業をすべて終えていないんです」

「え、でも、変身して戦ったって…」

 

そう言って、明日夢は思い出す。そういえば、あきらは自分の目の前で変身していたが、正式な鬼として認められていなかった。高二の時にあった京介も修行中だったが変身していたはずだ

 

「肉体的な面では、ヒビキさんも問題ないと言っていました。音撃や鬼闘術も問題ありません」

 

ですが、とあきらは続ける

 

「ヒビキさんが言うには、まだ精神的に甘いところがあるから、と。今回サポートの私と二人だけで行動しているのは、快翔くんの最終試験でもあるんです」

「最終、試験…」

 

明日夢は無意識に繰り返した。ヒビキは、人の心の中の迷いや悩みにすぐ気がつく。明日夢自身、それに助けられたことも痛いところをつかれたこともある。そんなヒビキが言うのだから、きっと快翔も何かしら抱えているものがあるのだろう

 

「まあ、俺にできることがあったら何でも手伝うよ。よかったら連絡して。俺もこの街に住んでるから」

 

明日夢はそう言って、連絡先をメモ用紙に書きだした。あきらという友人の助けになりたいというのはもちろんあったが、何より自分と同じように鬼になろうとしている快翔のことを応援したいという思いもあった

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

明日夢の申し出に、あきらはうなずいた

 

 

 

 

 

 

ガコン、と機械の動く音で、快翔は目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。大きな機械音を妨げるためのヘッドホンを外し、起き上がる

 

「よく寝てたね。検査は終わったよ」

 

横を見れば、そこには先ほど知り合ったばかりの明日夢が立っていた

 

「すみません、眠ってたみたいで」

「気にしなくていいよ。もう夜も遅いし。それに、MRIで寝ちゃう人って結構いるから」

 

明日夢は笑いながら返事をする

 

「天美さんから聞いたよ。最終試験だって。応援してるから頑張ってね」

「…ああ、そっか。安達先生は鬼のこととか」

 

寝起きの回転が遅い頭で考えて、快翔は答えに至る

 

「うん、全部知ってるよ。だからあんまり気にしないで」

 

明日夢はそう返事をしながらMRIから送られてきた画像を見ていく

 

「うん、異常無し! さすが、鍛えてるだけあるね」

 

そう言うと、明日夢は快翔に向き直る

 

「快翔くんは何で鬼になろうと思ったの? って、聞いてもいいのかな」

 

明日夢が苦笑いしながら言う

 

「いえ、構いませんよ。そこまで秘密にしているわけではないので」

 

MRIのベッドに腰かけ、快翔は言う

 

「あきらさんから何か聞いてます?」

 

問いかけに明日夢が否定の答えを出すと、少し考えて快翔が口にする

 

「俺の両親も猛士の人間、まあ、飛車と角ですね。あ、飛車と角ってわかります?」

「うん、大丈夫。ええっと、飛車がサポートする人で、角が鬼の人だよね」

 

以前修行していたときにもらった組織図を思い出しながら明日夢が答える。十年前のことだが意外と覚えているものだ

 

「正解です。そんで、俺は弟子の『と』でした。と言っても、まだ変身もできませんでしたけど」

 

明日夢は先ほどのあきらとの会話のもう一つの違和感の正体に気付いた。あきらは快翔の武器について「最初の人に教わっていたころから」と言っていた。つまり快翔は、ヒビキに弟子入りする前にすでに誰かの弟子だったのだ。恐らく、鬼であった親の

 

「俺、魔化魍に父さんと母さんを殺されたんです」

 

聞いた瞬間、明日夢はしまった、と思った。誰だって自分の両親が殺された時のことなど思い出したいことはない。謝ろうとした明日夢を無視して、快翔は続ける

 

「俺、そん時ついてってなかったんです。だから助かりましたけど、すごい悔しかったです。俺が変身できたら、俺が戦えたらって。だから、俺は強くなるって決めたんです」

 

グッとこぶしを握り、強く語る。その言葉に、明日夢は何の迷いも感じなかった

 

「そっか…。うん、俺も応援してるよ」

 

明日夢はポケットから一枚のメモを取り出す

 

「俺の連絡先。普段はこの街にいるから、何かあったら連絡してよ。天美さんにも同じの渡してあるから」

 

見上げる快翔に、明日夢は笑顔を返す

 

「俺はいろいろあって鬼にはなれなかったんだけどさ、こうやって会ったのも何かの縁だと思うし。困ったことがあたらいつでも連絡してよ」

「ありがとうございます。何かあったら連絡します」

 

明日夢の気遣いに、快翔は頭を下げた。ひと段落したところで、明日夢は更衣室へ案内する

 

「(強くなりたい、か)」

 

快翔は自分の言葉を思い出す。先ほどの言葉に嘘はない。

だがもし、誰かに「魔化魍に復讐したいという思いはないのか」と聞かれれば、快翔は答えることができなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではお二人とも、今日はありがとうございました」

 

基地であるリディアン音楽学院から出たあきらと快翔は、緒川に連れられて、車をとめたところまで送ってもらっていた

 

「ご承知かと思いますが、今夜見たことは…」

「わかっています。必要以上に言いふらしはしません」

 

緒川の言葉尻を、あきらが繋ぐ。本来なら『誰にも』と答えてもらわなければ困る緒川だったが、組織として相談してもらうためにも、最低限は許容せざるを得なかった

 

「快翔さんも、今日はお疲れ様でした。翼さんが行くまで、立花さんたちをありがとうございました」

「いえ、さすがに目の前で起こったことだったので」

 

三人で言い合っている間に、あきらが車を止め場所に到着した

 

「それではお二人とも、遅くまでありがとうございました」

「こちらこそ、快翔くんのことをありがとうございました」

「安達先生にも、よろしく言っておいてください」

 

最後にあいさつをして、緒川は基地へと戻っていった

 

「…ん~~~~!」

 

緒川の乗った車が見えなくなったところで、快翔が大きく伸びをする。さすがに気を張っていたのだろう。となりのあきらも快翔ほどあからさまではないものの、小さくため息をついている。

 

「あきらさん、お疲れ様でした

「快翔くんも、お疲れ様でした。初日から大変なことになってしまいましたね」

 

あきらが苦笑で返す。思えば、昼間に響に出会ってからまだ一日も経っていない

 

「そういえば、立花さんは大丈夫かな」

 

快翔が思い出したように言うと、あきらが返す

 

「彼女でしたら、快翔くんが上がってくる前に帰って行ったそうですよ。緒川さんがおっしゃっていました」

 

言いながら、車に乗り込むとエンジンをかける。セルの回る音がして、エンジンが稼働し始める

 

「さあ、帰りましょうか。夜も遅いですし、さすがに私も疲れました」

 

あきらに促され、快翔は助手席に乗る

 

「明日は『たちばな』に連絡しないといけませんね」

「そうですね。ヒビキさんに、今後の指示を仰がないと」

 

ヒビキの名前が出たところで、快翔が疑問を口にする

 

「そういえば、ヒビキさんは安達先生が医者になったことはご存じだったんでしょうか?」

「どうでしょう? 卒業式の日に進学先は一緒に報告しに行ったんですが、本当にお医者様になられたかどうかは知らないと思います」

「そうですか。じゃあ、一緒に報告しましょうか」

「そうですね…っと、つきましたよ」

 

気が付けば、車はマンションに到着していた。駐車場に止め、エレベーターで部屋のある階へと上がる。部屋に戻り、快翔、あきらの順でシャワーを浴び終わるころには、日付も変わってしばらくが経っていた

 

「それでは快翔くん、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい。あきらさん」

 

挨拶をして部屋に戻り、ベッドに倒れこむと、すぐに睡魔が襲ってきた

 

「(今日はいろいろあったな…)」

 

初めての常駐任務の初日、いきなりのノイズとの戦闘、そしてシンフォギア

考えようとしても、すでに思考は睡眠へといざなわれていた

 

「(もう、今日は寝よう)」

 

その思考を最後に、快翔は眠りへと落ちていった




この小説を書くにあたっていろいろ見返してますが、当時は知らなかった仮面ライダー響鬼の設定がいろいろ出てきておもしろいです。天美家って秋田の宗家だったんですね。それも名門の。齟齬が出ないように気を付けなければならないと思いました

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