戦姫絶唱シンフォギア 戦姫と鬼   作:MHCP0000

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それでは第二話です。


第二話 目覚める鼓動

「へ~。じゃあ、快翔さんは今日この街に引っ越してきたんですか?」

「う、うん。親の都合でね。えっと、立花さんはその制服は…」

「はい、リディアンに、今年入学したんです! ていうか快翔さん、私のことは響でいいですよ」

「そ、そうか…」

 

CDショップで知り合った少女と快翔は帰る方向が同じということで一緒に歩いていた。道すがら互いに自己紹介した

 

「(まさかヒビキさんと同じとはなあ)」

 

少女の名前は立花響というらしい。下の名前で呼んでくれといってきているが、快翔としては別人とはいえ師匠と同じ名前は呼び捨てにはできなかった。立花だと、日菜佳や香須実と被るが、下の名前で呼ぶよりマシだ

 

「ま、慣れたらそう呼ぶよ」

 

快翔は、そう言って誤魔化すのが精一杯だった

 

 

 

 

 

 

第二話 目覚める鼓動

 

 

 

 

 

 

「それでですね、その未来がですね……」

 

初対面の人相手に、よくこれだけ喋れるな、と立花響は我ながら感心した。

 

目の前の加々井快翔と名乗った少年は、不思議な感じのする少年だった。自分と同じく風鳴翼のファンだということ、特典目当てで、今はダウンロードに客を取られたCDを求めていたものの、売り切れで買えなかったこと。本人から聞いたことはこのくらいなのに、まるで以前から知り合いだったかのような安心感がある

 

あらためて響は快翔を見る。年はわからないが、自分とはそう離れていないだろう。身長は同年代の平均よりも高いだろう。響とは、頭一つぐらい違う。顔立ちはテレビで見るようなアイドルのようなイケメンではないが、少なくとも響の基準で言えば十分にカッコいい部類だった。

 

 

 

 

「ん、どうかした? 立花さん」

「い、いえ! 何でもないです。それよりもですね、こないだもうちの未来が…」

「立花さんとその未来ちゃんはとても仲がいいんだね」

 

自分が喋って、快翔が相槌を打ち、また自分が話をする。聞いている快翔も、彼女の話を聞くのはそれなりに楽しんでいたが、あまり表情が変化しないので響はそこまで気が付けなかった。

 

「(でも、何で私のこと名前で呼んでくれないんだろう? 未来のことは名前で、私も名前で呼んでるのに)」

 

自己紹介したとき、彼は一瞬驚いた表情になり、それからずっと自分のことは立花と名字でよんでいる

 

「(も、もしかして私、面倒くさがられてる?)」

 

本当は知り合いにいるからなのだが、そんなことは知らない響は、状況を打開しようと周りを見回し

 

「あ……」

 

山と積もった『灰』が目に入った。一ヶ所ではない。そこかしこに山があった。これが何を意味するか、響は、いや、この世界に住む人間はみな知っている

 

「立花さん」

「は、はい!」

 

当然、快翔にもわかっているはずだ。ノイズに対抗策はない。遭遇してしまった時にできることは、ただ逃げること。時間がたてば、ノイズは自壊し炭になる。だから、すぐに逃げなければならない

 

「俺から離れないで」

 

だが、快翔はちがった。焦っていた響とは違い、まるで何の問題もないような落ち着いた声でそういった。その横顔は、先ほどまでとは違い獲物を探すような目つきだった。だが、それでも先ほどまでの他人を安心させるような雰囲気は失われていなかった

 

 

 

 

 

魔化魍だったらもう少し早く気付けたんだけどな、と快翔は小さく舌打ちをした。

 

魔化魍は、周囲にいると何となく気配を読める。だがノイズはそうはいかない。今この瞬間、曲がり角を曲がり灰の山を見るまで気が付かなかった

 

「(まずはこの子を逃がさないと)」

 

スッと腰の装備帯に手が伸びる。出来るだけ隠したいが、いざとなってはそうは言ってられない。快翔が覚悟を決めたその時だった

 

『きゃあああああああああ!!』

 

どこかで悲鳴が聞こえた

 

「ッ!!」

「あ、オイ!!」

 

その瞬間、隣にいたはずの響が悲鳴の聞こえた方へと走っていった。快翔も慌てて後を追う

 

 

しばらく走った先にいたのは、小さな女の子だった。周囲に人影はないがノイズもいない

 

「(母親とはぐれたか、それとも…)」

 

ゾワリ、と悪寒が背筋を走る。

 

「どうしたの? お母さんとはぐれちゃった?」

 

響が問いただすと、少女は小さく首を横に降振り

 

「お使い、一人できた。逃げてたら転んじゃった……」

 

見れば、膝には確かに擦りむいた後がある。どうやら、自分が考えた事態は怒っていないらしい、と快翔は安心して息を一つついた

 

「そっか、じゃあ。お姉ちゃんと一緒に逃げよう!」

 

そう言って響は、少女の手をとって走り出す。その先は、自分達がきた方向ではない

 

「あ、待って立花さん!」

 

快翔がまた慌てて後を追う。が、快翔は嫌な予感がしていた

 

「(ここまで走ってきたけど、まだノイズは見てない。そうなると……)」

 

 

裏路地を抜けたところで、三人は立ち尽くす。目の前には用水路。そして両の壁には

 

「ノイズ…」

 

一面にノイズがいた。慌ててきた道を引き返そうとするが、そこにももうノイズが迫っている。残された道は、目の前の用水路だけだ

 

「立花さん! その子を連れて飛び込むんだ!」

 

快翔の指示と、響が行動するのは同時だった。女の子を抱き抱えると、ためらいなく用水路へ飛び込み、流れに乗って流されていく

 

そして、水の流れる音の中で響は、

 

キイーーーーーン……と、

 

澄んだ金属音が聞こえた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響に指示を出すと同時に、快翔は腰から音角を取りだし、手近な壁を叩くと、その音が鳴り止まぬうちに額の前へと持っていく。すると、快翔を炎が包む

 

「~~~~~~~…ハァッ!」

 

バッと右手を振り、炎を振り払う。そこには、快翔の姿はなく……

 

 

 

古来より人々を守ってきた、『鬼』の姿がそこにあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ざっと30体ってところか」

 

腰から音撃棒『烈光』を二本抜き、両手に構える。この程度なら、俺一人で対処できる。

 

魔化魍に比べ、ノイズには清めの音を必要とする量が少なくて済む。その分、大量に出るのでプラマイゼロだが

 

「おら!」

 

手近な一体に当たりをつけ、明月を叩き込む。ダン!という強い音とともに、ノイズが崩れ落ち、灰になる。魔化魍に比べて脆いので手応えがないのが気持ち悪い

 

「はああ!」

 

そんな不快感を掻き消すように、ノイズの群れへと飛び込み、明月を振るう。一振り、また一振りと、確実にノイズの数を減らしていく

 

物量で攻めてくるノイズは、体力勝負なところがある。だけど、そんなのはお構いなしだ

 

「こっちだって、鍛えてんだよ!」

 

 

 

 

 

 

結局ノイズを倒すのに要したのは30分ほどだっただろうか。俺の回りにはノイズの影はなく、大量の灰がぶちまけられていた

 

「ふう」

 

一息ついて、顔のみ変身を解除する。何気に、これがまた難しい。轟鬼さんなんかは、思いっきり外で素っ裸になったことがあるらしい。自分で笑いながら言っていた

 

「っと、このままじゃ帰れないよな…」

 

さっさと家に帰りたいところだが、今の俺は首から下は鬼の状態である。さすがにこの格好で大通りを歩く訳にはいかない

 

「しゃあない。迎えに来てもらうか」

 

腰から円盤を取りだし、音角で叩く。すると、溝に沿って分解されていき、やがてそれは『鷹』のような姿になる。俺たち鬼の使う式神、『ディスクアニマル』のうちの一種類、『アカネタカ』だ

 

「よろしくな!」

 

俺の声に反応し、一鳴きすると、家の方角へと飛んでいく。しばらく待てば、あきらさんが来てくれるだろう

 

「それにしても……」

 

夕方に会った、彼女のことを思い出す。いきなり走り出したのにはビックリした。彼女が話してくれたことから、ずいぶんアクティブな子だとは思ったけど、まさかあそこまでとは

 

「上手く逃げられたかな……」

 

用水路の流れに乗れば、ノイズはそう簡単には追って行けないだろう。逃げれる確率は高いはずだけど……

 

ふと、用水路の流れの先に目をやると、その先の建物の屋上で、強烈な光の柱が立ち上った

 

「?! なんだあれ!」

 

見てしまった以上、放っておくことはできない。そうするには、明らかな異常だった

 

「行くしかないか」

 

アカネタカは、俺の所に戻ってくる。それは俺が移動していても同じだ。それについてくるあきらさんも、俺のことは見つけられるだろう。

 

俺は再び顔も変身し、光のビルへと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうダメかもしれない

 

立花響は、直感的にそう思った。

 

ここまで、背中に少女を背負って逃げてこれたこと自体が奇跡に近いものだったのかもしれない。

目の前には、この狭い屋上から逃げ出すには多すぎる数のノイズがひしめき合っていた。

 

「お姉ちゃん…」

 

ギュッと、ここまで背負って逃げてきた少女が響の制服の袖を握る

 

「(そうだ、何か私にできることを…!)」

 

響のあきらめかけていた心が、再び動き始める。あの日、あの惨劇の場で、確かにもらったあの言葉は、決して消えることなく響の中にあった

 

「生きるのをあきらめないで!」

 

それは、腕にしがみつく少女に言ったものか、それとも、自分に向けて言ったことだったのか、響自身にもわからなかった。

 

 

 

ただ、確かだったのは、

 

 

~Balwisyall Nescell gungnir tron~

 

 

彼女の中に、『生きることをあきらめない』力が目を覚ましたことだった

 

 

 




聖詠はセリフだから問題ないよね?

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