戦姫絶唱シンフォギア 戦姫と鬼   作:MHCP0000

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プロローグも投稿しているので、そちらもご覧になってください


第一話 始まる物語

『俺を鬼にしてください』

 

4年前のあの時の事は、今でも鮮明に覚えている。

見舞いに来てくれたあきらさんとイブキさんに告げたあの言葉。

 

『もう誰にも、俺と同じ気持ちを味わって欲しくないんです』

 

それは本当だった。目の前でよくわからない『モノ』にされた両親。そんなものを見るのは、俺一人で十分だ。

 

だけど、それだけじゃなかった。

あのときの俺の中には、魔化魍に対する『憎しみ』があった。

 

そしてそれは、4年経った今でも、完全には消えていなかった

 

 

 

 

 

 

第一話 始まる物語

 

 

 

 

 

 

「快翔くん、もうすぐ着きますよ」

 

あきらにそう言われ、快翔は目を開けた。どうやら眠っていたらしい。

 

「よく眠っていましたね」

「すみません、昨日なかなか寝付けなくて」

 

あやまりながら寝ぼけた頭を起こす。普段は助手席でも平気なのだが、昨夜は荷造りに時間がかかったため、床についたのは普段よりも2時間ほど遅かった

 

「流石の快翔くんも、最終試験とあっては緊張してますね」

「ん、まあ、そうみたいです……」

 

運転しながらあきらが笑う。同年代の子供と比べれば幾分成熟した感じのある快翔でも、年相応な所があるらしい。恥ずかしそうにしながら、返事をする

 

「最終試験もですが、何分一人で任務に当たるのは初めてなもので」

「そうですね。でも、快翔くんなら大丈夫ですよ。他の鬼の皆さんも一人前だっておっしゃってたじゃないですか」

 

ちょうど赤信号で車が止まったので、あきらは快翔に笑顔を向けながら励ます。

 

「ありがとうございます。あきらさん」

 

快翔も笑顔で返す。出会ってすぐのころは、こうやって笑いかけられると快翔はなかなか上手く返せなかった。というのも、目の前の女性、天美あきらは紛れもなく美人なのである。まだ思春期が始まった頃の快翔にとっては、気恥ずかしさのせいで目を合わせることもできなかったほどだ

 

「ここですね。快翔くん、着きましたよ」

「あ、はい。ええっと、部屋は502でしたっけ?」

「そうですね。じゃあ、荷物を下ろしましょう。私が車から下ろすので、快翔くん、運んでもらえますか?」

 

とあるマンションの前で、あきらが車を止め、荷物を下ろしていく。いくつか下ろしたところで、快翔が持てるだけ持つと、

 

「じゃ、ちょっと運んできます。あきらさんはあと自分の分だけ持って上がって下さい」

 

と言って、両手一杯の荷物を持ってマンションに入り、階段をかけ上がる

 

「あら、お引っ越しですか?」

「はい、今度502に引っ越してきました。よろしくお願いします!」

「ご、5階?!」

 

階段で挨拶をした、古雑誌を捨てに行こうとしていた主婦が驚く。このマンションには、エレベーターが勿論ある。

 

にも拘らず、目の前の少年は両手に荷物を抱えものすごい勢いで階段をあがり、そのまま3つ上の5階まで上がろうと言うのだから当然だろう

 

「まあ、力持ちなのねえ」

「はい、鍛えてますんで!」

 

主婦の嘆息に師匠の言葉を借りて返事をすると、快翔はまた階段を登りだした。5階に着くと、すでにあきらがいた。こちらはキャリーケース一つで、エレベーターで上がって来たのだろう

 

「お疲れさまです。じゃあ、開けますね」

 

階段から現れた快翔に驚くことなく、あきらは部屋のカギを開けた。

 

「うわ、結構広いですね」

「そうですね。家具も一式有りますし、特に不便は無さそうです」

 

快翔の驚きの声に、あきらが返す。快翔の言った通り、二人で暮らすには十分過ぎるほど大きな部屋だ。

 

「常駐の時って、こんないい部屋が宛がわれるんですか?」

「いえ、私も常駐は初めてなので、わかりません」

「……あ、そう言えば、常駐って最近できたんでしたっけ」

 

快翔が思い出したように言う。『常駐』とは、魔化魍の出現が頻繁、或いは特異的な場合に、該当地域にその都度鬼を派遣するのではなく、拠点を構え一定期間鬼をその地域を担当させる仕組みである。

 

このシステムは響鬼が事務局長になるのと同時期に出来たものであり、一時的に猛士から離れていたあきらも、経験はしたことが無いようだった

 

「ええ。私が以前威吹鬼さんといたときはありませんでしたし、猛士に戻ってからは快翔くんと一緒にいましたので」

 

そう言いながら、あきらは部屋をチェックしていく。足りないものが無いか確認しているようだ

 

「ええ。特に不足しているものは無いみたいです。私はこちらの部屋を使いますが、いいですか?」

「はい、じゃあ、俺はこっちで」

 

クローゼットのある部屋をあきらが、玄関に近い部屋を快翔が使うことになったようだ

 

「ありがとうございます。では、私は荷ほどきをします。30分ほどしたら、お昼ご飯にしましょう。どこかに食べに行って、その帰りにいろいろ買い物をして帰ると言うことで」

「了解しました。じゃ、また後で」

 

そう言ってあきらが部屋に戻ったのを見て、快翔も自室に戻り、荷ほどきを始める

 

「つってもなあ。俺の荷物は服を整理するだけだし」

 

女性のあきらと違い、男の快翔の荷物整理は少ない。服の整理にしても、何故か準備されているカラーボックスに移していくだけだ

 

「というか、何でカラーボックスが……。猛士って、わりと細かいところまで手が回ってるよな」

 

きっと、機転のきくメンバーがいるのだろう。整理をしていって、ふと出かける時に轟鬼からもらった服の入ったビニールバッグに目がいく

 

「そう言えばこれも整理しなきゃ」

 

言いながら袋を開け手を突っ込むと、中には明らかに服ではない感触があった

 

「なんだこれ? ……本か?」

 

中から出てきたのは本だった。どうやら雑誌らしい。裏表紙でタイトルがわからなかったのでひっくり返すと、表表紙にはでかでかと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イチャイチャ! 巨乳パラダイス!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エロ本だった

 

 

 

 

 

「トドロキさん……」

 

この本を仕込んだ先輩の名を呼び

 

「ありがとうございます!」

 

パン!と手を合わせて頭を下げる

そして携帯を手に取り、敬愛すべき先輩に電話をする

 

『おう快翔、もう着いたのか』

「はい、ところでトドロキさん、俺の手元にあるブツなんですが……」

 

具体名は出さなかったが、それだけでトドロキには伝わったようだ

 

『ああ、気付いたか。あきらが一緒に準備するって言ってたから快翔は入れれないと思ってな。俺が準備してやったぞ』

「トドロキさん、俺、トドロキさんの後輩で良かったです」

 

いくら鬼として修業したとしても、快翔とて今年で17歳の健全な男子である。勿論我慢出来るが、有れば有ったで嬉しいに決まっている

 

『そりゃ良かった。快翔の趣味が分からなかったから、どうかと思ったけど』

「いや、もう最高っす。どストライクっす」

 

思わずヒビキに対するトドロキのような口調になりながらペラペラとページを捲る。そこには、確かにパラダイスがあった

 

『とにかく、あきらにバレないようにな』

「ええ、ちゃんと隠しときます」

「何を隠すんですか?」

「そりゃこの…………本……」

 

振り向いてはいけない。快翔は本能でそう悟った。

だが、背後から感じる圧倒的なオーラはそれを許さなかった。ゆっくりと、後ろを振り返る

 

「…………」

 

そこにいたのは他でもない、天美あきらその人だ。、だがどうしたことか、いつもの見る人すべてを癒すような笑顔は無い。氷のような瞳が見据えるのは、快翔と、その手の中にあるパラダイスだ

 

『ん、おーい快翔? どうした? そんなにいいページがあったのか?』

 

のんきな声を他所に、あきら歩みより、快翔の手から携帯を奪う。その間、快翔は全く動けない

 

『どんな写真だ? 俺にも写真送ってくれよ』

 

もちろん電話の向こうの轟鬼は、それに気付かない。怒りを抑えて、あきらは電話に告げる

 

「……この事は日菜佳さんに報告します」

『え、あきら?! ち、違うっす、これは……』

 

返事も聞かずに電話を切ると、あきらは快翔に告げた

 

「その本、どこに隠すんですか?」

「……すぐに下の雑誌置き場に捨ててきます」

 

幸い、回収には間に合ったようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「快翔くんも男の子ですから、別にそういった本を持つな、とは言いません」

「はい……」

「ですが、せめて快翔くんが自分で買えるものにしてください。まだ17歳なんですから」

「反省しております……」

 

昼食に向かう車の中で縮こまる快翔。端から見れば、年の離れた姉が弟をしかっているようにも見えるだろう。車の中なので誰も見ていないが

 

「まあ、今回はトドロキさんにも責任があるのでこの辺にしておきます……お昼はここにしましょう」

 

そういって車を駐車場にとめ、すこし歩くとそこは商店街だった。なるほど、ここなら昼食を食べた後、そのまま買い物ができる。そして二人の前にあるのは

 

「お好み焼き、ですか」

「ええ。先ほど通ったときに、美味しそうだなと思ったんです」

 

『ふらわ~』と書かれた看板の建物は、外にいる快翔にもその食欲をそそる香りを与える。

 

「では、入りましょう」

 

からから、と引き戸を開けると、中からは「いらっしゃ~い」と威勢のいい女性の声が聞こえてきた。席は空いているようだったので、二人であることを伝えて座る

 

「はい、ご注文は?」

「えっと、この肉玉そばを。快翔くんも同じでいいですか?」

「はい。お願いします」

「はいよー」

 

お好み焼きが出てくるまで、快翔はテレビに目を向ける。そして、思い出したように呟く

 

「あ、しまった。今日発売だった」

「何がですか?」

 

昼のワイドショーでは、今日発売されるCDについて情報が流れていた。快翔の声に反応して、あきらもテレビを見る

 

「風鳴翼、ですか…。そう言えば快翔くん」

「はい、ファンです。ついでに言うと、ファンクラブ会員です」

 

風鳴翼と言えば、知らない人などほとんどいないトップアーティストだ。年は快翔より一つ上の18歳。

 

「こっちに来る準備ですっかり忘れてた」

「忙しかったですもんね。準備で」

 

 

 

「はいよ、肉玉そばお待ちどうさま」

 

そこに、出来立てのお好み焼きが運ばれてくる

 

「買い出しが終わったらCDショップ回ればいいですよ。まずはお昼ご飯を食べましょう」

「そうですね。じゃ、いただきます」

 

快翔とあきらは、できたてのお好み焼きへと橋を伸ばした

 

「それにしても、快翔くんは変わっていますね。音楽は、最近はダウンロードで手軽に手に入るのに、わざわざCDなんて」

 

あきらが不思議そうに言う

 

「まあ、そうなんですけどね。でも、ファンクラブ会員がCD買うと色々特典がすごいんですよ」

 

おお好み焼きを食べながら快翔が返事をする。彼の狙いは、特典のCDにあるようだ

 

「ま、あきらさんの言う通り、CD買う人は少ないので俺みたいな人間にとっては特典がもらいやすいんですけどね」

 

そう言いながら快翔はまたお好み焼きを口に運んだ

 

だが、彼は忘れていた。ここから一番近い学校はリディアン音楽高校であり、そこは風鳴翼の通う学校である。

 

つまり、自分のような『熱狂的』なファンは、他の地域に比べると多いと言うことを。

 

 

 

 

 

「ま、また売り切れか」

 

時刻はながれて夕暮れ

買い出しを終えた快翔は、あきらに先に車で戻ってもらい一人CDショップを巡っていた。

 

「全部売り切れってどういうことだよ…」

 

だが、さすがはトップアーティスト、どこの店でも快翔が探している初回限定版は売り切れとなっている

 

「他にCDショップは…」

 

快翔は自分の携帯を使って調べる。すると、店内から一人の少女が出てきた。学校帰りなのか、制服を着ている

 

「は~あ、やっぱりどこにも売ってないよ~…。翼さんのCDどうしようかなあ…」

 

どうやら、快翔と同じものを探していたらしい。何となく親近感がわき、話しかけてみようかと思った

 

「もしかして君も風鳴翼のファンなの?」

 

うつむいていた少女は顔を上げる。ショートカットの、活発そうな少女だ

 

「もしかして、お兄さんもですか?」

 

 

 

 

 

 

これが、鬼になりたいと願う少年と、後に奏者となる少女の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




簡単にですが用語解説をつけていきます。登場人物紹介などもこちらで行っていきます。また、用語解説は不定期です

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