戦姫絶唱シンフォギア 戦姫と鬼   作:MHCP0000

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間が空いてしまい申し訳ありませんでした。

今回は久しぶりに響鬼サイドの登場人物も出てきます


第七話 構える決意

「響~、早くしないと遅刻しちゃうよ~!」

「ちょ、まってよ未来~!」

 

親友の小日向未来の言葉に、響は制服に袖を通しながら返事をする

いくら自分が昨夜遅くに帰ってきたところで、学校は休みにならないし始業が遅くなるわけでもない

 

「昨日の夜、か…」

 

ひとり呟いて、昨日の夜にあったことを思い出す。ノイズとシンフォギア、そして、鬼。響のこれまでの日常を覆すには十分すぎるほどだった

 

「ちょっと響~! 遅刻しちゃうよ~!」

「え! 待ってよ~!」

 

未来の声に、響はそれまでの非日常の思考をかなぐり捨てて、日常の思考へと戻っていった

 

 

 

 

 

 

第七話 構える決意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シンフォギア、対ノイズ用の秘密兵器か…』

「はい。あちらの組織の司令はそのように言っていました」

 

初めてこの街にやってきた翌日、あきらは昨日あったことを猛士の関東本部である『たちばな』へと報告していた

 

「はい。ヒビキさん、シンフォギアという言葉は聞いたことは…」

『いや、俺は聞いたことがないね。ノイズはどうしても担当外になっちゃうから』

 

吉野のおやっさんならなんか知ってるかも、と付け加える。あきらも予想していた答えだったため、そこまで落胆の色はない

 

「ヒビキさん、先ほど言ったあちらの提案なのですが、どうしましょうか」

 

すでにあきらは、特異災害対策機動部二課の司令、風鳴弦十郎の申し出を伝えていた。ヒビキは少し考え込んで答える

 

『あきらはどう思うんだ?』

「…協力体制をとるのは、メリットはあると思います。どうせノイズが現れれば、戦わざるを得ないでしょうし。ですが、そうなると今度は…」

『魔化魍のほうの対処が遅れる可能性がある、か』

「はい。というよりは、魔化魍の対処中にノイズのほうに呼び出される可能性があるので」

 

昨日はノイズの対処をしたが、快翔、ひいては猛士の本来の目標は魔化魍に他ならない。ノイズに気をとられて、その一方で魔化魍がのさばってしまっては、本末転倒である。かといって、ノイズへの対処が遅れてしまっては、救えるものも救えなくなる。ましてや今快翔たちのいる地域は、ノイズの発生率が異常に高いと来ている。放置しておくことはできない

 

「そう考えると、こちらの目的を伝えたうえで、最低限の協力体制をとる、というのが現実的ではないかと」

『そうか。あきらの中には、その申し出を無視する、という考えは無い?』

「…ええ。今はあちらとは協力関係を築くほうがいいと思います」

 

あきらは少し考えてそう答えた。最終的にあきらが伝えることになったが、今朝快翔とも十分に話し合った結果である

 

『そうか…。それはあきらの独断? それとも快翔と話し合った結果?』

「快翔くんとはなしあった結果です。味方であるという姿勢を見せるだけでも向こうには与える印象が違うだろうから、と。それにこの街を拠点にする以上、ある程度はあちらに行動は筒抜けでしょうから」

『へえ。あいつも結構考えてるんだな』

「はい。快翔くん、ヒビキさんが考えているよりもずっと頼れるようになってきていると思いますよ」

 

弟子の見えない成長に目を細めながらも、ヒビキは考える。特異災害対策機動部二課。あきらの話で聞く限りでは、そこまで得体のしれない存在でもないだろう。そうなれば、現場の判断を尊重するのがいいだろう。何より弟子が考えて出した結論だ。無理のない範囲でではあるが、尊重してやりたいところである

 

『わかった。あきらと快翔に任せるよ。ただし、何か手に負えなくなりそうだったら早めに連絡すること。自分にできること、できないことをちゃんと判断するのも、鬼になるのには大切なことだからな』

「はい。快翔くんにそう伝えておきます」

『ところで快翔は? 今日まだ声を聞いてないけど』

 

ヒビキが思い出したように言うと、あきらは少し困ったように言った

 

「快翔くんは……CDショップです」

『は?』

 

予想外の答えに、ヒビキは調子の外れた声をあげた

 

「昨日、結局風鳴翼のCDが買えなかったようで……」

『……』

「あ、今携帯に連絡が入りました。CD見つかったそうで、今から戻ると」

『ああそう。じゃ、よろしく』

 

何と言っていいかわからず、ヒビキは生返事を返して電話を切った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンフォギア、か。お父さんなら何か知ってるかな」

「どうだろうね。俺たちが知らないことでも知ってる可能性はあるけど」

 

電話を切ったヒビキは、向かいで聞いていた香須実に答える。香須実の父である勢地郎は現在、猛士の本部がある吉野にいる。役職が上である彼がヒビキたちより何かを知っている可能性はある

 

ノイズに関しては猛士としては最低限の接触に留めていることを考えると、そう期待はできないだろう

 

「それよりも、あいつらがいるところの魔化魍は?」

 

ヒビキが香須実に確認する

 

「何も情報は無いわ。まだ一日目だしね。それにあきらも快翔も、すぐに動けるように準備してるし」

 

そう言いながら、香須実は笑いながらヒビキに言う

 

「やっぱり、弟子が心配?」

「ん? まあそりゃあね。やっぱり弟子なんだし」

 

当然でしょ、と言うようにヒビキが返す

 

「あきらもいるんだし心配ないでしょ。それよりもヒビキさんは明日夢君のことのほうが気になるんじゃないの?」

 

あきらの報告の中には、明日夢と出会ったこともあった。明日夢が夢をかなえて医者になったと知ったとき、ヒビキの顔がほころんだのを香須実は見逃さなかった。もちろん、画面越しに会話をしていたあきらもである

 

「まあ、明日夢のことも知れたのはよかったよ。大学行ってからあんまり会えなかったからさ」

「しょうがないでしょ。医学部なんて忙しいに決まってるんだから。そんなに気になるならヒビキさんのほうから会いにいったら?」

 

香須実の提案に、それもいいかもしれない、とヒビキは思った。快翔のことも心配だったが、10年前に伝えた通り、明日夢もまたヒビキの大事な弟子なのである。一度二人とも様子を見にいってみようか

 

「楽しそうな想像してるところ悪いけど、はいこれ」

 

考えに耽るヒビキに香須実が差し出したのは、たちばなの仕事着だった

 

「そろそろお客さん増える時間だから、手伝って」

 

上階からは、繁盛を伝えるにぎやかな喧騒が聞こえていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は流れて夕刻。通常通り授業を終えた響は教室にいた

 

「はあ~、私、呪われてるかも…」

 

放課後の教室には、既に響の姿しかなかった。ほかの友人は、駅前のお好み焼き屋に行っている。が、響はそうはいかなかった。今日は、昨日の件で学校で待つように言われている。

 

「あ…」

「重要参考人として、あなたを本部へと連れて行きます」

 

人の気配に振り返ると、そこには風鳴翼がいた。昨日のように、冷たい目で自分を見ている。有無を言わさぬ雰囲気で、響をつれて、エレベーターにのる。すると、さも当然といわんばかりに昨日の手錠をかけられた

 

「なんで~!」

 

昨日と同じような悲鳴を上げるが、昨日同様に反応してくれる人物はいない。ようやくエレベーターが止まると、そこには自分と同じように連れてこられたのか、昨日出会った男性の姿があった

 

「あ、快翔さん! 快翔さんもこちらに連れてこられたんですか?」

 

自分と同じ立場の快翔を見つけ、響が駆け寄って話しかける。そばにはあきらの姿もあった

 

「やあ立花さん。今日は俺もちょっと用事があってね。それよりも」

 

快翔はそう言って、手に持っていた袋を掲げる

 

「昨日立花さん、昨日CD探してたろ? そんで、今日探してたら二つ見つけたから、立花さんに一枚渡そうと思って。もちろん、特典つきだよ」

「おお、まじっすか快翔さん! 私、めっちゃうれしいです!」

 

本人を目の前にしてやり取りするのもどうかと思われるが、そこはファン二人。周りに目がいっていないようだ

 

「あ~、君たち、そろそろこっちの話も聞いてもらえるだろうか?」

 

しびれを切らしたのか、弦十郎が二人の間に割って入る

 

「響くん、君は了子君の所に行って昨日の検査の結果を聞いてきたまえ。そして」

 

そこで言葉を切って、あきらと快翔に目をやる

 

「君たちの話は俺が聞こう」

 

そう言って、快翔とあきらを案内した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、つまり君たちは、非常時には協力するが、普段からこちらの指揮下に入るつもりはない、ということでいいのかな?」

「ええ。人間を救う、という部分であなたたちを私たちの目的は共通ですが、その手段は異なっています。お互い、最低限の協力体制をとるのが無難かと」

「それに俺たちの第一目標はあくまで魔化魍です。そこを譲るわけにはいきません」

 

ふむ、と弦十郎が腕を組む。大人特有の、思慮深さからくる威圧感がある

 

「……わかった。まあ、正直なところ、俺もそのあたりが落としどころではないかと思っていた」

 

組んでいた腕をほどき、大きく息を吐きながら言う

 

「だが、もし君たちの目の届く範囲でノイズの被害が出そうになったり、俺がこちらの戦力ではどうにもならないと判断した場合は…」

「はい。可能な限り協力させていただきます」

 

結局、快翔たちと二課の協力体制は最初にあきらと快翔が予想した通りのものになった。

 

「ところで、司令。立花さんはいいんですか?」

「む、そうだな。俺も少しあちらに行ってくる。悪いが、立花くんと一緒に送り届けたいので少し待っていてもらえるか」

 

そう言うと、弦十郎は部屋を出る。残されたのは、快翔とあきらの二人になった

 

「その辺りが落としどころ、か」

「結局、あちらの思惑通りになってしまいましたね」

 

苦笑いであきらが言う。先程の弦十郎はこの辺りが落としどころだと『思っていた』と言った。つまり、あちらからすればこの結果は想定内、あるいは見込み通りだったということだ。

 

「ナリも雰囲気も豪快で、大雑把な印象だったけど、頭もかなりキレますね。あの人」

「ええ。伊達に国家機関の司令ではない、と言うことですね」

 

だが、今回最低限の協力体制をとれたことは、いい方向に行っている、とあきらは考えていた。ああいう手合いは、敵にすれば恐ろしいが、味方にすれば頼もしい。少なくとも、後ろから斬りかかられる心配は無くなった

 

「それにしても、立花さん大丈夫かなあ」

 

快翔の声は、深く思考を重ねていたあきらを現実に引き戻した

 

「心配なんですか?」

「ええ、まあ。彼女は俺たちや風鳴翼さんみたいに自分の意志で戦う力を持った訳ではないですから」

 

昨日の響は、明らかにシンフォギアの力に振り回されていた。あれでは、戦いに出すわけにはいかないだろう。というか、何故彼女は、どこからあんなものを出したんだ?

 

「ん? 何ですかあきらさん。何か俺、おかしなこと言いましたか?」

 

みれば、あきらは考えている快翔を見て微笑んでいた

 

「いえ、ただ、快翔くんはやはり優しいなと」

「な、何ですかいきなり……」

 

いきなりほめられて、何と言っていいかわからなくなる快翔。あきらは構わず続ける

 

「いきなりではありませんよ。言ったことはなかったですが、私は快翔くんは優しい人間だとずっと思っていました」

 

快翔はさらに混乱してしまった。あきらはこういうことをハッキリ言うので、言われた方が困惑してしまう。

 

「と、とにかく! あきらさんには迷惑かけるとは思いますが、よろしくお願いします」

「はい。可愛い弟の頼みですからね、私もつき合いましょう」

「…また古い話を」

 

快翔があきらのことを姉と呼んでいたのはもう10年近く前のことである。ときどきこうやって昔のことを持ち出してくるのも、快翔があきらに頭が上がらない理由の一つでもある

 

ちょうど会話が一息ついたところで、基地内にアラームが鳴り響いた。同時に緊急事態を知らせるであろう赤色のランプも点滅する

 

「あきらさん!」

「司令のところへ行きましょう!」

 

談笑ムードをすぐに切り替え、弦十郎が向かった方向へと二人は駆けていった

 

 

 

 

「司令、今の警報は?」

 

途中にいた職員に道を聞きながら発令所にきた快翔とあきらは、指令室に駆け込む。そこには大きなモニターがあり、そこにはノイズに向けて移動中の翼が移されていた

 

「ノイズが出た。今、翼と響くんが向かっている」

「立花さんが?!」

 

繰り返しになるが、響は素人である。そんな人間が戦場に立つなど、鬼として人を守っている快翔が看過できるものではなかった

 

「あきらさん!」

「ええ。風鳴司令、出現場所を教えてください」

 

快翔があきらに確認をとり、うなずいたあきらが弦十郎に確認する

 

「行ってくれるのか?」

「幸い、現状で魔化魍の出現は見られません。それに、訓練を積んでいない立花さんを放っておくわけにはいきません。私たちも行きます」

「すまない、助かる。藤尭、現在の場所を!」

 

弦十郎に指示されたオペレーターの一人が現在のノイズの場所を告げると、確認したあきらと快翔はすぐに駆け出す

 

「いいの弦十郎君? シンフォギア装者以外の人間を戦場に送り出して」

 

去っていく二人を見送ると、了子は弦十郎に確認する

 

「俺はこの国が守れればそれでいい。そのためにはシンフォギア装者だろうが彼らの使う『鬼の力』だろうがな」

 

弦十郎はそこで言葉を切り、今度は逆に了子に問いかける

 

「むしろ君こそいいのか? 俺と違い、君の目的は研究だろう? そこに鬼の力が混ざっても」

「あたしだってそこまで馬鹿じゃないわ。もし翼ちゃんが負けちゃえば研究どころじゃないもの。それに」

 

了子の空気が、すっと変わったのに気が付いたものはいなかった

 

「シンフォギア装者に融合症例、それから鬼の力。研究対象が多いのは研究者としては歓迎すべきことだもの」

 

 

 

 

 

 

 

「快翔くん、そろそろ現場です」

 

目を閉じて集中していた快翔が、あきらの声に顔を上げる。フロントガラスからは大型のノイズが見える。状況から見て、まだ戦闘は本格的には始まっていないようだ

 

「了解ですあきらさん。近くまで来たら離れてください」

 

それと、と快翔は付け加える

 

「今回、俺は立花さんの安全を最優先にしようと思います。ノイズは一体みたいですし、風鳴翼に任せておけば問題ないでしょうし」

「私も賛成です。快翔君はそれだけを考えてください」

 

それだけ話して、快翔は目を閉じて考える。思えば、昨日から彼女(立花響)の行動は異常だった。ノイズという絶対の脅威があったにもかかわらず、彼女は悲鳴を聞きつけてそちらに駆け付けた。その上、囲まれたと見るや否や少女を連れて躊躇なく用水路に飛び込んだ。おそらく今回も、自ら出撃を申し出たのだろう。勇敢、といえばそれまでだ

 

「(だけど、彼女の場合それが過ぎる。明らかに異常だ)」

 

何か、彼女には歪なものを感じる。快翔はそう感じていた

 

「快翔くん!」

 

あきらの声に顔を上げると大きく黒煙が上がっていた。ノイズの姿も確認できる。すでに走って近づいても大差ない距離になっている

 

「あきらさん車止めて! こっからは俺が行きます!」

 

すぐにあきらが車を止めると、快翔は飛び降りてあきらに向き直る

 

「それではお気をつけて」

 

カッカッと火打石を打ち鳴らす

 

「行ってきます!」

 

右手の人差し指と中指を立てて額に当て、あきらに向けて振ると、振り返って駆け出す

 

「よっし、じゃあ、行くか!」

 

腰の装備帯から変身用の音叉を外し、左手に当てて打ち鳴らす

 

キィーーーーーン、と澄んだ音が響き渡り、額にかざすと炎が快翔を包む

 

「~~~~~~~……ハア!」

 

乾坤一擲、気合とともに腕を振り払うと、そこに快翔の姿はなく、一人の鬼の姿があった

 

 




七話まできて原作の第二話あたりまでしか進んでいないという事実
これでも削った方なんです。許してください


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