魔導王の試練場   作:とし3

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冒険者達

〝シードリーフ〟が金級冒険者に昇進して2週間が経過した。

 地下9階への突破口が見つかったわけだが、ブルーリボン所持者は4チームしか現れなかった。

 リボンの守護者の難易度もあるが、今までの深層への挑戦で多くの冒険者に死者が出てしまったせいで、蘇生後のリハビリが終わっていない事が原因だろう。〝シードリーフ〟でも盗賊のニゲラがリハビリ中で、低階層での慣らし活動ばかりとなっていた。

 

 目標を前に足踏みをしている中、〝ブルーリボンクラブ会議〟の参加申し込みが来く。

 主催者は〝黒壺〟のモナーク、白金級で8階層攻略の最前線を行っていたチームのリーダーで、地下4階の情報を流した後に〝シードリーフ〟の次にブルーリボンを獲得したチームでもある。

 

 「どうする、このブルーリボンクラブ招待状?」

 「〝黒壺〟ブルーリボン持ちを集めるってことは…多分アレだろ」

 「深層攻略の人員集め…ですかね?」

 「それより…会場の〝黄金の輝き亭〟が気になる…ずいぶん奮発した」

 

 珍しく長文を喋るソレルに皆が注目する…たしかに会場の黄金の輝き亭が気になる、食事的な意味で。エ・ランテル1の高級宿で、〝漆黒〟のモモンが、一時期定宿にしていた事でも有名だ。

 

 「全員参加?」 「ん?代表者だけみたいだな」 「…残念」

 

 「珍しいな?お前さんがそこまで積極的なのは…?」

 

 オレガとソレルの会話にニゲラが混ざる、普段は必要最低限しか行動しないソレルを不思議に思ったのであろう。普段の彼女は控えめと言うか、1歩引いているのに珍しいもの見た気分だ。

 

 「私、ハーフエルフだから…こんな機会でもないと高級店に入れない」

 

 触れにくい回答に全員が戸惑う、エルフは少し前まで帝国で被差別民に近い扱いを受けていた。

街に居るエルフの大半が法国から買われた元奴隷であり…法国であれば現段階でも迫害の対象だ。

 …更にハーフとなれば更に両者から忌み嫌われる。元王国圏ではその手の感情は薄いとは言え敷居が高いだろう。魔導王の下では全ての国民は種族差別を受けない事になっているが、人々の意識が完全に変わるのは長い年月がかかるだろう。

 

 ソレルは帝国貴族と法国に捕まり奴隷となったエルフのハーフとして生まれた。…貴族の娘とは言え所詮は亜人であり奴隷の子、後継者の待遇などは無く、美しい奴隷の商品として扱われる。

 彼女は鮮血帝の無能貴族の大粛清の中、混乱に紛れて運良く逃亡することができ、汚れた少年の格好をして帝都の影でひっそりと生きていた。

 彼女の身を救ったのは、奴隷としての質を上げるために教養や魔法を学べ、一位階魔法を習得できていた事。実力派のワーカー〝フォーサイト〟のハーフエルフが同情して簡単な仕事を回してくれていた事だ。…そのハーフエルフは任務で失敗したらしく戻って来なくなってしまったが。

 

 帝国での庇護者を失ったソレルは帝国を離れ必死に歩き、エ・ランテルに到着する。そこで待っていたのはこの地の新たなる支配者である。魔導国の王が掲げた人種も亜人も異形種も全て等しく国民と認めると言う、信じられない理想論であった…街に馴染む高位の不死者達を見る限り理想では無く現実なのであろう、不死者が生者を苦しめるでもなく人種と共存している不思議な世界。

 その理想のシンパとなったソレルは魔導王の役に立てる存在になれるよう頑張る事を誓い、まるで運命が導いたかと思えるようなタイミングで募集のかけられた冒険者学校の扉を叩く。

 そこで出自を気にしない仲間達に恵まれ(神官のマシューには1瞬怪訝な目をされたが)、友情を深め、才能を開花させ、今では第二位階魔法までを自由に操れる冒険者に成長した。

 

 オレガはしょんぼりしたソレルの頭をクシャクシャと撫でる。

 今度大きく成功したら皆で〝黄金の輝き亭〟でパーティをしようと仲間同士で誓い合った。

 

 

「待ってたぞブルーリボンの立役者である〝シードリーフ〟のオレガ」

 

〝黒壺〟のモナークが背中をバシンと叩く、ここのパーティは体育会系でこんなノリなのは覚悟してたので苦笑いで答える。それと同時に他の冒険者達からの視線がオレガに集中する、他にブルーリボンを入手した白金級冒険者のリーダー達だ。

 

 「白金級冒険者〝炎赤〟のアッシュだ、地下9階への先駆者へ敬意を」

 「白金級冒険者〝鉱石〟のアデライトだよ、初見でよくあの守護者を倒せたね…」

 

 「遅れてしまって申し訳ありません。金級冒険者〝シードリーフ〟のオレガです」

 

 握手を交わし、挨拶をする。

 両者とも白金級冒険者なだけあって品格と歴戦の戦士の貫録があった。お互いの健闘を称え、しばし歓談し食事となる。流石は〝黄金の輝き亭〟と思える料理の数々が出されオレガを驚かせた。

 上等な小麦の粉だけを使った混ぜ物無しのふかふかの白パン、魔法で作られたのではない天然の香辛料で料理された肉料理の数々。サラダに至っては野菜に【保存】の魔法がかけられているのか、冬の朝みたいにシャキシャキだ。

 

 「旨い…」

 

 それしか言葉が出て来なかった…後は無言で食べる食べる。

 懇談会なのに何故無言で飯食ってんだ!と気が付き慌てて周囲を見るも、皆が同じ状況だった。

 

 「これは…」 「流石は黄金の輝き亭ですね…」

 

 2人の白金級も驚いたように食事に夢中になっていた、その姿を〝黒壺〟のモナークがニヤニヤと眺めていた。「これが例の〝漆黒〟が定宿にしてた店のレベルだ…客も店も超一流だな。」との呟きに全員が顔を上げてモナークを見つめる。

 

 「…俺たちも超一流の部類に入らないか?合同で地下9階を突破、そして最深部を攻略する。

  そうすれば上級冒険者である〝ミスリル〟に手が届くだろう…どうだ?」

 予想はしていたが合同攻略の提案だ、オレガはチラリと他の2人の冒険者を覗き込む。

 反応は見事に分かれていた。〝炎赤〟のアッシュは単独クリアを目指し、共同歩調は合わせるが合同での攻略は断った。〝鉱石〟のアデライトは合同攻略に乗り気だった、ブルーリボン入手時に前衛1名、後衛1名と死者を出してしまい、戦力が落ちている事が決め手だったのだろう。

 他の視線がオレガの元に自然に集まる。「〝シードリーフ〟はどうなんだ?」と聞かれたので、

「攻略後の打ち上げは全員参加で〝黄金の輝き亭〟でしてもらえるのなら?」と冗談交じりで回答したら、豪胆なモナークが1瞬引きつった顔をしたが、大声で笑って背中を叩かれ歓迎された。

 

  …そ、そこまで高いのか、この店の支払いは。

 

 お互いの戦力の確認をする、〝シードリーフ〟としても死んで間もないニゲラを地下9階層に同行させるのは躊躇っている。それは2名を戦死させた〝鉱石〟も同じだろう。〝黒壺〟は死んで戦線離脱していた仲間が戻り絶好調だとは聞くが無理をさせる気は無いだろう。

 

 「〝黒壺〟は重戦士1、剣士/盗賊1、魔法使い1 僧侶1の計4人だな」

 

 「〝鉱石〟は詩人の私と、高位魔法使い、野伏/盗賊1、軽戦士の4人ね。

  …メイン盾と僧侶を殺られたのが致命的だったわ、あの糞守護者め」

 

 「〝シードリーフ〟は戦士である私と、魔法使い、僧侶と…盗賊がリハビリ中で、

  後は冒険者ギルドから預かっているマスコットの小竜が1匹ですね」

 

 総戦力11名と1匹〝炎赤〟の連中が居ないのは痛いが仕方がない。

 …8階層で現れたあの悪魔が出なければ良いのだが。

 

 

 地下9階層へエレベーターで降りる。

 どうしても同行すると言ってきかないニゲラと〝鉱石〟の2名はエレベーター前での拠点役として同行することになった。危険があれば即座にエレベーターで逃げられる位置だ。

 

 最深部への道を探すために右手の法則で道を進み、1部屋1部屋潰していく。出現する敵はどれも手ごわいが数の暴力で磨り潰していった。ここで活躍を見せたのが〝鉱石〟のアデライトの<自信鼓舞の呪歌>だ、これは約10メートル範囲の仲間全員に自信を持たせ技能が成功しやすくなる技能らしい。範囲内全体に効果の出る彼女の呪歌は、味方が多ければ多いほど優位に働く、合同攻略に乗り気だったのも納得の性能だと感心する。

 更に〝鉱石〟のウランは第三位階魔法である【火球】の使える高位魔術師であり、大勢の魔物が潜んでいるエリアを範囲魔法で焼き尽くし、数を削れる存在は心強かった。

 武の〝黒壺〟と技の〝鉱石〟と〝可能性〟の〝シードリーフ〟 彼らは迷宮攻略を確信する。

 

 「止まって」

 

 〝鉱石〟の野伏のニッケルが全体に停止をかける、扉の先に何か強力な者が居ると言うのだ。

 全員が警戒態勢を取る。オレガが盾を構え<要塞>の準備をし、〝黒壺〟のモナークが扉を蹴破り、〝黒壺〟のギーゴが突撃する。…扉の先には〝炎の上位天使〟が1体佇んでいた。

 ギーゴの剣が炎の天使を切り裂き、モナークの振るう唐竹割りの1撃で光に帰し消滅させる。

 通常の武器では効果の薄い天使系も、魔導王の修練場で産出された魔法の装備で身を固めた冒険者達には、恐れるほどの相手では無かった。

 

 「待ってくれ!魔物では無い!」

 

 掛け声と共に物陰から5人組の団体が現れる、〝炎赤〟のアッシュとその仲間達だ。

 単独パーティで挑む彼らは召喚した生物を先行させ、危険が無いかを調べた後に進むと言う攻略法を取っていた、探索に時間がかかるだろうが堅実な方法だ。

 一行はこの地でキャンプを張り情報交換をすることにした、生活魔法でお湯を温め、お茶と軽食を取り、体を休め体力を回復させる。共同歩調は守るらしく、お互いのマッピングした地図を見せ合う事で地下10階への道を探す…彼らは左回りのルートで進めて来たと言う事だが。

 

 「またしても地下へ進む階段が無いだと!?」

 

 両者の地図を見比べても地下10階に進む階段は見つからなかった。

 

 「ざけやがって!」

 

 悪質な迷宮構造に〝黒壺〟のギーゴがキレる。地下9階への道で散々苦労し、ようやく抜け道が見つかったと思えばこれだ…彼がキレるのを誰が諌められるだろうか。

「見落としが無いかもう1回調べてみましょう」とオレガが意見し、お互いの探索済エリアを調査しなおす事となったが、道中に最下層に進む道は見つからず、魔物との激戦だけが続いた…

 

 

 …そんな中、拠点から【メッセージ】で「ニゲラが行方不明になったと」救援要請が届いた。


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