魔導王の試練場   作:とし3

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雛鳥の囀り

 ――魔導王の試練場で中堅冒険者の意識が改善される。

 

 隠し扉には案内を付ける、魔物が出る扉には魔法陣を示す印を付ける、

 閉鎖する扉には閉まらないように杭や楔を徹底的に打ち込む。

 回転床には回転方向と壁に案内を記載する、落とし穴の周辺には注意書きを残す。

 ガスや煙が出る穴には詰め物をする、魔法が使えなくなるエリアには着色し警告する。

 それは冒険者の攻略への執念のようなものが見える見事な仕事であった。

 

 中堅冒険者達も最初からこのような協力体制を取っていたわけではない。

 自分たちがこそが〝魔導王の試練場〟を攻略して名を上げるのだと野心を持ち、

 お互いを敵視し出し抜こうとしていた。

 

 …だが残念な事に彼らの大半はモンスター相手の傭兵でしかなかった。

 人や動物を殺す〝殺意ある罠〟への対処する腕がある者は居たが、謎の原理で嫌がらせを仕掛ける迷宮の理不尽な罠には無力であり、次々と冒険者の心を折っていった。

 そんな彼ら冒険者達にも変化がみられた、一部の冒険者が迷宮に罠の記載を始めたからだ。罠を書き込む冒険者の数は増え、今ではパーティの枠を超え冒険者同士で攻略状況を話し合うようになっていった。

 

 アインザックはこの光景を見て、魔導王陛下がこの試練場を作った真の目的を理解した。

 魔導王陛下は冒険者が一つの目的に向け、共に行動する状況を作りたかったのだと。

 

 

 …一方その頃、魔導王の修練場では。

 

 

 (うわぁ…罠が徹底的に処理されてる!?攻略に必要だと言っても訓練にならないんじゃないか?今回は後出し修正になるから直せないけど、次回からは定期リセット日を作って罠の再配備をしたほうが良いんだろうか?)

 

 使い魔である〝ドラヤキ〟くんに意識を繋いだアインズは、迷宮の惨状に頭を抱えていた。

 

 

 

 

 ――探索を開始して16日。

 

 冒険者チーム〝シードリーフ〟は順調に迷宮の攻略を進め、地下7Fまでの探索を進める。

異常なほどの攻略速度は〝シードリーフ〟の直接の功績では無く、先輩冒険者達の恩恵によるものだが…

 

 「後方から巨人1体、推定アースジャイアント、来るぞ」

 

 後方の警戒に当たっていたニゲラがメンバーに危険を知らせる、地下7Fまで来ると流石に魔物が手ごわくなって来ていた。毒や麻痺、更には石化への対策も必要になってくるし、地上では英雄が挑むような怪物も、劣化した模造品としてだが登場する。今出現した怪物だってそうだ。

 

 戦闘は【盗賊】のニゲラが敵を誘導し、【戦士】のオレガと【神官】のマシューが連携して、狙った1撃を叩き込む。【魔法使い】のソレルが後方から状況に応じて魔法を使う事になっていた。最近では【マスコット枠】だったドラヤキくんが気まぐれで(アインズ様ログイン中)とは言え、

周囲の警戒と、後衛のソレルの護衛を担当してくれるおかげで安定感は高くなっている。

 

 ニゲラが相手の敵意を引き付け攻撃を誘導する。その隙にソレルが第二位階魔法【酸の矢】を飛ばし、巨人の右脚を酸で溶かす。魔法を無効化する敵が増えてくる下層だが、酸と言う物質召喚系での攻撃は無効化されないのは冒険者の研究で解明済みだ。

 そこにマシューが力+3の付与の付いた魔法のメイスで追撃をかける。相手は思わずよろめき、首が射程範囲に入った所でオレガが武技<斬撃>を使い巨人の頭蓋骨を両断する。

 

 巨人の頭蓋骨を叩き切ったのは、探索中に見つけた宝箱から手に入れた『ロングソード+2』と言う立派な魔剣だ、試し切りでオーガを1撃で真っ二つにした事から、オレガは「真っ二つの剣」と名前を付けて呼んでいる、パーティ全体の装備の強化も特筆すべき最近の変化点だ。

 

 今回の探索では迷宮の先駆者である白金級冒険者〝黒壺〟率いる4部隊からなる探索団に同行していた、 総勢17人+1匹の大所帯だ。前回の調査隊が12人だったことから大幅な増員をかけたと言えよう。

〝黒壺〟率いる調査隊は前回の遠征で〝黒壺〟から1名、金級冒険者チーム〝ノーベンバー〟から3名の死者を出している。地下8階まで到達するも地下9階への道を発見できず、遠征部隊の三分の一を死なす大失敗だ。命からがら帰路に付き、魔導国の迷宮管理チームに安くない金を支払い、メンバーの救助と蘇生を依頼していた。

 

 単体での調査に限界を感じた〝シードリーフ〟は〝黒壺〟が二度目の遠征を行うと聞いて売り込みに行った。彼らの使命である『停滞の原因』の解明ならば、一番先行している冒険者達に同行するのが一番早い、との結論が出たからだ。同行の要望は欠けた戦力を少しでも補いたい〝黒壺〟にも願ったりな事で即座に協力体制に入った。

 

 「ハッハッハッ、巨人を苦も無く倒すかよ…モナークの野郎が銀級を調査団に入れたと聞いた時はどうかと思ったが、大当たりの部類のようだな」

 「ええ予想外の拾い物でしたね、粗削りですが下手な金級冒険者より戦闘力はあります」

 

 声をかけてきたのは〝黒壺〟の切り込み隊長であるギーコと、参謀であり魔法使いのシィルの2人、後方の異常を感知し駆けつけた2人は、人も荷物も無事な事に安堵し、上機嫌なギーコがオレガの背中をバシバシ叩いて激励した。

 

 地下7階を最短距離で駆け抜け、地下8階への階段へ到着する。

 調査団はをキャンプを張り〝黒壺〟から翌朝挑む地下8階層の陰湿さを教えられた…

 

 耳にした地下8階の凶悪さは信じられないレベルだった…階段を下りて直後に回転床が敷き詰められ、地下7階に戻ることができない。しかも現状地下9階へも道が見つかっていない以上は、迷宮内部に閉じ込められる事になる。前回の遠征で帰還で来たのは運がよかったに過ぎない、負傷者を地下7階との間の階段で休ませていた事が幸いして、ロープを渡し、それを伝う事により回転部分を踏まずに移動することができたのだ。

 

 …新規参加者の全員が悪意満載の罠に絶句し、魔導王の悪意にドン引きしていた。

 

 (いやいやいやいや、俺だってこんな悪意全開の迷宮なんて作らないぞ!風評被害だ!?)

 

 その噂の魔導王も、ナザリック地下大墳墓の事を棚に上げてドン引きをしていた。

 

 

 

 

 「なるほどね…」

 「考えるものですなぁ」

 

 〝シードリーフ〟の面々が感心する、冒険者が迷宮に挑む影で他の業種も頑張っていたのだ。

特殊な薬剤とスライムと水を混ぜる事により強固な粘着性をもった液体が薬師ギルドと共同開発で作られる。これを床面に巻いて一定時間経過すると回転床が動かなくなる仕組みだ、荷台に積んであった大量の材料をばら撒き、次々と回転床を停止させていく。この薬剤は後に冒険者だけでなく建築など様々な分野で応用される技術となり、必要は発明の母とは言ったもので、この時期に様々な技術革新が魔導国で起きていた。

 

 万が一に備え、1チームをベースキャンプとして階段に残し調査を開始する。

魔封じの空間に入り込んで魔法が使えなくなり危険に陥るアクシデントもあったが、それ意外は順調に調査を進めた。

 

 

…しかし、それでも地下9階への階段が見つからない。

 

 「全部で地下8階までってオチでははないのか?」

 「いえ、迷宮を作り上げた魔導王陛下が全10階と述べていたみたいですし」

 「隠し扉か?…いや全部探しただろ?何かやり残しでもあんのか」

 「…理不尽」

 

 (おかしい…取り扱い説明書には全10階の迷宮ってあったんだけどなぁ…)

 

 探索3日目、何の成果も得られず。

 

 探索4日目、食糧の関係から本日の探索を終えたら帰還することになった。

 

 壁を叩き、音の反応を聞き、隅から隅までの徹底調査が行われる。

 迷宮へ泊まり込む事での疲労の蓄積、道が見つからない苛立ち…そしてそれらが招く油断。

 …迷宮の悪夢は1歩1歩滲みよってきていた。

 

 最初の犠牲者は金級冒険者チーム〝地獄の壁〟の【斥候】ジョッシュ。

 暗闇から生えた藍色の鱗を持つ剛腕に不意を突かれ、1撃でその身を肉袋と化した。

 

 2人目の犠牲者は同チームの【軽戦士】のゲッタ。

 彼が不幸だったのは真っ先にパーティの耳である斥候を失ったことであろう。

 突如現れた青ざめた蒼の皮膚を持つ巨体の悪魔に対峙し、身動きの取れない【魔術師】のミリガンの前に立ち「びびってんじゃねえ!」と気合を入れて攻撃をしかけるも、麻痺毒を受けた所に強靭なアゴで噛みつかれ死亡する。

 

 リーダーである【重戦士】グリーグは、即座に《メッセージ/伝言》のスクロールを使い、他の冒険者達に『救援求む』の短文を飛ばし。【森司祭の】デイブと【魔術師】のミリガンを庇って後退戦を始めた…

 

 

 〝シードリーフ〟が到着した時、そこは地獄絵図だった…

 仲間を呼び、数が増えたのか4体の巨大な悪魔が〝地獄の壁〟を蹂躙していた。

 

 「撤退!」

 

 地下1階で反応できなかった時の反省を生かす、停止した思考を起動させ、オレガが味方に指示を出す。《メッセージ/伝言》を使い他のメンバーに『地獄の壁全滅、撤退推奨』と連絡を入れ全力で逃げ出した。

 

 「何だよありゃ!?」

 「が、外見から判断するに高位の悪魔ですかな?」

 「ありえない、ありえない」

 

 階段がある方に悪魔が居ないのが幸運だった、悪魔どもが死体を嬲ってる間に距離を稼ぐ。

 道中、白金級チーム〝黒壺〟と合流し事情を報告しつつ階段を目指した。

 …もう1隊探索に出ているチームがある、金級冒険者チーム〝赤肩〟だ。

彼らとも合流できたのだが満身創痍だ、後方から<氷の光線>を受けたのか、所々凍傷が見える。

 

 足の負傷も酷い…このままでは追い付かれるであろう、追撃している悪魔は2匹。

オレガとモナークはお互いの目を見て頷きあう。

 

 「敵、悪魔2匹、迎撃して後方の安全を確保する!シィルは先行し階段周辺で守りを固めろ!」

 「負傷者と介添え人の方は先行して階段へ進んでください!」

 

 金・銀合同の〝シードリーフ4名〟と〝赤肩〟から1名で1体。

 白金級の〝黒壺3名〟でもう1体の悪魔と戦うことになった。

 

  【魔法盾】X4

  【悪からの守り】x4

 

 ソレルとマシューが前衛に守りの魔法をかける、出し惜しみ無しだ。

 効果が確認されたと同時に、オレガが<能力向上>の武技を使い悪魔を迎え撃った。

 悪魔の腕から放たれる剛腕の1撃を<要塞>の武技を使った盾で防ぐ。

 

 〝赤肩〟の槍使いが<剛撃>を使い、悪魔の脇の下から<穿撃>を叩き込む。

ニゲラがオイル瓶を叩きつけ、そこにソレルが<炎の矢>の呪文を撃ちこみ大炎上させた。

<炎の矢>自体はレジストされてしまったようだが、オイルの炎は効いているようだ。

 

 悪魔は邪魔な人間を薙ぎ払おうと尾撃の準備をする、しかしマシューが先を読み、尾に渾身の1撃を叩き込み動きを止めた。オレガはその隙を見逃さず暴れる悪魔の腕を狙い<斬撃>を叩き込み片腕を奪った。

 

「ギゥエエエエエェェ」

 

悪魔が奇妙な絶叫をする。

 

<双剣斬撃>

 

悪魔の叫び声と同時に〝黒壺〟の切り込み隊長、ギーゴが悪魔の首を刎ねていた。

何故こちらに?とも思ったが、白金級の冒険者達はすでに受け持ちの1匹を倒し、援護に来てくれたようだった。

 

「…チッ、遅かった、今の叫びは嫌な予感がする、仲間を呼ばれたかもしれんぞ…」

 

「申し訳ありません…」と謝罪を入れるも、お前らは十分に頑張っていると慰められた。

だが、彼の予感は的中した…階段直前になって6匹もの悪魔が追いかけて来たのだ。

…全員が必死に階段に向けて走り出す。

 

「斉射用意…放て!」 

 

〝黒壺〟の参謀シィルの指揮の元、ベースキャンプを警護していた金級冒険者〝森狩〟全員が弓を装備し悪魔を狙う。

弓の一斉斉射は、飛んでくる悪魔の羽に突き刺さりバランスを崩していた。

 

殿を務めた〝黒壺〟のモナークが階段を登り切り、全員が安堵する。

迷宮の魔物は階段を越えて移動することができず、あの悪魔も例外ではないようだ。

 

「また大きく犠牲を出してしまったな…今回の調査は失敗だ、すまない地上に戻ろう」

 

ボソリと呟いたモナークの言葉が静かな空間に響き渡る。

皆が無言で帰路の準備をする…

 

今回の遠征で稼いだ費用も、救助と蘇生費用で大半が飛ぶだろうと言う意識もあり。

全体の気持ちは暗い、特に〝黒壺の4人は〟心が折れてしまったかのようにも見えた。

 

〝シードリーフ〟だけは目的が違う、彼らの任務は『原因の調査報告』だ。

そう、彼らの任務だけは成功なのだ。だがそれを喜ぶ気にはなれなかった…今回悔しさは何時までも棘のように心に残る。

 

…彼らは新たな決意を決めた、必ず迷宮の制覇を見届けてやると!

 

 

――悔しさをバネに〝シードリーフ〟達は今日も成長を遂げる。

 

 




…SS書いて練習していたら、ますます書き方がわからなくなりました。

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