転移と思い出と超神モモンガ様   作:毒々鰻

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 オーバーロードの職業や魔法の参考にと、○○ジョンズ&○○ゴンズ(3.5)のルールを漁ってました。
 読めば読むほど、頭がこんがらがりて御座候う(涙)
 718もの魔法を使えるモモンガ様すげぇ……。


夜間飛行

 時計の針を戻しましょう。

 青年姿のモモンガ様が星空へ飛び立つ4時間前へ戻しましょう。

 

 ーーやっぱりだよ。魔法で生み出した装備なら、マジックキャスターの俺でも使用は可能だけどさ。

 御方は、死の超越者たる漆黒のローブから、漆黒に黄金のラインが入った全身鎧へ御召替えになっておいででした。御方は、並の戦士では持ち上げるのさえ大変な巨剣を、小枝のように軽々と扱っておいでです。

「ウォリャッ!!」

 モモンガ様は地下神殿の祭壇前で、素振りをなさっておられました。巨剣が振り下ろされるたびに、規模は小さくとも激しい突風が吹き荒れます。

「……駄目だな。全く話にならん」

 やがて動きを止めた漆黒の戦士様が兜から溢したのは、落胆の声に他なりませんでした。

 ーーたとえ《完璧なる戦士》を使っても、今のままでは能力値に任せて武器を振り回す醜態を晒すだけだ。早急に、経験を積まなければ危険だ。前衛後衛を問わず、プレイヤースキルの無いPCは張り子の虎にすぎないからな。

 魔法詠唱者たるいつもの姿へ戻られたモモンガ様は、迷いを振り払うべく頭を振りました。

 ーーサブキャラを単なる身元隠蔽の道具にする気はない。サブキャラをアインズ・ウール・ゴウン神話の語り部とし、メインキャラはプレイヤーを含めた全ての存在への切り札としよう。プレイヤースキルを磨き、切り換えを使いこなせば良いだけのことだ。

 何度も計算を刻み直した床を、モモンガ様は再び見つめました。

 ーー目標達成に逸りすぎて、ガチビルドとは言い難くなってしまったか? ええい、ロールを重視した結果のビルドでないのは確かなんだ。迷うなよ、俺!

 世界級アイテムの《エンブレム・オブ・ヘンシン》。それをアイテムボックスから取り出したモモンガ様は、右の掌へ押し当てました。

「我等がアインズ・ウール・ゴウンのために……“作成”!」

 

 誠実さ故に肩へ力を入れすぎれば、視野狭窄を起こすもので御座います。理解していても、この陥穽に抗うのは大変に難しいのであります。死の超越者たるモモンガ様であっても、例外ではありません。

 相変わらず表示されないコンソールの替わりに、情報が意識へ流れ込んで参ります。

 ーーぁ……しまった。サブキャラの外見を考えてなかった。

 リアルの世界で営業職として魂を磨り減らし続けた鈴木悟氏は、しみじみと呟くでありましょう。外見が悪ければ門前払いされ、内面が伴わなければ交渉失敗に終わると。つまり外見も内面も両方とも、疎かにしてはならないのです。

 ーーデフォルトの顔はプレイヤーの顔そのものって、個人情報の保護はどうなってんの? こんなに俺は……老けてたか……。

 はっきりと思い浮かんだリアルにおける自分の立ち姿に、モモンガ様は胸中で呻いてしまいました。股間はモザイク処理されていても、フルヌードですから余計に。

 ユグドラシルの古参プレイヤーだった鈴木悟氏は、若者とは言い難いものの、老け込むような年齢でもなかったはずです。にもかかわらず、疲労で歪み色褪せ始めた身体は、実年齢より一回り以上も老けて見えました。

 ーー目の下が弛みすぎでしょうよ。顎も左にズレてるし、首には皺が寄り、背中は窶れてる。うわぁああ……フゥ。

 声なき声で嘆き続けるモモンガ様の視界を、青緑色の光が覆いました。

 ーー今回は精神作用無効がグッジョブだったかな。まさかリアルでの外見を再確認して、精神が鎮静化するとは思わなかったよ。

 多くの下層労働者は、自分自身の顔や身体を意外と見ていないものです。解雇されないように最低限の身だしなみを整える時にも、己の不健康さからは器用に視線を逸らせるものです。

 ーー昔は、こんなじゃなかったよな。

 モモンガ様は、サブキャラの外見を調整なさいます。

 ーー語り部の容姿が……俺なんかが、美男子である必要はない。でも、見くびられる容姿じゃ話にならない。

 サブキャラを一度若返らせて、健康的かつ鍛え上げた20代前半の外見を、設定なさいます。肌には皺もシミも弛みも許さず、若々しい生気を漲らせました。猫背気味だった姿勢を真っ直ぐに。太っても痩せてもいないだけの体型から、ストイックに引き締めた“細マッチョ”へ。

 ーー髪型は良く解らないから、これで良いか。

 いったん丸坊主にしてから、太く硬くやや癖のあると設定した髪を6センチまで荒々しく伸ばし。

 ーー弛みは取れた。顎の……顔の歪みを正して、鼻筋をすっきりと……。出っ張りすぎた頬骨を穏やかにして、小さすぎる目をちょっとだけ……ほんの一回りだけ大きく。

 繰り返しますが、モモンガ様は語り部となるべきサブキャラの容姿には、然程拘ってなどおられません。

 傍らから餡ころもっちもちさんの幻影にエールを送られている気もしますが、無視なさっておいでです。幻影はジェスチャーだけなのに、「いっそ10歳に設定して、たっちさんとウルベルトさんの庇護欲を同時に掻き立てよう」と訴えていますから、断じて気にしてはならないのです。

 

 ーーうぉ、外見だけで20分も経過しちゃったよ。ヤバいヤバい。

 サブキャラの眼力なさが不満な御様子なれど、モモンガ様は作成作業を外見から中身へ移行なさいました。

 ーー属性が“中立”で固定されてなけりゃなあ。単独行動なら司祭戦士系を選びたかったけど、属性の問題と宗教問題の可能性を考えるとね。ドルイドは……性格的に俺じゃ無理。

 ユグドラシルの運営は、意図的にバランス感覚を欠いていたのではないでしょうか。なまじルール上の調整を図ると、いらぬ問題を発生させる自覚が有ったゆえに。

 ーー高レベルのアーマード・メイジは、中装鎧を着用しても呪文失敗確率が発生しない。レザーアーマーとサーコートを重ね着すると中装鎧扱いになる。良し、この辺りはユグドラシルと同じだ。

 嬉し気に頷いたモモンガ様は胸中で、“至高の41人”の御一方へ語り掛けました。

 ーーあまのまひとつさん……戴いてからアイテムボックスに納めたままにしてたサーコート、使わせて頂きます。

 都合の良い妄想と笑わないで下さいませ。思い出の中に生きる旧友は、モモンガ様へ確りと頷いたのですから。

 ーー魔法にも戦士職の特技にも、少なからぬ変化が多数認識できる。カジットの言っていた“武技”や“生まれながらの異能”なるものは取れないのが……残念だ。

 地下神殿の床を削ってまで繰り返した試行錯誤は正しかったようです。さもなくば制限時間内でサブキャラは完成できなかったでしょう。

 ーーNPCの知識が頭に残っていて良かった。

 各階層や各領域を守護する者達に、41人もの一般メイド達。正確な統計データは有りませんが、かつてのアインズ・ウール・ゴウンは、自作NPCに最も心血を注いだギルドと言えましょう。

 流石のモモンガ様も、全NPCのデータを正確に記憶なさっているわけではありません。しかし、御自身の手で作り上げたNPCや、特に仲の良かったペロロンチーノ氏や弐式炎雷氏が作成したNPCについては、忘れられようはずがないのです。

 ーー第六階層の双子はともかく、ナザリックのNPCは殆どが、種族レベルを主軸に据えたビルドになっていた。だからこそドッペルゲンガーとしては1レベルにすぎないナーベラル・ガンマのデータは有り難い。

 戦闘魔導師の職を本業に据えて。生存力を向上させるため、武装魔導師・四大系統魔導師・中装戦士を副業に。

 ーー特技の“大喝”を取ると、3レベル歌唱者(一般)所持と見なすか。何だよ(一般)って……。

 初めての知識に戸惑うのも、一度や二度ではありません。

 ーー位階は高くないが《炎の鞭蛇》なる魔法は面白い……って、いかんいかん。

 魔法詠唱者としての好奇心を、脱線せぬように制御なさい続けました。

 

「ギリギリだが間に合った。まずは完成に満足すべきかな」

 少量の不満を台詞にまぶし、モモンガ様は精神的な疲労感を追い払いになります。

 職業・能力から始まり、身に付ける防具・装備アイテムは勿論、変身のポーズやフレーズまでも……。総ての事項を決定しサブキャラの作成を“完了”した時、残り時間は僅か4秒でありました。

 作成途中で迷いが生じたり、サブキャラに装備させるアイテムや指輪の装備数増加用課金アイテムを《マハーカーラの双鎚》で作り直したり。やはりこの手の作業は、時間がかかるもので御座います。

 ーー結局、目元を調整する暇は無くなっちゃった。貰ったサングラスを掛けるとは言えさ。

 如何にガチビルドを実行したところで、完全に不安を消し去れるはずもありません。未来を予測し尽くし、スペックデータだけで完璧な対策を講じる。そのような所業は、たとえモモンガ様でも不可能です。

 ーー見かけはワンレンズ・サングラスでしかなくても、優れた頭部用防具であり、視覚系特殊効果を詰め込んだ神器級アイテム《サングラス・オブ・ファラオ》。使わなきゃ損だよな。……ユグドラシルではゴミ扱いだった文章翻訳効果まで付いているのは意外だったけど。

「はい、何でしょうタブラさん。サングラス掛けて外してギャップ萌え? いりませんよっ、そんな萌え要素!」

 サブキャラが優しすぎる目付きをしていると嘆き戯けて、この場にはいない仲間ならなんと言うかを想像して、モモンガ様は気持ちを切り替えました。

 ーーそれにしても、二つの身体が存在するんじゃないのか。悩みつつ、少し期待してたのが無駄になったよ。

 オーバーロードとしての身体と、人間態としての身体が同時に存在したら。非使用中の身体が勝手に動くか否かも含めて、モモンガ様は対策を考えておいででした。しかし、杞憂だったようです。

 御方は、両手を背後へ回しました。

 ーーなるほど、くっついてはいない。そもそも同空間には存在していないらしいが、“完成”してから背中合わせ的に存在するものがある。身体はどんでん返しの如く入れ替わり、同時に精神も切り替わるのだろう。

『アイテムボックスは、メインとサブの共有状態になります。ただし、使用中の装備アイテムについては、装備しているそれぞれの身体でのみ使用可能となります。この装備アイテムには、世界級アイテムも含みます』

 目録に書かれていた文が、不意に思い出されました。

 ーー贈り主へ文句は言いたくないけれど、解りにくい書き方じゃないかい?

 世界級アイテム《エンブレム・オブ・ヘンシン》を使用した痕跡は、今や右掌に印された金貨ほどの大きさをした“アインズ・ウール・ゴウンの紋章”のみ。

 ーー考えてばかりでも進展はないな。ここは実践するとしよう。地に深く潜って様子を伺っているスケリトル・ドラゴン共が、飛び出して来るかもしれないがね。

 床に刻んだ演算を魔法で消し去り、神殿の出入口を見張らせていた下位のアンデッド達が時間により消滅したのを確認し。モモンガ様は徐に作った右拳を胸へと、人間ならば心臓の上へと当てます。

「ナインズ・オウン・ゴール」

 懐かしさの籠ったフレーズが唱えられるや、薄紅色の柔らかな光が、地下神殿内を一瞬だけ染め上げました。

 斯くしてモモンガ様は、人間としての身体を手に入れたのです。

 

 時計の針を、現在へと揃えましょう。

 月と星の光を浴びながら夜間飛行を楽しむ、人間態となったモモンガ様へと揃えましょう。

 

 ーーちょっと肌寒いけど、こんなにも透き通った夜空を見られるなら、何程のこともない。そうですよね、ブルー・プラネットさん。

 離れて浮かぶ綿雲と同じくらいの高さの空で、貴き御仁は舞い遊んでおいでです。

 下方のエ・ランテルには、夜景を楽しめるほどの灯りが有りません。なれど光に乏しい城塞都市こそが、月や星々を引き立てているとも思えました。

 ーーええと……。ツキノフネホシノハヤシニコギイリテ……だったかな? もうちょっと長かったですよね、やまいこさん?

 過日ナザリック地下大墳墓第6階層で教わった内容を、思い出そうとするのですが上手くいきません。教えてくれた半魔巨人の先生が「ぴしぴし」と言っていそうです。

 ーー凄いとしか言えないよりはマシと思って下さいよ。

 唇の端を僅かに動かして、人間態のモモンガ様は苦笑を浮かべました。

 ーー本物の夜空を愛でるなんて贅沢は、リアルの超富裕層だって実現不可能でしょ?

 ドス黒いスモッグが常に天を覆い、有害物質だらけの濃霧が街中を頻繁に蹂躙するデストピア。環境汚染が凄まじく進行してしまい、防毒マスクを着用せずに外出するなど自殺行為に他ならないリアルの世界。

 ですからこの夜間飛行は、心踊らせる初体験なのです。鈴木悟氏にも、ユグドラシル内のモモンガ様にも、想像もできなかった体験なのです。

 ーー嗚呼、本当に柔らかな明るさだ……。

 モモンガ様はサングラスを、かけっぱなしだった神器級アイテムを、いったん外しました。

 天の高みから月と星が、青年姿のモモンガ様を照らします。胴・腕・腰・脚に暗青色のハードレザー系防具を装着し、更に濃藍色のサーコートを纏った青年を。そのサーコートの左胸に白色で描かれた“アインズ・ウール・ゴウンの紋章”が良く似合う、黒髪黒眼の青年を。左手には炎を模したらしい白色の短杖を持ち、何故か後ろ腰には小振りな2本の鎚を括り付けた青年を。乱暴に切り揃えられた髪型と癖のない目鼻立ちとが、良い意味でアンバランスな青年を。

「綺麗って言葉が陳腐に思えるほど、素晴らしい光景です。そしてとても悔しいことに、リアルでは取り戻しようのない光景です。そうですよね、ブルー・プラネットさん。そうですよね、皆さん」

 外したサングラスを掛けなおして、モモンガ様は語ります。この場には居ないと解りきっている、アインズ・ウール・ゴウンのメンバー達へ。

「百年以上も前の空想小説のように、異世界へ転移させられたのか。それとも、やはり悪辣な実験で仮想現実の中に閉じ込められただけなのか。ここがいったい何なのか。どうして俺なのか。さっぱり解りません」

 他には誰も居ないから、モモンガ様は月へ語りかけます。

「ああ、ここは俺の妄想が生み出した世界って可能性は無視します。俺に此処までの想像力が有ったとは思えませんからね」

 肩を竦める動作を挟み、御方の言葉は続くのです。

「カジット……こっちに来て最初に知り合った人物ですが……。彼の話によると、600年も前にユグドラシルからやって来たプレイヤーは神様になったそうですよ。……神話になって語り継がれるのは皆さんの方が相応しいのに」

 神々しい鳥人間の幻影が、居心地悪そうに震えた気がしました。白銀の騎士が、幻影らしからぬ危惧を示した気がしました。

「誤解しないでくださいね。俺は何も、この世界を征服しようってんじゃありません。ただこの世界に、皆さんの考えを広めたいだけなんです。たっちさんの正義を、ウルベルトさんの気高さを、ぷにっと萌えの知略を、……皆さんの素晴らしさを教え広めたいだけなんです。流石にペロロンチーノさんのイエス・ロリータ・ノータッチの布教は、難しそうですが」

 飛ばされた冗談に応える笑顔はまるで無く、ギルドメンバー達の幻影が動揺していると悟らされました。山羊頭の悪魔と体中に口のある肉の塊が、顔を見合わせつつ困惑しています。

 ギルドメンバーの幻影達は、全てモモンガ様の心が作り出した虚像にすぎません。賛同するも称賛するも、御方の思うがままのはずなのですが……。

「真の英雄は、アインズ・ウール・ゴウンにこそありと諭します。語るべき神話を、アインズ・ウール・ゴウンの偉業を以て塗り替えます」

 芝居がかった動作で、モモンガ様の人間態は月へ右手を伸ばします。

「聞く耳を持つ人間達へは、この姿で諭そう。人間以外でも、聞く耳を持つ者達へは諭そう。必要ならオーバーロードの姿で諭そう。俺は皆さんを、この世界の神にしたい。俺が呼ばれたように、皆さんをこの世界の“超神”にしたい!」

 青年の声は水分と塩分を増しつつ夜空へ響きます。

「自分でも大それた願いかもしれないと思います。直ぐに達成できるような内容じゃない。それでも必ず叶えて見せますから、皆さんが現実世界で成すべき事を成してからで良いですから……」

 涙声での叫びを聞くのは、照らせど語らぬ月と星のみ。

 オーバーロードの姿であったなら切実な訴えは、視界を染める青緑色の光によって、不粋に遮られていたでしょう。

「こっちの世界に……皆さんもこっちの世界に、来てくれませんか!!」

 風が吹きました。諾ではなく、否でもなく。唯々風が吹きました。

 

 肩で息をする青年姿のモモンガ様が呼吸を整え、掲げたままにしていた右手を下ろすまで、それなりの時間が必要でした。

 右手を下ろすや肩を竦め、首を振り苦笑を浮かべ、態とらしくクシャミをなさいます。

 ーー何を言ってんだよ、俺……。ともかく降りるとしよう。人間の身体だから、すっかり冷えちゃったよ。まあ、アインズ・ウール・ゴウン神話を確立するのは本気だし、もしも来てくれる仲間がいたら大歓迎なんだけどさ。

 そろそろ《飛行》の魔法も効果が切れる頃でしょう。まだ慌てるほどではありませんが、御方は綿雲の高さから地上へと向かいになられます。

 ーーどうしたものかな。先ずは人間として、このエ・ランテルで相応の知名度を手に入れても良し。オーバーロードとして、ビーストマンの様子を見に行くも良し。プレイヤー探しは、行動の土台を作ってからじゃないと……。

 へぷしょん!!

 昔のリアル世界に存在した展望台ほどの高さまで降下してきたところ、モモンガ様は掛け値なしのクシャミをなさいました。

 ダメージや状態異常を与えるような凍気は、無効化されます。人間態であっても、そういうビルドにしてあります。しかし、寒いものは寒いということでしょうか。

 ーー思ったよりも冷えた? 地に足が着いたら、取り敢えずワインボトルのアイテムを試してみよう。ひょっとしたら本当に飲めるかもしれないし。

 現実逃避気味な思考は、心の平穏さが足りない証拠でありましょう。

 ふらりふらりと戻り、共同墓地の霊廟近くに着地すると同時に、小さな地響きまでが聞こえました。

 ーー俺じゃないぞ……って、違う違う。今の地響きだったんだよな?

 明確な脅威は感じなかったものの、モモンガ様は御自身に《完全不可知化》の魔法をかけると、厄介事の起こったらしき方へ向かいます。魔法ではなく、アイテムボックスから持ち出した《飛行》のペンダントを用いて御急ぎになられます。

 夜の墓地特有の暗さはマジックアイテムによって問題にならず、ほどなく原因が見えてまいりました。

 ーー単体のスケリトル・ドラゴンだと……?

 カジットから聞いた話では、死の螺旋を起こすため既に用意したスケリトル・ドラゴンは2体とのことです。それゆえ1体だけが彷徨いている理由を解しかねました。

 先入観とは思い込みとは、まことに恐ろしいものにて御座候う。モモンガ様らしからぬ理解の遅れは、更にらしからぬ見落としへと繋がり、御方のエ・ランテル出立を遅らせる原因の1つとなってしまうのです。

 ーーこの身体で修得した魔法の、試し撃ちには調度良い的か。

 スケリトル・ドラゴンの足下には、赤髪の女冒険者が、半死半生で転がっておりました……。




 どうすれば、ガチビルドが出きるのか……。

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