転移と思い出と超神モモンガ様   作:毒々鰻

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説明回っぽいです。

今話では殆ど名前だけですが、世界級アイテム捏造。
このような内容へ怒りを覚える読者様へは、誠に申し訳も御座いません。


どちらも

 別れはいつも辛いもの。

 消えていったバダンテール親子に触発され、思い出してしまう過去もあります。我が子のために御弁当を作っている最中に倒れ、そのまま息をひきとってしまった、鈴木悟氏の御母上様とか……。

 されど視界を染める青緑色が、またしても邪魔をしてくれやがりました。

 ユグドラシル以前の過去についても、ユグドラシルでの思い出についても、それらの掛け替えなさを否定します。それらに直結した喜怒哀楽を、滅してしまおうとしています。

 ーー糞がぁ!

 モモンガ様は強く握り締めた拳を振り上げ、敢えてそこで堪えました。

 ーー怒りに身を任せても益は無い。考えろ。分析しろ。このクソッタレな事態を乗り越えろよ、俺!

 気管も肺もあらねども深呼吸を繰り返した後で、両手を顔の前にやり、結んで開いてを繰り返します。

 左右の掌をまじまじと見詰めた後に、グーパーグーパーしているオーバーロードは、ちょっぴり可愛いらしいです。モモンガ様は至って真剣であられますが。

 ーーやはり、ユグドラシルでの意図的な触覚への制限は、感じられない。それどころか、電脳法では禁じられている臭覚さえある。

「どれ……」

 腕回し、背伸び、屈伸、上体反らし。

 スポーツ前の準備体操のようですが、モモンガ様は思い付くままに身体を動かします。頭蓋骨の天辺から爪先まで、骨だけになってしまった身体の隅々まで、意識を向けて動かします。

 

「……やはりな」

 確認を終えたモモンガ様は佇み、尖った顎先を右手の親指と人差し指で摘まんで考えます。

 ーー何ら違和感を覚えない。寧ろ、リアルの鈴木悟の身体よりも、死の超越者たる身体こそが、本当の身体だとさえ思える。ムスコは……実戦前に消滅しちゃったけれど。今の俺は名乗った通り、アインズ・ウール・ゴウンのモモンガなんだな。

 御手ずからゴーストに作り替えたバダンテール母子。彼等を御身に付き従わせ続けようと欲したのも、至高のオーバーロードならば当然のこと。

 ーーユグドラシルの終了時刻から、かなりの時間が経過したはずだ。なのに飢えも渇きも疲労も無く、それを当たり前だと感じている自分がいる。精神が肉体に引きずられているのか?

 徐に腕を組んだモモンガ様は、低く短く唸ります。

 ーーPCのモモンガは、アンデッドの異形種……つまり精神作用無効の能力持ちだった。おそらく一瞬だけ視界が青緑色に染まるのは、強制的な精神鎮静化のサインなのだろう。しかし、カジット達には鎮静化など見られなかった。持続時間を短縮してでも“生前のありよう”に拘ったからか、それともプレイヤーと現地人の違いか。

 情報を入手したのに困惑の度合いは減らないことを嘆きつつ、モモンガ様は準備を始めました。この地下神殿から出る準備を。

 

『モモンガお兄ちゃん! 今の時刻は……』

 ーーぶくぶく茶釜さんが悪ノリして吹き込んだ萌えボイス……これカットできないんだよなぁ。

 時計機能がある鋼鉄製のバンド。アイテムボックスに入れたままにしてあったそれを左手首に巻き、モモンガ様は1時間毎の時報をセットなさいました。

 ーーオーバーロードの身体だと時間の経過に鈍感すぎる。時刻表示に異常が生じていないなら、ここに来てから80時間も経ってしまった。時は金なれば、一瞬の光陰も軽んずべからず。そうでしたよね、音改さん。

 この地下神殿は、エ・ランテルの住民ならば存在すら知りません。しかし、邪悪な秘密結社ズーラーノーンの拠点は、他にも多数存在します。

 カジットを改心させ帰依させたとはいえ、長々と逗留していたら誰か来てしまうかも知れません。例えば「カジっちゃん、いるー?」とか言いながら。

 時の利益を溝に捨てるは、下策で御座います。

 

「ボーン・ヴァルチャー達よ。レイス達よ。あの通路を監視せよ。侵入者があれば、殺せ!」

 地下神殿の構造なら、カジットへの下問で把握済みです。

 バダンテール親子の消滅で使えるようになったアンデッド作成を用いて、地下神殿入口までを警戒します。

 ーーペロロンチーノさんの話だと、大昔のゲームでは家捜しは必須だったそうだけど……。これは浄財だな、浄財。

 モモンガ様は、話の最中にカジットから勧められた通り、神殿の物置内にあった隠し部屋から金貨の袋を受け取りました。この地の金貨も、この先では必要になりましょうから。決して、マネーロンダリングでは御座いません。

 ーースケリトル・ドラゴン2体も、ここに居ると聞いたのだが?

 さらに、下の階に詰め込まれていたゾンビの群を魔法の使用実験を兼ねて焼き払ったモモンガ様は、聞いた話との食い違いに首をかしげました。カジットにとっては貴重な戦力の《骨の竜》2体も、そこに居るはずだったのですが。

 ーーフレンドリーファイアの確認は済ませたし、探すのは後回しだ。それよりも……。

 

 祭壇前に戻ったモモンガ様は、アイテムボックス内の確認を始めました。所有アイテムの正確な把握は、勝敗に影響しかねません。

 ーーこうなると解っていたら、もっと色々と用意しておいたんだけどな。

 装備について言えば、今のモモンガ様は、いわゆる“フル装備”状態です。最期の晴れ姿とばかりに、ユグドラシルの終了時刻を愛用の神器級アイテム類で身を固めて迎えたのが、幸いしました。ジョークを優先した装備だったなら、目も当てられなかったことでしょう。

 しかし、アイテムボックス内については、控え目に表現しても玉石混淆であります。貴重な品も有りますが、500円ガチャの外れアイテムの類も結構な数が突っ込まれています。

 ーー整理整頓は常日頃から小まめに為すべし。源次郎さん……ワカッテハイルンデスケドネ……。

 淡々と確認作業を進め、ある程度は整頓を終えたモモンガ様が手を休めたのは、15回目の時報が鳴ったときでした。

 オーバーロードに筋肉はありませんので、肩が凝ることもありません。それでもモモンガ様は、大きな伸びをなさいました。

 ーー気分の問題でしかないが、伸びをすれば少しは違うものだな。単調かつ長時間に及ぶ作業が原因である倦怠では、精神は鎮静化しないらしい。アンデッドには疲労のバッドステータスが存在しない以上、これは逆に厄介な問題かもしれないぞ。何とかしなければ……。

 不意にスルシャーナの話を思いだし、至高の御方は急ぎ頭を振りました。

「いかんいかん。さて、あと一息だ!」

 モモンガ様は、後回しにしていたアイテム群に手を付けます。ナザリック表層の中央霊廟入口で受け取った品々に。

 

「拝見するよ」

 必要に応じて《道具上位鑑定》の魔法を使うにせよ、モモンガ様が先ず取り出したのは、贈り主から渡された目録でありました。なかなかの太さがある巻物です。

「後輩プレイヤーなりの我流解説書ではあるが、手引きがあるのは嬉しいものだ」

 アインズ・ウール・ゴウンに関われたのが余程嬉しかったらしく、盛んに笑顔のアイコンを浮かべていたマミー系最上位異形種司祭戦士職の様子を思い浮かべながら、モモンガ様は目を通して行きます。

 贈られた品は、全部で41種類。それらの質には些かならず差がありました。

 《シューティングスター》1ダース詰め合わせのように掛け値なしでありがたい品もあれば、殆どデスペナ無しでの蘇生を可能にする指輪のような地味に嬉しい品もあります。複数の機能を併せ持った神器級アイテムのミリタリーサングラスなどは、実際に使用してみるまで評価を保留するべき品です。

 一方で、品数合わせとしか思えない物もありました。飲食の再現が電脳法で禁じられていたユグドラシルなのに、ワインボトルのアイテム《無限のシャンピニオン・スペチアーレ》などは、その最たる物でしょう。目録内の解説にも『コラボ系アイテムなのですが、所有者が参加可能なイベントは随分前に終了していました。贈り物らしくなくて申し訳ありません』とあります。

 ーーいやいや。お祝い気分を味わうためのジョークアイテムと思えばいい。ありがとう。

 仕分けを進めて残ったのは、目録の40番目と41番目に書かれた品です。

 

 ーー実に興味深く、直ぐにでも使いたいくらいだよ。……たが、だからこそ落ち着けよ、俺。慎重にな。

 莫大なユグドラシル金貨や大量の一般的なアイテムのみならず、素材さえ揃えればレア度の高いアイテムまで生み出し得る《マハーカーラの双鎚》。

 異形種PCへ、それまでと全く異なる職業を持つ人間キャラクターに変身する能力を与え得る《エンブレム・オブ・ヘンシン》。

 どちらも世界級アイテムであり、モモンガ様の今後を大きく変え得るアイテムで御座いますゆえ……。




鈴木悟氏の御母上様云々は、特典小説から。

モモンガ様へ次こそは、世を忍ぶ仮の姿と食事を摂る楽しみを贈りたい……。

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