転移と思い出と超神モモンガ様   作:毒々鰻

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 前回の投稿から、一年近く経ってしまい申し訳ないです。散々時間を掛けたのに、文章力が低下してる気が。サブタイも微妙にネタバレですし(汗)
 戦闘シーンの筈が……筈が……。

 注意、炎属性の魔法を少々捏造しました。


煉獄の奔流

 それは、モモンガ・モモン氏が正規の手続きを踏んで城塞都市へ御入りになられましたのが昨日になってから、一刻あるいは一辰刻を経ずに始まり終わった騒動で御座います。

 

 松明やら蝋燭やら行灯やらに夜の灯りを頼る社会では、多くの人が、日没後は早々に就寝する生活を送るもので御座います。健康のためにではなく、夜更かし用の灯り代を捻出し得ないために。

 レアなケースと思われますが……。尻を光らせるタイプの虫は、貧乏なれど勉強熱心な学徒に、近付くべきではないでしょう。袋詰めにされ、死ぬまで行灯の代わりにされかねませんから。

 これは、鈴木悟氏の生まれ育ったリアルでは、まったく無価値な知識かもしれません。しかし、城塞都市エ・ランテルにおいては、一般市民にとっての常識なので御座います。

 リアルには無い魔法による灯りが存在し、王国屈指の賑わいを見せるエ・ランテル。それゆえ、夜の都市全体から完全に灯りが絶えるということは、まず有り得ないでしょう。

 政治・軍事に関わる建物や、冒険者組合、この都市一番の宿屋などはもちろんのこと。内周部の路地も所々に立つ街灯によって、ある程度の明るさが維持されております。

 それでも、パンと室内照明とが二者択一になり得るから、且つ《光》の魔法も使えないから。大多数の市民が早寝早起きなのは、経済的な合理性の実践であると云えるのです。

 

 住民の中には、ポーション研究のためならば照明代など気にも止めない、薬師の老婆もおります。ですが、エ・ランテル最高の薬師であるその者を、一般市民にカテゴライズするのは、些か不適切で御座いましょう。

 ちなみに薬師の老婆が営む工房は、5日ほど前から灯りが消えたままです。とある村娘にのぼせ上がって家出した孫を説得して連れ戻すために、彼女は都市近くの村まで出掛けていますゆえ。

 バレアレ、もとい、ともあれ……。

 リアル風に表現すれば、午前0時30分頃。

 いかに城塞都市エ・ランテルの内周部であろうとも、深夜、彼方此方の街路に少なからぬ人々が存在するのは、異常事態なので御座います。それらの人々が、或いは路上で蹲ったままガタガタと震えていたり、或いは悲鳴を上げながら宛もなく走り回っていたりするのですから、尚更そうだと云えましょう。

 

 エ・ランテルの空を、低くゆっくりと歪に旋回しているのは、スケリトル・ドラゴンを基にした巨体。然れども基にした“だけ”であり、ただのスケリトル・ドラゴンでは御座いません。

 その巨体の大きさは、スケリトル・ドラゴンのそれよりも、一回りほど大きゅう御座います。

 その巨体に前肢は御座いません。ですので、ドラゴンよりもワイバーンと呼ぶべきでしょうか。

 その巨体は、スケリトル・ドラゴンの地味な色合いと異なり、全身が金色に淡く光っております。

 そして何より、その巨体は三ツ首で御座います。

 金色の三ツ首骨飛竜。

 悠々と羽ばたき飛ぶ巨体こそ、至高のオーバーロードたるモモンガ様が御手ずから創造なさいました、一品物に他なりません。……ナント羨マシイ……。

 第六位階以下の魔法を無効化するなどのスケリトル・ドラゴンが持つ有利な特性はそのままに、殴打武器に対する脆弱性は取り除かれています。攻撃力と防御力とHPの倍化がなされた上、やはり至高の御方が創造なされた揺らめく黒い靄のような死霊系アンデッドと融合したことで、精神を掻き乱す咆哮を放てるようになっております。完成後にモモンガ様は「低レベルプレイヤーいじめ特化モンスター」と、苦笑なさっておいででした。

 ブレスを吐く能力はあらねど、魂に牙を突き立てる大音声を撒き散らし、金色の巨体は羽ばたいております。飛んで来る矢が鬱陶しかったのか、塔一基だけを踏み潰し。そのあと三ツ首の巨体は飛ぶのみです。ちなみに今は、真北へ向かっています。

 実際の被害は小さいにも拘らず、エ・ランテル市民大多数の目には、余りにも恐ろしいモンスターとして映るようで御座います。

 

 咆哮に叩き起こされ、そのまま失神してしまった市民もいます。自宅の中で身を寄せあって震え続ける家族もいます。そして、低空を飛び続ける三ツ首の巨体に、家ごと潰される恐怖を覚え、路上に出てしまった市民も、結構な数に登るのです。

「また来るぞっ!」

 息切れしたまま尚も逃げようとして、足を縺れさせる者。

「もういやぁああああっ!!」

 腰を抜かしたまま、縋り付くべき相手を探す者。

 路上の者達は、掻き分けて進まねばならぬほど、多いわけでは御座いません。しかしながら、逃げ惑う者と蹲る者とが混在する状況は、目的地へ急ぐ者を阻害するのに充分なのです。

 ですので、至高の方々の纏め役たるモモンガ様……もとい、その人間態であるモモンガ・モモン氏は金色の三ツ首骨飛竜を見据えつつ、《飛行》の魔法によって真西へ進んでおられます。

 御心の内で、大いに叫びながら……。

 

 ーー失敗した! 失敗した! 失敗した! 寝過ごしたぁあああ!  うっかり眠ってしまったのは全部、テオ・ラケシルって奴の仕業なんだ!

 モモン氏におかれましては、どれほど動揺なさっても、視界を青緑色の光に汚されなどしません。人間の身体ゆえに、精神の鎮静化はなされません。

 それでもアインズ・ウール・ゴウンで教わったネタを心の声に混ぜて、人間態の御方は、冷静になろうとなさいます。

 ーーもしも、あまのまひとつさんがいたら「なんだってそれは本当かい?」と返してくれたかな。

 幻影ゆえに返しもツッコミも出来ず、巨蟹の怪人は案じるばかり。そんな様子を気にも止めず、モモン氏は思考なさいます。

 ーー昼間に、気疲れし過ぎたよ。

 出迎えたブリタに案内させ昨日の昼飯時に、モモン氏はエ・ランテル冒険者組合へ到着。何故か受付へ並ぶ前に、遊覧飛行やら、スケリトル・ドラゴンを粉砕した場所での魔法行使やら、絡んできたミスリル級冒険者への躾やらを済ませる必要に駆られました。無論、すべてを可及的速やかに処理なさいましたが。

 結果、冒険者組合長のアインザックから直接、長めの前置きとともにプレートを渡された次第です。先ず銅のプレートを渡され、続けてそれをミスリルのプレートと交換されるという、かなり変則的なスタートと相成りました。

 ーー紹介された中堅よりもやや上な宿屋。まさかベッドに腰掛けただけで、寝落ちするなんてさぁ! 午前0時迄に、モモンガ本来の姿を曝しても誤解されないように、布石を打つはずがさぁ!

 至高のオーバーロードたるモモンガ様は、三ツ首の一品物を創造なさる段階において、その行動に幾つもの制限をインプットなさいました。

 例えば、完成から数時間は(御方の時計で午前0時になるまで)行動してはならない、ですとか。生物・非生物を問わず己から攻撃してはならない、ですとか。攻撃を受けた場合には攻撃してきた者に反撃し殲滅せよ、ですとか。行動開始後はエ・ランテルの上空を飛び回れ、ですとか。飛行高度は、地上から65メートル程度にせよ、ですとか。光りながら空に浮かぶ人間がいれば接触せよ、ですとか。これらの他にも幾つもの制限を、それはもう慎重にインプットなさいました。

 ーー今のところアレの行動に、あからさまな不可解さは無いはず。……無いですよね、ヘロヘロさん。

 人間態ゆえの不安そうな口許が、とてもとてもキュートなモモン氏。丼三杯いける可愛らしい表情を御向けになった先では、幻影なれども古き漆黒の粘体が、やや迷いながら頷きを見せました。

 ーーそれにしても、アレの咆哮に俺が飛び起きたのが午前0時5分……。うっかり脱いでたレザーアーマーを着直そうとしたりで、宿屋を飛び出すまで時間をかける大失態……。いつでもキャラを切り換えられるとは限らないのに、油断し過ぎてたな……。おっ、そろそろか。

 アーマード・メイジたるモモン氏は、都市の内周部と外周部を隔てる境界線の真西上空にて停止し、遠方の巨影に対して身構えました。浮かぶ高さは、地表から60メートルほど。

 対して金色の三ツ首骨飛竜は、エ・ランテルの外周部を囲う分厚い城壁の最北部、その上空で方向転換しております。飛行高度は、地表から65メートルほど。

 ーー俺は都市の住民達へ今夜、想定していたよりも大きな絶望を、押し付けてしまったのかも知れない。これじゃあ、るし★ふぁーさんには遠く及ばない。

 街路に目をやれば、狂乱する人々が簡単に見てとれます。ついでに、ギルドメンバーで一番の問題児が名誉毀損だと抗議する幻影を見た気がします。

 ーーだからこそ、ここからは希望を示そう。俺達流に、アインズ・ウール・ゴウン流にな!

 

「あれは何だ?」

 彼方此方の街路で半ば錯乱する者達の内、まだ目敏さの残っていた者が空を見上げ、疑問の声を溢しました。

「炎? 人?」

 人間態の至高なる御方が、先ず御使用なさいましたのは、エレメンタリスト(ファイアー)として新たに修得した、炎属性の防御魔法で御座います。

「誰?」

 路上の市民達に、疑問が広がり始めます。

 魔法の効果により、今やモモン氏は炎を纏っておいでです。炎属性攻撃への耐性が上昇しており、不用意に近付く者に対しては逆に炎属性のダメージを与えることでしょう。通常の防御力も、若干ですが上昇しています。

「駄目だ! 魔術師かもしれないけど、駄目だ! 飛んでるデカイのが骨の竜の親戚なら駄目だ! 骨の竜に魔術師は敵わない。俺は詳しいんだ!」

 怯える者は、怯え続ける理由を口にするもの。

 元冒険者なのか、それともたんなる知識自慢なのか。駄目を連呼する者の周囲で、更なる怯えが生み出されようとしました。

 実際、使われた防御魔法の効果には、殆ど意味など有りません。それでも、効果の無い魔法を無目的に使用するなど、モモン氏に限って有り得ません。

 この場合の目的はふたつ。

 ひとつは、深夜の夜空に浮かぶモモン氏を、エ・ランテルの市民達が見つけ易くすること。

 そしてもうひとつは、三ツ首の骨飛竜をして、モモン氏へと進路を定めさせること。

 ーー制約によってアイツは先制攻撃が出来ない。ウォー・ウィザードの俺と、オーバーロードの俺が、同一の存在だと見抜く知能も無い。

 再びエ・ランテルの中心へ向かおうとしていた三ツ首の骨飛竜は、己とほぼ同高度に浮かび、地上よりも遥かに力強い光炎を纏うモモン氏に気が付きました。ぶれること無く、御方を目指して飛び始めます。

 ーー良し、これでアイツは真っ直ぐに飛んで来る。ペロロンチーノさんの半分で良いから、俺にも飛行技術が有れば、ハラハラしないで済んだのに。

 吐いた溜め息の先で、ふんぞり返った脳天に、ピンクの肉棒姉御からチョップを喰らうバードマンの幻影が、涙目となり散りました。

 

 骨飛竜が迫ります。

 ーーでは、こっそりと。

 モモン氏は、広範囲に声を伝えるだけな《拡声》の魔法と、無詠唱で幻術系の魔法を、立て続けに行使なさいました。

「炎よ、浄罪の門となれ!」

 モモン氏の声が響きます。御声は魔法に乗り、三ツ首の骨飛竜を恐れる者達の心に届きます。

 狼狽え走り回っていた者は、足を止めました。怯え騒ぎ立てていた者は、口を閉ざしました。蹲り震えていた者は、頭を抱える腕を解きました。

 未だ青ざめながらでも、恐る恐る視線を空へと上げた者達は、見たのです。

 真っ赤に燃える炎が夜空で、曲線を描き、直線となって結び、不可思議な文字と絵を浮かび上がらせ、門を形作ったのを。エ・ランテルの城門を上回る大きさのそれが、燃え光り闇を祓うのを。炎を纏い夜空に佇む貴人の、金色の三ツ首骨飛竜を討伐せんとする意志を!

 ーーすべての希望を対価にして潜る門みたいな炎製の門……。デザインを、タブラさんに叱られそうだな。

 蛸頭をした溺死体の幻影が、この場合は深く追及しないと、肩を竦めました。

 モモン氏は大仰な身振りで、右掌を天に翳しました。

 ーーウルベルトさん……。ここぞという時、オリジナルの詠唱を欠かさなかった貴方の創造力を貸してくれ!

 喜んでと頷いた山羊頭の悪魔は、幻影らしからぬ力強さで、やはり右掌を天に翳します。

 遠カラン者ハ音ニモ聞ケ、近クバ寄ッテ目ニモ見ヨ!

「生死は、巡る命の輪廻。知恵持ち生きるべし。道理持ち死すべし。怨みを枷に滞る大罪など、地獄の業火にて滅却するのみ」

 エレメンタリストのモモン青年は、剣印を結んだ左手を振るいます。ウルベルト氏の幻影も同様に。いつの間にか現れた、全身口だらけの肉塊な魔法剣士殿の幻影も、右手の剣を天に翳しながら、左手を振っています。

 路上の者共は声もなく、見上げるのみで御座います。無知蒙昧の輩どもゆえ、騒ぎ立てそうなもの。駄目を連呼した者など、殊更に大声を上げそうなもの。しかし、嘲る者など皆無で御座います。

 塵芥に等しい者共なれど、至高なる御方の声が心に届けば、理解し得ぬ事態の予兆程度は感じられるものでありましょう。

 モモン氏と迫る骨飛竜との距離は、残り100メートル。

「いまこそ朕が、地獄なり!」

 我ではなく朕と書いて、われと読む。虫けらにも劣る者共であっても、至高なる御方の偉業を目撃すべく、本能的に襟を正すものでありましょう。

 残り41メートル。

「マキシマイズマジック!」

 夜風を切って降り下ろされたのは、御方の人間態と二つの幻影の右手。

 残り……。

「インフェルノブラスタァアアア!!!」

 炎の門が輝き、轟いたのは裂帛の怒号!

 炎の門に触れた飛竜へ、放たれたのは貫き焼き尽くす熱光線!

 天と地を紅色に染め上げた光炎は、たちどころに金色の三ツ首骨飛竜を飲み込み、抵抗する間もなく焼き、滅し、蒸発させ、北東の空へ飛び去ったので御座います。

 第九位階魔法《煉獄の奔流》。

 それは大口径の熱光線によって、炎属性のダメージを与える攻撃魔法。個人に与えるダメージ量は同じ炎属性攻撃魔法の《朱の新星》にかなり劣るものの、熱光線は貫通属性を持つため、射線上の全ての対象にダメージを与え、相手が巨体の場合には多段ヒットするのだそうで御座います。なお熱光線の直径は、エレメンタリスト(ファイアー)のレベルに比例するとのこと。この魔法について、嘗て弐式炎雷氏が「前方一直線型のマップ兵器みたいなもんだよねぇ。俺はスキル使って避けたけどさ」などと評していたのを、ギルド長たるモモンガ様は御記憶しておいでです。一般論なれど炎属性はオーバーロードの弱点属性で御座いますゆえ。

 

 烈光が収まり、炎の門も消え、城塞都市エ・ランテルに夜が戻った時、市民達は気が付きました。

 忌まわしく魂を蝕む咆哮は、既に聞こえませぬ。路上から見える範囲の空を、一生懸命に探しても、恐るべき金色の巨体は見当たりませぬ。

「怪物が……消えた? 助かったのか?」

 都市のそこかしこで溢れた呟きは、人間達の矮小な認識です。

 金色の三ツ首骨飛竜は、エ・ランテルの住民達を、片端から喰らっていたわけではありません。都市そのものを、手当たり次第に破壊していたわけでもありません。

 それでも、頭上の脅威が消滅したのだと理解して、人々は歓声を上げました。

「私達、助かったのよ! 嗚呼、助かったのよ!」

 安堵の涙を流す者あり。名も知らぬ相手と肩を叩き合う者達あり。そして、まだ元気を残した者のなかには、空に佇んでいたモモン氏が動き出すのに合わせ、歩き出す者もありました。

 

 ウォー・ウィザードのモモン氏は、飛んで冒険者組合へ向かいます。

 ーー大成功ではないにせよ、大失敗でもないはずだ……多分。

 ひと仕事終えた直後には、反省点ばかりが思い浮かぶもの。向上心が強い御方ならば、自ずと取り零しに目を向け、次への教訓となすのが当然で御座います。

 ーーアインズ・ウール・ゴウンは異形種のギルドなのに、この都市で俺がオーバーロードの姿を見せたら……。間違いなく、今夜の騒動が台無しになる。寝落ちしなければ……いや、違うか。

 夜風を切り捨て、溜め息をひとつ。

 ーーモモンガ・モモンの切り札は、スルシャーナと異なる“死の神”を降臨させる……うう……。自分で考えてて恥ずかしくなってきた。しかし、そもそもだ。六大神の最期はどうだった。

 頭を振った悩める青年のモモン氏は、反省が後悔へ退行するのを止めました。

 ーー浮き足立ってる自覚も無しに、準備不足のまま始めたイベントが、成功する筈もない。この世界の人間にとってアンデッドは、やはりモンスターなんだよな。ついつい最初の交流を基準にしてしまうけれど、カジットは例外中の例外。

 オーバーロードたるモモンガ様。至高の御方をモンスター扱いする輩に、舌など必要御座いません。薄汚い口内のそれは、ひと摘まみずつ、爪で千切り取られるべきです。

 ーー逆に考えるんだ。このエ・ランテルではオーバーロードの俺を、直ぐに披露しなくても良いんだって。

 そろそろ冒険者組合の建物が見えてきました。

 ーー相手がアンデッドであったとしても、差し伸べられた手を掴みそうな国。……竜王国か……。場合によっては、夜が明けたら宿屋から“翡翠輝石の大駒”を回収して、さっさと……って、人が多い?!

 冒険者組合の建物前は、広場になっています。普段なら誰もいない時刻なのですが、今夜は冒険者達が屯していました。全員ではないにしても、エ・ランテルを拠点にしている冒険者の多くが、この広場にいると思われます。

 ーー中にも入らず、何故?

 人間態でも100レベルらしい聴力を誇る耳が、「確かに炎を纏っている」の声を地上から拾いました。モモン青年は炎属性の防御魔法を解除し、広場の真西端へゆっくりと降下なさいました。そこが一番空いていましたので。

 ーーあっ、これは、ヤバい状況だ。

 モモン氏を見上げる冒険者達、中でも魔法詠唱者達の目が、キラキラしています。無理もありません。彼等彼女等にしてみれば、モモン氏は凄まじい実力を持つ魔導師なのですから。

 ーーこれは、気の利いたスピーチを求められるパターンだ。

 降り立った場所の近くに偶々いた、四人組で銀級の冒険者達。その内で手に杖を持つ、中性的な顔立ちの若者が尋ねてきました。

「あっ、貴方はいったい……」

 ーーこれは困ったぞ。想像していたよりも、与えた印象は悪くなさそうだ。それだけに、人間関係は最初が肝心。ギルドメンバーの素晴らしさを話して聞かせるテストケース。それを始めるために、この瞬間がとても大事!

 質問をしてきた若者は、チームのリーダーらしい青年から、「初対面の相手に名乗りもせずに」的な説教をされています。ですので、少しは時間が有ります。しかし、余りにも短い時間です。

 名前を告げれば済む問題ではありません。鈴木悟氏が飛び込み営業で使っていた口上は、今後を考えれば避けるべきでしょう。

 ーー衆目を集めるのは、早くても明日の朝になるだろうと思ってた。ギルドメンバーを神をも超える神として、英雄っぽく語るため……。ええいくそっ、焦るなよ俺!

 オーバーロードの御姿ならば、感情が昂りすぎる事態は有り得ませんものを。

「その人が、モモンさんよ」

 あがり気味な至高のモモン青年を救い申し上げたのは、組合入口の近くに立っていた、赤髪の女冒険者でした。

「エ・ランテルに舞い降りた炎の英雄モモンガ・モモン、その人よ!」

 軽い深呼吸をする余裕ができ、今は人間態の御方は、胸中で呟きます。

 ーー真に英雄を語り得るのは、英雄として振舞い得る者のみ。ましてや神を超える神を語るには……。これは相当に、この都市で練習しないと……。ブリタには、後で礼を言わないといけないな。炎の英雄なんてのは、盛りすぎな気がするけどさ……。

「モモン!」

「モモン!」

「モモン!」

「モモン!」

 冒険者達に囲まれるのみならず、広場まで歩いてきた市民達にも囲まれて、その名を讃えられ……。青年の姿であるモモン氏は、少しだけ頬を赤くなさっておいでです。

 一ヶ月くらいエ・ランテルに滞在するのも悪くないと、御考えになりながら。




 今更ながら、人間態の名をモモンカ・イザースカルにすれば良かったかなと妄言中w

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