ドォォォン!
激しい爆発音が鳴り響く。
衝撃が発せられた現場には幾つもの小規模なクレーターが出来上がっている。ここは現在戦闘が行われていた。
そこには銀色の髪をなびかせた男と紅髪の青年が戦っていた。
「ん~、荒々しくも力強い魔力だ。少し見ない間に成長したね、グレモリー君」
「冗談がきつい。飄々とした姿でそう言われても実感がありませんよ」
「私としては嫌味でもなく事実を言ったまでなんだけどな~。グレモリー君はまだ若い、これからまだまだ伸びていくさ」
「イースレイさん、そのグレモリー君って言うのいい加減辞めていただけませんか?」
両者は戦闘を行いながらも会話を続ける。今こうして話をしている間にも氷と滅びの魔力を互いは打ち合っている。
「何でだいグレモリー君」
あいも変わらず君呼びをすることに苦笑する紅髪の青年。
「……そうだね、君が私に一人前だと認めさせることができたらやめてあげてもいいよ」
「一人前って………」
何に対しての一人前か聞きたくなってくる。そしてその一瞬の雑念が隙になる。
「戦闘中に考え事は良くないよ」
言葉を言い終えると同時に銀髪の男は紅髪の青年の目の前に移動する。
「くっ!」
紅髪の青年は驚きながらもすぐに迎撃を行おうとするが
「遅い」
銀髪の男は右腕を振り抜き紅髪の青年を殴り飛ばす。時間にして約1秒と言うところだろう。たった1秒の間に相手に近づき相手が知覚する前に攻撃を行う。こんな離れ業を行うことができる悪魔はそうそういないだろう。
紅髪の青年は殴り飛ばされすぐさま起き上がり反撃を試みようとするがそれよりも早く目の前に銀髪の男が接近し、追撃を繰り出す。
「昔から言っているだろ?君は魔力発動までに時間が掛かり過ぎるって。それに」
銀髪の男はうっすらと笑みを浮かべながら指先を動かし紅髪の青年を凍結させていく。
「甘すぎる」
「ぐっ、がぁっ!」
紅髪の青年は凍結させられた箇所を自身の魔力によって氷のみを器用に消滅させていく。
「その甘さ戦いの中では命取りになると教えただろ?」
それよりも早く紅髪の青年の身体を凍結させていく。紅髪の青年が氷を消滅させていくよりも早く銀髪の男は凍結させていく。紅髪の青年の刃からギリッと言う音は聞こえる。その瞬間紅髪の青年から赤い魔力が体中から発せられる。それを事前に予想していたかのように銀髪の男はその場から距離を開け目の前の敵を観察する。
「はあ……はあ……」
「驚いたね。まさかあんなゴリ押しのような方法で拘束を解こうとするなんて」
「できればやりたくなかったんですけどね」
紅髪の青年は息を切らし、今にも倒れそうな体に鞭を打ち眼前の敵を見据える。彼は理解していた。少しでも目の前の相手から視線を逸らすとことは自分の敗北を意味することを。事実、銀髪の男は飄々としながらも視線だけは逸らさず気配を殺している猛獣の様に紅髪の青年を見据えている。少しでも気を抜けばその瞬間氷のオブジェが一つ出来上がるだろう。
そんな緊張が張り詰めた空間、どちらかが動けば再び戦闘が始まるだろう。
紅髪の青年は迷っていた。ここは自分から仕掛けるべきか、それとも相手の出方を待つべきか。前者を選んだ場合、主導権を握ることができるかもしれないが逆に相手はそれを予想し、こちらを誘っているかもしれない。勿論幾多もの罠を仕掛け。
後者の場合は言わずもがな。自身よりも格上の相手に先手を譲るなどもってのほかだ。確実にこちらの息の根を止めにかかってくるだろう。それなら先にこちらから仕掛けた方がいいのではっと考える。しかし、紅髪の青年は自分が攻撃をするにしてもどう攻撃をすればいいのかわからなかった。先程の拘束から抜け出すために多量の魔力を消費してしまった為、中距離からの攻防戦では先にこちらが魔力を尽きてしまう。かといって接近戦を行おうものなら軍配は相手に上がるだろう。此方のアドバンテージは全てを消滅させることのできる滅びの力唯一つだけだ。それすらも目の前の相手には発動速度で負け、発動させる頃にはすでに相手が攻撃をした後になる。どう考えても後手にしかならない。
そんな紅髪の青年の葛藤を知らない銀髪の男は今ある欲が働いていた。その欲は彼に襲い掛かる。彼はその欲に呑まれある言葉を発した。
「グレモリー君、眠たくなってきたから今日は此処までね」
「はっ?」
銀髪の男の緊張感のない一言によって先程まで張りつめていた緊張が途切れ紅髪の青年は間抜けな声を出す。そんな紅髪の青年の事を露知らず、ふわぁ~っと大きな欠伸をする。眠気のせいかその瞳からは涙がこぼれそうになっている。
「ね、眠たくなってきた?」
紅髪の男性は自分の聞き間違いじゃないか確かめるために銀髪の男に確認をする。
「そ、今日は朝早かったから眠っ……」
かれこれ30分近く戦っているものが言う言葉ではないが、銀髪の男は流れ落ちそうな涙をふき、今にも落ちてしまいそうな瞼を擦りながら答える。余りの緊張感のない言葉に紅髪の男性は毒気を抜かれ大きな息を吐く。
「模擬戦中に眠たいって………私との戦闘は眠気冷ましにもならないんですか?」
紅髪の青年は半ば呆れながら言葉を投げる。
「そうだね、今の上級悪魔程度の力の君じゃ私の相手は務まらないよ」
銀髪の男の言葉に紅髪の青年は『うっ』と呻く。確信をついた容赦のない一言だ。事実、紅髪の青年と銀髪の男とは絶対的な差があった。それは今まで歩んできた人生の長さも関係するが、何より
それに加え紅髪の青年が持つものは余りにも少ない。唯一絶対的なものがあるとすればバアル家特有の魔力滅びの魔力だろう。それすらも銀髪の男には発動時間が遅いと言われているのだ。遅いと言っても発動までに2,3秒ほどかかる程度の事だ。それを遅いと言ってのける彼が異常なだけだ。上級悪魔としてはトップレベルだろう。
「習慣になっているとはいえ、君と手合わせをするのは馴れてきたな。おかげで君の動きが手に取るようにわかるよ」
「手に取るようにわかるって……私とイースレイさんは2,3ヶ月に一度ぐらいしか手合わせはしていないはずなんですが」
「グレモリー君、それは甘いよ。戦いにおいて相手を見る時間と言う物は短いものだ。それこそ数秒後にはどちらかが死んでもおかしくはない。戦場ではその考えは甘すぎるよ」
銀髪の男、いや、イースレイは今までよりも真剣な表情で語る。イースレイはすでに何度か小規模だが戦争に赴いている。その相手は堕天使だったり、天使だったりもする。最上級悪魔であり、冥界の最高戦力の一人に数えられるイースレイは小規模な戦争であっても自ら戦場に向かわなければならない。それは最上級悪魔としての責任だ。
「グレモリー君も近いうちに戦場に立たなければいけなくなるだろう。その時、今と同じような考えならそこが君の墓場となる。これだけは覚えておきなさい」
「その言葉肝に銘じておきます」
紅髪の青年の反応を見て満足そうな顔をするイースレイ。
「今更になりますが、何故私は名前で呼んでいただけないんですか?」
グレモリーは家名であり、紅髪の青年にはサーゼクスと言う名前がある。それなのになぜ未だにグレモリーと呼ぶのか。最初は気にならなかったがこうも付き合いが長いのに家名で呼ばれているのか、サーゼクスには気になることだった。
「さあ、何でだろうね?」
それに対してのイースレイの答えは酷く曖昧だった。
こんな感じな2話目です。
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