もしかしたら読者の皆様の意にそわない内容になる可能性が高いです。
それでもいいのなら今後も今作品をよろしくお願いします。
「はあ……はあ……」
ヤハウェは息を荒々しくつきながら眼前を見据える。その眼は未だ戦いが終わっていないかのような目つきだ。いや、終わっていないという確信があったんだろう。防衛本能で行ったことはいえ、神であるヤハウェが放った本気の一撃を受けても尚健在であることを信じて疑わなかった。敵でありながらイースレイの無事を信じると言うのもおかしな話かもしれなかいが、ヤハウェはあの刹那の瞬間に何が起こったのかをこの目で確認していた。
ヤハウェが自身の奥の手である終焉の光を使った瞬間、イースレイはすぐさま小型の盾を造形し、ヤハウェの光を簡易的に防ぎ、その間に
「がはっ!」
光の奔流に吹き飛ばされ、数km先の岩壁に叩きつけられたイースレイは口から吐血しながら自身に圧し掛かる岩をどかしながら自身の身体の状態を確認する。
身体のいたる所が光により焼けている、更に右脚は光の奔流に飲み込まれかけていたせいか神経が断裂し、動かすことができない。加えて、
「まさか……ヤハウェは体調が万全ではなかったのか……?」
そう考えたとしたらなんていう皮肉だろうか。今までイースレイは全力に近い力でヤハウェと闘っていたにもかかわらず、とうのヤハウェは体調が万全ではなく、力をセーブさせた状態で闘っていたのだ。イースレイにとってこれほど屈辱なことはない。滅神魔法を使いヤハウェを殺す気で闘ったにもかかわらず、力の制限を限定的に解除した瞬間、此処まで瀕死の重傷を受けることになるとは、イースレイにとって初めての経験だった。
イースレイは懐から小さな小瓶を取り出し自身の口に含む。すると今まで負っていたやけどやズタズタに断裂した神経が元に戻っていく!これはフェニックス家が生産しているフェニックスの涙だ。効果は先程のイースレイの状態の様にいかな傷も治癒することができる至高の逸品だ。だが、生産数は限りなく少なく、名家であってもなかなか手に入らない貴重品だ。イースレイは魔王レヴィアタンから何かあった時の為にと言われフェニックスの涙を渡されたのだ。案の定、こういった緊急事態に大いに役に立ってくれた。
イースレイは修復された体の感触を確かめ、再び空へ舞う。目標はヤハウェ、唯一人だ。もしも、イースレイの推測通り、ヤハウェが消耗しているとすれば、これを逃す手はない。制限を受けて尚あの強さなのだ。放っておけば後々こちらに猛威を振るう事になるだろう。そうなる前にイースレイがここでヤハウェを殺すしか手はない。イースレイは消耗した魔力を回復させながら再び戦場に舞い戻る。
その頃ヤハウェは
「まさか、ベルゼブブにすら使わなかった終焉の光を魔王でもない悪魔に使う事になるとは思ってもいませんでした………完全に計算違いです」
急激に消費した光力を少しでも回復させるためにヤハウェはその身に受けた傷の治癒よりも光力の回復を優先して行っていた。その右手には根元から折れた聖剣が握られている。元々、エクスカリバーを基として造った武装だが、それでも聖剣に部類されているのだ。その聖剣を悪魔がこうも見事に破壊せしめることに少なからず恐怖するヤハウェ。ヤハウェは亜空間に聖剣をしまい体力と光力の回復に努める。少なくとも現状では上級悪魔はともかく、最上級悪魔と闘うのも難しいだろう。それほどまでにヤハウェは消耗しているのだ。仮にヤハウェが体調が万全だったとしたらこの戦争は天使側の圧倒的有利、または勝利によって幕を閉じていただろう。しかし、今この場においてないものをねだっても仕方のないことだ。ないものはないと割り切り、今自分にできることを模索し、事態を打破することが先決だ。
そうしてしばらくその場に留まっていると、ヤハウェが今一番感じたくない魔力が徐々に接近しているのを察知する。だが、ヤハウェもこの場から逃げることはできない。ヤハウェも自分以外にイースレイの相手をするのは荷が重いと感じていた。だからこそ、これ以上被害が拡大する前にどうにかしてイースレイを倒さなければいけないのだ。
両者とも自身が果たさなければいけない使命に突き動かされ動き出す。そして、再び両雄が合いまみえる。
「やあ、さっきはとんでもないものをお見舞いしてくれたね?」
「いえいえ、それほどでもありませんよ。それよりもよく生きていましたね?魔王でも消滅するような光だったのですが?」
お互いニコニコしており、とてもじゃないが、戦うために来たような表情ではなく、久しぶりに会った友人と話すように笑顔で話をする。しかし、その笑顔は本物ではなく、いかに相手の意表を突こうか思案し、その隙を伺っている獣の目だった。
そして先に動いたのはイースレイだった。
「くどい様で申し訳ないが、ヤハウェ、我々と和解していただけないだろうか?」
イースレイの予想だにしない問いかけにヤハウェも一瞬呆気にとられる。その一瞬の隙をつこうかとも考えたイースレイだが、いかに戦場の中と言えど、その行いは余りにも外道極まりなく、イースレイの心が許さなかった。
ヤハウェは少し考えた表情をし、すぐに返答をする。
「申し訳ありませんが、やはりそれはできません。我が子らの中には悪魔や堕天使に対して憎しみを抱くものも少なくはありません。そしてその邪な気持ちが強すぎ堕天した者もいます。故にこのような結果で停戦することはどうあってもできません。申し訳ない」
ヤハウェの言葉に苦虫を潰した表情をするイースレイ。当然だ、その中にはイースレイが殺したものも含まれているかもしれない、イースレイが原因となった者がいるかもしれないのだ。こう言われてはイースレイは返しようがない。だが、イースレイもここで引き下がるわけにはいかなかった。
「その返答は私も予想していたよ。だけどいいのかい?今の貴方は体調が万全から程遠いようだけど?」
またもイースレイの予想だにしない切り返しにヤハウェは顔を歪ませる。それと同時にイースレイはやはりかと言った表情になる。そしてここからイースレイは弱みに付けこむかのように畳みかける。
「もし、あなたがここで倒れることになれば、悪魔、堕天使に勢いづかせる要因になるかもしれない。それにトップを失った陣営が、そのまま戦争を続行することができるのかい?そうなれば天使は全滅を免れない………っと思いますけどどう思います?」
イースレイの意地悪い言葉にヤハウェは更に顔を歪ませる。まるで親の仇を見るかのようにイースレイを睨め付ける。
「やはり貴方も悪魔ですね……確かに私が死ねばあの子たちは浮足立つでしょう。ですが、それはここで私と貴方が戦い敗れた時の話です。負けなければどうという事はありません」
「もしも、ここにルシファー様を増援として呼んだ………といってもかい?」
ヤハウェは眼を見開く。今までヤハウェはその可能性を完全に除外していた。目の前の悪魔が援軍を呼ぶと言う可能性を完全に頭の中に居れていなかったのだ。なぜそんな単純なことに今まで気が付かなかったのかと自問自答する程にだ。そうなれば今ここでイースレイと長々と話をしているこの時間はヤハウェに足止めをするために行った策略、全てはイースレイと対峙していた時からヤハウェは罠にはまっていたのだ。そんなことを見抜けなかったことにヤハウェは下唇を噛む。ヤハウェの考えは停戦に応じることに傾き始める。この一時を凌ぐためにこの場で口だけでも停戦すると言えば、この場は収まるかもしれない。そう言った考えがヤハウェの中を支配していく。
勿論今まで言った言葉は勿論、イースレイの全て出まかせだ。イースレイはこれ以上の戦いは種の存続にかかわると考え、一時停戦し、今後について各種族のトップが話し合うべきだと考えていた。元は天使と悪魔の小規模な戦闘が原因だったのだ。お互い話し合えばわかりあえるかもしれない。そんな甘い考えをイースレイは未だ捨てていなかった。その為にイースレイは悪魔のような言葉も口にしよう。いくらでも嘘をつこう。そんなイースレイの口車にヤハウェは乗りかけていた。
「わ、わかり……ました……停戦に応じ―――――――――」
ヤハウェの言葉を言い終える前に大気が振動し、天が二つに割れる。そしてこの咆哮が何を意味するか二人は知っていた。
ドラゴンの咆哮
二天龍の因縁の戦いが始まる開戦の雄たけびだ。