銀の星   作:ししゃも丸

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第7話+8話+幕間

 二〇一三年 八月下旬 765プロ事務所内

 

 

「ふむ……」

 

 765プロの事務所で一人残ってプロデューサーは仕事をしていた。

 口にはココアシガレットを加えながらパソコンと睨めっこしながら仕事をしていた。

 プロデューサーはここ最近、煙草を制限されてからどうも口が寂しくなってしまっていた。ガムで代用していたがなんともしっくりこず、スーパーなどでも売っているお菓子のシガレットで代用していた。

 態々箱買いをして自宅と事務所にそれぞれ置いているほどだ。

 

「さて、そろろそ来る頃か」

 

 残っているのは仕事があるからと言えばそうなのだが、今日はもう一つ理由があった。

 

「ただいま、戻りました……って、先輩」

「お疲れさん」

 

 そう、赤羽根だ。

 ここ最近順調に仕事が回ってきて、それぞれに合う仕事を選別しながらアイドル達に仕事を与えていた。しかし、今日あるミスを犯してしまった。

 プロデューサーもそれを小鳥経由で仕事中に聞いたのだ。

 

「小鳥ちゃんから話は聞いた。けど、なんとか乗り越えたそうじゃないか」

「いえ、俺じゃなくてあいつらのおかげです」

 

 赤羽根の顔は酷く疲れているように見えた。プロデューサーは前もって自動販売機で買っておいたコーヒーを二つ持って赤羽根に言った。

 

「赤羽根、少し付き合え」

「え、はい」

 

 場所を屋上に移し、持ってきたパイプ椅子を置いてそこに座った。

 プロデューサーがコーヒーを開けると赤羽根もいただきますと言ってコーヒーを開けて一口飲んだ。

 プロデューサーは今の赤羽根が一番気にしているだろう言葉を言った。

 

「怒鳴られると思ったか?」

「うっ、正直に言えば……はい」

 

 赤羽根も事務所に戻ってプロデューサーがいる時点で怒鳴られ、叱られると思っていた。

 情けない顔をしている赤羽根をみながら、

 

「ダブルブッキングしたんだって?」

「ええ、真と響にダンスの仕事を振り分けていたんですけど、響に別の仕事をやらしちゃって。何やってんでしょうね、俺。こんな初歩的なミスをしでかして……」

「仕事自体は順調だった。ただ、急に増え始めた仕事を捌けなくなって焦り始めた、か?」

「それもあります。あとは律子と竜宮小町を見て、わかってはいてもやっぱり焦っていたんだと思います。あいつらにも仕事を探してきてアイドルとして輝いて欲しいって」

 

 コーヒーを一口飲んで、プロデューサーは自分もそういうことがあったと語り始めた。

 

「お前の気持ちもわかるよ。俺もそんな時があった」

「そうなんですか? 意外です」

「俺だって最初からできたわけじゃないさ。ミスもしたよ。まあ、流石にダブルブッキングはしなかったが」

「うぅ……」

「でも、まあそれは俺の所為でもあるしな。俺がいなくなった後をお前に任せるようなもんだから、頑張ろうって思うのも伝わってる」

「先輩の所為じゃないですよ」

「そこは俺の所為にしておけばいいんだよ。お前が抱いている焦りとプレッシャーは俺が原因だ」

 

 赤羽根もそれは理解している。けど、だからといってそれを押し付けたりはしていなかった。むしろ、彼を尊敬しているからこそ、余計に自分に腹が立つ。

 

「それでもできなかったのは自分の責任です」

「頑固だなあ。ま、失敗から学ぶのも今だからできる特権みたいなもんだ」

「俺、あいつらからも心配されているのに気付かなくて。でもなんとなくですけど、気付いたんです」

「何に?」

「上手く言えないんですけど、これがアイドルとプロデューサーの関係なんだって。変、ですかね?」

「変じゃないさ。アイドルにはプロデューサーが、プロデューサーにはアイドルが。互いに成長して、良い所も悪いところも言い合って……そんなもんだ。俺はお前が羨ましいよ」

「どうしてですか?」

 

 一度赤羽根を見て、懐かしそうに語りだした。

 

「お前達は立っている位置が同じだから、それを共有できているって言えばいいのか。俺はもう下から上へと引っ張るだけだからな」

「俺はそんな風には見えませんよ」

「どうして?」

「だって貴音や皆といる時や、仕事をしている時の先輩すごく楽しそうに見えますよ」

「楽しそう、か。自分ではそう思ってても、そう見えてるのか。そうだな、こういう言い方は貴音や今までプロデュースしてきた子達に失礼だな。赤羽根、ありがとうな」

「先輩にお礼言われるとなんだか明日は雨が降りそうな予感」

「失礼な奴だな。人がお礼を言ってやってるのに」

「すみませーん」

 

 二人は笑った。

 こういうのも悪くないとプロデューサーは思いながら今日最後の煙草に火をつけ、飲み終わった缶コーヒーを灰皿の代わりにした。

 赤羽根はあることを思い出してプロデューサーに報告した。

 

「そう言えば今日、美希に助けられましたよ」

「ああ、響の代役に星井がやったんだってな」

「ええ。俺、実際に見たわけじゃないんですが真がやけに美希を賞賛してたんですよ。一度踊ったダンスを一回で覚えて、それに会場とかそういうのを全部把握しているみたいに踊っていたって。それを聞いて、先輩がこの前言っていた言葉をやっと理解しましたよ。あいつが特別な理由」

 

 フーと煙を吐き、灰を空き缶に落として、

 

「星井はな、天才なんだよ。大半のダンスは一度で覚え、ファッションセンスもあり、なによりカリスマも備わっている。765プロのアイドルの中じゃ、千早の歌を除いても総合的にみればあいつが一番だ」

「美希は千早にはちゃんと『さん』付で呼んでるんですよね」

「多分尊敬しているんじゃないか。あいつの歌に対する姿勢っていうか思いか」

「なんとなくわかります」

 

 赤羽根は自分でこの話題を振っておきながらもある事を聞いた。

 

「あの、失礼なことを承知で聞きます。どうして美希じゃなくて貴音を選んだんですか?」

 

 プロデューサーは特に怒るようなことをせず平然と、

 

「お前、力はあるのにやる気がない奴を指導したいって思うか?」

「それはなんとも……普通ならやる気にさせて、まあ漫画みたいな感じに俺がやるってなるんでしょうけど」

「そうさ、やる気がないならさせてやればいいだけの話だ。それが普通なんだろうな。だけど、俺はしなかった」

「美希の奴が自分で目的を持ってアイドルをしてほしいからですか?」

「よくわかったな、ご名答」

「それりゃわかりますよ。だって、先輩。美希だけ『星井』って呼んでますし。わざとなんでしょう?」

「かなり露骨だがな。いい感じに俺に怒りを向けてるんじゃないか?」

 

 プロデューサーはまるで、今の状況を楽しんでように話していた。

 

「先輩、傍から見たら苛めてるようにしか見えませんよ」

「だろうな。星井が動くようにはっぱをかけてたつもりだったんだが、不発に終わってしまってな。けど、竜宮小町には食いついたようだったな」

 

 それを聞いて赤羽根は今日美希に言われたことを思い出した。

 

「先輩、今思い出したんですけど。今日美希のやつに聞かれたんです。どうして竜宮小町にはいれないのって。その時俺、丁度相手先から連絡がきて話を流して聞いてたんです。確か……頑張ったら竜宮小町に入れる? だったかな、それをそうなんじゃないかって言っちゃって……」

「ほお」

「不味かった、ですかね」

 

 いやと言いながら缶に煙草を押し付けて中に入れた。缶を地面に置いて、ポケットからココアシガレットを咥えた。

 

「というよりも、やっぱりお前のところにも星井が行ったか」

「やっぱりって、先輩の所に美希が?」

「ああ、朝俺のところに来たんだよ」

 

 プロデューサーは朝の出来事を思い出す。

 朝、貴音を収録現場に降ろしてそのまま事務所で仕事をしていた時に美希が声をかけてきたのだ。

 驚いたようにプロデューサーは応えた。

 

「ねえ、プロ……デューサー」

「星井か、なんだ」

「っ」

 

 美希は自分の名前を呼ばれた瞬間唇を噛んだがすぐにやめて続けて話した。

 

「どうして美希は竜宮小町じゃないの?」

「? 逆に聞くが、どうして入れると思った?」

「質問を質問で返さないでほしいの」

「まあ、落ち着け。一応言っておくが竜宮小町を選んだのは俺じゃない」

「じゃあ、律子……さんってこと」

「そうだ。企画には俺も協力した。それだけだ」

「じゃあ、美希の質問にちゃんと答えてよ」

「お前が選ばれなかった理由か?」

 

 美希はただ無言で頷いた。

 プロデューサーは悩んだ。どう言えばいいかと。

 そもそもプロデューサーにはその質問の答えを知ってはいない。律子のみ知るといったとこだ。プロデューサーは悩んだ末、答えを出した。

 

「竜宮小町にはお前は必要ないからだ」

「っ! もういいの!」

 

 そう言って美希は事務所から出ていった。

 

「とまあ、こんな感じだな」

「先輩……最低ですよ、その言い方だと」

「しょうがないだろう。子供の扱いなんてわからん」

「貴音とはちゃんとしているじゃないですか」

「アレは……うーん」

 

 腕を組んで首を傾げる。先程の話で納得したのか赤羽根が言った。

 

「だから、美希があんなことを言ってたわけだ」

「あんなこと?」

「ええ」

 

 赤羽根は美希の言葉を思い出す。

 確か、事務所を出ようとした時に美希がやってきたプロデューサーと同じ質問をしたのだ。

 そのまま美希は続けながら、

 

「律子……さんは、美希のことを好きじゃないから竜宮小町に入れてくれないんだと思うの」

 

 正直の所、赤羽根自身もそれは知らない。律子がどうしてあの三人を選んだのかは聞いていないし、聞かされてもいなかった。

 だから、つい言ってしまった。

 

「先輩には聞いてみたのか?」

「あの人はッ!」

「!」

「美希の事が嫌いだから……いつも星井って。だから、竜宮小町にはお前は必要ないって」

「美希、それは……あ、はいもしもし」

 

 この時、携帯に仕事先の相手から電話がかかってきた美希の話を聞き流す程度にしかきいていなかった。

 それでも、美希は続けて、

 

「どうしたら、いいのかな。美希が頑張れば律子……さんも認めてくれるかな?」

「はい、それでお願いします……まあ、お前が頑張れば律子も認めてくれるんじゃないのか?」

「――! じゃあ、美希が一杯仕事を頑張れば竜宮小町に入れるの?!」

「そうなんじゃないか? ああ、すみません。はい、はい、ではこれで」

「わかったの!」

 

 そう言って美希は去って行った。

 その直後に電話が終わり、赤羽根も現場にいかなくてはならずあまり気にしていられなかった。

 

「成程なあ、それで最初のアレになるわけだ」

「はい、やっぱりちゃんと話した方がいいですよね。このままやったって竜宮小町には入れないわけですし」

 

 赤羽根の言っていることは正しいとプロデューサーも同じ考えだった。

 だが、同時に今の美希は『竜宮小町に入れる』と思っているため普段よりやる気を出しているのもまた事実だ。

 悩んだ末、プロデューサーは言った。

 

「いや、言わなくていい」

「先輩! いくらなんでもそれは……」

 

 赤羽根もこのあといつかに起こることが用意に想像できた。

 最悪、アイドルを止めかねない。

 

「赤羽根。もし、もう一度言われたこう言え。『先輩が美希にそう言えって言われた』って」

「先輩、それは!」

「いいんだよ、全部俺が責任を取る。これは賭けだ。あいつが、星井美希が本当にアイドルになるか、ならないか。頼む」

「……わかりました。先輩、なんだかんだ言って美希のことを凄く考えてるんですね」

 

 プロデューサーは下に置いた空き缶を拾って、パイプ椅子を畳んで歩き出した。

 

「当然だろ。俺は、765プロのプロデューサーなんだからな。それに、あいつの才能を潰すのは正直嫌だからな」

「……はい!」

 

 赤羽根もパイプ椅子を畳んで駆け足でプロデューサーに追いつこうとする。

 

「もう遅いし、どっかで飯でも食いに行くか」

「はい、お供します」

 

 その後、遅くまで赤羽根と飲み食いしてマンションに帰ると、機嫌の悪い貴音が部屋で物凄い威圧(プレッシャー)を放っていた。

 理由はラップのかかったお皿。

 連絡はやはり大事だと改めてプロデューサーは思った。

 翌日、貴音は必要最低限の返事しかしてくれなかった。無視されるのは中々辛いものがあると身を持って知った。

 

 

 

 

 

 二〇一三年 八月下旬 765プロ応接室

 

 765プロにある間仕切りで囲われた空間でプロデューサーとあずさが座っていた。プロデューサーは怒っているわけではないがそんな顔をしているようにも見える。

 対してあずさは両手を膝の上に置いて顔は下を向いていた。その表情は暗い。

 そんな二人の様子を間仕切りの上から、入り口の横からアイドル達が覗いていた。

 そして、プロデューサーがその重たい口を開いた。

 

「あずさ君、俺は怒っているわけじゃない。だが君は、自分が何なのかという自覚が足りないと思うんだ」

「はい。私はアイドルです、はい」

「そうだ。この間のブライダルの撮影に関しては眼を瞑ろう。あればかりはしょうがない」

「はい、ありがとうございます……」

 

 数日前。765プロにブライダル雑誌の撮影を赤羽根が取ってきた。相手からは新郎と花嫁ともう一人には、ミニウェディングドレスを着てほしいという依頼だった。

 プロデューサーと律子、それに赤羽根の三人で相談した結果。新郎は当然真に、花嫁も自動的にあずさになった。最後の枠を誰にするかとなり、プロデューサーが星井にやらせるかと言ってそのまま採用。

 当日、赤羽根が同行した。撮影自体は途中まで上手くいっていたのだがまさかのトラブル。あずさがいきなり黒服に攫われ、そのままあずさを探しえ町中を駆け回った。

 結果的に言えば、多くの人達を巻き込んだその一枚の写真が後に注目を浴びることになる。

 

(貴音にネチネチ言われたからなあ。なだめるのに苦労した……)

 

 プロデューサーもその日、貴音の仕事が終わり赤羽根達と合流することになっていた。道中、なんで私ではないのですかと何度も質問攻めにあったのを思い出す。

 プロデューサーもそれを考えてはいたが、もしそうなった場合のことをシュミュレートしたら自分に何かとんでもないことが起きるのだと予感し、貴音の案はなくなったのだ。

 

(いかん、今はそれどころじゃなかった)

 

 頭は振って切り替えた。プロデューサーは足元に置いておいたポリ袋を出した。すると、あずさの顔がますます青くなる。中にはプリンの空の入れ物が入っていた。それもたくさん。

 

「しかし、これだけはしょうがないで済まされない」

「はい、反省しております」

 

 それは昨日のことであった。伊織が皆のために後で食べようとしていた『ゴージャスセレブプリン』をあずさが食べてしまったのだ。

 それが原因で亜美と真美の取り調べが始まりひと騒動起きた。結局、謎のままで終わるかと思われたのだが。

 あずさがそれを露地のゴミ箱に捨てているところをプロデューサーが目撃してしまったのだ。

 

『あずさ君、まさかそれは……』

『ぷ、プロデューサーさん! そう、見てしまわれたのですね……』

『君は一体なんてことを仕出かしてしまったんだ。こんなことをしてタダで済むと思っているのか?!』

『だってしょうがないじゃないですか。そこに……プリンがあったんですから!』

 

 そんなやり取りの後、現行犯逮捕された。

 新たなデザートをプロデューサーが買ってきて、それをあずさの前で食べさせた。一種の拷問であったと後にあずさは語る。

 

「あずさ君、君はアイドルだ。アイドルはその身だしなみにも気を遣う。それは、体重も含まれる」

 

 ぎくぅと体を震わせたあずさ。今度は全身がプルプルと増えだした。

 

「赤羽根」

「はい……」

 

 言われた赤羽根がやってきた。彼の顔は引きつっていた。その手にあるモノを持って。

 

「あれがわかるかい、あずさ君」

「ま、まさか……!」

「そう……体重計だよ! というわけで、さっそく乗ってもらうかな。皆の前で!」

 

 先程の重たい空気と打って変わってお祭り騒ぎのように周りも野次を飛ばす。

 

「そうだ、そうだー」と亜美。

「食べ物の恨みは怖いんだー」と真美。

「当然の報いよね」と一番の被害者である伊織。

 

 他の者は苦笑いをしながらそれを眺めている。

 あずさは赤羽根の隣に立つ、律子に救いの声を求めた。

 

「律子さーん、助けてくださいよ~」

「あずささん、こればっかりは私も擁護できません。ですから、潔く測りましょう」

「うぅぅ」

 

 一歩、また一歩と体重計に近づく。プロデューサーは急かすように叫ぶ。

 

「ハリー! ハリー! ハリー!」

「プロデューサー、なんであんなテンションが高いんだ?」

 

 プロデューサーを指しながら響が貴音に問う。

 

「たぶん、キレてますね」

「キレてるのか、アレで」

「私は食べても太らない体質なので気にしたことがないのですが。まあ、アイドルにとって体重管理も仕事の内、ということでしょう」

『……』

「はて、皆どうしたのですか?」

 

 貴音は自分が言ったことを理解しておらず、彼女達からの視線の意味を理解してはいなかった。

 そんな中、あずさは体重計の前に立っていた。

 

(うぅ……あのあとも普通にご飯食べちゃったし。ああ、どうしましょう)

 

 考えていてもすでに手遅れ。あずさは滅多に体重計に乗らないこともあって余計に今の体重を知るのが怖い。

 改めて体重計をみる。デジタル式の体重計なので細かい体重まできっちり測定してくれることであろう。それが余計に恐怖を駆り立てる。

 だがそれをプロデューサーは、許しはしなかった。

 

「あずさ君、楽になろう」

「あずささん、その……もう諦めましょう」

「赤羽根さんまで私を見捨てるんですか!」

「いや、見捨ててるわけじゃ」

「ああもう! じれったい!」

「きゃ!」

 

 煮えをきらした律子があすざの背中を押した。その反動で右足が体重計に乗る。そのあとは身体が勝手に左足を体重計に乗せる。

 皆がしゃがんでメモリを覗き込み、その数字を確認する。

 こほんとプロデューサーが咳払いをして律子をみて、

 

「律子、判決を」

「はい、アウトです」

「「デデーン。あずさお姉ちゃんアウトー!」

「いやぁーーーー!!」

 

 朝食の分と服の重さを入れても、プロフィールに掲載されている体重より○キロは増加していた。

 手で顔を隠して膝を抱えるあずさを見ながら春香が言った。

 

「あのプリン、カロリー高そうだったもんね……」

「春香、プリンってそんなにカロリー高いの?」

「千早ちゃんって商品に張ってある表記の奴とか意外とみない?」

「ええ。私、そういうの気にしてないから。それにあんまり食べないし」

「あはは、そうなんだ。まあ、一個なら大丈夫だよ? ただ……全員分食べたら、ねえ」

「流石に太るわよね」

 

 ああはなりたくないと声には出さず、胸に密かに思う二人であった。

 未だにショックで落ち込んでいるあずさにプロデューサーが追い打ちをかける。

 

「じゃあ、あずさ君。今日から一週間ダイエットね」

「そ、それはちょっと急じゃ……」

「大丈夫、そんな無理じゃない奴だから。まず食事は今まで食べてた半分ね。それにレッスンもあるから身体を動かすだろうし多少はいいだろうけど」

「まあ、それでしたらなんとか」

「あと、デザートも制限するから」

「そ、それだけは~」

「駄目です。一日一個。どんなものでも一個。あと水をたくさん飲みなさい」

「鬼、悪魔、プロデューサーの……ええと」

 

 最後の言葉が浮かばず目が泳ぐ。はあと溜息をつきながら

 

「まずは一週間。頑張りなさい」

「はいぃー」

 

 それから一週間。あずさのダイエットは成功し再び元の体重に戻った。

 食事制限も解放され今まで通りの食習慣に戻ることも許可された。

 喜んだあずさはその帰り道。一人、ファミレスによって一番値段的にもカロリー的にも高そうなパフェを頼み、

 

「これは一週間頑張った私へのご褒美~」

「じゃあ、私達からも」

「ご褒美をあげなきゃなあ」

「へ?」

 

 

 汗が垂れる。

 

「えーと……」

『ふふふ』

「……いただきます!」

 

 何かされる前にとパフェを頬張る。

 完食後、あずさは二人に連行されるのであった。

 明日、辛いレッスンがあると知っていながらも、あずさの食べている時の表情は終始笑顔であった。

 

 

 

 

 

 

 

『幕間』

 

 これはまだ貴音が〈銀色の王女〉と呼ばれる前の話。年が明けてテレビ出演なども増えた二月頃のことだ。

 その日プロデューサーは765プロのアイドルの一人である我那覇響にあることを教えてもらった。

 

「なあ、プロデューサー。ちょっといいか?」

「なんだ、響。なにか問題が起きたか?」

「問題と言えば問題、かな? プロデューサーは貴音の奴が視力悪いって知ってる?」

 

 響に言われて改めて普段の貴音の素行を思い出す。特にこれと言って思い当たらないなと思いつつも最近ある事を目にしたのを思い出した。

 

「そう言われるとあったような気がするな。運転中であまりよく見てないからなんとも言えんが、いきなり手を振っている時があった。てっきり誰かに手を振られて返していたんだと思っていたんだが……それか?」

「多分そうだぞ」

「あいつ自覚ないのか……」

「自覚がないというよりも、目に映っている世界が貴音にとってはそれが当たり前になっているんだと思う」

 

 溜息を突きながら頭を抱えた。よく、事故や怪我などをしなかったなと。

 

「で、眼鏡を買ってあげたらって話なんだ」

「ふむ。丁度いいからついでにカツラも一緒に買うか」

「カツラ?」

「有名になるとそれだけで歩くのすら困難になるからな。それにあいつの髪は銀色で余計に目立つからな」

「あー成程。自分もいつかそういうことするのか?」

「お前は眼鏡と帽子だけでいいんじゃないか?」

「もちろん、プロデューサーが買ってくれるんでしょ!」

「バーカ。経費で落とすに決まってんだろ」

「そこは男らしくもちろんって言ってほしいぞ!」

「必要経費だからな、当然だろ」

 

 で、響とそんな話をしたのがきっかけで貴音に眼鏡とカツラを買ってやることになった。

 プロデューサーはどうせだからどこかのブランドとコラボしてみるかと思い行動に移した。

 駄目元でやってみたらとあるブランドが快く承諾してくれた。

 そのあと実際に打ち合わせをして、ついでに視力を測って貴音に好きな眼鏡を選んでもらった。

 同時に撮影も行ったので現場ですぐに眼鏡をつけての撮影となった。

 実際に貴音に出来上がった眼鏡を渡すと、

 

「あ、あなた様、大変です。世界がはっきりと見えるようになりました!」

「まあそうなるな」

「眼鏡をかけたことでよりあなた様が凶悪に見えます」

「それは余計だ」

 

 今までの視力のまま生活をしてきたのならこの反応は当然だろうなとプロデューサーは思った。

 眼鏡を付けた貴音も悪くはないがやはり普段のがよいと判断した。今回の企画の担当さんと話して、ついでにコンタクトも用意してもらった。

 それからの貴音は普段はコンタクト、変装時に眼鏡というスタイルとなる。プロデューサーのマンションに引っ越してからは普段でも眼鏡をかけることが多くなったと言う。

 

 それから最後にカツラ。都内にある専門店に赴いた。

 店内を見て周りながら店員と相談してオーダーメイドということになった。

 当然であった。貴音の髪は長い。それに全部を覆うぐらいになるとオーダーメイドになるのは仕方がなかった。

 で、サンプルで色々と被っていた時のこと。貴音が金髪を被るとプロデューサーは不思議な感覚に陥った。

 

「なあ貴音」

「はい、なんでしょうか」

「金髪のお前ってなんかこう違和感ないよな。ある意味反対の色なのに」

「ふむ。確かにこれもいいですね」

 

 貴音も意外と好評のようだった。しかし、金髪も目立つためそれは却下し、結局黒になった。

 ただ貴音がやけにこちらも捨てがたいというような顔で、

 

「あなた様、こちらも欲しいです」

「いや、一個あればいいだろう」

「いえ。何かあった時のために予備は必要です」

「だったら黒をもう一個で頼めばいいだろうが」

「いえ、金髪でないと駄目です」

 

 頑固として譲らなかった。

 プロデューサーはこの時から貴音は被り物が気に入り始めたのだと後に語る。

 

 出来上がったカツラを使い始めてからは中々上手く一人ではできなかった。なにせ貴音の髪は長いしボリュームもあるように見える。

 そこは店員さんのプロからの指導により今では問題なく被れている。

 

 そして時は流れ八月某日。

 プロデューサーの部屋ではこの日あることが行われていた。

 それはファッションショーならぬ、コスプレショーであった。

 ステージはプロデューサーのリビング。観客兼カメラマンは勿論プロデューサー。仕事が終わって時刻はすで二十一時は過ぎていた。

 プロデューサーはすでにカメラの代わりにビールを持って死んだ目の一歩手前辺りな感じで観賞を強制されていた。

 

「では、あなた様これはいかがでしょうか!」

 

 洋室とリビングを繋げる襖をバンッ、と開けながら登場した貴音。その姿はいつもの銀色の髪は変わらず、服装だけが違っていた。例えるなら、ゴスロリだろうか。黒を基調として羽がついてる。

 

「なんでも漫画のなんとかめいでんとやらの人気衣装なのだそうです! 他にも翠とかピンクのような衣装もあります!」

「……ああ、そう」

「ふむ、では今度は――」

 

 再び襖を閉じて数分後。頭に団子が二つ。それはどっかのゲームでみたチャイナドレスを着たキャラクターに似ているなあと興味なそうに思い出した。

 

「どうですか。イケてますか?」

「あー? イケてんじゃねーのかー」

「そうですか。では次は――」

 

 プロデューサーはすでに限界だった。頭は後ろに倒れ口は開き、気付けば意識を失っていた。

 

「あなた様。……あなた様?」

 

 いつしか、プロデューサーの部屋にある二つある洋室の内の一つが、貴音の衣装やら着ぐるみの置き場所となってしまった。

 プロデューサーは自分の部屋なのに、開けることができない部屋が一つできてしまったことにがっくしと肩を落としたのであった。

 

 

 

 

 

 




あとがきと言う名の設定補足ー


はい、今回はアニマス6話と8話です。7話は非常に申し訳ないのですがカットしました。どう絡めていいか色々考えたのですが結局駄目でした。本当に申し訳ありません。前回のあとがきの方も修正しておきました。

まず6話ですね。アニマスと違って仕事は少し増えていますが内容は変わらず、竜宮小町の登場により焦って周りがみえなくなって失敗してしまった赤羽根を先輩であるプロデューサーと反省会でした。
最初に謝っておきますが、美希の扱いに関しては自分でも考えてこういう形になりました。自分の力不足です。

アニマスでもあったのをプロデューサーがいることでさらに悪化させています。
アニマスでは竜宮小町が美希にとってのキラキラできる存在だと思っていたのでしょうかね。本作品では貴音がいるが、自分が選ばれなかったことで余計に駄目になっていますから、竜宮小町ならと思っての行動になっています。

どこかで見たのですが、律子は実力主義だから美希の才能を認めつつも本編での態度を取っていた。そう考えると、もし美希が最初から本気? アイドル活動をしていればまた違った結果になったと思うんですよね。まあ、これは私の勝手な妄想なので無視してかまいません。


第8話は主に後日談的な感じです。8話はうる覚えで書いたのであとで見直したらちゃんとダイエットしていたんですね。それで、ああなってしまったと。
まあ、ダイエットをしている人間があれだけのプリンを食ったら翌日酷いことになりますよ。ゴージャスセレブなんて名前ですから余計に。

幕間は前に書こうと思っていた話しです。
貴音の初期のプロットが金髪だと知っている人は今どれだけいるんでしょうかね。美希が出来たことで変更されたらしいです。

SPが出た頃か、2が出る前だったか。あのころのニ○動にはたくさんの紙芝居や戦記物があって毎日のようにチェックしていた思い出があります。

ホントどうでもいいけど、デレステでスカチケ来てください。お願いしますよ……




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