うちの飛龍は変わっている   作:エマーコール

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書きたい事書いていたら3000文字を突き抜けた……。


初霜は戸惑い続ける

 人々の騒ぐ声がする。

 これは……戦闘じゃない。最初と最後の声が入り混じる。

 私は……私は……

 

 

 

 

「よっ、お目覚めか」

 

 ……えっと、あなたが提督?

 

「一応な。本来の提督は俺じゃないんだが……こうして新しく造られた艦娘(お前ら)の先導はやれって言われてるから俺が案内することになってるんだ」

 

 そうなの。……つまり、提督は二人いるということ?

 

「察しが早くて助かる。んじゃ、早速で悪いんだがついてきてくれ。念のため装備の確認も歩きながら同時に行うからな」

 

 了解です。お願いしますね。提督。

 

「……あー。紛らわしくなるから先に名乗っておく。俺は戸嶋って言うんだ。よろしく頼む。初霜」

 

 はい。戸嶋提督。

 

 

 今日は曇り空。今にも雨が降ってもおかしくはないが、天気予報では今日は雨になる確率は低いらしい。そんな空の下、戸嶋と初霜は縦に並び、様々な施設を回っていた。

 艦娘はあくまで「戦時中、一部は戦後も記憶がある」だけであり、一般常識もあるにはあるが後はそれらを組み合わせたベースを元に人格と容姿、それから装備の使い方などを形成するだけであって、鎮守府にこれがあるこれがないは知らない。簡単に例えると、きっちり授業して頭のいい人が違う学校にいきなり連れてこられたような感覚だ。

 そのため、最低限、場所の説明などを相手に伝えることも自由な仕事のひとつ。もちろん他の艦娘に案内させてもいいのだが、ここの鎮守府では戸嶋が案内役となっているのであった。

 

 とりあえずひとしきり終わりそうなところで、いつもの古びた倉庫を横切ろうとする。その中から突然犬の声が聞こえ、初霜は思わずびっくりして砲撃を構えるが慌てて戸嶋はその間に割って入る。

 

「待て待て。こいつは悪い奴じゃない。というか撃っていいやつでもない。撃つのは深海棲艦だけにしろ」

「あ、あぁ……ごめんなさい提督。つい、驚いて……」

「まぁそういう反応した奴はいろいろといるからな……例えば……」

 

 戸嶋は辺りを見渡し、やがて一点を見た。鎮守府庁舎の窓のひとつ、そこにとある艦娘が外を見ていた。

 

「アイツ、とかな」

「そ、そうです……えっ……!!」

 

 初霜は思わず声を上げる。戸嶋は、その声に「戦時中の知り合いなんだな」とすぐに理解した。

 先ほどの話を付け加える形になるが、造られた際の記憶に、そのベースとなる艦船に深く関わっている艦船の「容姿」も共有されている。例えば、飛龍はこういう形でこういう性格だ。ということが造られてきた艦娘たちに知られている。……最も、あくまでもベースの形と性格なのでここの鎮守府の飛龍だとほとんど驚かれることが多いが……それはまた別の話にしよう。

 戸嶋は苦笑を浮かべながら、思い出すように初霜に話した。

 

「この犬が吠えたときに『どこからどこから!?』とうろたえながら構えていたな。戦時の最強艦と謳われるほどの艦船がベースらしいんだけどな」

「……」

「……初霜?」

 

 言葉を発さない初霜を疑問に思って、戸嶋は声をかけた。だが、初霜は一向にこちらに気づかない。戸嶋はふと、初霜の肩をゆすって気をこちら側へと向けさせた。

 

「どうした。何か嫌な思い出でもあるのか?」

「………そういうわけではないんです。けど……」

「けど?」

 

 戸嶋は聞き出そうとしたが、突然雨が降り始める。その雨は急に強くなり、いたるところから雨音が聞こえ始めるぐらいの豪雨へと変わっていった。

 

「うわっ……走るぞ初霜。ここじゃずぶぬれに……って俺だけか。まぁいいから鎮守府庁舎に入るぞ」

「え……ですけど……」

「いいから!」

 

 そう言って戸嶋は初霜を先導するように庁舎へと走り出し、少ししてたどり着きすぐに入る。急な動きに戸嶋の身体は対応できてはいなかったのか、息が上がっていた。

 

「……あんのエセ気象予報め……次外れたらもう信じねぇぞ……って、あれ?」

 

 と、ここで気づく。そういえば慌てすぎて初霜を置いてきてしまったらしい。

 今すぐ探しにいきたいが……ここはそこまで遠くないはずだ。そう思った戸嶋はずぶ濡れになった軍服を替えの軍服へと着替えるために一度自室へと戻っていった。

 

 一方、初霜はというと、先ほどの古びた倉庫内の手前側、ちょうど屋根があるところで鎮守府庁舎から身を隠すように佇んでいた。

 

「………分かってる。大和が悪いはずがないのに……でも……この感情は何?」

 

 艦娘に感情は分からない。ただ、あるだけを感じて動かすだけだ。感情の理解はほぼ不可能ともとれる。

 

 ……この鎮守府の場合、ある一部の艦娘を除いて。

 

「おーい、大丈夫ー!?」

 

 突然倉庫の中へと誰かが入ってくる。初霜は思わず背筋を伸ばし、一体誰なのかを動かずに見る。それは青いビニールシートをマントのように掲げているので誰なのかは分からない。声だけ聴いても、今は確信すらない。

 

「あっちゃあ濡れてる……かと言って小屋は……うるさそうだし、部屋の中じゃ飼ってはいけない決まりだし……」

「え、あ、あの、あなたは?」

「ん?」

 

 ビニールシートで姿の見えない誰かを、初霜は呼びかける。その誰かはすぐにこちらを振り返ってくれた。

 

「……えーっと、あなたは?」

「あっ! 名乗りが遅れました。私は初霜といいますっ!」

「初霜ね! 私は飛龍! ところで、どうしようこれ?」

「え? え?」

 

 よく分からない初霜は何をどうすればいいのか分からない。もどかしくなった飛龍は持ってきているビニールシートの中に犬を入れながら大声ではっきりと呼びかけた。

 

「この子を! この場で濡らすのも! 可愛そうだから! どうすればいい!」

「そ、そんなことを言われても……私には分かりません……」

 

 ……それにしても……彼女は一体? 艦娘にしては……おかしい。

 

 初霜はそう思っていた。本当に艦娘なのか? それを疑うぐらい、彼女はどこか不思議な人物であった。

 飛龍は雨と犬を交互に見て、そして初霜を見る。やがて初霜の近くへと犬の首輪に繋がっているロープを取り外してから犬ごと移動させた。

 

「ふぅ……ここってそんなに雨が来てないっぽいから、しばらくここにいさせて?」

「え、は、はい……?」

 

 状況がいまいち飲み込めない初霜はとりあえず肯定だけをした。その初霜の隣で、飛龍は自分の服の中からタオルを取り出し、犬を保護するかのようにタオルに丸めた。

 

「あーもう……今日戸嶋提督が『こんな天気だけど雨は降らないらしい』とか言ってたら雨降ってるじゃない……ひどい提督だと思わない?」

「え? あの人、そんなにひどい方なの?」

「違う違う。良い人だよあの人。数日前にはわざわざ休暇を削ってこっちに来てくれたし。でもたまに変なこと言うけどね」

 

 飛龍は笑顔を浮かべながら言う。初霜はただ、言葉を聞くだけ聞いていた。ひどいのに良い人? どういう人なのだろうか、と思っていたが、なかなか理解できなかった。

 ふと、飛龍は何故初霜がここにいるのか、疑問に思って初霜に質問し始めた。

 

「ねぇ初霜。何であなたここにいるの?」

「あ……えっと……実は……」

 

 言いづらかった。兵器として、こんなの間違っているのかもと思いながらもただ淡々と話した。

 

「実は、戸嶋提督にさまざまな施設を教わっていただきましたが……突然の雨で提督が先に走って行ってしまい……」

「えー!? いくらなんでも先導なしに!?」

「あ、あぁいえ……提督は悪くはないの。悪いのは……私かもしれない」

「……と、言うと?」

 

 飛龍は気になってそこから先を聞き始める。犬はおとなしく飛龍の足元で寝そべっていた。そして、少ししてから初霜は言った。

 

「……大和。私は彼女の護衛艦として活躍していたけど……。戦後のある話で私に被害を受けられたの」

「どうして?」

「……未だ不明。もちろん、その後も抗議を上げたらしいけど……」

「……話は覆せず、か」

 

 止まない雨を睨みつけながら飛龍は呟くようにいった。しかしすぐに、「けど」と付け加える。

 

「初霜はそんなことしてない、でしょ?」

「………はい」

「……そうだよね。戦時中もちゃんと助け合いは必要だもんね」

 

 何か遠くを見つめるように飛龍は言う。初霜はただ黙ってうなずいただけであった。雨音が響く中、少しして飛龍が口を開いた。

 

「……でも、彼女に恨みはないんでしょ?」

「もちろん……だけど、この気持ちは一体何? 分からないの」

 

 独白するように初霜は言う。飛龍はただ難しい顔をして何かを悩むように唸り声を上げた。しかし、その声はやがて励ますような、しかし暗い声へと変わった。

 

「私も……飛龍もさ。いろんな人が乗っていて、いろんな人が死んでいった。もちろん、飛龍が最後に戦った時にさ、飛龍も沈むところだった。でも……さ。最後に生き残っていた人たちはある二人が助けてくれた。……憧れの人と、飛龍を動かしてくれた人は一緒に沈んじゃったけど。……本当は生き残ってほしかった。私を置いて、みんなと一緒に帰ってほしかった」

 

 自分の抱えている負の記憶が余計なところまで出ていると気づいて、飛龍は慌てて頭を振った。変なところまでしゃべりすぎちゃったな、と飛龍は苦笑を浮かべながら言う。

 

「……けど、さ。大和は別に悪い子じゃないし、もしその事実を知っていたら素直に謝ってくれると思うよ?」

「そう……でしょうか?」

「辛いんなら、私も一緒にいてあげるよ! あー……でも装備からして多分あっちの提督の管理下になっちゃうのか……それもなんか寂しいなー……」

 

「っと、ここにいたか…! って、飛龍もいるのか!」

 

 倉庫の外から、戸嶋はやっとの思いで見つけたように初霜を見て、近くに座っていた飛龍も見た。ん、と、初霜は迷惑をかけてしまったかのように息を飲んだ。

 戸嶋はすぐに後ろの方を指さす。場所からして庁舎の出入り口であろう。

 

「とりあえず立ち話は後だ。こんなところ置いて行ってすまんかったが……ここにいるのもだめだろ。早く庁舎に来い。飛龍もその犬もな」

「え? でも中で飼ってはいけないって……」

「んなのこんな雨の中じゃ適用されねぇよ。さっさとこい。それともその犬置いていくか?」

「それはかわいそうだよ! ありがとね戸嶋提督!」

「ほら、行くぞ二人とも!」

 

 今度こそ戸嶋は手を大きく回すように二人をこっちに来るようにジェスチャーをする。それに飛龍と犬もついていき、遅れて初霜もついてくる。

 中に入った三人と一匹。その中で戸嶋は大きく息をついた。

 

「しっかしびっくりしたぞ……あんな雨の中で二人がいるなんてな」

「あぁ、そのことなんだけどさ、戸嶋提督、いいかな?」

「何だ? 要件は手短にな」

 

 戸嶋は上着を脱ぎながら、飛龍の意見を聞き始める。飛龍は軽くうなずいた後、戸嶋に言う。

 

「えーっと……初霜ってどこに所属するの?」

「そりゃ普通に考えて水雷戦隊側だな……。それがなんだって言うんだ?」

「実は……せっかく仲良くなったんだから、戸嶋提督の管理下にならないのかなって」

「……普通は無理な相談だが……あの人のことだ、ちゃんとした訳を話せば簡単に承認してくれるだろ。それに、初霜自体も気になってたみたいだしな」

 

 戸嶋と飛龍はさも当然のように会話を進めているが……肝心の本人がついていけてない。

 

 つまり……命令規則を犯して私を違う方に所属させる気……?

 

「そ、それはいけないことだと思います!!」

「「……あ」」

 

 ……どうやら素で初霜がいたことを忘れていたらしく、戸嶋は溜息を、飛龍は苦笑を浮かべていた。

 と、そこへある人物が通りかかった。その人物は……

 

「あ……」

 

 初霜が先に声を上げる。気づいた二人はその方向を見る。そこには大和がいた。

 

「あら、三人ともずいぶんと濡れているみたいね。大変でしたよね?」

「全くだ……まぁ元はと言えば俺が悪いもんだけどな」

 

 一息つきながら戸嶋は言う。

 そんな戸嶋には目もくれず、ただ、一点、初霜は大和を見た。

 

 ……確かに言った通り、大和さんはそこまで悪くはない……けど……。

 

「ほらがんばって! 挨拶は大事だよ!」

 

 突然、飛龍が初霜の背を押して前へと進ませた。まるで何かを見せるように無邪気な笑みを浮かべてる飛龍だが、ちゃんと一歩を踏み込ませるように背をトントンとたたく。

 

「そうだな……。大和も最近着任したばかりなんだ。新米同士で知り合いだから少しは気が楽になるんじゃないか?」

「え……っと、実はそこまで知り合いではないんですけどね……」

「……え?」

 

 戸嶋はびっくりしていたが、飛龍はすぐに戸嶋の腕を引いて下がらせる。何だ何だと戸嶋は飛龍を見たが、やや笑みを浮かべつつもシリアスな表情を浮かべる飛龍の顔を見て口を止めた。

 

「……え、えっと……」

 

 初霜は言い淀んでいたが、やがて覚悟を決めたかのように敬礼、そして言い始める。

 

「初春型四番艦、初霜です! よろしくお願いします!」

 

 ぴっと、初霜はそう言って、体勢を崩さずに大和の言葉を待った。大和はゆっくりと目をつぶった後、ゆっくりと頭を下げる。

 

「……まず先に、もし知っていればでいいのだけれど……あなたに被害を被ってごめんなさい。……そして、よろしくお願いします。初霜」

「は、はい!」

 

 そんな二人を見て、戸嶋は何故こんな状況になっているのか聞きたかったが、あえてここは踏みとどまり、どこかへと歩き出した。気づいた飛龍は呼びかけた。

 

「あれ、戸嶋提督どこ行くの?」

「ちょっと着替えてから金森さんと話をしてくる。苦手だけどな」

 

 フッと笑みを浮かべながら戸嶋は再び歩き出した。戸嶋提督も大変だなぁと思いながら飛龍は肩をすくめる。

 

「わん」

 

 と、飛龍の足元から犬がいきなり吠える。急な出来事に大和と初霜は同時に驚いて後ずさったが、飛龍はそんな二人を見て笑った。

 

「ほら二人とも大丈夫だって。怖くないからね!」

 

 二人を招くように飛龍は二人にこっちに来るように呼びかけるが、大和は「失礼します」とだけ言って何処かへ行ってしまった。残った初霜だが、視線は犬ではなく、飛龍の方であった。

 

 ……不思議な方。なぜこうも笑っていられるの?

 そして……どこか羨ましい。

 

 そう思いながら、初霜は近づき、やがて勇気を振り絞って犬に触れていった―――




この作品でそのキャラを書きたいならまず史実を知ることが大事だと思ってきた。

……基本的に虚しいものばかりで辛いけど。

その中で今回の初霜のエピソードは戦後の話なんですけど、もし知れ渡っていたらこんな感じなのかなという自分なりの妄想を建てたのですが……いろいろと失敗した感じがありますね……。
かといってボツにするわけにも行かず、このまま投稿することにしました。本当に史実では全く関わりないんですけどね……。

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