Fate/stay night プリズマ☆イリヤ   作:やかんEX

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ACT2 「夢と現実」

 それはまだ、イリヤがもっと幼い、遠い日の記憶だ。

 

 

 年の頃は四、五歳だったか。

 まだ新築に近い自宅で過ごした何気ない日々。

 物心ついたばかりのイリヤは真新しい家の中で、時折、得も知れない寂しさを感じることがあった。

 もちろん、リズ・セラ・兄が家に居る。イリヤは彼らが大好きだ。それは昔から変わらないし、今も胸を張ってそう言う事ができる。

 それでも、寂しいものは寂しかったのだ。

 

 

 だって家のどこを見渡しても

 父がいない。

 母がいない。

 幼少期の子供にとって両親というものは何物にも代えられない存在だ。

 なら、その頃から父と母が殆ど家に居なかったイリヤが、その家で居るときにどうしようもない寂しさを感じるのも仕方ないというものだろう。

 

 

 だからイリヤは、家の中から飛び出した。

 不意に感じる寂しさを紛らわしたくなって、一人で家を飛び出して冬木の街を練り歩き、いろんな場所を探検した。朝早くから外で遊び、日が暮れる前に泥んこになって帰って来る────そんな毎日。他の子達と比べて自分の足が速いのも、きっとこの頃の経験が生きているのだと、イリヤは密かにそう思っている。

 生来のわんぱくな性格も(彼女自身認めるのは複雑だけど)あったのだろう。幼いイリヤにとっては家の一歩外ですら未踏の地だったのだ。『危ないから一人で決して歩き回らないように』というセラの言いつけを破ることに一抹の罪悪感はあったが、それすらも冒険の一つのスパイスでしかなかった。

 

 

 そして、そんな幼い頃の日常の、ある日のこと。

 その日は朝から快晴だった。近頃外出の味をしめたイリヤにとって、それは絶好の冒険日和。

 だから、三時のおやつを引き換えにリズを買収して、セラが目を光らせている玄関という名の自由の門を突破し、イリヤは外の世界へと繰り出した。なけなしのドーナッツを犠牲にしたのだ。その分も精一杯遊び尽くしてやろうと息込んだ彼女は、時間を忘れて色んな場所へと赴いた。草むらがあれば割って入ったし、知らない人が居れば気づかれないように尾行したりなんかもした。

 そうして、ずんずんずんずん歩いて行った彼女がたどり着いたのは、知らない大きな公園だった。そこは随分人だかりが沢山あって、なんだかそれにとても安心したイリヤは、未知の遊具を使って遊ぶことにしたのだ。

 

 

 ────そして、しばらく

 イリヤはふと、沢山有った筈の人影が少なくなっている事に気がついた。

 

 

 時間を忘れて遊んでたからだろう。いつの間にか夕日が山の向こうへと段々降りて行って、薄暗い闇が広がりつつあった。まばらになっていく人影の代わりに、ぽつぽつと公園の街灯が点いていたのだが、幼い彼女にとってはそれがかえって不気味に思えたのだろう。それに思わず震えて公園から出ようとしたイリヤだったが、尚悪いことに、そこに行ったのが初めてだったから、家への帰り方すらわからなかった。途方に暮れた。

 夜の公園に一人。その状況に震えたイリヤだったが、それでも他に行くあてがなかった。だから、仕方なくブランコに座ってぎいぎいと音を鳴らし、母親や父親と手をつないで帰る他の家の子供たちを、イリヤはぼんやりとして眺めていた。『今日は帰ったらハンバーグだから』そんな声が彼らの方から聞こえてくる。それを横に、イリヤは、淋しさと悲しさの感情が浮かんだ紅い瞳を、ただ茫洋として携えていた。

 

 

 家にいる時と今一人でいる寂しさ。それらがない混ぜになって込み上げてくる孤独感に、イリヤはもう堪えきれなくなって膝を抱えて目を瞑って────だけど、そんな時に、ふと声を掛けられたのだ。聞き覚えがあって、耳触りの良い、優しい声。そしてそれにつられて顔を上げると、やっぱり想像通りの人影があった。

 それは、走り回ったのだろう、自分以上に泥んこで息切れした兄の姿。

 そして兄は勝手に家を抜け出した自分に怒るでもなく、ただ自分の無事な姿に安心したように笑い、イリヤを背におんぶして歩き出したのだった。

 

 

 それから、家までの帰り道。

 二人はポツポツと話をしながら帰っていた。

 現金なもので、幼い頃の彼女は迎えに来てくれた兄に安心したのだろう。不安から解放された途端いろんな感情が爆発したイリヤは、わざわざ迎えに来てくれた兄に向けて、なぜ自分が家を抜け出したのか、いかに自分が寂しく思っているのか、それを泣きじゃくるようにして話していたのだ。

 とつとつと、ただ感情をぶつけているだけの支離滅裂な言葉の束。それを黙って聞いていた兄は、やがて、静かにイリヤの泣き言に言葉を挟む。

 

 

『俺も本当の両親の顔を覚えてないことや、親父やアイリさんが家に居ないのを残念に思うことはあるよ』

 その言葉を聞いて、イリヤはハッとした。イリヤが更に小さい頃に引き取られてきた兄は、自分以上に親というものに関して寂しい思いをしてきたのかもしれない。そのことに気づいたのだ。幼いながらも、なにか思うことがあったのだろう。彼女は兄の首にぎゅっと抱きついた。

 そんなイリヤを他所に、兄は穏やかに笑って言った。

『でも、俺にはイリヤがいるから。もちろんリズとセラもいる。中には兄妹だっていない人がいると思うけど、俺にはみんながいるから。……イリヤは、どうだ?』

 彼女は言葉を返さなかった。ただ無言で、ぎゅっぎゅっ、と、兄の首に回した手の力を強めていた。

 それを感じ、兄が嬉しげに頷いた。

『よかった。……ただ、どうしようもなく寂しくなったら言ってくれ。俺はイリヤのお兄ちゃんだから。だから、いつだって側に居てイリヤを守るよ』

 その言葉は、何よりも暖かくイリヤの寂しさを溶かしていった。

 そして、とても安心した彼女は、彼の背中をしばらく目に焼き付けようと思いながら、だけど、その体温の暖かさと振動に揺られ、いつの間にか知らず眠っていたのだった。

 

 

 

 

 それは、もう、遠い昔の日の出来事。

 今でも鮮明に覚えている、イリヤがもっと兄を大好きになった、陽だまりのような記憶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────目を覚ます。見慣れない天井がイリヤの視界に飛び込んだ。

 

 

 薄暗い部屋の中で見えるのは自分の部屋のものではない色。等間隔に並べられた竿縁の上に乗る天井板は、洋室ではなく和室のものだ。イリヤはまだ曖昧な気分のままその木目をぼんやりと眺めて、ここどこだろう、と、覚醒しきっていない意識で考えた。

 軽く寝返りを打ってからうつ伏せで身体を起こす。乾いた衣擦れの音とともに、銀の長髪がさらさらと顔と肩に零れた。その前髪を手でよそって整え、依然判然としない頭で部屋の中を見渡してみる。すると、窓から差す月明かり越しに、素朴な白襖がうっすらと見えた。次いで浅く呼吸をすると、余り使い込まれていない畳の匂い。どうやらここは一般的な日本間のようで、部屋の中央に敷きぶとんが置かれた、そこに自分は横になって寝ていたらしい。

 

 周囲を観察したところでますます意味がわからなくなったイリヤは、とりあえず、もっとしっかり意識を起こそうと軽く伸びをして

 

 

「────っッ」

 

 

 不意に全身に走った痛みに、思わず身を潜めて耐えることになった。

 

 何なの、と、疑問に思いながら軋む身体に耐え切れず視線を落としたイリヤは、そこで手足に施された治療の痕を視認する。大量のガーゼとその上から巻かれた包帯。ところどころ血が滲んで赤染んだ白布は、自分の事ながらとても痛そうに見えた。

 何故そんな怪我をしているのか、起きてからずっと混乱続きで頭が全然ついていっていない。

 イリヤは軽い深呼吸をして、それから一つ一つ、絡まった記憶の束をゆっくりと解いていって──

 

 

「────ぁ」

 

 そこで、思わず声を漏らした。

 

 

 思い出したのだ。

 頭が真っ白になったのと同時に、無意識の内に避けていた記憶。圧倒的な死の気配と、それによってもたらされた残虐な行為を。

 

 

「……ぁ……ぁあっ」

 

 

 継いで出てくる筈の声を上手く発せない。

 記憶とともに襲ってくる恐怖が大きすぎて、イリヤの許容範囲を超えて脳が混乱しているのだ。

 それでも、夜気にさらされて頭が目覚めるにつれ、あの恐ろしさが実感を伴ってイリヤの全身を覆いだす。

 

 ────自分と同じ少女が赤い瞳で笑って以前戦ったカードがなぜかあって自分の瞳を触られて巨人に追い掛けられて背中に衝撃を受けて────

 

 

「ぁ、ぁあっ……ぁあぁあっ……!」

 

 

 イリヤはその場に屈み込んだ。漏れ出そうになる声を、顔を布団に押して必死に堪えようとした。

 それでも、体の芯から込み上げる震えを抑えきれなくて、

 次いで不確かに視界がぼやけていって、それに気づいて、

 イリヤは、自分にできる精一杯の我慢を用いて、次々にやってくる恐怖心を一人噛み殺すしかなかった。

 

 

 

 

 

「────あ、目が覚めたんだな」

 

 

 

 

 

 だけどそんな時、不意に横から聞こえてきた声。

 それに対して、イリヤが緩慢に顔を上げて視線を送ったその先。

 ずざ、と開いた襖の向こうに見えたのは、赤銅色の髪と琥珀の瞳。見覚えのある、その優しい色。

 やがて声の主の全体像を視界に入れたイリヤは、くずおれた姿勢のままでまた思考を停止させた。

 一方、その人物は自身の体を抱き締める彼女を見て何を思ったか、はたと口に手をあてて考え込む。

 

 

「ああ、そっか。そんな埃だらけの服は嫌だよな」

 

 

 ……この人は何を言ってるんだろうか。

 全く見当違いのその発言に、凍りついていた思考が氷解した。

 未だ難しい顔をして考えるその姿に、凝り固まった身もほぐれていった。

 

 

「ええと、一応体を拭いて手当てをしたトコで、着替えさせるのはさすがにマズイかなと思ったんだけど。……うん、よし。とりあえず、もし良かったら俺の子供の頃のものを──」

 

 

 言葉が最後まで告げられることはなかった。

 彼が顔を上げた、その途端、ものすごい速さの銀色が視界に現れたのだ。

 

 

「お兄ちゃん……っ!!」

「うおっ!!?」

 

 

 どんがんどすん

 なんて音を立てて、もつれ倒れる二人。

 不意に鳩尾に叩き込まれた衝撃に、彼────士郎は、そのまま自身の部屋に押し戻されて尻もちを打った。そして間髪入れず胸に押し付けられる華奢な身体に、さらさらと彼へと落ちる長い銀の髪。

 

 

「な、ちょ、ちょっとまっ────」

 

 

 あまりにも予想外の少女の反応に、士郎はいったいどういう状況なのかと慌てて少女を諌めようとして────その言葉をふと飲み込んだ。そして気づく。背に回された彼女の手が震えていることに。

 少女を見ると、彼女は歯を噛んで彼にひっ付いたまま顔を俯かせた。銀色の髪が顔に掛かって、その表情はそれ以上見えない。

 

 

「……お、にぃちゃ、ん」

 

 

 その耳に、微かに震えを押し殺した声が聞こえる。

 それに思わず息を飲む士郎を余所に、少女が何かに耐えるようにして涙声で続けた。

 

 

「怖、かった……怖かったっ、怖かったよぉ!!

 知らない所で、何もかもワケがわからなくて!!

 怖くて、痛くて、辛くて……寂しくて……!! 

 やだ────もうやだよぉ、お兄ちゃん……」

 

 

 彼を掴む手に力がこもる。まるで、この場に、自らの側に、必死に彼を留め置こうとするかの様に。

 

 

「────ひとりにしないで」

 

 

 消え入りそうなその言葉が、士郎の耳に確かに届いた。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 士郎は瞠目し、黙って少女の顔を眺めた。

 俯いたまま、歯を食いしばっている少女の顔を。

 微かな震えは止まらず、肩に伝わってきて

 

 

 

 

 ふと

 

 

 

 

 少女の様子に、士郎は既視感を抱いた。

 その感覚を知っている。その感情を知っている。

 その怖さを────確かに自分はよく知っていた。

 

 

 

 それは、もっと幼い、士郎がこの家にやってきたばかりのこと。

 あの頃の自分は、まだあの時の悪夢を見てよく泣いていた。十年前の大火災の記憶。炎の海に飲まれて死んでいった大勢の命。その大量の骸が、のうのうと生き延びた士郎に向かって怨嗟の声をあげる夢。それに魘され、ぎりぎりと歯を喰いしばり、布団を握り締めながら耐えていた自分。毎晩毎晩、就寝とともに訪れる恐ろしい光景に、ともすればその声に呑まれ、二度とその夢から醒められなくなるのではと思うこともあった。

 

 

 だけど、そんな夢に怯えて震えていた時、いつだって気づいてくれる存在が士郎にはあった。

 隠し通そうとしても何故か絶対に士郎の様子に気づき、そしてずっと側に居てくれたその人。ともすれば鬱陶しく感じるほどに騒がしくて、こっちが怯えるのが馬鹿らしく思ってしまうほど底抜けに明るいその人。子供心に強がりながらも、本音を言うと、それが心底嬉しかったのを、今でも鮮明に覚えている。

 

 だから、自分は────

 

 

 

 

「────大丈夫、大丈夫だ」

 

 

 

 

 二度繰り返しそうやって言い、少女の肩を緩く抱き締める士郎。

 それに少女はぴくんと肩を震わせ、ややしてから力を抜いて息を落ちつかせると、瞳にあふれた涙を隠すように彼の胸に頭を擦り寄らせた。背に回した腕を深く、彼の存在を側に感じられるように。

 そして士郎は、そんな少女の背を、とん、とん、とん、と一定のリズムで叩く。ゆっくり、少女が自分の腕の中で、ちゃんと安心できるように。

 

 

 いつかだれかに、ほかでもない自分がそうしてもらった時のことを思い出しながら、士郎はただ静かに、少女が泣き止むのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんねお兄ちゃん、急に泣いちゃって」

 赤らんだ目をごしごしと拭いながら、彼に向かってはにかむイリヤ。

「……いいや。落ち着いたなら、よかった」

 それに士郎は、安心させるように少し不器用に微笑んだ。

 

 

 その不意打ちの笑顔に思わず赤面したイリヤは、誤魔化す様にわざとらしく咳を零して────そういえば、と、溜まり溜まった疑問を吐き出していた。

 

 

「お兄ちゃん、ここどこ? 家に和室なんてなかったよね? もしかして旅館か何か? それにしては物が少ない気がするけど……あ、そういえばクロやミユ、リンさんやルヴィアさんを見なかった? わたし、ちょっと色々あってみんなと離れ離れになっちゃったんだ……って、そういえばお兄ちゃん!! あの子とあのカーッ……か、怪物はどうなったの!!? あれからお兄ちゃんは大丈夫だったの!!!? どうやってわたしたちあそこから──」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

 

 矢継ぎ早に質問を繰り出すイリヤの勢いを、がしっと両肩を掴んで留める士郎。

 それに『あ、お兄ちゃん凛々しい』なんて更に頰を赤らめたイリヤは、ぱくぱくと口を開け閉めさせて頷いた。 

 

 そして、その様子にほっと一息ついた士郎は、次の瞬間、イリヤの全く予想外の言葉を発したのだった。

 

 

 

「────その前に、君の名前、教えてもらってもいいか?」

「え……?」

 

 

 

 イリヤの思考が、今度こそ完璧に停止した。ただ瞠目して口を半開きにし、まっすぐに自分を見つめる彼の瞳を見た。 

 だけど、少しして言葉が頭に馴染んだ彼女は、震える声で口を開く。

 

 

「……な、なに言ってるの、お兄ちゃん?

 わたし、イリヤだよ? 

 お兄ちゃんの妹の、イリヤスフィールだよ?

 ……冗談、だよね……?

 お兄ちゃんの嘘なんて、全然面白く、ないよ?」

 

 

 彼女の言葉に、彼は首を横に振った。

 

 

「いや、俺は君のことを知らないし、ましてや俺に妹なんていない。

 ……たぶん誰かと混同してるんだと思うけど、無理もないさ。あんなコトがあったばかりだもんな」

 

 

 タチの悪い冗談だと思った。縋り付く様に目で問いかけていた。

 だけど、訥々と、困惑した自分の様子に僅かな逡巡を交えながら語る士郎の様子が、その話の信憑性を裏付けしているようで、イリヤは、その確信にも似た嫌な予感を振り払いたくて、更なる質問を目の前の兄に重ねていたのだった。

 

 

「じゃ、じゃあセラやリズのことは!? そ、そうだ今は家にママもいるよね!?」

「……いや悪い、知らないんだ。それに俺に、母親はもういない」

「────っ! じゃあ海外のお父さんのことは!?」

「海外での親父に? ……いや、どうなんだろう、切嗣に別の子供が居たってのは聞いたことないけど……」

「! キリツグってお父さんの名前だよっ!! わたしが掛けるから電話貸してお兄ちゃん!!」

 やっと望む言葉を聞けたイリヤは、士郎に必死に頼みこんでいた。普段父が決まった番号を持たないことも忘れ、焦燥感に押されて連絡を取る方法もわからないままに。

 しばし考え込んでいた士郎は、そんなイリヤに再度首を横に振って口を開く。

「いや、たぶん別人だと思う」

「な、なんで!? キリツグなんて名前、他に聞いたことないよ!? 絶対お父さんだよ!!」

「……君のお父さんは、今海外に居るんだろう?」

「そ、そうだけど」

「……だったら、違う」

 士郎は一旦言葉を切った後、狼狽するイリヤに言い聞かせるように、はっきりと言った。

 

 

 

 

 

「俺の親父は、五年前にもう死んでいるんだから」

 

 

 

 

 

 ────その言葉に

 

 

 

 唐突に、イリヤは理解してしまった。 

 

 

 

 

「────あ」

 

 

 知らず納得の声が零れる。

 昨日から今までの、先ほどまで全く分かっていなかった状況。その点と点。不意に頭の中でそれら全てが繋がり、一つの結論をもたらしたのだ。

 

 

 ……何故、

 今まで悟ることができなかったのだろうか。

 恐怖に囚われていたから?

 兄の存在に安心しきっていたから?

 イリヤは自問自答を繰り返したが、きっと、そのどれもが少しずつ正解だったのだろう。

 

 

 それでも、結局、イリヤは無意識のうちにその結論を避けていただけ。

 ただ、今の士郎の言葉が、その結論を出さないこと以上に、彼女にとって認められるものではなかったというだけなのだ。

 

 

「え、おい、大丈夫なのか?」

 

 

 士郎が心配そうに伺ってくるが、それにイリヤは返答を返せなかった。その場で思考がぐるぐる回って、何度も何度も夢じゃないかと疑問を繰り返していたのだ。

 自分の置かれている状況を理解したイリヤは、ただ、途方に暮れるしかなかった。

 

 

 

 

 ────『平行世界』

 そんな言葉が、イリヤの脳裏に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 




(あとがき)
この辺りを書いていたころ、
展開的になかなかプリヤ感が出せなくて
非常に辛かったのを覚えています。

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