インフィニット・ストラトス ~グレモリーの白騎士~ 作:ELS@花園メルン
SIDE 一夏
結局、勉強を終えた後、俺と小猫は当然、別々に風呂に入って鈴と嫌々参加していた冬八とゲームをし、鈴が小猫と一緒に寝たいというので二人は客間で就寝し、俺は今日のことを振り返りながら、布団にもぐっていた。
「なんか久しぶりに色んな人に会ったけど、街の人も千冬姉も鈴も箒も――あと、冬八も変わってなかったな…。
箒なんか小学生の頃なんか俺を散々、付け回してたのにすっかり性格が変わってしまってて、何か可笑しかったな。
…なあ、アルトリア、俺ってこのままでいいのか?悪魔へと転生してしまった俺が、人間の千冬姉たちと関わり続けてていいのか?」
『と、言いますと、やはりあの方たちへの被害の事でしょうか?』
「ああ。
黒歌を助けたときみたいにテロ組織がいつか千冬姉たちに襲い掛かるかもしれないだろ?
いくら千冬姉が強かったり、ISがあるって言っても、それが敵に通じるかどうかも分からないじゃないか。
それならいっその事、記憶を改ざんしてでも安全を守る方がよっぽどみんなの為になるんじゃないかって思うんだよ」
『確かに、その恐れはあるでしょう。
ですが、記憶改ざんを行ったとしても、それであの方たちが狙われないという保証はどこにもありません。
ならば、マスター自身が真実を打ち明け、庇護のもとに生活していただくか、身近なところで守る他ないでしょう。
それに、記憶を失われるのはマスターにだけでなく、もっと周りの人にも影響が及びます。
あらゆる人、物、データからマスターの存在を完全抹消したとしても、その根幹に残っているマスターとの記憶は決して無くならないでしょうから。
むしろ、何かの拍子に記憶が戻り、マスターのことを捜索される方が余程危険だと思いますよ』
と、アルトリアは俺にそう教えてくれた。
「結局のところ、何が正しいのかなんて誰にも分らないってことか…。
難しいな…」
『ええ、難しいものです』
そのまま俺の意識は眠りに落ち、朝になるとキッチンへ向かい、5人分の朝食の支度をする。
一番最初に起きたのは、珍しく冬八だった。
「おう」
「ん。
今日は朝、何?」
「昨日、残った野菜を使って作ったスムージーとサンドイッチだ。
皿、五人分出しといてくれ」
「OK」
冬八が五人分の大皿をテーブルの上に並べ、俺はスムージーをテーブルに置き、サンドイッチを皿に置いた。
「じゃあ起こしに行くか。
冬八、千冬姉を頼んだぞ」
「おー」
俺は客間に行き、小猫と鈴を起こしに向かう。
戸を開けようとしたが、小猫だけならまだしも、今は鈴もいることを頭の中で再確認し、部屋をノックした。
「おーい、起きてるか?
朝ごはんできたぞー?」
が、部屋からは反応が無い。
ならばと思い、俺は戸を開けると二人はまだぐっすりと寝ていた。
しかも、布団を二つ敷いているにも関わらず、同じ布団で寝ていた。
俺はいたずら心が沸き、ちょうど日光が部屋に入る位置のカーテンを勢いよく開けた。
「眩しっ!?」
「!?」
と、二人は目に当たる日光を防ぐため、目に手を当てていた。
「朝だぞ、起きろよ」
「ふぁ~い」
「あ、あと10分…」
小猫は体を起こすが、鈴は布団に包まりなおしていた。
「起きないのか…。
なら、千冬姉に起こして「起きたわよ!!」――変わり身早いな」
「お腹すいた…」
「出来てるから早く準備しろよ?」
俺は二人にそう言うが、寝ぼけ眼の小猫は
「髪、一夏君、やって~」
と、首をかくんかくんさせながら俺にそう要求してきた。
寝ぼけているモードの小猫だな、これ。
「分かったから、とりあえず意識を覚醒させとけよ」
と、俺は寝ぐせで乱れている小猫の髪を猫のマークが入っている櫛で梳いていく。
「アンタ、いつも小猫にこういうことしてんの?」
意識が完全に覚醒した鈴が俺にそう聞いてくる。
「偶にだけどな。
ほら、できたぞ」
「しかも手馴れてるわね…。
アンタ、家事だけじゃなくてそういうことも得意なわけ?」
「いやー、小猫の世話してたらいつの間にか」
「女子力に磨きをかけてどうすんのよ…」
で、小猫の髪を梳き終え、三人で食卓へ向かう。
千冬姉と冬八は既に椅子に座っていた。
千冬姉は寝間着にまだ少しボサついている髪だった。
「おはよう、千冬姉」
「ああ、おはよう一夏。
小猫と鈴もおはよう」
「「おはようございます」」
で、席に着いた俺たちは食事を開始する。
「そういえば昨日聞き忘れていたな。
冬八、IS学園に来てからの生活はどんな感じだ?」
「んー、先ずトイレが少なすぎて困る。
食堂、校内での視線がウザイ」
「そりゃ、アンタしか男居ないんだししょうがないんじゃない?」
「だけどよ。
トイレは如何にかならねぇのか?
来賓で、男の人だって来るときくらいあんだろ?」
「確かにそういう場合もあるが、そういう時の部屋の近くにはきちんと男性用のトイレもあるぞ。
それはお前も立ち寄るから分かるだろう」
「視線っていうのは具体的にどんなのでしょうか?」
と、小猫が冬八に尋ねる。
「見世物にされてる感じだな。
特に酷かったのは入学一週間あたりだな。
それにセシリアとの揉め合いの時も情報がすぐに出回ってて鬱陶しかった。
てか、なんであの時、止めなかったんだよ千冬姉」
「何を言っている?
そもそもお前たちが売り言葉に買い言葉で始めたことが切っ掛けだろう。
それに私はちゃんと止めたぞ?
それを無視してお前らはわめき続けていたがな」
「ぐっ…」
朝食を終え、小猫は準備をし合宿所へと戻っていった。
鈴も一度、自分の家に戻ると言って荷物は置きっぱなしにして出かけた。
「そう言えば、お前たち二人に伝えておこう。
6月にだが転校生が来る。
日程はバラバラだが二人だ」
「て、そんなこと俺に伝えていいのか?」
「同じく」
「一夏には別に構わんだろう。
内、一人はお前なんだからな。
IS委員会も痺れを切らせてな?いよいよ編入させろとこちらに抗議をしてきて、お前の所属している企業にも連絡は行っているはずだ」
「そうなのか?
あの人、絶対俺に報告し忘れてるよ…」
「良し、とうとう俺のスケープゴートが――「おい、聞こえてるからな?」」
にしても、6月か…。
別に会えなくなるって訳じゃないし、平気だけどなんか寂しいな。
すると、家のインターホンが鳴らされた。
「誰か来たみたいだな。
朱乃さんかな?」
俺は玄関へ向かってみた。
やはり、来たのは朱乃さんのようで、俺は家に上げた。
「おはようございます、一夏君。
お邪魔させていただきますわ」
「おはようございます、朱乃さん」
俺はリビングへ案内した。
「こんにちは、千冬さんそれと冬八君。
お久しぶりですわ」
「久しぶりだな、朱乃。
ゆっくりしていくと良い」
「ども」
朱乃さんをひとまず客間へ案内し、昨日の訓練状況を聞いた。
「一誠君が魔力の扱いに関して変わった才を持っていて、自分の魔力を相手に流し、武器、防具問わず身に着けたものを破壊する、というのを会得していたの」
「それって、もしかして女性限定とかそういうオチですか?」
「ええ。女性に対しては衣服も含めてすべて破壊する、と言っていたわ。
アーシアちゃんが主に実験台だったのだけど。
で、男性の場合は武器のみの様だったわ。祐斗君の魔剣は破壊することができていたから恐らくそうなのでしょう」
あの人は、どこへ向かっているんだろう…。
『ドライグ、哀れですね…』
アルトリアも心の中でそう憐れんでいた。
「それで、一夏君?
この後の予定はありますの?」
「いえ、特には。
強いて言えば夕食の買い出しですね。
でも、時間が結構あるので良かったら出かけますか?」
「本当!?ちょうど誘おうと思っていましたの。
では、行きましょうか!」
と、朱乃さんは嬉しそうにしていた。
何かいつもの朱乃さんと違って新鮮な感じだな。
千冬姉と冬八に出かけることを伝えて、家を出た。
「じゃあ、どこに行きますか?
とりあえずここらで一番大きなショッピングモールのレゾナンスにでも行きますか?」
「ええ、そうしましょう
「?朱乃さん?今、呼び捨てで」
「いいじゃない?
何か、雰囲気変わっていいでしょう?」
と、言われたのでまあ、いいかと思いそのまま呼び捨てで呼んでもらうことになった。
で、少し歩き駅の大通りに出ると、人で結構にぎわっており、俺たちはレゾナンスに行くまでの店も色々と見て回っていった。
「――――はぁ、まさか俺を連れたまま下着の店に行くとは思いませんでしたよ…」
「うふふ、可愛い反応が見れて楽しかったわ。
あ、移動販売のクレープよ、食べていかない?」
「そうですね、少しお腹も空いてきましたし」
ということで、俺はフルーツカスタードクレープ、朱乃さんはベリーベリークレープを頼んでいた。
「レゾナンスに行くまでに色んなもの見れたわね」
「そうですね。
途中にあった紅茶の店とかお洒落で良い感じの店でしたね。
部にお土産で買おうかな」
「ふふ、良いと思うわ。
――――ねえ、一夏は私の過去とかは気になったりしないの?」
朱乃さんは唐突にそう聞いてきた。
朱乃さんの昔のことは、眷属になり立ての時に聞いた、母親を失ったということしか知らない。
それと、堕天使とのハーフだってことと。
「気にならない、って言えば嘘になりますね。
ていうか、部長の眷属ってみんな何かを抱えてるじゃないですか?
そう言うのを聞いて、理解して、背負ってあげられたらって思います」
「やっぱり優しいわね、一夏は。
―――私は、堕天使幹部の父【バラキエル】と神社の巫女だった母【朱璃】の間に生まれたの。
だから、ハーフの象徴として片方だけ堕天使の翼があるわ。
別に、堕天使が嫌いというわけでは無いの。
でも、父は母様が死んでしまう時にその場にいなかった、守ってくれなかったわ。
そんな父に私は嫌気が刺し、逃げてそれでリアスの眷属になったわ」
「そうだったんですか。
朱乃さんは父親とはどうなりたいんですか?」
「仲直りしたい――のでしょうね。
でも、心のどこかで、あの人のせいで母様が死んだと思っているの。
だから、いざ会ったとしたらきっと、拒絶してしまうかもしれないわ。
そうなるのが怖いの。もしかしたらあの時、あの人から逃げたのもそれが原因かもしれないわね…」
朱乃さんはいつもと違って弱い面を見せていた。
いつもの大和撫子の姉気質ではなく、ただ、家族と喧嘩したときの子供のような一面を。
「朱乃さん、やっぱり話し合うもしくは一度大ゲンカをすればいいと思います。
俺には親がいないから分かりませんけど、子供って親と喧嘩して仲直りを繰り返すものなんじゃないかと思うんです、俺は。
今すぐに、とは言いません。時間を掛けてゆっくりと解決していけばいいと思いますよ、俺は」
「一夏…」
「す、すみません、俺。
親がいないからそういった時の解決方法なんて分からなくて…!
でも、もし不安なんだったら俺も付き添いますよ。
朱乃さんのそんな顔、意外ですけど似合いませんよ。
朱乃さんはもっといつもみたくニコニコしていませんと!」
俺がそう言い終えると、朱乃さんはハンカチを取り出し、自分の顔を拭き俺に向き直った。
「そう、ね、ありがとう一夏。
なんだか少しだけ勇気が湧いてきたわ」
「なら、良かったです」
「しんみりさせて御免なさい?
買い物、再開しましょう」
「はい!」
その後、レゾナンスに着いた俺たちは駅通りの店とはまた違った服、雑貨、その他の店を見回り、楽しいひと時を過ごすことができた。
その帰り道、夕食の買い物を終えた俺たちは近所の公園で少し休憩していた。
「色々と買いましたね。
部室の紅茶もストックの補充出来ましたし」
「そうですわね。
それにリアスの好きそうな雑貨も買えましたわ」
朱乃さんの口調はいつもの感じに戻っていた。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。
流石にごはんを作らないとダメですし」
「ええ、そうですわね。
―――ねえ、一夏?小猫ちゃんの事は好き?」
朱乃さんはいきなりそう聞いてきた。
「え、ええ、好きですよ」
「そう、やっぱり一番は小猫ちゃんなのね。
私のことはどうかしら?」
それはどういった意味で?
とは、流石に聞けなかった。
小猫と付き合ってから、流石にそう言ったことには少し察しが良くなっているから、この質問はつまりそう言うことなんだな、というのは分かった。
「好きですよ、でもやっぱり俺にとって一番は小猫なんです」
「ええ、分かっているわ。
一夏ならそう答えることくらい。
でも、ね?私だって一夏の事が好きなのよ、小猫ちゃんに負けないくらい。
だから―――」
唐突に朱乃さんが俺に近づき、唇を俺の唇に当ててキスしてきた。
「―――二番目でも、私の事を思ってくれると嬉しいな」
突然のことで俺の思考はショートしてるのが分かる。
何か、体の奥からドクドクいってるのが分かる。
「さ、帰りましょうか、一夏君?
それと、今の状態で帰っちゃうと千冬さんに怪しまれますわよ?うふふ」
と、言われ、俺は改めて認識した。
この人は本当にドSなんだっていうのと、朱乃さんの気持ちが本気だってことを。
なんか、こういうのって書くの難しいですよね?
デートとかを上手く書ける人にはアドバイスをもらいたいくらいです。
一応、ヒロインタグは変更しますので、よろしくお願いします。
次回からは、ちゃんと原作の内容に戻りますので