鋼殻のレギオスに魔王降臨   作:ガジャピン

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第24話 違法酒

 サリンバン教導傭兵団の武芸者たちと闘った翌日の早朝。

 マイはルシフの新居のリビングにいた。茶色のテーブルの周りを囲むように置いてある椅子の一脚に座っている。

 初めてルシフの新居に訪れたため、マイの内心はドキドキしていた。

 

「昨夜、武芸者と一戦交えたらしいな」

 

 ルシフがオレンジジュースを注いだコップを二つ手に持ち、マイの傍にやってきた。

 マイはその姿を見て、僅かに目を見開く。

 

「あっ、ルシフ様がそのようなことを……。私がやります」

 

「いい。ここは俺の部屋で、お前は客だ。客人にそんな真似させるわけにはいかん」

 

 椅子から立ち上がろうとしたマイを、ルシフは手に持つコップをテーブルに置いた後に、片手で制す。

 マイはルシフについさっき呼び出され、身支度を慌てて整えてルシフの部屋に来た。

 招かれたという意味では、マイは客の立場。

 マイは椅子に座り直し、向かいに座ったルシフを見た。

 武芸科の制服ではなく、白色のTシャツと濃い青色のデニムパンツ。柄などは何もない無地。しかし、無地だからこそ主役の魅力を邪魔せず、引き立てていた。

 Tシャツの上から分かる、筋肉質で引き締まった肉体。厚い胸板に逞しい両腕。だが太すぎず、スリムさも兼ね備えたまるで芸術品のような肉体美。

 

 ――あぁ、朝から幸せ……。

 

 マイはうっとりとルシフの姿を眺めている。

 毎日こうして、こういう姿が見られたらなぁと、密かに願う。

 

「ん? ぼーっとして、どうした? やはり呼ぶのはもう少し後の方が良かったか?」

 

「い、いえ、そんなことありません。深夜でも喜んで行きます!」

 

「……深夜にお前を呼ぶわけないだろう。極端な奴だ」

 

 必死に否定するマイの姿を見て、ルシフは笑った。

 マイは照れ隠しにコップを両手で持ち、自分の顔を隠すようにオレンジジュースを飲む。

 

「――ん?」

 

 マイが首を傾げる。

 

「どうした?」

 

「これ……オレンジジュースですよね? オレンジジュースの味なんですけど、なんか別の味も混ざってるような……」

 

「気付いたか」

 

 マイの言葉に、ルシフは得意気な表情になる。

 

「ここのオレンジジュース――というよりオレンジは、糖度がイアハイムの物より高い。学生に好まれやすいよう品質改良されているのだろう。だから、オレンジジュースも甘い。

だが、俺には少し甘ったるくてな、オレンジジュースにレモン果汁を混ぜてみた。これが正解で、スッキリとした味になりかなり飲みやすくなった。

俺はこっちの方が良いが、お前がそのままが良いと言うなら、そっちを持ってこよう」

 

「いえ、私もこっちの方が美味しいです」

 

 お世辞ではなく、本心からそう思った。

 酸味と甘味が絶妙なバランスで絡み合い、ハーモニーを奏でている。それに加え、寝起きにこれを飲んだせいか、シャキッと目が覚めるような感じがした。

 マイは机に飲み終わったコップを置く。

 

「相変わらずですね。レイフォン・アルセイフと相部屋だった時は料理をされなかったようですが、これからは料理をされるので?」

 

 ルシフは由緒正しき武門の人間である。

 使用人が当たり前のようにいて、家事など全くする必要がない家に生まれた。

 しかし、ルシフは料理もしたし、自室の掃除も七つから自分でやっている。

 自分の身の回りすら満足に出来ん人間に、大事など到底成せん。

 これがルシフの考え方である。

 使用人を使わないと言っているのではない。使用人がいなくなったら家のことが何も出来なくなるのが駄目だと言っているのだ。

 

「前の部屋は共同キッチンだったからな。料理をしようにも、順番待ちというのがあった。そんなものを待つくらいなら、外食の方がマシだ」

 

「じゃあ、これからは料理なさるんですね!」

 

「嬉しそうだな」

 

「そりゃもう! ルシフ様の料理は天下一品ですから! 料理なさる時は教えてくださいね」

 

 ルシフはオレンジジュースを飲み干し、目を輝かせているマイをジト目で見る。

 

「……イアハイムにいた頃もそうだが、俺が料理する時はどいつもこいつも食材を持って群がるように俺のところに来たな。俺が食事をするついでにそいつらの料理も作ってやっていたが。

特にマイ。お前は毎回のようにいた気がする」

 

「ルシフ様の料理が美味しすぎるのが悪いんです。それになんだかんだ言いながらも、集まった人に料理を作って差し上げるルシフ様にも、問題はあると思いますが?」

 

「ついでに作ってやっただけだ。別にそいつらのために作ったわけじゃない」

 

 マイはルシフの目をじっと見つめる。

 ルシフはマイから視線を逸らした。

 

「……そろそろ、お前を呼んだ本題に入る。用件は二つ。一つ目は――」

 

 ルシフが右腕を真横に伸ばす。

 ルシフの右手の先に、黄金の粒子が集まる。その粒子はルシフの身体全体から出ているように見えた。

 やがてその粒子は動物の形になり、廃都市で見た牡山羊が現れる。

 マイは絶句して、口をぽかんと開けていた。

 

「こいつに関してだ。時期が来たら話すと言ったろ? お前が昨夜闘った武芸者たちとも関係あることだ」

 

「…………あの、今、その牡山羊をルシフ様の意思で出したように見えたのですけど」

 

「一晩こいつと話し合ってな、話す時はこうして出てくるよう決めたんだ」

 

「話し合いとはよく言う。道具だと言うなら主に従えと、強引に押しきった汝が……」

 

「それでも、お前はこうして出てきた。やっぱりこっちの方がいい。表情に変わりはなくとも、姿を見ながら話したい」

 

「……真に汝は変わり者よ」

 

「よく言われる」

 

「あのー……ルシフ様? 絶対今の言葉誉め言葉じゃないですよ。

っていうより、そろそろ私の質問に答えてくれません?」

 

「ああ、そうだな」

 

 ルシフは黄金の牡山羊から視線を外し、正面に向き直る。

 

「この牡山羊は、電子精霊の成れの果てだ。自らの都市を滅ぼした存在を憎み、復讐のために力そのものになった存在。呼び名は廃貴族。

だが、その力を使うには、器がいる」

 

「その器に選ばれたのがルシフ様だと?」

 

「その通り。そして、お前が闘った武芸者集団」

 

「……サリンバン教導傭兵団」

 

「そいつらの目的は、こいつの確保だ」

 

 グレンダンは力を求める。

 だからこそ、都市の中で唯一汚染獣を避けずに、逆に突っ込んでいく。

 天剣授受者も、力の一つ。

 サリンバン教導傭兵団が創設された理由も、グレンダンでは入手困難な力を手に入れるため。

 

「それに、どこで情報を入手したか知らんが、連中は俺が廃貴族を持っていると確信している。俺に力を貸しているという理由で、お前も狙われる可能性がある」

 

「了解しました。気をつけます。

で、二つ目のご用件は?」

 

 ルシフは一枚の紙を机の上に置いた。

 

「とりあえず、これを読め」

 

「はい」

 

 マイが机の上の紙を手に取り、目を通していく。目線が下にいくにつれ、マイの目が見開かれる。

 

「これは……」

 

 どうやらこの紙は手紙のコピーらしい。

 内容はこうだ。

 

『イアハイムに待機しているカラー1の中から五名選び、学園都市ツェルニに送れ。来訪理由は、学園都市の学生を指導するため。教員らしい服装を持ってくること。

なお、ヴォルゼー・エストラ。バーティン・フィアの二名はメンバーから除外』

 

 『剣狼隊』は十名で一小隊を作っている。百名現時点でいるため、隊長は十名。

 しかし、小隊を作るにあたり、問題が一つあった。『剣狼隊』は全員赤装束を着ているため、部隊が分かりづらい。

 この問題を解決するために、ルシフは小隊ごとに色違いの腕章を巻くことにした。そうすることで、一目で誰がどの小隊に所属しているか把握できるようになった。

 故に、隊長はシルバー1、スカーレット1などと呼ばれ、カラー1と呼ばれたら小隊隊長全員をさす。

 ルシフは『剣狼隊』の中でも選りすぐった実力者たちを、ツェルニに来させるつもりなのだ。

 ヴォルゼーとバーティンもカラー1の一人であるが、その二人が除外される理由はマイにもよく分かっている。

 まずヴォルゼーに教員は間違いなく無理。生徒を何人死なすか分からない。

 バーティンはルシフ様にとって、おそらく一番面倒な相手。自分の近くにいてほしくないのだろう。

 

「ルシフ様はツェルニを実験場にするつもりなんですね」

 

「今回の補給で人員が割かれ、教える人間がいないせいで休校になり、時間を無為に過ごす。実に愚かしい。俺は学園都市であっても教員は必要と考えている。

試してみる価値は十分にあるだろう」

 

「生徒会長の許可は?」

 

「これからもらってくる予定だ。なに、心配はいらん。俺には『切り札』があるからな」

 

 マイは『切り札』が何か分からず、きょとんとした。

 ルシフは立ちあがり、机の上のコップを二つ持つ。

 

「もう話は終わりだ。俺はこれから朝食を作る。暇なら食べてくか? ついでに作ってやるぞ」

 

「はい、いただきます! 私もお手伝いさせてください!」

 

「好きにしろ」

 

 マイも椅子から立ちあがり、ルシフの後ろに付いていく。

 マイは『剣狼隊』の武芸者が一人残らず嫌いであり、苦手であった。

 こうしてルシフと二人きりで穏やかに過ごすなど、彼らが来たら出来ないだろう。

 自分が言うのもなんだが、『剣狼隊』の武芸者のルシフに対する心酔っぷりはすごい。ツェルニに来たら、ルシフに付きまとうのは必至。

 ならせめて、その日が来るまで、自分はルシフ様と二人きりでいられる時間を大切にしよう。

 ルシフの隣で料理を手伝いながら、マイはそう思った。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 ハイアは家でもある自分たちの放浪バスの上に座っていた。

 その手には錬金鋼(ダイト)が握られている。壊れていない、新しい錬金鋼。

 戦いを生業にする者にとって、武器は命そのもの。当然予備の錬金鋼はいくつも準備してある。

 サリンバン教導傭兵団の被害は相当なものであった。

 ミュンファとフェルマウスは重傷。ミュンファに関しては最低でも一週間、安静にしなければならない。フェルマウスにいたっては活剄で自然治癒力を高められない分、ミュンファより深刻だった。おそらく一、二ヶ月は動けないだろう。

 更に団員四十三名の内、約四分の一が負傷。活剄で自然治癒力を高めれば、おそらく数日で完治する程度の傷ではあるが、問題なのはそこではない。

 未熟者の集まりであろうこんな場所で、数年振り以来の被害を出してしまったこと。

 三代目団長であるハイアにとって、これが何より許せなかった。

 相手が汚染獣なら、まだ言い訳のしようはある。都市間戦争の助っ人での負傷も、戦争なのだからこんな事もあると自分を納得させられる。

 しかし、今回の被害はどうだ?

 未熟者しかいないと決めつけ、ろくにツェルニの武芸者を調べず、私情で喧嘩を売った。

 その結果がこのザマだ。自業自得。言い訳のしようがない失態。

 この失態を帳消しにし、サリンバン教導傭兵団の団員たちに再び慕ってもらう方法。ハイアの中で、それは一つしかない。

 廃貴族を確保し、グレンダンに持ち帰る。

 サリンバン教導傭兵団創設以来の偉業。幸いにして、その持ち主はもう分かっている。

 後は策を練り、身柄を確保するだけ。

 しかし、念威操者であるフェルマウスは動けず、情報収集するにも自力でしなければならない。

 負傷していない団員たちは、負傷させた武芸者を絶対に許さないと闘志に燃えている。

 これだけがハイアにとって、唯一の救いだった。

 

「とりあえず、まずは交渉からやってみることにするさ~。この都市の長に、廃貴族がどんな存在か教えてやらないと」

 

 まずは都市の長に話を通し、ルシフ・ディ・アシェナがいかに危険で不安定な存在か、嘘を混ぜて伝える。

 それで都市がルシフを排除する動きになれば、かなりやり易くなる。

 おそらくルシフと自分の実力は、そう離れていないだろう。

 都市の協力を得てルシフを孤立させれば、必ず捕らえられる。

 ハイアは放浪バスから飛び下りた。

 バスの中から数名の団員が出てくる。

 彼らは今まで負傷者の手当てをしていたらしく、その手には包帯やら消毒液が握られていた。

 

「ハイア、今後の方針は決まったか?」

 

「ああ、廃貴族を確保する」

 

 団員たちは微かに頷いた。

 

「分かった。団長のお前がそう決めたのなら、俺たちは従うだけだ」

 

 ハイアの目が見開かれる。

 団員の内の一人が、そんなハイアの姿を見て苦笑した。

 

「……なんだ? 今回のことで、団長としての人望が無くなるとでも思ったのか?

誰だって失敗はある。大事なのは、その後どうするか――だろ?」

 

 ハイアは団員たちから視線を逸らし、軽く頭を掻いた。

 

「全く、余計なお世話さ~。おれっちはこの都市の長に会ってくる。みんなは、バスを守ってくれ」

 

「了解、団長」

 

 サリンバン教導傭兵団の団員たちは、サリンバン教導傭兵団で育ったハイアにとって、年の離れた兄や姉であった。一度の失態で崩れる程、柔な関係ではない。そんな当たり前のことに、ハイアはようやく気付けた。

 彼らの信頼に必ず応える。

 ハイアはそんな決意を胸に、もう使われていない建造物がずらりと並ぶ、寂れた通りを歩き出した。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 ニーナとレイフォンは練武館にある、第十七小隊の訓練室にいた。

 二人の前には都市警課長フォーメッドと、レイフォンの友人であるナルキがいる。

 

「話というのは?」

 

「隊長さん、うちのナルキを小隊に欲しがっていたろ?」

 

「それは……」

 

 確かにニーナはナルキに直接勧誘したし、その後に都市警に直接出向き、フォーメッドに話もした。

 しかし、ナルキから快い返事が来なかった。今のナルキの表情を見ても、嫌だと顔に書いてある。

 フォーメッドは苦笑した。

 

「確かに、本人は小隊に入りたくないと言っている。しかし、今回の件は都市警の力だけでは解決できそうにないからな。いわゆる取引だ。

そちらが都市警に協力し、今回の件の解決に協力してもらえるなら、ナルキは第十七小隊入隊の話を受ける」

 

 そういうことかと、ニーナとレイフォンは頷いた。

 ナルキは依然として不満顔。

 フォーメッドはナルキの方に顔を向ける。

 

「ナルキ、警察の仕事には潜入捜査がある。しっかりやらなければ命を落とす――そんな危険な仕事になる場合だってある。お前がこの都市を出た後も警察を続けたいなら、今回の話は必ずお前のためになる」

 

 フォーメッドの言葉を聞き、ナルキは諦めたように顔を俯けた。

 フォーメッドがニーナたちに向き直る。

 

「さて、話を続けようか」

 

「どうぞ」

 

「まずは昨晩の話をしよう。レイフォン、昨日は助かった。おかげで偽装学生とそいつらの品を押さえることができた。

問題なのはそいつらの品だ。予想通り、違法酒だった」

 

 ニーナは少し思案顔になった後、何かに思い当たったようで、フォーメッドを見返した。

 

「……まさか、小隊の生徒が?」

 

 フォーメッドは無言で頷いた。

 ニーナは首を横に振る。

 

「バカバカしい。そんなものに小隊の生徒が頼るなど……」

 

「しかし、確実に力が手に入る道でもある。今のツェルニは崖っぷちに立たされている。今掘ってる鉱山を失えば、ツェルニは緩やかに死んでいく都市になる。ツェルニを存続させるためには、今年の武芸大会に必ず勝たなければならない。

俺は武芸者じゃないから想像でしかないが、とてつもない重圧が武芸科の生徒に、特に小隊所属者にはのしかかっているのだろう。その重圧と自らの実力の無さに耐えられず、安易に力を得る道を選ぶのは、そんなにおかしいか?」

 

 レイフォンはフォーメッドの言葉に頷いた。

 元々違法酒は、そういう時のためにあるのだ。

 ニーナは納得できないらしい。

 

「それは……だが、間違っている道だ。自己犠牲など、周りの人間からすれば迷惑極まりない」

 

「それで都市が救われるとしても?」

 

「その人間も含めて都市なのだと、わたしは考える。全員が救われる道を、わたしは行きたい。たとえ、それがどれほど困難と苦難にまみれた道であっても」

 

 ニーナは強い光を宿した瞳で、フォーメッドをまっすぐ見据えた。

 フォーメッドは面食らった表情になったが、すぐに表情を笑みに変えた。

 

「……どこまでも青い。だが、気持ちの良い言葉だ。これなら信用できそうだな。

改めて取引といこう。都市警に協力してもらえるか?」

 

「喜んで」

 

 フォーメッドは一枚の書類を胸ポケットから取り出した。

 

「品の入手経路を調べて、違法酒を買っていた人間を割り出せた。ツェルニに入ってくる荷のチェックはやっているが、個人に対して送られる荷はチェックが甘い。そうやって個人の荷に少量ずつ違法酒を入れて、偽装学生はツェルニに運んでいた。しかし、住所がデタラメでは、その荷は送り返されるだけだ。

つまり、送り先の住所は偽物ではなく、本物を使用していた。

後は荷を送られた頻度の高い生徒を調べればいい」

 

「それで、その頻度の高い生徒は……」

 

「上位にいたのは六人。全員同じ小隊に所属している。第十小隊、ダルシェナ・シェ・マテルナ。彼女以外の全員だ」

 

 ニーナは動揺で視線をさまよわせた。

 第十小隊は第十七小隊の次の対戦相手であり、ニーナは第十小隊を分析していた。

 それにニーナにとって、第十小隊とは浅からぬ因縁がある。

 シャーニッド・エリプソンは元々、第十小隊の隊員であった。

 ディン・ディー。ダルシェナ・シェ・マテルナ。シャーニッド・エリプソン。

 三人が揃っていた頃の第十小隊は、最強である第一小隊に迫る実力を持っていた。

 それが崩れたきっかけは、シャーニッドが第十小隊から抜けたからだろう。

 ニーナはシャーニッドに声をかけ、シャーニッドは第十七小隊への入隊を受け入れた。

 シャーニッドが抜けた第十小隊の弱体化は著しく、かつての強かった第十小隊は見る影もなくなった。

 彼らからすれば、ニーナは第十小隊を壊した人物と思われても不思議ではない。

 

「主犯格も見当がついている。第十小隊隊長、ディン・ディー。彼の出身地は彩薬都市ケルネス。違法酒を現在も生産している数少ない都市。彼ならば、違法酒を入手する方法を知っていてもおかしくはない」

 

 ニーナは両拳を握りしめた。

 室内に重苦しい空気がのしかかる。

 違法酒の使用は武芸大会であっても禁止されている。

 もし発覚すれば、様々な問題がツェルニに降りかかってくるだろう。

 必ず解決しなければならない。

 それが本当の意味で、ツェルニを守ることに繋がっているのだから。

 必ずディンを止めてみせると、ニーナは胸に誓った。


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