遊戯王5D'sタッグフォース 満足の意志を継ぐ者 作:ゾネサー
レイン恵によって奪われたモンスターを取り返し、コナミは彼女の与えた絶望を抜け出したかに見えた。しかし、絶望の先に待っていたのはさらなる絶望だった。
「…融合召喚。絶望をもたらせ、冥界龍 ドラゴネクロ!」
彼女が破滅の未来に対抗する手段として手に入れた究極の融合魔法、超融合。それによって発生した渦はコナミの場の2体のシンクロモンスターを取り込み、闇によって覆われた邪悪なドラゴンを呼び出した。
冥界龍 ドラゴネクロ 攻撃力3000
「何だこいつは…!?」
「このドラゴンは私が絶望に抗うために導き出した最後の足掻き。だけどこのドラゴンも結局は希望となることはなかった」
「そうか…。今こいつは2体のシンクロモンスターを融合して現れた。これもシンクロモンスターの力を合わせる戦い方の一つってことか…」
「そしてあなたの場のモンスターはこれでいなくなった。加えてあなたのライフは100。これで終わらせる」
(…やべえ。俺の伏せてる3枚のカードはどれも攻撃を防ぐような効果を持ってるカードじゃねえ…!)
「バトル。ドラゴネクロであなたにダイレクトアタック。ソウル・クランチ!」
ドラゴンの纏う邪気が集約し、怨霊となって放たれた。
「ここまでなのか…?」
怨霊の集合体が地面を這うように近づき、コナミの足元までやってきた。その時、突然コナミの周りが光よって包み込まれていった。
「…!クリアクリボー!?」
光の正体は自身の身体を発光させたクリアクリボーだった。クリアクリボーはコナミに向かって小さな手を必死に振り、何かを伝えようとしていた。
「…そうだよなクリアクリボー。前にカイバーマンにも言われたじゃねえか。どんな時でも恐れずデッキを信じて戦えって。俺に出来るのはそれくらいだ!墓地のクリアクリボーの効果発動!ダイレクトアタックを受けた時、墓地のこのカードを除外することでカードを1枚ドロー出来る!」
「…!カード・ブロッカーの効果で墓地に…」
「そして引いたカードがモンスターならそいつを特殊召喚して攻撃対象をそのモンスターに変更出来る!…ドロー!」
コナミは迷いなくデッキからカードを1枚引き抜いた。
「来たぜ…俺が引いたのはUFOタートルだ!こいつを守備表示で特殊召喚!」
クリアクリボーの発する光から未確認飛行物体を背負った亀が現れ、コナミを守るように立ち塞がった。
UFOタートル 守備力1200
「そのあなたの足掻きすらさらなる絶望への引き金に過ぎない…。ドラゴネクロとバトルを行うモンスターは戦闘では破壊されない」
「え…?」
怨霊は亀を攻撃することなく、四肢を掴んで身動きを取らせないようにしていた。
「そしてバトルを行なったモンスターの攻撃力を0にし、そのモンスターの元々のレベル・攻撃力を持つダークソウルトークンを私のフィールドへ呼び出す!」
「UFOタートルの魂を吸い取るってわけか…!」
「そう。そしてあなたのモンスターは魂を吸い取られた抜け殻となり、その魂はあなたに襲いかかる…!」
「……そんなものはお断りだぜ!これ以上俺のモンスターを奪われてたまるか!トラップ発動、アルケミー・サイクル!このターンの終わりまで俺のフィールドに存在する全ての表側表示モンスターの元々の攻撃力は0になる!」
「なっ…!?」
亀の魂が幽体離脱によって怨霊の手から逃れていき、怨霊は魂を吸い取ることが出来なくなる。
UFOタートル 攻撃力1400→0
そして吸い取るエネルギーがないまま移し身のトークンが生み出されていく。
「…ダークソウルトークンを守備表示で特殊召喚する」
移し身のトークンは力を持たず、意思を持たない人形のようにフィールドに佇んだ。
ダークソウルトークン 守備力0
「よし…攻撃を躱したぜ!」
「まだ攻撃は残っている…!行って、
鬼は斧を振るい、無防備な亀を切り裂いた。
「っと…!アルケミー・サイクルによって元々の攻撃力が0になったモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られたことでカードを1枚ドロー出来る!」
「だけどこれであなたの場のモンスターは再び全滅した……!」
「いいや、そんなことはないぜ!UFOタートルの効果発動!このモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する事ができる!来てくれ、人造木人
「…!」
亀の消滅によって未確認飛行物体が解放され、フィールドに浮遊していく。未確認飛行物体の下部から光線が降り注ぎ、頑丈な装甲を持ったロボットがゆっくりと降りて来た。
人造木人18 攻撃力500
「…だけど私の場にドラゴネクロが存在する限りあなたに勝利はない。私はこれでターンを終了する!」
レイン恵 LP4000
フィールド 『冥界龍 ドラゴネクロ』(攻撃表示) 『馬頭鬼』(攻撃表示) 『ダークソウルトークン』(守備表示)
セット0 『アンデットワールド』
手札3
「助かったぜクリアクリボー。お前がいなかったらここで俺はやられてた…」
クリアクリボーは笑いながらコナミの周りをくるくると回り、光の粒子となって消えていった。
「俺のターン、ドロー!ここは何としても引くわけにはいかねえ。デッキを信じて戦うなら…このカードだ!トラップ発動、無謀な欲張り!俺はデッキから2枚のカードをドローする!ただしこのカードを使った後、俺のドローフェイズは2回スキップされる!」
「そんな…無茶な」
「無茶でもしねえとお前の絶望は超えられねえからな。……ドロー!」
コナミはデッキから2枚のカードを思い切り引き抜いた。
「…行くぜ、恵!」
「…!」
「俺は手札から魔法カード、森のざわめきを発動する!このカードは相手フィールドにいるモンスター1体を裏側守備表示にする事ができるぜ!」
(狙いは…守備力0のドラゴネクロ?確かに守備表示なら倒すことは出来る。…けれども)
「ドラゴネクロはたとえ自身が戦闘で破壊されようともバトルしたモンスターの攻撃力を0にし、そのモンスターの魂を糧にダークソウルトークンを生み出す。ドラゴネクロを倒したとしてもライフ100のあなたは…」
「勘違いしてもらっちゃ困るぜ。俺が裏側守備表示にするのは馬頭鬼だ!」
「え…?」
突如発生した突風に鬼は抗う事が出来ず、体勢を大きく崩してしまう。
馬頭鬼(裏側守備表示) 守備力800
「さらに俺は森のざわめきのもう一つの効果を発動し、フィールド魔法を手札に戻す!」
「アンデットワールドが…!?」
腐敗したフィールドが浄化されていき、ゾンビのようにやつれていたモンスターも元に戻っていった。
「そしてバトルだ!人造木人18でダークソウルトークンに攻撃!」
UFOタートルの移し身は抵抗する事なく人造木人18の装甲で押し潰されてしまった。
「くっ…。だけどこれであなたの場に攻撃可能なモンスターはいない。バトルフェイズはこれで終わる…!」
「いいや、まだだ!トラップ発動、墓荒らし!こいつは相手の墓地にある魔法カードを1枚だけ俺の手札に加える事が出来る!」
「私の墓地の魔法カード?まさか…!」
「俺が手札に加えさせてもらったのはこのカードだ!」
恵の墓地から1枚のカードが飛び出し、コナミの手に収まる。そしてコナミは恵にそのカードを見せた。
「超融合…!」
「このカードで示してやるぜ。お前達が味わった絶望は決して無駄にはならねえってことをな」
「どういう…こと?」
「破滅の未来があったってことは少なからず俺達がその未来を変えられなかった過去があったってことだ。だからお前達イリアステルは未来を変えるためにここに来た。…だけどな、お前達が俺達にその絶望を伝えたことで俺達は知る事が出来た」
「…何を?」
「その絶望を変える事が出来る可能性だ!何も知らなかったらそもそも変えること自体を考えられねえ。お前達が伝えてくれたからこそ、俺達はその未来を変えることが出来るんだ!」
「……。なら…示して」
「…!恵…?」
「あなた達が私達を超えることが出来ればそれはあなた達が絶望を超える可能性を得たことを示す」
「恵…もしかして」
「…違う。もしそれで力不足と判断されればアーククレイドルは地上に落ち、モーメントと共に大勢の人々も葬られる」
恵はコナミをしっかりと見据える。その目は静かにこの発言が嘘ではないことを物語っていた。
「…デュエルを続行。墓荒らしによって手に入れた魔法カードがプレイされればあなたは墓荒らしの効果によって2000のダメージを受ける。たとえ超融合といえども発動出来なくては意味はない…!」
「…へっ。なら意味を持たせてやるぜ!手札からハネワタの効果発動!このカードを手札から捨てることで俺がこのターン受ける効果ダメージは0になる!」
「…!墓荒らしの効果ダメージを打ち消した…」
羽の生えたけむくじゃらの天使がコナミの頭上を舞い、光の鱗粉を降り注がせた。
「…行くぜ。俺は手札のキラー・スネークを墓地に捨て手札から速攻魔法、超融合を発動する!」
フィールドに再び豪風が吹き荒れ、彼らの中心に巨大な渦が発生した。
「このカードはフィールドの任意のモンスターで融合する事が出来る。俺が融合させるのは人造木人18と…冥界龍 ドラゴネクロだ!」
「ドラゴネクロを使って…さらに融合!?」
風によって吹き飛ばれたロボットと彼女の絶望の象徴である邪悪なドラゴンが渦へと吸い込まれていき、頑丈な装甲とドラゴンの胴体が組み合わさった機械龍を生み出した。
「融合召喚!絶望を乗り越えろ…重装機甲 パンツァードラゴン!」
龍の体が鋼鉄でコーティングされていき、その姿を2人の前に見せた。
重装機甲 パンツァードラゴン 攻撃力1000
「まさかドラゴネクロを吸収してさらに融合するなんて…。だけど攻撃力は1000。その程度では…」
「それはどうかな?こいつの力、俺が引き出してやるぜ。まずは裏側守備表示になっている馬頭鬼に攻撃だ!」
機械龍が口を大きく開くと砲台を覗かせ、放った鋭い弾丸が馬の面を被った鬼を貫いた。
「このターンだけでモンスターが全滅…」
(だけど恵のライフは未だ4000。対する俺は100。…次のターンで勝負するしかねえか)
「カードを2枚伏せて…ターンエンドだ!」
コナミ LP100
フィールド 『重装機甲 パンツァードラゴン』(攻撃表示)
セット2
手札0
「私のターン、ドロー。たとえ超融合によって呼び出されたモンスターだとしても…負けるわけにはいかない。私は再び手札からフィールド魔法、アンデットワールドを発動する!」
フィールドが闇に覆われていき、地面やモンスターも腐敗していく。
「このフィールド魔法によってフィールドと墓地のモンスターはアンデット族となった。墓地に存在するドラゴン族のドラゴネクロも!」
「ドラゴネクロをアンデットに…」
「そしてアンデットは不死のモンスター。何度でも蘇り…何度でも襲いかかってくる。墓地の馬頭鬼の効果発動!墓地のこのカードを除外することで私の墓地からアンデット族モンスターを特殊召喚する事が出来る!私が呼び出すのはもちろん……」
腐敗した地面が崩れ、巨大な穴が空く。そこから怨霊を纏った邪悪なドラゴンが再び姿を現した。
冥界龍 ドラゴネクロ 攻撃力3000
「ドラゴネクロが復活しやがったか…」
「絶望はまるでゾンビみたいに何度でも私達に襲いかかった。ドラゴネクロ…このモンスターを乗り越えなければあなたに可能性はない」
邪悪なドラゴンは低い唸り声をあげ、空気を震わせた。
「でも…もはや逃れる道はない。この攻撃で終わらせる!バトル。冥界龍 ドラゴネクロで重装機甲 パンツァードラゴンに攻撃!ソウル・クランチ!」
邪悪なドラゴンから無数の怨霊が機械龍に向かって襲いかかっていった。
「…逃げる気なんかさらさらないぜ。立ち向かってやる!世界をひっくり返してでも乗り越えてやる!トラップ発動、…
時空が歪み、歪みはやがて空間へと侵食し亀裂を発生させた。
「これは…!?」
「反転世界の効果によってフィールドの全ての効果モンスターの攻撃力、守備力は入れ替わる!」
「パンツァードラゴンの守備力は2600。ドラゴネクロの守備力は0。…だけど、甘い!ドラゴネクロとバトルしたモンスターは攻撃力が0になり、私の場に元々の攻撃力を得たダークソウルトークンを呼び出す。これで本当の終わり…!」
怨霊が機械龍を囲んでいき、魂を吸い取ろうとしていく。
「…恵。確か言ってたよな。デュエルが楽しいかどうか分からないって」
「…?確かに…言った。でもそれは私がロボットだったことで感情が無かったから」
「いいや、違うな。デュエルしててわかったぜ。恵が俺とデュエルした理由。それは俺をここで倒す事じゃない。俺に絶望を味わわせることで、その絶望を乗り越えるための力を手に入れさせるためだ!」
「…!」
「今思えばニューワールドとの試合の前に恵が俺にデュエルを提案したのは絶望を超えるだけの可能性があるかを確認するためだった。わざわざそんなことをする奴が感情が無いなんて思わねえ」
「ならばそもそもデュエルが楽しいか分からないという発言が嘘だっただけのこと」
「俺はそうは思わねえ。お前は今まで絶望と戦ってきた。そして最後の一人になっても戦った。そりゃ忘れちまうよな…デュエルは本当は楽しいもんだって」
「……」
「俺は遊星達がデュエルしてるのを見て楽しそうだと思ってデュエリストになったんだ。だから…俺のデュエルでお前を楽しませてやるよ!」
「…こんな時に楽しむなんて」
「こんな時、だからだぜ。行くぜ恵!これが俺の可能性だ!トラップ発動、仁王立ち!フィールドのモンスター1体の守備力を倍にする事が出来る!」
「…!?つまり…」
機械龍の胴体が巨大化していき、堅牢な壁として怨霊の侵攻を防いでいく。
重装機甲 パンツァードラゴン 守備力2600→5200
「そして反転世界の効果発動!攻撃力と守備力がひっくり返るぜ!」
歪んだ空間に巻き込まれ怨霊を放っていた邪悪なドラゴンは他に伏し、機械龍の怨霊を防いでいた壁に無数の砲台が現れた。
冥界龍 ドラゴネクロ 攻撃力3000→0
重装機甲 パンツァードラゴン 攻撃力1000→5200
「あの状況から…絶望を乗り越える一手を」
邪悪なドラゴンが地に伏したことで怨霊は消え去る。そして機械龍から砲撃が放たれ、ドラゴンを貫いた。
「あなたとのデュエルはやはり楽し…かった」
レイン恵 LP4000→0
恵のライフが0になったことで彼女が守っていた遊星ギアが破壊された。そして遊星ギアと一体化していた恵も崩れ落ちていく。
「あ、危ねえ!」
とっさにコナミは走り出し、恵が地面に叩きつけられる前に支えることができた。その時、コナミは二つの事実に気付いた。一つは彼女の内にモーメントが流れ、それをエネルギーに動いていること。そしてもう一つは……。
「モーメントの回転の音が弱え…。こんなんじゃ止まっちまうぞ…!」
「…やむを得なかった。ゾーンの指示によって私の中にある未来のモーメントの一部をパラドックスに移すことになった時点で…覚悟はしていた」
遊星ギアが破壊されたことで太陽ギアに繋がる道が解放される。そしてその道から遊星ギアが破壊された時より大きな音が響いた。
「今のは…太陽ギアが開いた音。アポリア達もチーム5D'sに倒され、ゾーンへの道が開いたということ」
「お、おい…恵!」
コナミが支えている恵の身体が脱力していき、彼女が自分の身体を支えきれなくなっていることを感じさせる。
「私はあなた達に…未来を託す。あなた達なら未来を変えられると信じる。だから私は…安心して眠れる」
「…俺達は絶対に未来を破滅なんかさせねえ。だからお前も生きてそれを見届けてくれよ…!」
「…私も見届けたかった。だけど、どうしても未来の人々を救うには犠牲が出るのは避けられない。私はロボット、人間じゃない…私がいなくなっても問題はない」
「馬鹿を言うなよ!お前は人間だ!感情を持って自分の意思を持って行動してきたじゃねえか!」
「…コナミ。ごめんなさい…でも、ありがとう」
その言葉を最後に恵の口が閉ざされる。
「恵!?」
コナミは彼女を揺らし、反応がないか探った。しかし、反応はない。
「…いや、まだ少しだけモーメントの音が聞こえてくる。本当に小せえが…」
彼女の動力源となっているモーメントは未だ動いていた。だが、聞こえてくる音はあまりにも頼りない。
「…俺はもしかしたら本当はゾーンを倒してアーククレイドルを止めに行かなきゃならねえのかもしれねえ。確かに破滅の未来を変えるにはどうしても犠牲が出てしまうのは仕方ねえのかもしれねえ。…だけどよ」
コナミは恵を持ったまま立ち上がった。そして彼女をDホイールに乗せ、そのままある方向へとDホイールを向けた。
「目の前の生きている人間を救えねえで破滅の未来なんか救えるかよ…!」
コナミは太陽ギアへと繋がる道ではなく入る時に使用した入り口の道の方へとDホイールを走らせた。ゾーンのことを鬼柳とチーム5D'sに託して。
「もし恵を助けられるとしたら…同じ体を持つ奴から助かる方法を聞き出すしかねえ!確かアポリアは5D'sの誰かに倒されたって恵は言ってた。なら…!」
入る時は長く感じた道だったが、何故か今のコナミにとっては一瞬のように感じられた。入り口を抜け出したコナミが向かったのは5D'sのメンバーが向かったであろうアーククレイドルに空いた穴から通じる道。しかし、その道は3つに分岐していた。
「…迷ってる暇はねえ。頼む、こっちであってくれ!」
コナミは空飛ぶDホイールを走らせ、自身が選んだ道へと向かっていった。その道がアポリアへと通じる道だと信じて。