遊戯王5D'sタッグフォース 満足の意志を継ぐ者   作:ゾネサー

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忌むべき印

サイバー流の道場で一週間の修行を終えたコナミ。彼はキメラテック・フォートレス・ドラゴンの伝授のために最終試験を受けていた。

 

「デッキから3枚のカードを…ドロー!」

 

相川のデッキを借りたコナミは3枚のカードを引き抜く。引いた3枚はどれも同じカード…サイバー・ドラゴンだった。

 

「見事だ…。一週間の修行でサイバー・ドラゴンの信頼を勝ち得たか。本官も誇らしいぞ」

 

「や、やっとこの修行が終わるのか…!サティスファクションで活動してた時より体力使ったな…」

 

「ふっ…だがこれは入り口だ。これをどう活かすかはお前次第だ」

 

そう言って相川は貸していたデッキから2枚のカードを取り出しコナミに渡した。

 

「ああ。一週間修行に付き合ってくれてありがとな」

 

コナミは自身のデッキに受け取ったカードを投入し、デッキをディスクへとしまった。

 

——その時であった。彼らに不可視の衝撃波が襲いかかったのだ。コナミを囲うように障壁が張られ、コナミに衝撃波は及ばなかったが相川は衝撃波をもろに受けてしまっていた。だが彼の体に異常は見当たらず、そもそも物理的な衝撃がなかったため彼らは何かが起きたことに気づくことすらなかった。

 

「あの大量のゴーストを操っていた奴らを倒すための答え…こいつをきっかけに見つけてみせるさ」

 

変わらず話を続けるコナミ、それに対する相川の態度は…明らかにおかしいものだった。

 

「大量の…ゴーストだと?何のことだ」

 

まるで相川は一週間前に起きたばかりの事故がなかったかのような反応を示したのだ。

 

「えっ…?何言ってるんだよ。お前と一緒に10体近くのゴーストを倒したじゃねえか」

 

「何だと?だが、そんな記憶は本官には…!?あ、頭が割れるように痛い…!何だこれは!?」

 

相川は頭を押さえながらその場でうずくまってしまった。

 

「お、おい!大丈夫か!?一体何が…?」

 

その疑問に対して答えたのは…コナミのデッキに眠る精霊、エンシェント・ホーリー・ワイバーンだった。

 

「歴史が…過去の歴史が改ざんされたのです。ゴーストを操っていた3人の者によって」

 

その言葉でコナミは痛感した。自分が向き合おうとしているものがどれだけ巨大な力を持っているのかを。

 

時を同じくして鬼柳京介、海野幸子は本戦への出場が決定したことを祝うため作戦会議を兼ねて海野財閥のガレージに集まっていた。サイバー流の修行から帰ってくるであろうコナミを待っていた彼らにも不可視の衝撃が走る。だが、どこからか現れた2つの障壁が2人を囲み、事なきを得た。

 

そして、事態の異常さに気づいたコナミが急ぎ足でガレージへ帰ってきた。

 

「大丈夫かお前ら!」

 

「ど、どうしたコナミ?」

 

「お前らも忘れたりしてないよな?あの大量のゴーストが襲ってきたことを!」

 

「忘れるわけないじゃありませんか。あのゴーストを撤退させるためにわたくしたちがどれほど苦労したか…」

 

「かなりやばかったけどな。何故だが知らねえが途中でほとんどのゴーストが別のレーンへ向かっていったから助かったぜ」

 

「あ、あれ…?どうなっているんだエンシェント・ホーリー」

 

「先ほど私はとっさに障壁を張ってあなたが改ざんの被害を受けないようにしました。彼らの…少なくともどちらかに精霊、または特別な力を持つカードが…?」

 

「それよりコナミ!こいつを見てくれよ。本戦に進んだ8チームの中に見慣れねえチームがあるんだ」

 

「何だって!?」

 

鬼柳がパソコンを操作しコナミ達が2回戦…すなわち準決勝で戦う相手のデータを表示してコナミに見せた。

 

「チームニューワールド…!?こいつらはあの時遊星と話していたゴーストの親玉じゃねえか!」

 

「何ですって!よくもぬけぬけと大会に出ていますのね!すぐに大会本部に抗議を…!」

 

「いや、ダメだ!あいつらが何をしたか分かんねえが…この前の事件がなかったことになってやがるんだ」

 

「んな馬鹿な…!?」

 

そしてコナミはニューワールドが遊星に対して話していた内容を伝える。間違った過去を未来から修正しにきたという話は普通なら簡単に信じられることはない。だが、彼らは過去の改ざんという信じられないことを既にやってのけていた。

 

「…つまり、あいつらがやってることを止めるにはWRGPであいつらに勝つしかねえってわけか」

 

「全く…頭が痛くなる話ですわね。サテライトでのあの騒動で少し慣れてしまっているわたくしが憎いですわ」

 

「だけど俺たちの未来を好き勝手にされたくなきゃやるしかねえぜ。俺たちの未来はいつだって俺たちが決める!」

 

「だな!祝賀会は中止だ!行くぜお前ら!チームネオサティスファクション、まずは1回戦に勝つためにDホイールの調整に行くぞ!」

 

「仕方ないですわね…。帰ってきたら1回戦の相手の対策を練りますわよ」

 

彼らはガレージから出て行き、市街レーンでDホイールを走らせる。ゴーストとの戦いの影響でDホイールが負傷していることが危惧されたが、幸いにも大きなダメージはなく通常通りのライディングをすることが出来た。

 

そしてその帰り道…彼らは鬼柳に連れてこられた高台で、あるチームと遭遇した。

 

「あれは…チームラグナロク!?わたくし達が一回戦で当たる相手ですわ…!」

 

「え?そうなのか」

 

「…ここに君達が来たのも運命の導きかもしれないな、チームネオサティスファクション」

 

3人のうちの1人、ラグナロクのリーダー、ハラルドがコナミ達に話しかけてくる。

 

「運命の導き…?何わけの分からないことを言ってやがる!」

 

「ふっ…ならば君達に見えているとでもいうのか?あの空に浮かぶフィンブルの冬の到来を」

 

「……」

 

「鬼柳が無言になるのも無理はないですわ。何もないじゃありませんの」

 

ハラルドがさしたのは特に何の変哲もない空。既に日が落ちかかっており、夕焼けによってほんのり赤く染まっている。

 

「何も見えねえぞ…」

 

当然コナミも何も見ることは出来なかった。だが、何かに気づいたエンシェント・ホーリーが精霊の力を解放し、コナミに空中に隠された物体の正体を見せた。

 

「エンシェント・ホーリー…!?あれは一体…?」

 

コナミの目がとらえたのは空中に浮かぶ街だった。しかも街は逆さまになっており、その異常性を物語っている。

 

「ほう。その力…精霊か」

 

ハラルドの右隣に佇んでいたドラガンはコナミに力を貸したものの正体を左目で見抜いた。

 

「…!精霊が見えるのか!?」

 

「いや、俺にはそんなものは見えない。だが、それがどんな力か感じ取ることは出来る。この真実を見抜くルーンの瞳の力でな!」

 

「ルーンの瞳…?遊星達の痣みてえな力があんのか?」

 

「俺たち3人はこのルーンの瞳によって守られている。どうやらお前らもあの改ざんの影響を受けてねえみてえだな」

 

ハラルドの左隣で頭の後ろに手を組んでいたブレイブが話に割って入る。

 

「お前らはあれが何か分かるのか!?」

 

「…いや、分からない。だが、ルーンの瞳が危険だと告げている。あれを近づけてはならないと。そして同時に現れたチームニューワールドと大きな関係があると思っている。彼らを倒すことこそがルーンの瞳を与えられた我々の使命!」

 

「ニューワールドか。俺たちもあいつらを倒そうとしてるんだ!ここは協力しないか?」

 

「残念だが…星界の三極神は君達を味方だと思っていないようだ」

 

ハラルド達がそれぞれ1枚のカードを取り出す。彼らはそのカードからただならないプレッシャーを感じた。

 

「何でだよ!俺たちが敵だとでもいうのか?」

 

「まずそこの赤帽子…コナミだったか。お前からは迷いを感じる。わずかだが…それがもたらす綻びは小さくはないだろう。恐らく奴らに対抗するお前の答えがまだ出ていないことによる迷いだ」

 

「そ、そこまで分かるのかよ…!?」

 

相談をした相川しか知らないであろう情報。相川が過去の改ざんを受けてしまった以上手に入ることはない情報をドラガンは言ってのける。

 

「そして次はそこのお嬢さんだ。見ての通りただの学生、あの組織に挑む資格はないんじゃねえか?」

 

「むっ…!資格がないとは何ですか!わたくしだってここまでどれほどの努力を重ねたか…」

 

「だけどあんたにはあれが見えてないだろ?」

 

「それは…」

 

精霊を通してあの不気味な浮遊物体を感じたコナミと違い彼女には特別な力は何もない。彼女は同じ景色を見ることが出来ずにいた。

 

「しかもあいつらと向き合うためには多少なりとも辛いことが待ってるだろうよ。それにあんたは耐えられるか?」

 

「それは…。ひ、必要があれば耐えてみせます!」

 

「だってよ…ハラルド」

 

ブレイブはハラルドに話を促す。まるで…彼らの絆を試すかのように。

 

「最後は…鬼柳京介、君だ。君達3人の中で一番戦う資格がないのは君だろう」

 

「…どういうことだ」

 

失礼な物言いに反論する鬼柳、だがその反論に力は感じられない。

 

「君自身ももう分かっているだろう。君は…あれが見えている。そうだろう」

 

「え!?そ、そうなのか?」

 

困惑するコナミの問いに…鬼柳は答えられなかった。

 

「…あくまでも隠すつもりか。いいだろう、ルーンの瞳は全てを見抜く。君の隠し事をここにさらけださせてもらうぞ」

 

そう言うとハラルドの左目が光りだし、鬼柳のデッキホルダーの中から2枚のカードを照らし出した。

 

「そいつは…ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン!それに…じ、地縛神 Ccapac Apu…!?」

 

「…っ!」

 

鬼柳がかつてダークシンクロモンスターとして使っていたワンハンドレッド・アイ・ドラゴン、そして地縛神 Ccapac Apu。それは…ダークシグナーの力の証だった。

 

「君は…以前までダークシグナーだった者だな」

 

「ダークシグナーですって…!?」

 

幸子は信じられないものを見るように鬼柳を見つめてしまう。

 

「ダークシグナー…それはイリアステルの命令により破滅をもたらす存在。そしてニューワールド…彼らこそがイリアステルなのだ」

 

「イリアステル?どこかで聞いたような…?あっ、確かルドガーが言ってた…!ゼロ・リバースを起こすように命じられたとか何とか…!」

 

遊星と共に戦ったダークシグナー、ルドガー・ゴドウィン。彼の語った言の葉がここで線によって結ばれる。

 

「そうだ。イリアステルは様々な出来事を裏から介入している。彼らはそれほどの組織なのだ。そして…ダークシグナーはイリアステルによって過ちを犯した。鬼柳京介…君に戦う資格などありはしないのだよ」

 

「くっ、俺は…!」

 

「待てよ!だけど鬼柳はそのことで悩みに悩んだ!それでも自分の生き様を見せる道を決めたんだ!鬼柳を信じてる奴のために!」

 

「だが…過去に犯した罪は消えるものではない。それに君がダークシグナーだったこと。それ自体が破滅の運命としてまとわりついているのかもしれないな」

 

「そんなことあるか!俺は鬼柳を信じてる!」

 

「だが…破滅の運命は時として残酷なようだ」

 

「あっ!幸子!」

 

彼女が実際に体感した光景が鮮明に思い返されていく。人が1人もいない静かすぎる街。ダークシグナーと命を懸けて戦った双子の傷付く様。そして…ダークシグナーによって生贄にされていく人々の姿。彼女にはディマクとミスティとレクス・ゴドウィンが地縛神の生贄にした人々の悲鳴の痛々しさが染み込んでいた。

 

そしてそれを行ったであろう鬼柳に…恐怖を感じてしまった。彼女はいつの間にか…背を向けて走り出し、停めていたDホイールに乗ってどこかへいってしまった。

 

「やっぱり…あのお嬢さんにはきつかったんじゃねえかハラルド」

 

「だがこれで良かったのかもしれんな。彼らが棄権すれば…俺たちはチームニューワールドへの対策に全力を尽くせる。そして決勝に上がってくるであろうジャック・アトラスをこの手で…」

 

「待て2人とも、これは…彼らに与えられた試練だ。人は生きている限りいずれ試練の時が来る。だが試練を乗り越えしものは必ず強くなる。彼らがこの試練を乗り越えることがあれば…我々も全力で立ち向かわなくてはならないであろう」

 

そして彼らもこの場を去っていく。残された鬼柳達の間には痛いくらいの沈黙が突き刺さっていた。

 


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