るみるみ!
高校生活における目標
1年J組 鶴見留美
私の人生は、ある人に出会ったことで百八十度とはいかずとも百五十四度くらいは方向転換した。
私は小学六年生のとき、クラスの子達から嫌がらせ……いじめに分類されるようなことをされていた。当時の私は彼女らをバカみたい、子供っぽいと評していたが、蓋を開けてみれば自身のつらい、さみしいという感情に蓋をして格好つけていた。私も十分子供だった。
そんなとき、私は目の腐った年上のお兄さんに出会った。
彼は凡そ普通の感性を持った人間には考えもつかないような突飛な行動で、私と私の周りの状況を一変させた。正直あの方法は引いた。感謝しているが、あんな手段ばかり彼が選んでいたら、彼は壊れてしまうかもしれない。
だから私は、彼を助けるなんて傲慢なことは言わないけど、助けられたお礼ができるくらいに強くなりたい。
まずはあの黒髪の美人さんが所属していた国際教養科に頑張って入った。
これは通過点だ。
八幡に今度あったとき、頑張ったなって言ってもらえるように頑張るのが、私の高校生活においての目標。
「鶴見、まずは入学おめでとう」
「ありがとうございます、独身先生」
「平塚だ!……まったく。しかし、元気そうで何よりだ」
入学して初めての現代文の授業。担当が見覚えのある美人な先生だったことには驚いた。彼女も私のことを覚えていてくれたらしい。
平塚先生は、「君たちのことを詳しく知りたいのは山々だが、時間もない。代わりにこれを宿題として書いてきてくれ」と早速私たちに課題を課した。
私は正直にありのままを書いたつもりだったが、なぜか早速職員室にお呼び出しされてしまった。いい出来だと思ったのに。
「けど、私の作文にどんな問題点があったんですか」
「いや、なんと言えばいいのか。問題点はないよ……君と話がしたくてな。比企谷に助けられた、という人間は私個人的に見れば多いのだが、どうも彼はひねくれた行動ばかりとるものでね。彼に助けられた人間は大抵その事実を認めようとしない」
平塚先生は肩をすくめた。困っているようで、その実楽しそうにしている。
この人は八幡のこと、理解しているんだなと安心した。
よかったね、八幡。ぼっちじゃないみたいだよ。
「私は、彼のとった行動は最低だと思いますよ」
「ほう?」
「けど、八幡のおかげで新しい友達ができた。明日学校楽しみだなって思えるようになった。だから私は八幡に救われたの」
「君のような子がいてよかったよ。彼は優しいんだが、捻くれが度を越していてな」
「その捻くれに救われたんだから、それも八幡の個性ってことです。私、懐は深い方だと自負してるんで」
そう私が言うと、平塚先生は堪えきれないとばかりに笑い出した。笑い方も男前だ。もうちょっと慎み深い感じで笑ったら……んー、ちょっと似合わないかも。この人はかっこよすぎる。少なくとも八幡の次くらいには。
「君は比企谷にどこか似ているのかもしれないな」
「それはちょっと勘弁です」
「褒め言葉として受け取りたまえ。……うん、君の話は興味深かったよ。時間を取らせて済まなかったな」
「いえ、私も楽しかったです」
では、と言い席をたとうとしたが、平塚先生に引き留められた。
「あぁ、待ちたまえ。鶴見留美」
「なんでしょうか」
「部活動、に興味はないかね?」