お風呂から出て、あたしはぼうっとテレビを見ていた。特に面白いとも思わないが、一人暮らしには少々広すぎる部屋でいるとたまに寂しくなるのだ。バラエティーの空虚な笑い声は余計気分をもり下げるんだけど。気分を変えるためにちょっとお酒をたしなむ。美味しいなぁ、そうだ、今度カレーにいれてみようかな!りょーりしゅ?ってやつ!ピーチサワーなんてどうだろ?桃は美味しいからきっと大丈夫だよね?
ユ-ガッタメ-ル!
「ありゃ、誰からだろ?」
最近になって、高校生の頃から使っていたケータイとはおさらばした。機能が増えすぎて、あたしにはまだまだ使いこなせない。
「あれ、優美子……?どしたのかな」
家ではもっぱらコンタクト。コンタクトの方が目が痛くなったりなどの弊害はあるけど、やっぱり、ね。外と中は区別しときたいから。
大学もやっぱり楽じゃない。高校生にくらべたら大人……なのかな。大人ぶってるだけ、タチが悪いのかもしれない。そういう私も大人ぶろうとしてるのかもしれないけど。
ふと、忘れられない記憶が蘇る。
私の罪。腐った目の彼。
(どんな大学生活送ってるのかなぁ)
逃した魚は大きかったかな。彼とはなかなか波長が合ったのに。
ユ-ガッタメ-ル!
「ほよ?誰かね誰かね」
私のケータイがなることは少ない。あって同人誌仲間との連絡とか、そのくらい。
「おー、優美子じゃん。どしたんだろ」
「「料理を教えて欲しい???」」
ひさびさに集まった、懐かしき高校時代のグループ(ただし女だけ)。
結衣も海老名も、見るたび可愛くなっていってる。男の気配がないのは相変わらずだけれど。
そこそこ有名な喫茶店で、馬鹿みたいに甘いコーヒーを啜る。
「う、うん……あ、結衣はあれだから、味見とかしてくれたらいいし」
「ひどいよ優美子!?早速信用ないし!」
「賢明な判断だね〜」
「海老名は?料理……得意なん?」
「まあそこそこには。優美子は見るからにやったことなさそうだしねぇ。……好きな人でもできた?」
「ゲホッ!?」
相変わらずの洞察力である。私がわかりやすいだけなのだろうが、高校時代から海老名にはこうやって見透かされてばっかりだ。
「ほぇぇぇ……!優美子、乙女じゃーん!応援するよ、あたし!」
「いや、そーいうんじゃ……」
大きな目をキラッキラさせている結衣。ついでに大きな胸もゆれて……あ、今チラッと見た男。わりとあからさまだし。結衣は鈍いから気付かないけど。
不意にむすくれた表情の男の顔が浮かぶ。
結衣は、その……比企谷に振られているとは いえ、彼のことが好きだったのだから。拒絶されてもおかしくない。
「あんさ、結衣…それに海老名も」
隠しておくのは性に合わないので、ここ1週間ほどであったことを打ち明けることにした。
「そっかぁ……ヒッキー、元気してるんだ」
全部話し終えたあと、結衣の反応は思っていたのとはちょっと違うかった。
「ヒキタニくんか、懐かしいねぇ。……まさか、優美子がヒキタニくんのことす」
「待て待て待て待つし!好きとか、そーいうんじゃ、ないこともないこともないこともないけど!」
「いち、に、さん、よん……否定してないよ優美子!?」
「あいつが、あーしが料理作るんだったら、食べてみたいって言ったから、しゃーなしで作るんだし」
そーかそーかーと返ってくるのは適当な相槌。結衣も海老名も私の言うことは聞いていないようだ。
「ヒッキー、あたしが料理するっていっても頑なに食べようとしてくれなかったんだよー」
「んー、結衣の場合はヒキタニくんの生存本能というか、防衛機制というか、ねぇ」
「そんなことないし!?姫菜ひどいっ」
けらけらと海老名は楽しげに笑う。結衣は反応がいいので、いじると楽しいというのは分かる。
「ね、優美子。あたしさ、ヒッキーのこと好きだったけど、うーん、今でも好きかもだけど、優美子のこと、応援したいって心から思ってるよ」
「同じく、だよ。優美子頑張れ〜♪」
「やっぱ、…あんたらに相談してよかったし」