不真面目なボディーガード訓練生が幻想入り   作:橘恵一

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サプライズというのは良いのもあれば当然悪いのもある。
中には悪いのが好きな人もいるだろう。

それでも受け取り方によって良くも悪くもなるからサプライズは危険度が高い。

されることがあまり無い人はどちらでもいいからされてみたいかも知れないが。

それではお楽しみください。


第37話 「こう?」

8月15日

 

「何を読んでいるかと思えば結構古いの読んでるわね。」

 

 図書館で慧音から借りてきた教科書を読んでいると珍しくパチュリーの方から言ってくる。

 

「ここらへんにあるのだって古いだろ。」

「そうですけどここにはあまり無い類ですから。見たところ教科書のようですが。」

 

 パチュリーが次に読むための本を奥から見繕って持って来た小悪魔も興味があったようで会話に入る。聞き方からしてどういう本かわかっているようだし、経緯を聞きたいのかもしれない。

 

「昨日慧音と知り合って少し気になったんで数冊借りてきた。」

「そういうことでしたか。噂の頭突きは大丈夫でした?」

 

 あそこまで乱暴に頭突きをしていれば噂になるのは当然だ、それになにより記事になってる可能性もあるしな。

 

「危うく当たるところだったが何とか。なんなら読むか?」

「いいんですか!?」

 

 そう言うと小悪魔の表情がパァと明るくなる。

 

「ページ数がそこまで多くなかったから大体読み終わってるし、いいぜ。」

「ありがとうございます、海斗さん。」

 

 机に重ねてある教科書を手に取り、小悪魔は読み始める。こいつも本が好きみたいだがどちらかと言うと選り好みせずに読んでいる方で、オレに近いと思う。パチュリーのようなタイプだったら図書館に篭っていても十分なんだろうな。

 

「なぁ。」

「何でしょうか?」

「お前って外に出たりしないの。」

「滅多に出ませんよ、掃除やらすることはたくさんありますから。」

 

 世話係だし言われてみれば確かにそうか。

 

「それに誰かが連れてってくれるわけでもないですから。」

 

 急に教科書からオレへと目線を移す。しかも少し上目遣いでだ。

 

「……なにそれ、まさか誘導してんの?」

「あ、わかります?」

「残念だが他人の読書のために外出はあまりしないと考えてるんだ。」

「わかってます。それじゃ整理しながら読ませていただきますね。」

「おう。」

 

 小悪魔は教科書を持ちながら本棚の整理のために奥の方へ向かう。オレは特に本が置かれていないのに気付き、部屋から小説を取ってこようと席を立つ。

 

「行っておくけど外出許可なんて無いからね。」

「あ?」

 

 パチュリーはチラチラとオレに視線を移しながら言ってくる。どうやら何かを勘違いしてるようだ。

 

「別に閉じ込めてるわけじゃないから小悪魔が行きたいと言えば行かせてるってことよ。」

「単に行く理由が無いだけかよ。」

「そういうこと。」

 

 つまり外出するなら誰かを連れてってくれと言った意味が含まれていたことになるのだろう。オレと小悪魔を除いた上での誰かなら答えは決まっているようなものだが。

 

「なら今度三人で人里でも行ってみるか。」

「……わ、私は喘息だから却下。」

 

 チラチラと見ていた視線は少し慌てながら本へと注がれる。

 

「え? 誰もお前だなんて言ってないんだが。」

「………………。」

 

 今度は慌てた様子はなく、代わりにドスの効いた視線をオレに向け始める。これだけであんまり弄られ慣れていない事がわかる。

 

「冗談だ、冗談。」

「魔法の練習をしたくなったから離れてもらえる?」

 

 機嫌を損ねてしまった今ならマジで当てて来そうだし、少し落ち着かせたほうが良いかもしれない。

 

「そういうことなら今日は別の場所で読むとしよう。」

 

 そう言い残してオレは図書館から逃げるよう外に出た。

 

………。

 

……。

 

「お嬢様、紅茶をお持ちしました。」

「ありがとう咲夜。ところで今日はなにか毒を仕込んでいるのかしら?」

 

 レミリアもいつもと同じように出された紅茶の香りを楽しみながら咲夜へ尋ねる。

 

「いいえ、お嬢様の物には仕込んでいません。」

 

 と、いつもならここで仕込んでたりするのだろうが今日は少しいつもと違う。

 

「じゃあオレのには仕込んでるんだな。」

「さぁ?」

 

 レミリアが一口飲んでから咲夜から紅茶を出される。オレの方は心なし黒っぽい気がしないでもない。

 

「これは実に怪しさで溢れてるぞ。」

 

 匂いを嗅いで見るが特に変わりは無いので咲夜なりのジョークだと判断し、一口啜る。

 

「致死量じゃないから安心して。」

「飲んだ後に言うな!! あー、どうりで舌がピリピリしてるわけだ。」

 

 単に熱すぎて火傷したかと思いながら飲んでたがどうやら違うらしい。ついでに言うといつもと違って苦味が強いようだ。

 

「で、今回はパチェのことかしら。」

「ああ。小悪魔はそれとなく聞いたがあいつはなんで外に出ないんだ?」

「確か日光で髪が痛むからとか。」

「おいおい、あいつも日光が苦手なのか。」

 

 理由は子供じみたものだが咲夜が前に言っていたようにここの奴らが日光を苦手としているのはどうも本当らしい。

 

「それもあるけどただ引き篭もってるって方が正しいわ。」

「あっそう。」

「パチェは嫌らな断るだろうし、その辺は好きにして頂戴。」

「ああ。」

 

 深い事情なんてものが無かったので何も考えず紅茶を飲む。

 

「じゃあこんな話は終わらしていいわね。」

 

 レミリアはニヤニヤしながら訪ねてくる。

 

「こんなって言うなよ、一応友達だろう。」

「正直私は昨日からワクワクしてることがあるの。」

 

 オレの発言には何もリアクションを取らず、喋り出す。となればこちらも反応せずに返すのが流儀だろう。

 

「今日の晩飯は人間の生き血が出るってことか?」

「実は最近はご無沙汰だったからね。欲を言えば朝霧の血が飲んでみたかったところだけど……って違う!!」

 

 まさか乗ってからツッコミを入れてくるとは想像してなかった。その事に少し驚きながらもオレは向かってくる腕を押さえつける。

 

「違うつってるんだからオレの血を摂取しようとするのはやめろ。」

「ノリツッコミをする代償で違うと言ってるだけでしょ。」

 

 咲夜の手には採血をするための道具が握られているが能力を使ってるわけでもないので難なく止める。だとしても無理にやろうとすれば止められないこともあってジョークとしては一々過激すぎて困る。

 

「え、そうなの?」

 

 すぐにやめさせようとレミリアに聞く。

 

「…………うん。」

「そこは頷くんかい!!!」

「と言うわけで少しもらうわよ、朝霧くん。」

 

 確認をしてしまったせいで咲夜から固い決意を感じる。このまま数秒もすれば能力を使われてしまうだろうし、何とかこの状況打破しなければならない。かと言ってオレの言葉が通用しない以上、危険だがまたレミリアを絡ませるしかない方法は無い。

 

「そんなことよりレミリアの言いたかった事はなんだ! 早く言え!」

「あ、それはね美鈴と決闘してほしいの。」

「美鈴と朝霧くんがですか?」

 

 美鈴という言葉が出たことで咲夜の注意が逸れる。かなりギリギリだったが話をすり替えることに成功したようだ。

 

「ええ。たまに人間や妖怪が挑んで来るのを眺めてるけどどれも退屈でね。」

「確かに多少は楽しめるかもしれませんが朝霧くんはこれでも怪我人です。」

「これでもって……。」

「だから完治してからでいいわ。」

「昨日の一件で思いついたってとこか。」

 

 急に言い出したからには何かしらの要因があるはずだがここまで露骨に言われれば昨日の事だとすぐに分かる。

 

「怪我が治れば良いかもしれませんが……朝霧くん次第です。」

「あら? 咲夜にしては珍しく乗り気じゃないわね。」

「妖怪じゃないから当然です。」

「んじゃ無しで。」

「なんでよー?」

 

 頬を少し膨らませながら不服な顔をする。自分が考案したものの断られるとは思って無かったようだ。

 

「と、普段なら言ってるんだけどな。」

「って言うと?」

「ま、美鈴の奴からも直接言われてるし、やってやらんこともないが詳細なルールはオレが決めさせてもらう。」

「嫌だけど人間だしそれくらいのハンデは仕方ないからそれでいいわ。」

 

 レミリアはふくれっ面から勝ち誇ったような微笑みに変わる。

 

「もちろん、ルールを考える時間ももらう。」

「怪我もあることだしまず完治してから、その後で美鈴も交えて話しましょう。」

「わかった。」

「どうせ武器使用とか、ハンデつけてもらうとかだろうけど大丈夫でしょ。」

「んなことしねぇよ。」

 

 するならもっと徹底的なまでに被害を抑えられるルールを考案するつもりだ。おそらくレミリアはさぞ退屈になるだろう。

 

8月16日

 

 シャワーを浴び終えたオレは服を脱いで体の確認をしながら美鈴との試合について考えていた。

 

「なんだかんだで試合をすることになったがルールはどうするか。」

 

 誰かに案を出してもらう手もあるが自分の力量を知っているオレ自身が適任だろう。

 

「訓練校の事でも参考にしてみるか。」

 

 すると突然ドアから誰かの気配を感じる。咲夜……じゃないようだがここの住人ならノックはするだろうし大丈夫だろうと判断するとそのままノック無しに扉は開かれる。

 

「おっす、海斗……って何脱いでるんだよ!!!」

 

 魔理沙は挨拶すると驚きながら帽子の出っ張りを下に引っ張ってオレを見えないようにする。

 

「着替えてたんだが。」

「は、早く服きろよ……。」

 

 そう言いつつもこういう場面では定番なようでチラチラとこっちを見ている。

 

「全裸ならまだしも上半身だけならそこまでキョドることもないだろう。」

「い、いいから早く着ろって!」

 

 更に深く帽子を引っ張って今度は見えないようにしたようだ。

 

「着たぞ。」

「おし……ってまだ着てないじゃんか!!」

「そんなことはない、下を履き替えた。」

「だったら上も早く着ろ!!」

「わかったからそう顔赤くすんなよ。つか、そうなるんだったら今後はノックぐらいしろよな。」

「そ、そうする……。」

「ほらいいぞ。で、何か用か?」

 

 魔理沙はまた同じようなことにならないようチラチラと確認してから帽子を元の位置まで上げる。

 

「……フランと遊んでやろうと思ったからついでに海斗も呼びに来たんだ。」

 

 察するに送った時そんな話をしてたんだろう。

 

「だったら早速行くか。」

 

 オレたちは自室を出てフランのところへ向かう。

 

「それで何して遊ぶつもりなんだ?」

「弾幕ごっこが手っ取り早いんだけど。」

「やめておけ、面倒になるだけだ。」

「じゃあ適当に。」

「だな。」

「そういえば今日は門番が珍しく本格的な朝練してたから普通に玄関から入れたぜ。」

「そうしたい気はわからんでも無いが門番としては致命的だな。」

 

 門番がちゃんと機能していないなら騒ぎにならないのは当然か。

 

「なぁ、海斗はどうやってフランの部屋に入ったんだ? 鍵かかってるだろ。」

「これだ。」

「なるほど、防衛呪文が施されている扉は解錠すればいいのか。」

「言っとくがやり方は教えないぜ。」

「いいよ、自分で調べるし。」

「ここにそんな本はなさそうだが。」

 

 もしかしたら人里とかにはあるのかもしれないがここには無いだろう。

 

「ふふふ、とっておきの店があるんだ。」

 

 魔理沙はニヤリと表情を変えた。どうやら相当な自身があると見える。

 

「本当かよ。」

「図書館と人里に無くてもそこになら置いてある可能性が高い店がね。」

「マジか。じゃあ今度連れてってくれ。」

「いいけど、なんで門番が熱くなってるか教えてくれよ。」

「それでいいんだな?」

「ああ。」

「おそらくだがオレと試合するからだろな。」

「もっと凝った嘘ついてくれよ。」

「なら帰りにでも聞いておけば良い。つうわけで今度案内頼むぜ。」

 

 そう言いながらオレは相棒を使い、鍵を開ける。

 

「海斗ってスポーツ少年タイプだったのか?」

「んなわけないだろ。」

「だよな。」

 

 扉を開くと前と変わらない様子のフランがベッドで寝転がっていた。そしてドアを開けたことでオレたちに気づき小走りで近づいてくる。

 

「あ、海斗と魔理沙だ。おはよー。」

「おう。」

「約束どおり遊びに来てやったぜ。」

「ずっと何しようか考えてたんだ。」

「なら早速聞かせてくれ。」

 

 フランと魔理沙はベッドでオレは椅子にそれぞれ座る。遊ぶにしても特に決まってなかったし、まずはフランの提案を聞くことにした。

 

「えっとー、解体屋さんごっこ。」

 

 手を上げながらフランは物騒? な提案をする。

 

「一応聞くが何を解体するんだ?」

 

 オレはツッコミたい衝動を抑え、問いただす。ここで勘違いすると今後のフランに影響が出るかも知れないし、何より何かの仕組みを理解したいがために出てきた言葉だろう。その何かをちゃんと聞く必要がある。

 

「人間!!」

「却下だ。」

 

 オレよりも近くにいた魔理沙が上がっていたフランの手を下げる。

 

「お前なぁ、もっと自分の体型に合った遊びを考えろっての。」

「うーんとね、壊し屋さんごっこ。」

「物騒差が変わってない、却下。」

 

 間髪入れず再びフランが手を上げ、提案するが魔理沙も間髪入れず手を降ろさせる。

 

「じゃあね、お馬さんごっこ。」

「ここに来て急に幼い遊びに変わりやがった。」

 

 先ほどまでの案件に比べると差が色々酷いがこれなら問題無いだろう。

 

「うん、それくらいならいいんじゃないか。」

「つーわけだ、早く四つん這いになれ。」

 

 立ち上がりフランに命令する。

 

「こう?」

 

 フランは言われたとおりベッドから降りて床に四つん這いになる。

 

「なんでフランに馬役やらせようとしてるんだよ、体型から見たら海斗だろ!」

「よくよく考えてみろ。体型に差があったとしてもそれを補うには有り余るほどの馬鹿力があるだろう。」

「それはそうだけど。」

「それに乗馬では血統が良い馬に乗ってみたいって思うだろう。」

「あくまで乗馬だろ。」

「ああ、あくまでの話だが目指すべき場所はそこなわけだ。なら事前に体験はしといた方がいい。馬の方がいい身分なんてこともあるかも知れないからな。」

「さすがにそれは無いだろう。」

「いいや、良い血統を持つ馬を買うのとそこら辺にいる人間を買うなら馬の方が間違いなく高いだろ。」

「え、そりゃそうだけど……。」

 

 魔理沙が言葉を濁している隙にオレはフランの背中に乗る。当然身長差があるから足を床に付けないようにだ。

 

「どうだフラン、重いか?」

「ううん。」

「よし、なら動いてみてくれ。」

 

 そう言うとゆっくり動き出す。力がある分、安定してはいるが抑えてるだけあって速度は無い。

 

「速度を上げると訓練の意味が無いから馬の真似して雰囲気をだそうぜ。」

「お馬さんの?」

 

 もしかしたら聞いたことが無いのかもしれない。オレ自身も聞いた事はテレビでしか無いが声帯模写を持ってすれば不可能は無いため見本を見せる。

 

「ヒヒ~ン……ってな感じだ。」

「めちゃくちゃそっくりだな。」

 

 魔理沙はオレを呆れながら見ているものの、声帯模写には驚いてるようだ。

 

「ヒヒ~ン! ヒヒ~ン!」

「傍から見てるとフランが哀れ過ぎるんだけど。」

「じゃあここまでだな。」

 

 部屋を一周するくらいでフランから降りる。

 

「うーん、なんか思ったのと違う。」

「想像している事をしっくりこさせるためには馬を調べとく必要があるってことだろう。今度馬に関する本を持ってこよう。」

「うん!」

「はい、じゃあ次お前な。」

「え?」

「フランがやってると哀れなんだろ? ならお前が身代わりになるしか無いだろ。」

「やだよ!!」

「チッ、ならオレにやれって言うのか!? まさかお前が男を尻に敷くタイプだとは思わなかったぞ。」

 

 オレは諦めながら四つん這いになる。

 

「それもやらなくていい!! なぁんてね、普通ならそういうけど海斗には馬鹿にされたりしてたしやってもらうぜ。」

「仕方ねぇな、なら指相撲でもするかフラン。」

「指相撲ってなぁに?」

「いいか、指相撲ってのはなぁ……。」

「私を無視して話を進めるなー!!!」

 

 その日はフランに指相撲を教えて見事暫定チャンピオンであるレミリアを打ち倒したのは言うまでも無いだろう。




いかがでしたでしょうか?

久しぶりに予定通りだと思います、フラグ建築回だったかもしれません。今回で漸く美鈴とのバトル回を予約しましたがガチバトルではなくちょっとした心理戦型バトルにしようかと思ってたり。

そんなわけで次回はあの巫女回の予定ですが変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。

読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。

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