サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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『世界最強』を目指した少女

〈6〉

 

「おはよう篠ノ之さん」

「……おはよう若宮クン」

 

あの日から俺こと若宮 翼は彼女こと篠ノ之 束に『友達』認定を受けた様で、朝話し掛けるとしっかりと返事が貰える様になっていた。

 

「顔色はいつもより良いみたいだけどよく寝た?」

「……ろ、6時間位……」

「……まだまだ短めだけど進歩したね。偉い偉い」

「……子供扱いしないで……」

「まだまだ子供だよ、俺逹は」

「むぅぅ……」

 

嬉しくなさそうな声だが逆に顔はちょっぴり嬉しそうに笑っている。どうやら口より身体の方が素直な様だ。

 

「……ねえ、若宮クン」

「ん?なんですか?」

 

珍しく篠ノ之さんから話し掛けてきたので俺は彼女の目を見る。彼女は目を真っ直ぐ見られるのに少し動揺したらしく瞳が少し揺れた。

 

「っ……コホン、わ、若宮クンに紹介したい私の『友達』がいるんだけど、会って、くれる?」

「良いよ」

 

篠ノ之の提案に俺はのる、彼女はどこかほっとした様で、どこか嬉しそうな顔をして喜んだ。

 

「良かった、じゃあ放課後に紹介するね。……その子の名前は『織斑(オリムラ) 千冬(チフユ)』って言うから覚えておいて」

「了解、『織斑 千冬』さんね」

 

俺は彼女から伝えられた名前を記憶の片隅に留めておく。その時担任の先生が来て朝のSHR(ショートホームルーム)が始まる、いや朝の会だったか?ともかく先生が諸々の連絡事項を話す。俺は放課後までいつも通りに授業を受けいつも通り篠ノ之さんに話しかけて時間を過ごしたのだった。

 

 

◆◇◆

 

 

「これより織斑千冬と若宮翼両名における模擬戦(試合)を行う。礼」

 

「お願いします」

「……お願いします」

 

目の前には竹刀を中段で構えた織斑千冬がおり、対して俺は竹刀を片手で持って特に構える訳でもなく立っている。まだ『始め』の号令は掛かってはいないのだが、目の前にいる彼女からは肌にひしひしと感じられる程闘気というか殺気というか何やら気配がビシビシ飛んで来ており正直マジで俺は困惑していた。

 

……どうしてこうなった?

 

時は数十分程前に遡る。学校が放課後となり、俺は朝篠ノ之さんに言われた通り彼女の『友達』である織斑千冬と対面していた。

 

「じゃあ、紹介するね。この子が私の友達の織斑千冬ちゃん、私はちーちゃんって呼んでるよ。で逆にこっちが私に新しくできた友達で前から言ってた若宮翼クンだよ。あだ名は……まだ決めてない」

「…………」

「……はじめまして」

 

俺は一応ちゃんと挨拶をするが何故か対面している織斑さん(彼女)の反応は普通どころかどこか睨まれている様な気がしないでもない。俺には理由がさっぱり分からないがどこか彼女には気に入らないところでもあるのかも知れない。

 

「ねえ……」

「あ、はい。何でしょうか織斑さん」

 

何故か思わず同年代なはずなのに敬語で返してしまう。

 

「1つ良いか?」

「もちろん、構わないよ」

 

彼女は真剣な目を俺の目に向ける。俺はその目を逸らしてはならない、そう本能的に思った。だから俺はその目を正面から正々堂々受ける、やましい事なんてないのだから。

 

「……私と勝負しろ」

「え?」

「私と剣で勝負しろ。お前が束にとって『友達』として相応しいか確かめてやる。だから私に負けたら私はお前が束の友達とは認めない、代わりにお前が勝ったらお前が束の友達だと認めるし1つだけ言う事を聞いてやる。だから私と勝負しろ!異論は認めない」

「ええっ⁉︎」

 

いきなりの戦線布告と言うか挑戦状が叩きつけられ俺は戸惑うがそんな暇はくれないらしい。織斑さんは俺の左手と篠ノ之さんの右手を掴むとどこかに向けて歩き出した。

 

「ちょっ、どこに⁉︎」

「束の家、束の家は道場を開いてるからそこを借りる」

「マジで⁉︎」

 

織斑さんの篠ノ之家カミングアウトに俺は驚く、でそこに、

 

「そうだよ、私は興味がないから習ってないけど私の家は『篠ノ之流剣術』っていう流派を持つ武道一族なんだよ」

「へー、って俺は今からそこに拉致(連行)されるの?」

「そうだ」「うん」

「……」

 

なんだかんだ篠ノ之さんも織斑さんを止める気はない様なので俺は観念して付いていく事にした。確かに後腐れなく織斑さんに『友達』だと認めて貰えるだろうけど、万が一俺が負けたらどうする気なんだろうか篠ノ之さんや?

 

で、なんか道場(篠ノ之さん宅)に着いたら織斑さんが師範らしき人(多分篠ノ之さんの父親)に事情を説明し、謎にトントン拍子に準備が整えられてただ場所と竹刀を貸してくれたら良かっただけなのに何故か師範以下門下生全員が見ている前でやる事になった。あと師範らしき人が「娘はやらん、織斑、手加減無しでぶち……コホン、思い知らせてやれ」とか言ってたのは聞かなかった事にしよう、うん。

 

で、今さっきの上の所、ひとつ言わせてもらえるなら何度でも言おう。どうしてこうなった?

 

「若宮クン頑張って〜」

「翼にぃがんばって〜」

 

篠ノ之さんと篠ノ之さんの妹、箒ちゃん(3歳)の声援を受け俺はそんな現実逃避から意識を元に戻す。あ、ちなみにいつ箒ちゃんと仲良くなったかってさっきまで準備中だったからその間に構ってたら懐かれたのだ。もちろん織斑さんの弟、一夏君(3歳)とも仲良くなったが彼の方は姉である織斑さんを応援している。……なんかどこかから「束だけでなく箒まで誑かすとは……許すまじ‼︎」とか聞こえた気がするがやっぱり聞こえなかった事にしよう。

 

「覚悟は良いか?」

「大丈夫だと思うよ……なんか最近暇しないな……はあ」

 

あ、心の声が漏れた。

 

『始め‼︎』

 

「はぁっ!」

 

鋭い掛け声と共に大人顔負けの織斑さんの鋭い斬り込みを紙一重で躱す。……本当に織斑さん小学生?

 

カッ、カカカッ

 

薙、斬、突き、払い……どれを取っても大人に劣らぬ重さと鋭さを兼ね備えた一撃一撃を丁寧に片手の竹刀で逸らす。全て当たらないが……小学生で突きは辞めようよ。下手したら相手が死ぬよ?剣道じゃなくて剣術だけどさ。

 

「っ⁉︎ならっ!」

「お、『三段突き』」

 

かの有名な新撰組の沖田総司の得意技『三段突き』、それを織斑さんは放つが俺はそれを全て対処して見せた。避けて避けて最後は逸らす、恐ろしい速さだが前世の敵と比べたらまだ『遅い』。

 

『ば、馬鹿なっ⁉︎織斑の三段突きを捌いただと⁉︎』

『それ以前にまだ片手しか使ってないぞあの小学生』

 

ざわざわ

 

門下生達が騒ぎ出すが俺は気にしない。とそこに織斑さんが話し掛けてきた。

 

「……どうして反撃しない」

 

確かに俺は彼女の剣を完全に捌いてはいるが一撃も竹刀を彼女に向け振るっていない。

 

「様子見……かな?」

「様子見……だと?」

「そう、でも君の強さなら『少し』見せても大丈夫かな?だから……」

 

俺は竹刀を構える。今度はこちらからいく。

 

「耐えて見せろ」

 

ヒュッ

 

ガガガッ

 

「くうっ!」

「千冬姉‼︎」

 

一瞬だ、一緒で俺は彼女の背後に現れる。なんとか彼女は全て防ぎ耐え切って見せたらしい。

 

「……やるね。全部防いだんだ」

「……なんなんだアレは……」

「『三絃』」

 

『三絃』前世に習得した剣術で一瞬で太刀筋を『突き』『切り上げ』『切り下げ』の3つに変化させる高速の連撃である。全力で放った訳ではないがある程度力は入れた、それを全て初見で防いで見せたのだから彼女の剣才はかなりのものである。

 

「……一体どこでこんな『技』を」

「昔通りすがりの宮廷長に教わった」

「馬鹿な……」

 

嘘は言ってない、嘘はね。だって前世だもん。

 

「まだやる?やるなら次は「双剣でくる?」……良く分かったね」

 

彼女は竹刀を構えつつ言う。少し痛そうな感じだ。

 

「……ずっと疑問だった、何故片手で竹刀を握ってるのか。でもそれは多分お前の基本形態が両手に武器を持った双剣使いだからだ、1本だけでくるのはあくまで自分の過剰な力を抑える為、違うか?」

「御名答、全くその通りだよ。言い当てられる君も充分『化物』だね」

「……ふん、更に『化物』なお前には言われたくない」

「あらら、酷い言い方で。取り敢えず篠ノ之さん、もう1本竹刀を……」

「はい」

「早いね……ありがとう」

「どういたしまして」

 

竹刀が刺さっている箱に一番近くにいた篠ノ之さんに竹刀を取って貰おうと声を掛けようとしたらいつの間にか差し出されていた竹刀を受け取る。マジで早いな……俺の考え読んでない?

俺は右手の竹刀を順手で持ち、左手の竹刀を逆手で持つ。これが俺の双剣の時の通常の構えだ。

 

「……変わった構えだな」

「でしょ?誰かを守る為には1本じゃ足りなかったんだよ。自分を守る為と誰かを守る為にのもう1本、合計2本剣が必要だったんだ」

 

これも前世で考えた構えと型だ。実践の織り込み済みの型、ただの思い付きの構えとはレベルが違う。

 

「行きます」

「来い」

 

最初に動いたのは織斑だった。先程俺が放った『三絃』、それを彼女なりに再現した連撃を俺は双剣で弾き躱す。心なしか彼女の動きのキレが最初より遥かに良くなっている、鋭さ重さ共に最初とは比ではない強さだ。しかも彼女は楽しそうに『微笑んで』いる。

 

「たぁっ‼︎」

 

シャッガガガカカカッ

 

突き薙ぎ払い斬り上げ斬り下げ、変幻自在の剣技、まさに美しき『刀剣乱舞』を俺は全て捌いた。弾き躱し逸らし、その全てをだ。

 

「これでっ、いっけぇっ‼︎」

 

『三段突き』からの『三絃』の多重連撃、まさしく彼女の全身全霊を込めた最高の『技』。

 

「……やるじゃないか、でも」

 

前世『双剣使い』の名は伊達じゃない。

 

……全て潜り抜けた。最後の一撃を紙一重すれすれで躱し順手に持ち替えた左手の竹刀で彼女の竹刀を打ち上げ右手で彼女に突き付ける。コートの外に落ちた竹刀の渇いた音が響いた。

 

「……俺の勝ちだ。織斑」「私の負けだ……若宮」

 

俺の言葉と織斑の言葉が被る。彼女は負けがとても清々しい顔をしていた……そして同時にそれはとても綺麗な微笑みだった。

 

『や、止めっ。勝者若宮 翼』

 

俺は竹刀を下ろす。そこに未だかつて見ぬハイテンションと化した篠ノ之さんと箒ちゃんが突っ込んで来た。

 

「若宮クンっ!」

「翼にぃっ!」

「ぐふっ、……2人とも……ちょっとタックルがきつすぎるよ……あと汗もかいてるからやめた方が……「「やっ」」……はあ」

 

嬉しいのは分かるよ?でも俺のHPがもう7割切ったよ君達のタックルで。

逆に織斑の方は、

 

「千冬ねぇ……」

「ふふっ、ごめんね一夏。お姉ちゃん負けちゃった」

「そんな事どうでもいいもん、千冬ねぇ!」

「よしよし、ありがとうな」

 

彼女が弟を撫でていた。

 

「若宮」

「ん?何織斑……さん」

「言いにくそうだな、『千冬』でいい」

「じゃ、千冬さんで」

「……苗字は呼び捨てなのにか?まあいい、約束だ。お前を束の『友達』だと認める。要望はなんだ?1つだけ聞いてやる……約束だからな」

 

千冬さんは俺にそう言う。ならばと俺は一夏達の話を聞いてついさっき思い付いた事をお願いする事にした。

 

「じゃあこれからは『1日1度は俺の家で食事を一緒に摂る事』で」

「え?」

 

千冬さんは思いもしていなかったお願いに目が点になる。一夏の方は嬉しそうに笑った。

 

「翼にぃ、良いの⁉︎」

「うん、大丈夫だよ一夏君」

「ちょっ⁉︎なんの話をしている話についていけないんだが……」

「簡潔に話せばウチはさ、両親が共働きだから毎回晩御飯は俺が作るんだけど妹とだと毎回余るんだ。それに一夏君も千冬さんと2人っきりで晩御飯を食べてるみたいだからついでに4人で食べてしまおうっていう話。母さんも多分了解してくれるだろうから食べに来てよ、作り甲斐があるし」

「…………」

 

千冬さんは少し上目遣いになりながら聞く。

 

「……良いの?本当に?」

「うん、妹も2人っきりじゃ寂しいって言ってたし千冬さんだって大変なんでしょ?利害の一致はしてるし『約束』は守ってもらうからね?」

「……うん、分かった。これからお邪魔させてもらう…………」

「なら帰ろっか、千冬さんと一夏君も一緒に」

「わーい!またね束ねぇ!箒!」

「バイバイ!翼にぃ!千冬ねぇ!一夏!」

 

帰ろうとした俺に篠ノ之さんが近づいて来る。

 

「後片付けはしとく、ちーちゃんを下の名前で呼ぶなら私も束って読んで」

 

少し不機嫌そうに彼女は言う。

 

「分かった、じゃあね『束』さん」

「!……またね!」

 

名前で呼んであげると彼女は喜んでくれた。

 

そして帰る途中、

 

「若宮、……不束者だがこれからは宜しく頼む」

「こちらこそ、千冬さん」

 

 

 

 

 

そしてその日からの若宮家と織斑家の食事は賑やかになった。

 





若宮 翼
保有スキル
・悪意の共感(小)
・子供のあやし方(大)
・少女のあやし方(中)
・『天災』のあやし方(小)
・『世界最強』のあやし方(小) new‼︎




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