〈40〉
成田国際空港、日本の首都東京の玄関口でありそれと同時に日本そのものの玄関口といっても過言ではないその空に、一対の巨大な銀翼が現れる。
『
『
1人の歌姫を乗せた翼、その来訪を歓迎する者もいれば、
「えっ、本当にシェリルのコンサートのチケット取れたの⁈」
「フフッーン、ランカの為なら俺に不可能はない!」
「ありがとうお兄ちゃん!愛してる!…………やったぁぁ!オーデカルチャー!もう最高っ!」
歓喜する者もいて、
「くだらねぇ、俺なら5回は回れる」
「たかがコンサートの余興だぜ?リスク高過ぎだって」
「俺ならできる」
「へぇ……相変わらず自信家だね、歌舞伎の
「っ!今なんて言った‼︎」
複雑な顔をする者もいれば、
「さて、我々の計画の始まりだ」
「【Operation Carnival】、11年前に失われた筈の鍵とその全ての運命の集約される地、始まりの島 日本を舞台とした大儀式」
「まさしく『
「まさか、災礼の間違いだろう?」
その来訪に嗤う者もいる。
されどその歌姫は極東の島国へと舞い降りた。
「はぁ……」
「大分お疲れの様ね」
「時差ボケと乗り物酔いの所為で最悪……」
「取材……キャンセルします?」
「グレイス、アタシが誰か忘れたの?アタシはシェリル、シェリル・ノームよ」
これは無限の成層圏と共に歌われる物語。銀河を巡る歌わずには、飛ばずにはいられなかった少年少女の物語のその序章である。
◆◇◆
月もかわって5月、遂にやって来たクラス代表対抗戦当日の朝。体育館に集められた全校生徒は放送部生徒の司会の下で開会式及び大会スケジュールと組み合わせの発表を受けていた。
【本日スケジュール】
▪︎9:00〜9:10 開会式
▪︎9:30〜 3年生
▪︎11:30〜12:20 昼休憩
▪︎12:30〜 2年生
▪︎15:30〜 1年生
▪︎18:30〜18:40 閉会式
〜〜〜
【1年生】
第2アリーナ第1試合 15:30〜
3組代表 アリサ・イリーニチナ・アミエーラvs.4組代表 更識 簪
第2アリーナ第2試合 16:30〜
1組代表 織斑 一夏vs.2組代表 凰 鈴音
【注意事項】
試合はIS委員会規定の大会ルールに基づいて行われます。全試合においてアリーナ観覧席は解放されます、下級生は上級生の試合を観戦し今後の参考にする事。なお、個々の試合前ウォーミングアップは第1・第3アリーナかもしくは各試合会場の開始30分前に行って下さい
IS学園教務課課長 織斑 千冬
「え”……マジか」
「へぇ……3年生から先にやるのか。しかも1回戦目で2組と当たると」
そして開会式も終えてぞろぞろと他の生徒が体育館を退去していく中、一夏と時雨は組み合わせの映された投影型スクリーンを見上げつつそれぞれにそう呟いた。
一夏はあの酢豚騒動(時雨命名)の後反省し毎日鈴の下に足しげく通い謝罪とご機嫌取りを繰り返したのだが相変わらず肝心の部分が思い出せず、鈴もまた今さらもう一回言い直すなどという羞恥の極みを実行出来る訳もなく2人の関係は平行線を辿り遂には一夏が参って逆ギレ、それに鈴もまた反ギレして大喧嘩に発展した。そして結局は騒ぎを聞き付け駆けつけた栞と箒の仲裁の下でクラス対抗戦の勝敗でこの騒動の決着をつける事で手打ちとなったらしい。
「でも実際のところ専用機持ちの国家代表候補生相手に善戦できるのか?少なくとも勝てる確率なんてほぼゼロだろ?」
「ゼロじゃないだけマシだ……と言いたいところだけど俺もぶっちゃけ不安だ。栞が探してくれた甲龍の公開データも見たけど機体の安定性も高いし、その上詳細非公開の特殊装備まで積んでるとか乗り始めて数週間の奴が挑む相手じゃないだろコレ。普通」
「まあな、でもそれがお前のケジメでもあるしクジなんだから仕方ないだろ。確率にして24分の1だ、そんな事もあるさ」
「そんなものかなぁ……?」
試合当日にきて不安になってきたのかいつもは見せない不安げな一夏に対し時雨はそう言う。しかしそう言った時雨もまた専用機持ちである1組と2組(4組は専用機が未完成な為今回は訓練機で参加)が1回目からぶち当たる事にくじ運よりもどちらかといえば作為的なものに感じていた。実際に教務課としては機体や下地となる本人にも力量差があり過ぎる専用機同士を最初にぶつけ専用機の無い代表にも1回戦目は勝ち上がって貰いたい、という思惑もあった為にその予想も強ち間違いでもないのかもしれない。
「でも良かったな一夏、午後からで。これで朝一からだったら色々とぶっつけ本番でやる必要になっただろ」
「おう、折角栞達と作戦を考えたのにまあ仕上がりがイマイチでな……だが代わりに俺の胃が緊張とストレスでキリキリしてきたけど」
「程々にしておけよ、緊張も勝負には大切だが度が過ぎれば勝てる戦いでも勝てなくなる。ほら深呼吸、身体に入った余計な力は抜いて3年生の試合が始まる前に軽く体を動かしてリラックスして来い」
「ウッス、そんじゃあちょっと軽く走ってくる」
「3年生の試合が始まる前には観覧席に帰って来いよ」
いつまでも体育館に居座っては邪魔になるだけなので一度立ち去る事にした時雨と一夏は一旦その会話を終えてその出入り口前で二手に分かれる。
「何事もなく無事終われば良いんだけどな……」
だがアリーナに向かう前、ふと一夏の背中を眺めた時に感じたその予感に時雨は思わずそう呟いた。人間悪い予感はよく当たると言われるが時雨のそれはシャレにならないほどによく当たる。実際、この日この後に起こる出来事など時雨には、いや世界の誰もが予想だにできなかった。
◆◇◆
一方その頃、太平洋上にて……
【
それはどの陸地からも最も遠い海域、正確には南緯48.89度、西経123.45度。そこは無人の島嶼すらほぼ存在せず、軍事・民間の航路からは大幅に外れた本来なら艦船は勿論、人っ子一人見かけぬ
そう、
水面の底、陽の光も届かぬ深海に翠の一対の光が灯る。そしてそれはひとつではない。
一、二、三、四、五……
もはや両の手の指の数では足りず、されどその数はまだまだ増えてゆく。そしてその数は遂に100をも超えた。不気味に揺らめくその光、それは水面の先、遥かなるソラへと向けられそれらは何かに導かれるかのように人知れぬ深海の底より昇っていった。
…………ソラの果てよりやって来た、その物語の始まりはすぐそこに。