〈37〉
第1格納庫にて、少し胃の痛そうな千冬に連れられて来た時雨はそこで凡そ2週間振りに会う今世界で1番有名な兎と再会していた。
「久しぶりつ……しー君!事情は
「多分元気だよ……って『把握してる』?」
「そう、ちょっとIS学園のメイン・サーバーにハッキングしてそこからIS学園の監視システムにお邪魔してね。あ、大丈夫。私が覗いてるのは朝と昼と夜とイベントの時だけだがら」
「……おい、束。そのお前が違法ハッキングをしているIS学園の関係者の前で堂々とそんな私やってますと言いふらすな馬鹿者。と言うかそれはほぼ1日中って事だろう?暇人か貴様。変態ストーカーと変わらんぞこの大馬鹿者」
そして時雨の背後にいた千冬のチョップがニコニコとしていた束の脳天に落とされる。あとやはり人が決して鳴らしてはならない様な音がした。
「はぐぅっぎぃぃっ⁉︎い、痛いよちーちゃん!しー君に怒られてから口より先に手が出るのは治ってたと思ったのに⁉︎」
「馬鹿者、あれは体罰になるからだ。それに大馬鹿やった友人にお仕置きする位問題ないだろう?」
「でもさー、……ってあれ?今思えばそんなに痛くなかったような?やっぱりちーちゃんは優……「それよりも早く時雨に専用機を渡せ。あまり長引かせるとこの後の授業にも差し支える」……はーい」
あんな人が出したら不味いような音を頭蓋から出したら直後であると言うのに相変わらずニコニコ(ニヤニヤとも言う)した束の言葉に、それを被せるように千冬は正論を被せこれ見よがしに右手を握るがいきなり煽てられた千冬の頬は薄っすらと赤くなっていた。
そして千冬に
「んーと、これで良し……んじゃ、本題に入ろっか。さっきから気になってると思うけどこのコンテナの中にしー君のISは入ってるよ」
幾つかの準備を整えた束は格納庫の中央に鎮座した巨大な白亜色に塗装されたコンテナを指差す。そのコンテナには大きく交差した翼のマークが描かれ、その隣にR.i.Wの兎をあしらったロゴがペイントされていた。
「それじゃあお披露目と行こうか。天蓋オープン」
パチンっと鳴らされた束の指の音に反応してコンテナのロックが外れ外壁が開き中に収められた一機の、白い機体が現れる。
「見た目は改装の所為で殆ど変わっちゃったけど基本コンセプト……低燃費と高速戦闘能力及び巡航能力の両立はバルキリーを基にしているからそこそこのレベルで両立出来てる。ただその代わりこの機体単体での火力はお察しだけどね……」
「……久しぶり、【雪風】」
そして其処に在った相棒の姿に束の説明も殆ど耳に入っていない時雨は……いや翼は感謝する様に、歓喜する様に、万感の思いを乗せてその相棒の名を呼んだ。
「ふふっ、しー君はもう雪風に目を奪われちゃったか。それじゃあ先に
「だな。時雨、いつまでも見惚れてないで制服のままで構わないから雪風を装着してみろ」
それを見ていた束と千冬はどこか懐かしくも少し子供っぽいその姿に、クスっと微笑ましげに笑うと説明を後回しにして時雨に先に実際に装着させてみることにした。
「……あ、うん。分かった」
千冬の声で漸く我に返った時雨はそっと少し緊張した面持ちで雪風の胸部装甲に手を触れる。するとそこにあった装甲部品は粒子の光となり、そして次の瞬間には時雨の身に装着されていた。
「基本的な操作系は改装前とほぼ同じ、所々……例えばインターフェイスとかは新型に切り替えたから以前とは反応速度が桁違いに速くなってる筈だよ」
「……本当だ、思考から実行までのタイムラグとバランスを取る為の可動調節が前とは比にならない位やり易い」
試しに右手を上げ、左手を上げ、そして脚も動かしてみるが生身の時と何ら遜色無く、寧ろ生身よりも下手すればスムーズに動ける事に時雨は驚いた。
「でしょ?あと大切な事だから一応言っておくけど見ての通り軽量化の為物理装甲は殆ど無くて多くはISに直結したエネルギーラインからのISスーツに組み込まれたエネルギー転換装甲とピンポイントバリアに依存するから万が一被弾時でのシールドエネルギーの減少率は半端じゃない」
「それに防御が純装甲で無くエネルギー装甲に依存するのでは私や一夏の
「うん、改装し終えてからそれには気付いた。だから一応装甲と腕と腰の部分にある特殊カーボンで織った特殊繊維には
「あれは
「ちーちゃんそれフォローになってない、なってないよ」
「…………」
ざっくり言って前回の対ブルー・ティアーズ戦でセシリアが使ってた大型レーザーライフルを雪風で直撃すると打鉄改の本体装甲で受けた時の約2倍はシールドエネルギー持っていかれる計算というまさかの鬼仕様に思わず時雨は少し頭が痛くなる。
ただまあそもそも雪風の製造理念は戦闘なんてものは一切想定せずこの
ただその所為で【雪風】が
「んんっ………ただまあ、動力部にステージⅡ熱核反応タービンエンジンを搭載してるから補給はほぼ無しでも理論上とても長期間高い出力が得られるし転換装甲の対物・対エネルギーは高いから天敵の零落白夜じゃなきゃ大丈夫だよ……多分。あと試合用にはリミッターが付いてて試合用シールドエネルギー容量は590だよ。実戦用を選択したら無くなるけどね」
少々気不味い雰囲気に束が気を遣って敢えて無理矢理にでも話を突き進めた為その雰囲気は霧散した。そして説明は次に武装へと移り変わる。
「じゃあ先ずは銃器からいってみよう。という事で実体化してみて」
「分かった。……これ?結構大きいけど」
束に言われた通り脳裏に表示された量子化されていた物一覧に
「
…………本当は
「へー、…………ところでその言い方って事は勝手にコピーしたの?」
「…………てへっ☆」
「………………」
「……束、後で少しお話な?お前の事だから完全なコピーではないと思うが勝手にハッキングしたって言う所が先ず問題だからな?」
「…………マジカヨ」
自分の身長を優に超す大きさのしかもそれに見合った重さのライフルを両手に持ち具合を確かめていた時雨だったが束の最後の方にポロっと零した結構重大な(本日2回目)失言にまた頭が痛くなる。千冬に至っては一周回って若干悟りを開いてしまったが如く普通の表情に戻ってしまっていた。
「ささささ、さて気を取り直して次に行こう。うん、そうしようか。って事でハンドガンとかは説明不要だと思うから次は
「お、おう…………2つ共だね」
続いて一覧に更新表示された【R.i.W製 BGP-T01
そして次に現れたのは2振りの日本刀状の剣であり一振りは身の丈程長く、もう一振りは丁度普通の打刀と同じ位の長さの2振りが其々鞘に収められた状態で背中にマウントされた状態で出現していた。
「小太刀【
大太刀【
束の説明を受け試しに風片を機械的な鞘から刃を抜くと「シャンっ」と冷たい音がし、構えた刀身に瞳を写すと其処には美しく散り惑う桜の花弁の奥に自分の緋色の瞳が其処に写る。
「…………成る程……ね。これは……大業物なんて生温いモノじゃない、|其処に在るだけで血を吸い上げる兵器そのもの《最上大業物》だ」
その時の時雨の顔はどんな顔であったのであろうか………前世で見て、扱ってきた物の中でも勝るとも劣らぬその至高の逸品。魔法をカケラも使っていない純粋な人技と熱意だけを注ぎ込まれ打たれた普通の刀だとと言うのにそれが惜しみなく投入され鍛えられた異世界の刀剣類に引けを取らないと言うある意味狂気的なその兵器の存在に、丁度刀の陰とその冷たい反射により見えなかった束と千冬だったが時雨の口は思わず三日月の様に釣り上がって嗤い、そして何処か悲しげで寂しげだった。
「?、……もう次に行っていいかな?」
「……ん、あ……うん。ごめんね」
「じゃ次、待機形態に変えてみて」
「うん」
じっと刀の刀身を見つめていた時雨の姿に違和感を感じた束が話し掛けると時雨はハッとしたように顔を上げて風片を鞘にしまう。それにまた少し違和感を感じた束と千冬だったが時雨がすぐに雪風を待機形態に変化させてしまった為にそれを深く考える暇がなかった。
「ん?イヤリング……か?」
「………だね、左耳に1つだけだけど」
「………ほう……なかなか綺麗だな」
左耳に揺れる、銀に縁取られた見る角度と光の色によれば紫にも紅にも見える結晶が光を映しキラリと反射する。
「気に入ったか?」
「ああ、勿論」
鏡は無いが腕の装甲を解除して手でその形と感触を確認する様に触るその姿からそう聞いた千冬に時雨はYESと答えた。
「最後に【雪風】の意識、インフィニット・ストラトス・コア・システムは現在アップデート中だよ。【雪風】の
「了解」
最後に束は『
「…………はい、サイン頂きました。これで【雪風】は世間的にも正式にしー君の物だよ」
「それでは時雨、もうすぐ1時限目も終わるが大人しく教室に戻れ。私と束は本土に諸用……まあ、お前に関係あるがある事だから話しても良いか。琴乃さんに会いに行く、
「眠り姫って……まあ強ち間違ってはないかなぁ……性別は違うけど」
「うっふっふ〜、ちーちゃんも上手いねぇ〜。って事で、またねしー君」
「では……な」
時雨がペンでササっとサインを入れるとそれを持って颯爽と去っていた束の後を追って千冬も格納庫を後にする。
「さて、それじゃ俺も行くか」
そして時雨もまた左耳に揺れる雪風を連れて1組の教室へと戻って行った。
補足メモ
▪︎機体設定情報を更新しました
▪︎風片を持った時の翼(時雨)の表情について
主人公は前世に魔法魔術の有る悪魔や魔族達との戦乱の世、人類対魔族の生存戦争を生きています。武器を手に忠義を受けた配下と共に手を取り合った様々な英雄達と共に敵を殺し味方を殺され奪い奪われ、血で血を洗い誰かを守らんと守れず心をすり減らして戦い続け最期まで生き残った過去があります。
故にそんな地獄を生き抜いた所為で自らの精神の防衛手段として一種の『狂気』を持っています。それは転生した今世でも表に出てこないだけで変わりありません、そしてそれは今後武器を手にする機会(特に人の生死の関わってくる機会)の激増する今後度々表面化してしまう事でしょう
▪︎大太刀【
カラーリングは違いますが見た目はマゴロク・
▪︎小太刀【
カラーリングは違いますが見た目・性能はマゴロク・カウンターソードのまんまです
▪︎単独大気圏離脱及び突入能力について
実は単独大気圏離脱及び突入能力は第零世代型ISには標準装備されている。これは第零世代型ISが束謹製の純粋な『宇宙空間用マルチフォーム・スーツ』の試作機だからであり、これには【雪風】の他に【白騎士】も該当するが既に白騎士は解体、コアも初期化されてしまっている為に現状この能力を保有し第零世代に該当する機体は近代化改装行われたものの