サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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全部突っ込んだらすごい量になってしまった……




祝 クラス代表就任パーティー

〈35〉

 

 

「という事で、1年1組クラス委員兼代表に織斑一夏が就任すると言う奇跡の1繋がりを祝して!」

「「「カンパーイ!」」」

 

ぱんぱかぱーん、と幾つものクラッカーが撃ち鳴ら(乱射)され紙吹雪と色々な色の紙テープが1年生寮の食堂の空に舞い上がる。と同時にグラス……ではなくビール……ではなくジュースの入った紙コップが打ち合わされた。

 

「え、ええ……ってか1組以外の生徒も居るよね?」

「いやいやいや……なんで俺も?一夏だけで良いんじゃないの?」

 

で、【織斑一夏クラス代表就任パーティー】と書かれた横断幕の架けられたその真下でクラッカーの紙テープと紙吹雪を頭から被っているのはめでたく1年1組のクラス代表に就任した織斑 一夏と言われた通り料理を作るだけ作って持って来たら何故か一夏の隣まで引き摺り出されていた天羽 時雨だった。

 

「いやはや、これでクラス対抗戦も盛り上がるね♪」

「そーだね♪これで私達1組は安泰ですなぁ!」

「ぐふふふふっ、お主も悪よのう♪」

「いえいえ貴女程では……ってなんで越後屋と悪代官?」

「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」

「うんうん、だよねー」

 

「あははは……、2人も大変だねー」

「まあ……なんだ、頑張れ。応援している、あと最後におめでとう」

「おめでとー」

 

そんな2人をお構いなくと言った感じにワイワイ騒いでいる1年1組女子生徒(一部を除く)+α(他のクラスの女子)と何処か同情と哀れむ様な視線を注ぐ2人がジュースの入ったカップ片手に時雨の作って来た料理(ホワイトシチューとラタトゥイユ)を摘んでいた。そしてそんな視線を向けるのはその2人の生徒だけでなく、

 

「大変そうですね〜、織斑君も天羽君も」

「まあ……そうだな」

「やっぱり心配ですか?普通なら誘われても来ませんけど今日は仕事も急いで終わらせたみたいですし」

「そうだが……まあ少し明日は用事が有ってな、それと只で酒が飲めるのなら……な」

「先輩、もう放課後ですしプライベートでも大丈夫なのでは?」

「………君も言える様になったな」

「長い付き合いですから」

 

壁際で缶ビールを傾ける千冬と同じく壁際で葡萄ジュースの入ったコップを手にして苦笑している山田先生は共に皆んなの前で戸惑っている2人に目線を向けていた。尚、生徒に酒類を販売した購買の売店員は後でシめようと思った千冬だった。

 

「と、取り敢えず凄い事になったな……」

「それには同感、全く……料理作って来てくれって言われたから作って来たけどなんで俺まで祭り上げられたんだろ?訳分かんないよ、ホント……」

「へー……お、滅茶苦茶美味いじゃねえか。このシチューとトマト煮込み、後でレシピ教えてくれ。で誰に頼まれたんだ?」

「トマト煮込みはトマト煮込みだけど正しくはラタトゥイユだけどね、良いよ。相川さん、あの実習の後直ぐの丁度君がセシリア達との特訓中に単一仕様(零落白夜)を発現させた頃に」

「あー……あの時にか、あれは済まなかった。何回も言うがワザとじゃなかったんだよ」

「あら?なんのお話をなされているのですか?時雨さんと一夏さん?」

 

と、頭にパーティ用の紙製カラフル三角帽子を頭に乗せた一夏と紙テープを頭に被ったまま爽康美茶の入ったカップを片手に時雨の料理を立ち食いしながら話していた2人の間に紅茶の入ったカップ片手に彼女が持ち込んだクッキーの乗ったお皿を持ったセシリアがやって来ていた。

 

「5時限目の話、あの『流れ星(シューティング・スター)事件』の話だよ」

「おまっ、なんだよその名前……」

「もう専らの噂だよ、放課後には他のクラスや学年でも流れてたらしいしこの命名も確か一個上の学年の先輩が付けたらしいよ。因みに情報源はのほほんさん」

「マジカヨ……」

「あれは……済みませんフォローの言葉が見つかりませんわ」

「ぐふっ⁉︎」

「あれはねぇ……初心者でも限度があると思うよ?」

「ぐふっ⁈」

 

2人のフォローじゃ無い一言に大破した一夏はガックリと肩を落とす。「流石にあれはフォロー出来無いよね(ですわ)」とボヤいた2人が揃って思い浮かべていたのは今からつい数時間前、時雨に至ってはついさっきまで関わっていた事の原因についてだった。

 

 

◇◆◇

 

 

5時限目、第3アリーナ

 

「よし、全員揃ったな?ではこれより5・6時限目のIS実習授業を始める」

 

入学して初の実習授業に浮かれ気味だったクラスの大半だったがチャイムが鳴ってすぐ現れた白色のジャージを着た千冬と紺色のジャージを着た山田先生の号令に3列程に分かれて並んでいた。

 

「本日行う予定の授業内容はISによる基本的な飛行操縦を実践して貰う事だ。でだ……ここは専用機持ちである織斑、天羽、オルコット。一番手だ、今日は見本になるよう試しに飛ん貰う」

「分かりました」

「了解です」

「分かりましたわ」

「良い返事だ。よし3人共先ずはISを待機形態から通常形態に展開しろ」

 

名指しで呼ばれた時雨ら3人はちょいちょいとこっちに来るように出された手のサインに習いクラスの前に並ぶと千冬の指示を受けそれぞれが待機形態の状態からISを展開、その身に纏う。その出来は、

 

「ふむ………流石オルコット、0.6秒で全身展開完了か。その調子だ、お前ならあと0.1秒は短縮出来るだろう」

「はいっ、精進させていただきます!」

「フッ、期待している。で織斑だが……まだ出来ないのか?」

「むむむむ……済みません織斑先生」

「ふむ……まあ初心者であるから仕方あるまい。恐らくイメージが足りていないのだろう、もう少しハッキリとイメージしてみると良い。それで無理なら声を出して(コールで)呼んでみろ」

「むむむ……おっ、出来た!」

「良し、その調子だ。次はより1秒でも早く展開出来るよう慣れておけ。最後に天羽だが……」

 

国家代表候補生であり1番の熟練者であるセシリアはイヤーカフスを、若葉マークを付けるよりも遥かに初心者である一夏はガントレットをISに無事展開させそれを見た千冬は満足そうに頷くと今度は時雨の方を見る。その時雨はと言うと、

 

「……早いな」

「あ、あははは……」

 

取り敢えず乗る分には問題無い程度まで修復された打鉄改を0.4秒で展開していた。流石ISランク【EX-S】、千冬には及ばないが恐らくそれは時雨の機体が本物の専用機では無いからだろう。恐らく専用機であれば同ランクである千冬と同じ0.1秒で展開出来たはずだ。しかし……

 

(「お願いだから自重してくれ……」)

 

初っ端から国家代表候補生のタイムを超えるのだけはやめて欲しかった千冬だった。

 

「……まあ良い、時雨には特に言う事はない……無いさ、無いんだ。では飛べ、飛び上がって10分程は自由に飛んで貰っても構わないが指定ポイントは既に山田先生が送っている筈だ。………(あ、また胃が痛くなって来た。)(胃薬まだ残ってただろうか?)

 

一瞬、何処か遠い所に目が向いていた千冬は少し頭を左右に振る事で意識を現実に戻し飛行発進指示を出す。尚、ちょっとだけさり気なくお腹の胃の辺りをさすってそんな事をボヤいていたのに気付いたのは隣に立っていた山田先生だけだった。

 

「行きますわ」

「よっと」

「お、おう」

 

まずセシリアのブルー・ティアーズが無音で急上昇し、それに続く形で時雨も若干踏み込むようにして発進。最後に遅れて一夏が飛び上がるがそのスピードは時雨の3分の2程度の速さしかない。

 

『何をやっている。いくら初心者とはいえスペックシート上、出力では高機動特化型である白式の方が2機より遥かに上だぞ』

 

彼方へふらふら、此方へふらふらと頼り無さ気に飛ぶ一夏に向けISコアを経由した通信により千冬のお叱りの言葉が飛んで来る。熟練者(代表候補生)であり専用機であるセシリアに付いて行けとは流石に言わないが改造されているとは言え量産機である時雨と同じ位には飛んで欲しい所であったのだろう。

 

「自分の前方に角錐を展開させるイメージってどんなイメージなんだ?」

「まあ教科書通りじゃ馴染みが薄いからイメージし難いかも知れないね。そうだな……自分が鳥になったり紙飛行機を飛ばしたりする時をイメージするのも良いかも知れない」

「へぇー」

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。時雨さんの言った通り丸々教本通りではなく自分がやりやすい方法でやった方が上手くいきますわよ?」

「そう言われてもな……、大体空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。そもそもどうやって浮いてるんだ、コレ?」

「説明しても構いませんが、長いですわよ?反重力力翼と流動波干渉、とても難しい物理の話になりますから」「よし、分かった。説明はしてくれなくていい」

「それは残念ですわ」

 

セシリアの有難い助言の後飛び出した提案を一夏は即行で遠慮する。流石にそんな普通の大学生でも習わないような難しい物理の話なんて絶対に理解出来ずに寝てしまいそうだからと遠慮した一夏だったが、そう言われた彼女は彼女自身も遠慮されると分かって言っていたようでお淑やかにクスクスと笑っていた。

 

「って事はセシリアはそういう感じに認識してるから飛べるのか?」

「いいえ、そういう訳ではなくて私は具体的には鳥や蝶をイメージしておりますわ。あの飛行挙動は戦闘行動(バトル・スタンス)としても応用出来ますので」

「ほー、んじゃ時雨は?」

「……YF-0かな」

「「YF-0か(ですか)……」」

 

セシリアの答えになるほどと頷くと一夏は今度は時雨は如何なのだろうかと聞いた。その答え、YF-0と言う7年前日本を襲った超大規模テロを阻止しこの世にISという存在を世界に知らしめた『白騎士』と対となる『白戦乙女』の名に、一夏とセシリアはIS乗りとして何を言えばいいのか言葉に詰まる。

そんな中でタイミング良く次の指示を伝えるべく山田先生が回線を開いた事によってその話は有耶無耶になった。

 

『指定ポイントに到達したみたいですね、ではこれから急降下と完全停止をして貰います。今回の目標は地表から15㎝、許容誤差±10㎝です』

「分かりましたわ。では時雨さん一夏さん、お先に失礼致しますわ」

 

そしてその指示を受け1番のベテランであるセシリアがまず降下を開始する。ハイパーセンサーで確認したが無事彼女は目標降下位置をクリア出来たらしい。まるで教科書に載せたい位綺麗な降下だった。

 

「へー、上手いなぁ」

「そりゃまあ、この中で1番のベテランだし国家代表候補生だからね。これくらい出来ないと国の代表にはなれないって事じゃないかな?っと、次は俺らしい。行ってくる」

「おう、行ってらっしゃい」

 

そんな事を一夏と話していると次に降下してこいという指示が飛んで来たので時雨は2番手として降下を開始する。スラスタ停止、重力の引かれるままに頭から降下……見方によれば墜落し地上を目指す。非固定武装の盾を翼代わりに使い姿勢を制御し真っ直ぐに降下して行った。

 

300……200……100……50……40……今!

 

高度40を超えた時点で盾を地面に水平となるよう(エアブレーキとして)展開、それと同時に反転し本体のスラスタを全開にして減速する。ただPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)で抑えられているものの多少キツイGが身体に負担として掛かるがバルキリーに乗れば当たり前の様に掛かるので慣れている。

そして降下していた機体は無事地面から少し上の位置で完全に静止する事に成功した。

 

「こんなものかな?」

「ふむ、地表まで残り10㎝か。合格だな、ただ自由落下とはいえギリギリまで加速し過ぎだ。見本となる様にしろと言っただろう」

「済みません……」

 

無事目標を達していた点は良かったが見本としてはOKとは言えない点に少し嘆息した千冬であったが、そこにハイパーセンサーから1つのアラートが鳴り響く。

 

警告(Emergency)、急速にISが接近中】

 

「お?って不っ味‼︎」

 

それを認識した時雨は慌てて非固定武装の盾を稼動、更に量子化されていた前は使わなかった携行用のシールドを取り出し構えた。それを見たセシリアも同じくビットを操作し無いよりはマシ程度ではあるが盾とする。

そしてその直後そこから少し離れた場所に白いナニカが墜落し、少なくはない土砂が巻き上がりできたそこそこ大きなクレーターからはモクモクと土煙が上がった。勿論そのクレーターのど真ん中に居たのは……、

 

「……馬鹿者(織斑)、誰が『地面に突き刺され(星になれ)』と言った。これなら時雨の方がまだマシだったな……」

「すっ、済みまない……本当に済みまない」

「いっちーがすまないさんなってる〜」

「……布仏、その辺りにしておけ。残念な結果なのは間違いないが茶化すものではないだろう。それと済まないな、天羽、オルコット。助かった」

「どう致しまして」

「当たり前の事をしただけですわ」

 

そこそこ離れた位置に一夏は墜落したとはいえ一部の土や石は生身で居た千冬や生徒達の方にも飛んで来ていた。それに当たれば生身ならば大怪我を負ってもおかしくはなかった為にそれに気付いた2人は間に入って防御したのだ。

 

「しぐしぐにセッシーありがと〜」

「あ、ありがとね!時雨君!セシリアさん!」

「済まないな2人共、全く……先が思いやられるぞ一夏」

「ありがとうね2人共……あのクレーターどうするんだろ?」

 

そんな2人に守られていたクラスの生徒達は礼を言う。2人はそれに「どう致しまして」と返すと次は地面に突き刺さった一夏を引っこ抜く作業へと取り掛かり、それはすぐに済んだ。

 

「時雨にセシリア、済まない、本当に済まない」

「まあ……停止しようと思った形跡はあるし怪我人はいなかったから今回は置いとくよ」

「それに謝るだけでは駄目でしてよ」

「あ、ああ、ありがとう2人共」

「「どう致しまして(ですわ)」」

「はぁ……言いたい事は時雨達に言われてしまったから今回は省こう。では次だが……と思ったより時間が無いな。休み時間を挟みこの後の6限目の実習にて皆にISに実際に搭乗して貰う事にしよう。また本日以降の実習では武装の展開についてから始める。織斑、お前はアリーナに自分が作ったクレーターを次の授業中、放課後までに片付けておくように。以上だ、これから休み時間とする」

 

そこでチャイムが鳴る。

 

因みにこの後継続して行われた6時限目の授業中は一夏だけでなく同じ専用機持ちのよしみとして時雨とセシリアがトンボ掛けを手伝った(ただし千冬の指示で時雨とセシリアはISの使用が許可され一夏は生身でやった)のは余談である。

 

 

◇◆◇

 

 

「……という感じだったよね」

「ええ、そうですわ。思いの外巻き上がった土砂が多くて均すのが大変でしたもの」

「いやはや……本当に済まなかった。お詫びに今度何か奢るよ」

「んじゃ貸しひとつだね」

「私もそういう風にして頂きますわ」

「これは……高い借りになっちまったな……」

 

そんな感じで3人で談笑をしていると、そこで新聞部を名乗るリボンの色が違う女子生徒が1年生寮食堂へ入って来ていた。

 

「はいはーい新聞部でーす。話題の新入生3人組に特別インタビューをしに来ました~!」

 

その彼女、恐らく3人の先輩は固まっていた3人の姿を確認すると笑顔でこちらに向かってきた。

 

「2年の(まゆずみ) 薫子(かおるこ)です。よろしくね、因みに新聞部副部長やってまーす!はいこれ名刺」

「あ、どうも」

 

時雨は黛先輩から手渡された名刺を受け取り名前を確認する。なんで名刺?今時の子は進んでるなぁ……(なんか違う)

時雨がそんな事を考えている間に黛先輩がボイスレコーダーを一夏に向けていた。

 

「ではまずは織斑くんから!クラス代表になった感想をどうぞ!」

「えーと、まぁ……頑張ります」

「えー、もっと良い……例えば「オレに触ったら火傷するぜ子猫ちゃん』的なカッコイイ感じのコメント頂戴よー」

「自分、不器用ですから」

「うわ、前時代的!」

 

コメントに困ったのか一夏は無駄にキリッとした顔でキメるがそんなに受けなかった。というかそのコメントはカッコイイのかどうなのか……時雨は分からなかった。

 

「じゃあ適当に捏造するとして2人目の男性操縦者の天羽くん、何か一言お願いします!」

「うーん、俺も頑張ります程度しか言えないんだけど……」

「えー、今月の学校新聞の見出し全部『銀河の妖精 シェリル・ノーム近日来日‼︎』ばっかりなんだってば〜。……まーいっか、取り敢えず天羽くんの分も良い感じに捏造しちゃえば」

「お願いします」

「良いって事よ少年!って事で次はセシリアさんに……はいいや、なんか長くなりそうだし」

「私の扱い酷くありません⁈」

 

で次の矛先は時雨に向くが時雨も時雨でコメントに困ったので適当に繕ってもらえるよう頼むとOKが出たのでそのままお願いする、最後にセシリアの方を見た先輩だったが何かを感じ取ったのかインタビューを取り止めしかも彼女のツッコミすらもスルーしてしまった。

 

「んじゃまー明日の一面用に写真欲しいからさー、専用機持ちの3人で並んでくれない?」

「あの、差し出しがましいかも知れませんが、後で多めに現像した写真を頂けませんか?」

「んー?いーよー。被写体になって貰うんだし何枚かは試しに現像をするからねー、んじゃ並んで並んで」

「ありがとうございますわ、ではクラス代表である一夏さんを中心に並びましょう」

「おう」

「了解」

 

右端に時雨、中央に一夏、左端にセシリアが並ぶ。先輩は良い感じに撮れるように立ち位置を調整していたが途中何かに気付いたのか少し口角を上げると2歩程背後に下がった。

 

「それじゃあ撮るよー。2700×95÷34-1は~?」

「え?」

「ヲッ?」

「7,543.117647058824ですわ」

「お、正解。流石スナイパーだね。この手の計算はお手の物かな?」

 

余りの理不尽過ぎるややっこしい問題に驚いた一夏と時雨を他所に一瞬で答えを導いたセシリアの答えと共にパシャリとカメラのシャッターが切られる。

 

「ええ、スナイパーならもっと複雑な計算を瞬時にしなくては務まらないので……ってどうして皆さんが写ってるんですの⁉︎」

 

ちょっと自信満々にドヤっとしながら解説した彼女だったが案の定3人の周りに1組の全員が撮影の瞬間に集結していた事に驚いた。その一方だから先輩があの時ニヤッとしてたのかと合点がいった時雨はなるほどと頷いていたが未だよく理解できていなかった一夏はただ頭に疑問符を浮かべ首を傾げるばかりである。

 

「セシリアだけずるいよ」

「クラスの思い出になっていいじゃん」

「ねっ、そうだよね」

「うぐぐぐぐ……」

 

そしてセシリアは結局皆んなに上手く言葉で丸め込まれてしまい、それに対して何も言い返せず黙ってしまった。

 

「んじゃありがとね、1年生一同諸君!明日の学校新聞は楽しみにしておくように!あとセシリアさんは明日の朝現像した写真を送るからね。じゃっ‼︎」

「あ、お疲れ様でした」

「お願いしますわ」

 

颯爽と食堂を後にする先輩の背を見送っているとつい先程まで壁際で缶ビール10本、シチューお代わり3杯、ラタトゥイユ2杯を黙々と食べていた千冬が手を鳴らし全員にそろそろお開きにするように呼び掛けた。

 

「よし、お前達。そろそろ時計は20:00を回る頃だ、入浴、着替えを考慮に入れれば22:00の就寝(消灯)時刻に間に合わせるにはそろそろ終わりしろ。明日も学校があるから寝坊する事は許さんからな」

「「「はいっ」」」

「宜しい、では2時間後確認に来るまでに各自自分の部屋居るように。解散‼︎」

 

こうして【織斑一夏クラス代表就任パーティー】と共にこの1日もまた終わりを迎えたのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

同時刻、太平洋上の何処かにある秘密の研究所(ラボ)

 

「さてと……、それじゃあ最後の調整を始めようか」

 

サラサラとした紫水晶(アメジスト)の様な美しさの髪の上にメカ兎耳Ver. 6.5を被り、珍しくエプロンドレスではなく白衣の下にお気に入りの蒼いワンピースを着た束は少し緊張した面持ちでとある純白のISの最後の調整に取り掛かっていた。

 

「くーちゃん」

「はい、束様。どうぞ」

 

束に呼ばれたクロエは机の上にその手に持っていた束特製の特殊合金で加工された鈍色のアタッシュケースを置き手早く右6桁、左6桁の計12桁のロックを解除、中に厳重に収められていた光の当たり加減によれば血の色(赤色)にも紫水晶(紫色)にも見える直径16㎝程度の結晶体、その数3つをそのまま束に向ける。

 

「これが日本、富士山付近の地中深くで発見された鉱脈(富士鉱山)から発掘された現在この世に存在する中でも最も大きく、かつ更に最高純度であると言われる『超時空共振水晶体(フォールド・クオーツ)』の原石、これからの研磨によりありとあらゆる可能性を生むその在り方から付けられたその別名は『賢者の石(ティアゾット)』………これを手に入れるのに40億$(日本円にして6000億円)も使う事になったのは少し驚きだったよ」

「想定最低価格は20億$(2000億円)、主な競争相手は新星インダストリー社とゼネラル・ギャラクシー社の2社でしたがなんとか競り落としに成功しました。……ただ最後の方はおそらく我々の正体に薄っすらと気付き敢えて手を引いたと言った感覚がありましたが」

「まあ仕方ないよ、R.i.W(ラビット・イン・ワンダーランド)社は企業としては元々バルキリーの部品や設計図の販売してたけど機体の研究開発は全くと言って良い程手を出してなかったからね。そんな中での急なIS機体開発事業参入の発表と今回のフォールド・クオーツの競売への参加、その上企業実態も調べれば実績が無い訳じゃないけど殆どダミー企業(隠れ蓑でありただの中継点)に近い存在である事なんて分かる人は分かる。で、そんな事をこの世界でも実行しそうかつそれを間違いなく実行できる人物と言えば私、篠ノ之束しか居ないからね」

 

「あと名前からして分かるでしょ?」と束は言いながら手にした雪風のコア(コア・クリスタル)賢者の石(フォールド・クオーツ)をひとつの機材にセットする。

 

「ISコアとフォールド・クオーツとの融合……意識()を持つ結晶()意思(想い)を伝える結晶()、その2つを1つにした時何が起きるのか……科学者として研究者として興味深いよ」

 

そう今から行われるのは世界初の試み、誰ひとりとして思い付かずそして実行に移す事等普通ならば『出来ない』程困難な実験。だがそれも世界最高の頭脳と設備、物資さえあれば『出来るかもしれない』というレベルまで手繰り寄せる事の出来る実験である。

 

「……とはいえ、『この子』から提案されなきゃ試そうとなんて思わなかったけどね」

 

実験開始前の調整の為にデータをキーボードに高速で打ち込みつつ束はそう呟く。先程も言ったがあくまでこの実験は彼女の全ての力を総動員してでも『出来るかもしれない』程度の成功率しか見込めないものだ。そんな危険な、数%の奇跡を願う様な実験に自らの生み出したIS達を我が子の様に感じている彼女が進んで試そうなどとは思わない。だが願われてしまったのだ、彼女が愛するその子供(ISのコア)から。

 

「よし、準備完了。でもこれだけ手を尽くしても成功率は2%もない、失敗する可能性の方が高い実験だ……それでもするのかい?」

 

彼女はそのコア──コアNo.ØØ、【雪風】の名を持つソレは束の問いに肯定するかの様に1度だけ強く瞬いた。

 

「……分かった。私は母として貴女のその覚悟と意志を尊重するよ。

だから、願わくば貴女のその決断に祝福と幸福のあらん事を願うよ」

 

カタンッ

 

白く繊細な指先がエンターキーを押す、そしてそれにより送信された命令を受け機材が動き出す。

 

 

全ての結果が分かるのは夜が明けてからになりそうだった……。

 




まあこれで待機形態がどうなるのか判断つきますよね?
あと一夏は無事(?)セシリア達との特訓中に単一仕様を発現させました。え?結果は?勿論エネルギー切れで負けましたが何か?(原作通り)

補足メモ

▪︎【賢者の石(ティアゾット)
世界各地にて発掘されている特殊鉱石超時空共振水晶体(フォールド・クオーツ)の中でも一際大きく、そしてその純度の高い物を【賢者の石(ティアゾット)】と呼んている。
そして今回束が手に入れた【賢者の石】は1つの石塊から3つ、つまりセットで発掘された原石である事から【三賢者の石(マギ・ティアゾット)】とも呼ばれおり、この3つは他の原石とは違いこの3石【王権の石(メルキオール)】【神性の石(バルタザール)】【終焉の石(カスパール)】は特殊条件下において他の個体より遥かに強く共振し合いその力を増幅する特徴がある。


▪︎新星インダストリー社
2010年に日本の三蔆重工の航空機部門が御国重工や大神重工等の数社の航空機部門と合併して誕生した。YF-19 カリバーンやVF-19 エクスカリバー、VF-25 メサイア/シルフと言った世界に名だたる傑作機の開発実績があり更に近年新型機としてYF-29 デュランダルの設計に成功、30機程が試験機として先行製造され現在政府の要請の下S.M.S極東支部に性能評価試験を委託中である。


▪︎ゼネラル・ギャラクシー社
アメリカのヴィーニング社とロッカー・インターナショナル社、ロッキング・マーティン社の3社を中心に超大規模軍需企業群が合併しそこに天才技術者 アルガス・セルザーを招いた事で後発企業ではありながらも新星インダストリー社と並ぶ世界二大可変戦闘機開発企業へと登り詰めた。傑作機とも言われ汎用性や性能が高くコストも抑えられたVF-17 ナイトメアやVB-6 ケイニッヒモンスター等の強化発展型機のシェアは世界一であり現在アメリカ軍が配備しているVF-27 ルシファー、S.M.S本部に性能評価試験を委託しているYF-31 カイオス等を開発している。

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