サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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専用機と改造機

〈31〉

 

あの痴女の一件から翌日、その日もまた昨日お同じ様にIS基礎の知識を1時限目から4時限目まで通して学び昼休みへと入った頃、時雨と一夏はつい先程まで授業を行っていた千冬に呼び止められていた。

 

「天羽、それと織斑、話がある。少しこっちに来い」

「はい」

「なんでしょうか」

 

呼ばれた理由が分からない時雨は若干首を傾げなから、何か授業中に不味い事でも自分がしてしまったのかと恐々としながら一夏は2人共片付けている途中だった自分の机から千冬の前までやって来た。

 

「6日後のISでの模擬戦についてだが織斑、お前のISは準備まで少々時間が掛かる事になった」

「え?」

「今何処の国家、企業にも予備機がない。だから少し待て、学園の方で専用機を用意するそうだ」

 

千冬は一夏に専用機が渡される事について話出した。

 

「せ、専用機⁉︎1年生の、しかもこの時期に⁈」

「つまりそれって日本政府からの支援が出てるって事で……」

「あー、いいなぁ。私も専用機欲しいなぁ」

 

そして千冬の話を聞いていたらしい教室に居たクラスメイト達がざわざわと騒ぎ出す。

 

「専用機って……それ凄い事なんだよな?イマイチ実感が湧かないんだが……」

「馬鹿者。教科書6ページを音読しろ、そしてそこから自力で理由は導いてみせろ」

「は、はい。えっと……」

 

一夏が急いでまだ片付けられていなかった自分の教科書を開き6ページの内容に目を通す。

 

「ふむふむ……ええっと……つまり要約したら『ISの根幹をなすコアは467個しか無く、そのコアが作れるのは生みの親である篠ノ之束ただ1人だけであるが本人が製造を拒否、日本から出奔した為にこれ以上増える事もない為にアラスカ条約批准国に分配されたコアより組み立てられたISは貴重であり取り分け個人に専用機として最先端ISを与えられる人間は特別な存在である』……って事だよな?」

「間違ってはないね、因みに一夏の場合は『この世にたった2人しかいない男性搭乗者の1人だから』、何処の国も今まで取れなかったパイロットが『男性』である場合のデータが欲しいんだよ」

「え?なんで?」

「良いかい?俺逹はこの世にたった2人しかいない男性搭乗者な訳だけど逆説的に言えばこの先男性搭乗者が見つかる可能性が有るって事だ。1人いれば可能性として他にもいる可能性は0ではなくなる、それに男性搭乗者のデータを解析すれば上手くいけばいずれ男がISに乗れるような日が来るかもしれない。だからこそ世界各国はそんな可能性を手に入れる為に専用機っていう責任(首輪)を与えて世界初の男性専用機乗り(モルモット)にしたいんだよ……言い方は悪いけどね」

 

が、実際そうなのだから時雨の言葉は否定できない。どんなに言い繕っても結局は何処までいってもこの世にたった2人しかいない貴重な男性搭乗者は世界にとっては未知であり調査されるべきモノなのだ。そしてそれが人道的か非人道的かの違いしかない。

 

「ストップだ、時雨。お前の言っている事は正しいしその通りだが言わない方が良い事だってある。『言わぬが花、知らぬが仏』と言うだろう?」

 

そして2日目ともなれば良い加減慣れたのか千冬はため息1つつきつつも時雨にストップをかける。どれだけ今の世界が嫌いなんだと少し頭を抱えたくなる千冬だったが、次の話は時雨に関するものである為話を続けた。

 

「時雨、お前の機体は調整にまだ時間が掛かる。ラビット・イン・ワンダーランド(R.i.W)社から今朝連絡が来た、オーバーホールと機体改修にあと10日は掛かるそうだ」

「ああ……そういう、分かりました」

「なのでお前には一時的に今日から学園の訓練機を貸し出す、【打鉄】になるが構わないか?」

「ええ、大丈夫です」

「そうか、それと訓練機だが代わりに多少の改造の許可は出た。原型を留めているならば好きに改造して構わない」

 

一方時雨の方は専用機の到着は模擬戦までには間に合わないらしい、しかしその代わりに学園から一時的な専用機として貸し出される訓練機(【打鉄】)は時雨の好きなように改造して(弄って)良いとの事なのでこの際実際にISを自力で弄ってみようと思う。……知識はあるのだ、あの魔の2週間で天災監修の元習得させられた知識は。

そして先程会話に出てきた『R.i.W』という企業についてだが、

 

R.i.W、正式名称Rabbit(ラビット)in(イン)Wonderland(ワンダーランド)社は元々篠ノ之束が立ち上げていた偽装(ダミー)企業(社長兼開発主任 束、副社長兼経理兼社員 クロエ)であり主にやっていた事は束がふと思いついて開発、商品化してしまった面白便利グッズや設計したIS装備、宇宙開発用の部品を暇潰しに売ったり卸したるする為の形だけの会社に過ぎなかったがそれが幸いし時雨が表舞台に上がると同時にIS開発産業へ参入、元々ISの部品やシステム、兵装を開発していた為あまり怪しまれずに時雨の専用機の開発及び引き渡しを請け負う事になった。

 

 

また時雨の専用機となるのは勿論例の『アノ』機体であるが動力機関の変更、それに伴う機体の調節や改造、新たなシステムの導入などやる事が多くいかに天才的頭脳と能力を持つ束であろうとも暫く時間が掛かるんだそうだ。

 

「え、R.i.Wって最近IS開発産業に参入したあの『おもしろ便利グッズからISやバルキリーまで』がキャッチコピーの謎の超企業だよね?って事は天羽君ってR.i.Wの企業代表なの?」

「うーん……、ちょっと違うよ機密だからあんまり詳しくは言えないけどあくまでR.i.Wは俺の機体の開発製造をしてるだけ、所属はまた別の所だよ」

「へぇ〜」

 

実際時雨の機体を提供しているのはR.i.W()であるが名目上所属は彼女が選んだ『組織』である。名前だけを借りているようなものだが借りている事は事実なので機密に触れない程度にその辺りはしっかりと一夏や質問してきた女子生徒には答えておいた。

 

「話を戻すぞ、で貸し出される訓練機だが整備室の1番奥のハンガーに駐機されている。改造には学園内にある備品や装備なら使って良いからその辺りは整備室で先輩に説明してもらうと良い、まぁアリーナが使えないので結局改造しても本番までまともに動かせんだろうがな」

「了解です、あと本日からそれは可能ですか?」

「放課後からならば可能だ」

「分かりました」

 

時雨の質問に千冬はそう答える、他に聞く事は?と2人に問うたが2人とも無いと答えたのでそこで彼女は質問の受け付けを終了する。

 

「ふむ、ならば問題ない。さ、お前達も食堂に行って昼食を食べて来るといい。残り時間はあと30分も無いぞ?」

『「「あ」」』

 

うっかり忘れていたが今は昼の休み時間であり、いつの間にか15分も既に過ぎてしまっていた事に気付いた一同は千冬の言葉に「あ」と言葉を漏らす。時間からして食堂の混雑ピークは過ぎているが混雑と空き座席の有無は決して(イコール)では繋がっていない、寧ろピークよりその後の方が空き座席は少ないと言っても過言ではない。一応食堂には回転率の良いカウンター席もあるがその絶対数は少ない為今の段階でもこのクラス全員が予鈴までに座れる可能性は低いのだ。

 

「きゃあっ、急がなきゃ!」

「お昼御飯抜きはムリっ!」

「こらっ、廊下を走るんじゃない!早歩きで行け!」

 

バタバタと慌てて教室を飛び出て行く女子一同と走るなと注意しつつ教室を後にする千冬の背を見て時雨と一夏はどこか諦めた目をしながら顔を見合わせる。始業までに間に合う可能性は低いが諦める訳にもいかない、しかし購買もすぐ売り切れる上に弁当を作った訳でもないので調達はあの混んだ学食で済まさなければならない。故に、

 

「急いで行くか……」

「おう、食後すぐに走りたくは無いからな」

 

千冬に見つから無いように廊下を曲がってから全力ダッシュで食堂に向かう2人だった。

 

 

◆◇◆

 

 

放課後

 

「さてと、一夏。俺は1度訓練機を見にIS整備室に行ってくる。悪いが今日の特訓は俺抜きでやってくれ」

「おう、いってらっしゃい。時雨も頑張れよ」

「行くぞ一夏、今日は突きをメインに鍛えるからな!時雨も無理はし過ぎるなよ」

「ああ、分かってるよ。行ってきます」

 

教室を出た後、途中道に迷うなどというアクシデントもあったが時雨はIS整備室には1年1組の教室から凡そ10分も掛からずに着いた。

 

「ここか」

 

『IS整備室』と書かれたプレートのついた自動ドアを開けて中に入る。整備室の中はキチンと整理整頓され設計図とか金具とか工具とか部品とかは一切その辺りに転がっていない、その光景に何処か新鮮なものを感じた時雨は一体何故そんな事を思ったのか一瞬で思い当たりポツリと独り言を零した。

 

「ああ……今までで『整備室』と名の付いた部屋で初めて見た。こんな綺麗に整理整頓された部屋」

 

束の整備室も琴乃の整備室も部屋の至る所に設計図やら金具やら工具やら部品やら何やらと乱雑に鎮座しており酷い時には足場が無かったりする事もあったのだ。そしてそれを掃除するのはその部屋を訪れる機会が有り、年齢的にも比較的まともに整理整頓ができる人物である時雨もとい翼しかいなかったのだ。それ故に彼自身は別に望んでもいないのに無駄に機械工学の知識が増えていき翼がそれを元に整理整頓をして束と琴乃は片付いている事によろこんで更に研究開発を頑張ってより部屋を汚くしてそれをまた翼が綺麗にして知識を得て整理してそれにまた束と琴乃がよろこんで研究開発をといった感じで悪循環を産んでいた過去があったりする。

それはさておき中に入ってみると今整備室にいる人間は今入って来た時雨を除き1人だけ、1番奥に駐機されている時雨の打鉄の隣に駐機されている組み立て中であろうISのシステムを熱心に自分のメカニカル・キーボードに打ち込んでいる少女がただ1人だけしか居ない。

 

「あれだけ熱心にやってるんだ、邪魔しちゃ悪いな」

 

千冬には整備室にいる先輩にでも説明を受ければ良いと言われたが今の整備室には先輩どころかその彼女しかいない為時雨は自力で整備室にある各種設備の取り扱い説明書を探し出しそれを見ながらその通りに操作する。

 

「う〜ん、何を如何したら良いのか………取り敢えずは拡張領域(バススロット)量子化(インストール)せずに機体に更にくっ付ける形でいこう。メイン武装はライフル……アサルトライフルの方が良いか、有るのは……【焔備改】だけか?それにこの非固定武装大盾、無駄が多いな。まあオートじゃこんなものか、取り敢えずマニュアルに変更して可動範囲はそのまま、操作は思考制御に直結して……待てよこれじゃ並みの人間に使えないな。電子戦用バルキリーの管制システムがあれば楽になるが……仕方ない乗るのは今回限りだし諦めて普通の一部オートの思考制御にするか、問題は俺の知識だけで上手くいくかどうかなんだが」

 

「……ねぇ、何やってるの?」

 

現状やれる事とできない事を把握した時雨は目の前にあるISを眺めこれからの改造プランをパソコン片手に考えていると本人は気付いていなかったがずっと独り言が漏れていたのか、整備室に入って来た時からずっと1人で時雨の【打鉄】と同じようにハンガーに駐機された機体を弄っていたIS学園の制服ではない制服を着て眼鏡を掛けた何処かで見覚えのある水色の髪をした少女が時雨に話し掛けて来ていた。

 

「打鉄の改造、汎用性と安定性の比較的高い機体だけどこのままじゃ新型の専用機とは張り合えないからね。取り敢えず先にちょっとただ浮いてるだけに近いこの盾をどうにかしようと思ってプログラムを組んでたんだ。まあ上手くはいってないんだけどね」

「そう……」

 

時雨は元から盾の操作システムに組まれていた一部のプログラムを改変し思考制御をメインとしたプログラムに組み直している画面を彼女に見せる。0と1の二進数(数字ばかり)が延々と続くその画面を軽くスクロールするとその途中、それを見ていた彼女は唐突に時雨とキーボードの間に割り込むと打ち込んであった数字を修正、再編しあっと言う間にさっきまではシュミレートで上手くいっていなかった動作が上手くいくように手直ししてしまった。

 

「……でもここのシステムの書き換え、多分間違ってる。こっちにすればより安定性が増すはず。でも多分この部分のシステムはバルキリーの思考制御用のインターフェイスのシステムを一部応用すればより汎用性と完成度の高いものに仕上がると思う。それと……」

 

そう言いながら彼女は目にも留まらぬ速さでキーボードを叩き時雨の拙い組み掛けのプログラムを修正、改良していく。最後まで書き換えを終えた時、彼女は我に帰ったかのように「あ……」という声と共にキーボードから手を離し身を引いた。

 

「あ、……ごめん。出しゃばり過ぎた、気に入らないなら……消して」

「いや、ありがとう。助かる。色々やってる事はやってるけど殆どが知識だけがある状態でほぼ手探りだったんだ。だからありがとう」

「っ……どういたしまして」

 

いきなりお礼を言われた事に驚いた様子の彼女だが、それに時雨は気付かずに更に追い討ちを(話し)掛ける。

 

「また良かったらアドバイスとか気が向いたらしてくれないかな?」

「……き、気が向いたら、する……」

「ありがとう」

「うっ……あう」

 

時雨のお礼に顔を赤くした彼女は慌てたように自分の機体の電源を落とし、それに接続していたコンピューターを手に逃げるようにして整備室から逃げて行ってしまった。取り残された時雨は少し呆然なるがふとディスプレイに表示された電子時計をみると既に18:23を指している、そろそろ夕食とするには頃合いとなった時間になっていた事に時雨もまたデータだけはメモリースティックに移し機体の電源を落として整備室を後にする。

 

「そう言えば最後まで名前聞くのを忘れてたな……」

 

寮にある1年専用の食堂に向かう道中、ふと名前を聞くのを忘れていた事に気付いた時雨は次に会ったら名前を聞こうと決めたのだった。

 

 




現在更識簪が着ている制服は美星学園の女子学生服です。実は彼女はここの航宙科を受験しており見事通ってはいたが日本政府の意向で入学直後にIS学園に交換生として出向させられる事なった過去があります。理由は勿論織斑一夏の護衛の為、しかも更に運の悪い事にIS適正も高い上操縦技術、知識共に高かった為にいつの間にか代表候補生になっており(とあるシスコンの関与の疑いアリ)専用機まで渡される予定だったが倉持技研が白式製造に掛かりきりになった為未完成のまま入学する事になった為原作通り……いやそれ以上に一夏に対するヘイトは高めです。因みに彼女がわざわざ作業を中断してお節介をやいてしまったのは隣でいた主人公が7年前に出会った少年にそっくりだった(本人)からです。

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