サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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寮の同居人と闖入者

〈30〉

 

2人は寮の入り口までやって来るとまずは寮の案内板を前にして自分達の部屋がどの辺りにあるのかを確認していた。

 

「お、あったあった。って案外遠いな……」

「一夏、俺はそこから更に奥にあって遠いんだけど?」

「あ、なんか済まん」

「いや、こっちこそ済まん。……八つ当たりだ」

「「はあ……」」

 

案内板を見て時雨と一夏は2人して溜め息を零す。2人の部屋があるのは寮の入り口からは少々遠い奥の方にあり、つまるところその途中でも延々と女子の目線に晒され続けると言う事である。あと……

 

「あ、天羽君と織斑君だ」

「嘘っ、男子もこの寮で暮らすの⁉︎」

「きゃっ、勝負着着なきゃ(使命感)」

「あっ、こんにちは?」

 

「「……」」

 

廊下ですれ違う女子の姿に時雨と一夏は沈黙する。ジャージはまだ良い、タンクトップにホットパンツだけとか挙げ句の果てに寝間着で廊下に出てくるのはやめて欲しい、マジで切実に。いや元っていうか今も殆ど女子校だからその辺りのガードが下がりまくってるのは理解できるがこれからは男子(時雨と一夏)がいるのだ。

 

「……なあ、一夏」

「……ああ、分かってる。……これはシンドイな」

「うん、俺達男子なんだけどね」

「だよなー、色んな意味で視線に困る」

事故(ラッキスケベ)……、冤罪(ハニートラップ)……、問題起こす……、織斑先生がががが……頭痛い」

「あばばばば……」

 

これからの気の休む暇もなさそうな私生活について頭の痛くなる2人だった。

 

 

◆◇◆

 

 

「さて、一夏の部屋はここで合ってる?」

「ああ、『1025』号室。間違いない、ここだ」

 

そして遂に2人は漸く一夏がこれからの1ヶ月は過ごす事となる部屋の前に辿り着いていた。

 

「取り敢えずノックだな、俺はマダ死ニタクナイ……」

 

事故(ラッキスケベ)とかマジで要らないんで学校外(寮も学園の敷地内にあるので厳密には違うが)では平穏に暮らしたいです、ハイ。

で、やたら高級そうな木製の扉を一夏がノックする事数秒後、

 

「はいはい、同室の人かな?今出るよ……って一夏?それに時雨君、どうしたの?と言うかよく私の部屋がここだって分かったね。あと情報についてはまだ収集中だよ」

「良かった栞だったのか、これが他の女子とかだったら死ぬところだったぜ……」

「え?もしかして同室の人って一夏なの?嘘っ、え?そこは男子同士が相部屋なんじゃないの?」

 

授業が終わって放課後になり次第すぐに教室からいつの間にか姿を消していた栞が一夏と同室となる部屋から出て来た。

 

「いや、俺はそう思ってたんだけどなんか色々あったらしくてな……って事は栞は千冬姉からは何も聞いてなかったのか?」

「あ、でも「配慮はしたが迷惑を掛ける」って放課後すぐに言われたかな。これってそういう事だったんだ……その辺は事前説明してよ千冬さん……」

 

学校が終わった為今は完全にプライベートな時間になったので2人はいつも通り織斑先生の事を千冬姉や千冬さんと呼び始める。取り敢えず現状を把握したのか栞はすぐに扉を開けて一夏と時雨を室内に招いた。

 

「取り敢えず入って、立ち話はなんだし荷解きだって一夏にはあるでしょ?」

「おう、時雨も入るか?」

「え?良いのか?俺が居たら2人共の邪魔になるんじゃないか?」

「ならないならない、あ、でも荷解きは時雨君にもあるか」

「悪いな、だから後で寄らせて貰うよ」

「ああ、また後でな時雨」

 

一夏達と別れ時雨は更に廊下を進む。そして千冬に言われた通り確かに通路の角となる部屋と部屋の間の部分(余剰スペース)には『0000』号室のプレートが付いた扉が存在していた。

 

「ここか……一夏達の部屋から5つは奥にあるから案外遠いな」

 

時雨は自室の扉の鍵を開けドアノブを回す。そしてその先にあったのは聞いていた通りの殺風景な部屋……ではなく、

 

「お帰りなさいア・ナ・タ♡ご飯にする?お風呂にする?それとも……ワ・タ・シ♡」

 

見た感じ裸の上にエプロンだけを着た世に言う『裸エプロン』とやらをした自分の1、2年くらい歳上そうな何処かで見た事のある(・・・・・)ような顔立ちと青い髪をした美人の女性が何故か扇子を持ちながら玄関に立っていた。

 

パタン

 

時雨は取り敢えず速攻で1度扉を閉め部屋番号と鍵を確認する。間違いなく部屋番号は『0000』であるし鍵もしっかりと鍵穴に挿さり錠の開閉も難なく行える。つまりここは間違いなく自分の部屋である。

 

……ん?疲れてるのかな?よしもう一度開けてみよう、そうしよう。

 

「お帰りなさいア・ナ・タ♡ご飯にする?お風呂にする?それと……」

 

パタン

 

ん?ん?ん?ん?もしかして幻覚じゃない?そんな馬鹿な……

 

「お帰りなさいア・ナ・タ♡ご飯にす……」

 

パタン

 

………………ピッ

 

「もしもし千冬さん。今俺の部屋に裸エプロンしてる見知らぬ痴jy「御免なさい御免なさいだから織斑先生を呼ぶのだけは勘弁して!私が半殺しどころか生物学上でも抹殺されるから‼︎」」

「ほう……?楯無、一体誰が誰に半殺しどころか生物学上で抹殺されると言うんだ?なあ楯無?」

「ひいっ‼︎おおおお、織斑先生いつの間に⁈」

「何、世界中でもたった2人しかいない男子の片割れから個人部屋であるはずの自室に裸エプロンの姿をした痴女が居ると通報を受けたのだ。ハニートラップの可能性を含めてここの寮長兼警備主任を務める私が事態鎮圧の為に直接出向くのは間違ってはいないだろう?なあ闖入者(痴女)?」

「い、イエス、マム!あと痴女は止めて下さいお願いします織斑先生!」

「あん?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

「はぁ……、済まないな天羽。取り敢えずこいつ(痴女)は私の方で引き取ろう。ほら行くぞ楯無、まずは職員室で私が、その次は生徒会室で虚と一緒の説教を受けて貰う。まあ小一時間は最低でも覚悟するんだな」

「いいやぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁああっっ‼︎」

 

思わず千冬に連絡してしまった時雨だが、それを止めようとした痴女もとい闖入者も一歩及ばずすぐそこにはいつの間にか千冬が立っていた。そして彼女は楯無と呼んだ痴女のうなじ辺りを服を着ておらず掴む場所がなかった為にむんずと掴むとずりずりと引き摺って行った。

で、ただ1人残された時雨はと言うと、

 

「何、アレ?」

 

イマイチ現状を理解できていないようだった。

 

 

◆◇◆

 

 

数分後、取り敢えず今あった事は全て忘れる事にした時雨は今度こそ自室へと入る。そして入って扉を閉めてすぐ部屋の至る所を【検知魔法】を使っての家捜しを開始する。そして案の定、

 

「有ったな……『ミミ』と『メ』、あと『ショッカク』か。全力で俺の正体を探る気だったな」

 

『ミミ』『メ』『ショッカク』とは『盗聴器』『盗撮カメラ』『電波傍受器』の隠語である。その理由は読んで字の如く対象の音声を盗み聞く為の(ミミ)が盗聴器であり、対象の行動を盗み見る為の目が盗撮カメラ()であり、対象の出した連絡を傍受する為のアンテナ(ショッカク)が電波傍受器である。

 

「部屋を準備したのは学園側だったか?だが誰がやった?学園長はそもそも入学する為に千冬さんが事情は話してあるし組織も束が多少黙っている所はあるが殆ど把握している。なら各国が潜り込ませて来た生徒や国家代表候補生(スパイ)の可能性もないことはないがそもそもまだ場所は知らない筈……教師を抱き込んだ?いやそれはない、その辺りは千冬さんと学園長が目を光らせているからやった瞬間懲戒免職(クビ)になるのは分かり切っているし……うーん」

 

そんな機材達を素手であっさりと砕きつつ時雨は呟くが情報が足りなさ過ぎて誰が犯人かまでは到達出来なかった。

 

「うん、取り敢えず千冬さんに連絡だけしとこう。俺が今単独で動いても面倒が起こりそうなだけな気がするし」

 

時雨はそう呟きかつて機材だったガラクタの破片をゴミ箱に捨てつつ再び千冬に向け電話を掛ける。

 

「もしもし、千冬さん今大丈夫ですか?……はい、ならちょっと報告がありまして、部屋にですね『ミミ』や『メ』、『ショッカク』がありまして既に処分はしたのですが原因の方はですねどうすれば……あ、引き受けてくれますか?ありがとうございます。では……」

 

時雨は電話を切る。

 

「取り敢えずこれで安全かな?……っともう6時前か、晩御飯を食べに行こう」

 

そう言って部屋を後にした時雨だったがいつぞや職員室からとある女性の悲鳴らしき物が聞こえたのを最後まで気付く事はなかったそうな。

 




裏話

裸エプロンのまま職員室まで連行された某痴女「痴女じゃないわよ!」……とある学園最強はその時世界最強から大いに説教を受けていた。
そしてその時、更に彼女の立場を悪くするとある一本の電話が舞い込んで来た。

「なんだ……何?……そうか、分かった。それについては私が責任を持って対象しておく。だから任せてくれ。……ああ、分かったじゃあな」

世界最強が電話を切る。そして切った瞬間から学園最強にはまるで重力が倍にでもなったかのような圧力が彼女には襲い掛かって来た。

「はわわわわわわわ……っ」
「さて……、今新たに先程とは別の案件が浮上して来た。で、弁明はあるか?」
「ひぃっ⁈」
「おいおい、そんな悲鳴ばかりでは質問の答えにはならんではないか。なに、正直に話せ、そうすれば出席簿……いやこれは禁止されたから今度私と掛かり稽古気絶するまでで許してやろう。な?私は優しいだろう?」
「ひいいぃっ⁈じゅ、十分恐ろしいですマム!それと私は生徒会長として万が一学園仇なす存在ではないかと調査しようとしただけで……」
「ほう?私と学園長のお墨付きがあってもか?それ程まで私達が信じられないのか君は?」

威圧感たっぷりの言葉に学園最強の彼女はブルブルと震えだす。

「い、いえそんな事は!」
「貴様がした事はそういう事だ。全く……精々直接話して情報を集める程度なら見逃す気ではあったがそんな手段に出るのであれば仕方ない。誠に心苦しいが学園長に相談に……」
「すみません、本当にすみません。ごめんなさいごめんなさい。それだけはご勘弁を!これからは全力で気を付けますからぁ‼︎」
「ほう?だが断る!まだまだ愚痴……ごほん説教は終わらんぞ」
「今愚痴って言いました⁈ねえ今愚痴って⁉︎」
「煩いぞ、それともまだまだ怒られたりないのか?」
「違います違います!だから許して!」


「ひぇええぇぇーーー⁉︎」


彼女の夜はまだ長い、これがこの後まだ2時間は続きその後再び生徒会室でも更に説教の話は一晩中続いたらしい。そして夜が明ければ新たな学園七不思議、『真夜中の無人の校舎で響く悲鳴』という物が追加されたという話である。



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