〈29〉
その後、無事(?)に5時限目と6時限目は終わり放課後、時雨と一夏は未だ教室に残っていた。
「う〜ん……、ここの公式がこうなって……ええと……」
「そんなに難しく考えなくても良い、専門用語とかが多くて分かりにくくはなっているがそれを除けば高校生ならギリギリ解けるレベルだからな。因みにここは引っ繰り返してからXに置き換えると……」
「おおっ!簡単になった!ありがとう時雨!助かってるぜ!」
「はいはい、次行くよ」
「うっす!」
一夏な参考書と教科書、ノートを開き内容を書き込んでいるのを時雨はその斜め前から解き方の解説やヒントを与えている。やっている内容は今日の高校での最初の授業でやった部分の復習なので専門用語の解説とちょっとしたヒントを与えれば全く分からなかった一夏だってすぐに理解できる。そもそも一夏の頭は悪くない、むしろ良い方である。故に1度理解すれば後はどんどんすぐに吸収していけるだろう。
「なあなあ、時雨」
「ん、なんだ?」
「これからどうするよ?ISとアリーナ、借りられないみたいじゃねえか」
「あー、うん。まさか新学期早々貸し出しが一杯だとは予想できなかったからな」
「だな、箒だって山田先生に聞いてすぐに「はい?」みたいな顔してたしな」
「そうだったの?俺は山田先生と話してたから全く気付かなかった」
ノートにシャーペンを走らせていた一夏が顔を上げてそう時雨に話し掛ける。ついさっき放課後が始まってすぐに箒と3人でISの練習に【打鉄】とアリーナを借りられないのか確認しに行ったのだが、その結果はまさかのこれから1ヶ月以上先まで既に予約が目一杯入っており借りられず更には確認を取ってくれた山田先生が何故か涙目になってしまったりしたのだ。
「まあ、そんな世界は甘くないし物事は上手くは運ばないって事だろう。あまり言いたくはないけど先輩達の勤勉さが俺達にとっては仇になったね」
「まあ、そうだな。しかしどうするよ?ISに乗れないんじゃ兎に角筋トレばっかりになるんじゃないか?箒なら嬉々として「さあ、やるぞ!」って言ってきそうだが……」
「あー……、うん。彼女、どっからどう見てもサムライガールだもんね。袴と羽織があったら絶対何処かの武将にしか見えなくなるよ」
「分かる、それは分かる。まあ本人が袴をはくのは剣道か剣術稽古をする時か神楽を踊る時しかないだけどな」
「神楽って事は男装するの?」
「ああ、箒は篠ノ之神社って言う神社の娘で毎年その神社でやってる夏祭りでは巫女さんとして神社に勤める他に神楽として男装して剣舞を奉納するんだ。1回見たらきっと分かると思うけど凄え綺麗だぜ」
「へぇ」
一夏が丁寧に説明してくれるのだが時雨の正体は若宮翼である為、その事は身を以て知っている。実は時雨も過去何度か神楽の奉納の際
「あ、天羽君と織斑君。まだ教室に居たんですね。良かったです」
「え?山田先生?」
「どうしました?」
「えっとですね、お2人の寮の部屋割が決まりました」
と、その時何故か先程会ったばかりである山田先生が幾つかの書類と茶封筒を片手に教室に入って来た。彼女の話によると時雨と一夏の寮での部屋割りが決まったらしい、手渡された封筒の中には部屋番号の刻印されたクリスタル製の
「山田先生、俺の部屋ってまだ決まってないんじゃなかったですか?以前聞いた話だと、大体1週間は取り敢えず自宅から通学して貰うと話を受けたんですけど……」
「そうなんですが、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを急遽無理矢理変更したらしいです。……織斑君はその辺りの事って政府から詳しく聞いてませんか?」
「いえ、さっき話した通り聞いてません」
「そうですか……天羽君の方はどうですか?上の方から何か連絡を?」
「特に何も、ただ一応すぐにでも寮には入れる様調整するとだけ」
「そうなんですか……分かりました」
日本を含めた各国の無茶振りで無理矢理押し込まれた一夏とは違い、どうやら時雨の方は束と時雨の後ろ盾になっている『組織』が先に手を回してくれていたらしくしっかりと先に部屋が決まっていたらしい。その辺りは彼らの手際の良さに感謝すべきであろう。
が、そこで一夏はとある重要な事に気付いた。
「ん?ちょっと待てよ、時雨、お前部屋は何号室だ?」
「え?ちょっと待って……はいっ⁉︎『0000』って何⁈何処⁉︎」
「嘘だろ⁉︎俺『1025』なんだけど⁉︎って事は男子は男子同士で相部屋じゃなくて俺は女子と相部屋なのか⁉︎」
そう、元から寮に入る前提だった時雨はちゃんと部屋が用意されていたが一夏の場合は違う。急だった故に学園側はどうしても一夏の方は女子と同室になる様になってしまったらしい。
「え、あ…はい。日本政府だけでなく各国政府からの特命も有って、とにかく寮に入れるのを最優先したことにより部屋割りに関しては先に学園に入寮が通知されていた天羽君はともかく急に決まった織斑君についてはどうにもならなくてお2人は別々の部屋に入ることになりまして……」
山田先生が気不味そうに一夏に説明する。流石にそれについて決定したのは学園上層部であり教師である山田先生には何の罪もない事を理解しているのか一夏は特に何も彼女に文句は言わなかった。
「だ…大丈夫です。1ヶ月もすればお2人にはそれぞれの個人部屋か相部屋が用意できますから、それまで暫らく我慢して下さい」
「いや……俺が我慢してもルームメイトの女子が我慢してくれるかが問題ですが」
一夏は目下第一に心配な事を呟く。どうやら言おうとしつ漏らした言葉ではなく思わす心の声が漏れ出てしまったやつらしい。
「取り敢えず荷物はどうすれば良いですか?俺ホテルと家に置きっ放しなんですが……」
「あ、いえ、荷物なら――」
「私が手配をしておいてやった。織斑の荷物は総司さんに頼んで詰めて貰ったから後日感謝の言葉を送っておけよ」
そして山田先生の言葉を継ぐようにして千冬が山田先生が入って来た扉とは別の扉から入って来た。どうやら話の限り今も2人は
「あと天羽、お前の部屋番号は間違ってはいないからな。ただ元が寮の角にあるそこそこの広さがある倉庫でな、突貫工事で完全防音、火と水周り、配電は学園が整えたが何せ急過ぎて家具が保健室から持って来た簡易ベッドと丸椅子、ハンガー数個しか用意できなかった。後日家具を運び込む予定だが……それともお前が決めるか?その辺りはこちら側からの謝罪も含めているが」
「分かりました、やらせて貰います」
「ふむ、では今度の土日にカタログ……いや『レゾナンス』にも家具を取り扱うミトリがあったはずだ、そこで注文すれば良いだろう。ただし私も付いて行く、経費で落とせるらしいが念の為にな」
千冬は時雨の部屋についての説明をする。彼女曰く他の部屋と比べるとかなり殺風景な部屋の内装となっているらしいがその辺りは時雨の自由裁量で模様替えの許可が出たらしい。……あとついでにちゃっかりと引率と言う名の『デート』の約束を取り付けるところを見ると何処か計画的犯行にも見えなくはない。
「では、時間を見て部屋に行って下さいね。あと夕食は六時から七時、寮にある1年生用食堂で取って下さい。因みに各部屋にはシャワールームが付いていますが、大浴場もあります。学年毎に使える時間が違いますけど……えっと、その、お2人は今のところ使えません」
「ああ、元ここ女子校ですもんね」
「男子が来るなんて予想してないだろ……と言うより元も何も今も女子校な気がするけどな」
最後の説明兼注意事項として大浴場の使用についてだが流石にこの歳で犯罪者にはなりたくはない2人はすぐに了解の意味で頷いた。多分そんな事したら社会的に死ぬのは勿論の事、IS学園女子全校生徒に袋叩きにされて生物学的にも死亡する羽目になりそうなので絶対に間違えないようにしようと心に決めた2人だったりする。
「えっと、それでは私達はこれから職員会議があるので、これで。2人共、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草食っちゃ駄目ですよ」
この校舎から寮まで歩いて数分しかない上に特に何もないと言うのに、どうやって道草を食えと言うんだろうか山田先生は……。とはいえそれも彼女なりに自分達の事を心配して言ってくれているのだと分かっている2人はしかとそれに頷いた。できればこの心優しいこのクラスの
山田先生は癒し、これは決定事項です。
あと
次回、1人部屋のはずだけどここにいる貴女は誰ですか?の巻。次回もサービスサービスゥ‼︎