サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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主人公、覚醒(?)


英国貴族令嬢、襲来

〈26〉

 

 

始まるまでに色々とあったが3時限目の授業が始まった。前では1時限目の時と同じように山田先生があの馬鹿程分厚い参考書を広げつつ押さえなければならない要点だけをピックアップして電子黒板に書き込んでいく。

 

「────ISは元来宇宙にて搭乗者の単独行動を可能とする為に様々な機能が備え付けられており、機能については参考書P174以降に載っているので今回は省略しますが博士本人が公言していた通りISという存在は多くの既存の技術を凌駕する物であり軍事転用を行なえば個人で『核』とは違う意味で世界を滅せる要因となり得るものです。故に現在のISの基本的な運用は『アラスカ条約』に基づき─────」

 

そしてまだ1時間しか山田先生の授業は受けていないが彼女の授業はとても上手い。教えるべき話の内容の要点は確実に押さえ実際にISに触れるとなった時に大切かつ必要となる知識を自己体験を交えて生徒に退屈させないよう90分間(授業1時間)をとても上手く有効活用している。ちょっとドジで天然な所もかっているのだろうが彼女は他人に効率良くそして楽しく教えられる『才能』がある。それはこの嫌ほど分厚い参考書をあれだけ分かりやすく要点を押さえて板書ができる事で十二分に証明されているだろう。

 

ちらっ

 

あとそう言えばこの参考書、IS学園開校時に束が直々に編集した物らしい。なんでも国に都合が良い事とか変なこと書かれたら困ると束が言ったらしくわざわざ学園長に作成の提案書を極秘裏に送りつけて了承の返事から2日後に郵送してきたのがコレらしい。……ただ完成度が高過ぎたらしく参考書なのに参考書に載ってる事がまだ他の国で解析出来ていない事とかが多々載っていたらしく参考書が出来てすぐは世界中の科学者達が発狂していたとか……滅茶苦茶不憫である。

 

ちらっちらっ、

 

「…………」

 

……良い加減無視できなくなってきた。自らの教科書と板書を写したノート、それと時雨の色々書き込みまくった参考書(2週間しかなかった上、束が教えてくれる時は参考書なんか私がいれば要らないよね!のノリで鞄にシュートしてくれたおかげで書き込んだコレ全部は自力で調べたり千冬が教えたものである)とノートを12秒に3回くらいの周期で視線が行き来しているのと30秒に1回くらいの周期で助けを求める視線を送られるのを20分くらい続けいれば流石に時雨も無視できなくなってくる。

 

「……どうした」

「……訳がよく分からない」

「……参考書読んだか?」

「読んだけど……」

 

時雨の問いに一夏は言い淀む、とその瞬間を偶然目にしたのか山田先生がこちらを見ていた。

 

「えっと、ここまでで分からない所、理解できなかった事はありませんか?織斑君、大丈夫ですか?」

「あの、えっと……」

「分からない所があればなんでも訊いて下さいね、何せ私は織斑君達の先生ですから!」

 

山田先生がドンと来い的な感じで胸を張るのだが見た目的になんか癒される。微笑ましいって言うかアレだ、小動物っぽい?

そんな山田先生の姿を見て一夏は1度目線を自らの教科書とノートに落としすぐに何か覚悟を決めたかのように顔を上げる。

 

「先生!」

「はい、何ですか織斑君!」

「専門用語的な所が丸々全部ほとんど分かりません!」

「えっ……と、全部がですか?」

「はい、理論とか数式とか諸々全部です」

 

きっぱりと言い切った一夏に山田先生の微笑みが思いっきり引き攣った、流石に全部が分からないとは想像だにしていなかったのだろう……それは時雨もだが確実に山田先生は困っている。

 

「え、えっと……織斑君以外で、今の段階で分からないっていう人はどれくらい居ますか?」

 

恐る恐るといった感じで山田先生はクラス全体に向け分からない人に挙手を促すがやはり誰ひとりとして手を挙げない。むしろそれを聞いて窓際の席にいる栞と箒が笑うどころか頭を抱えているくらいである。

 

「時雨君は……どうですか?」

「いえ、大丈夫です。ええ……大丈夫ですとも……ええ」

「ああっ、時雨君の目が死んでるっ⁉︎帰って来てください時雨君‼︎」

 

一応たった2人しかいない男子の片割れである時雨もまさかそんな事はないかと聞いた山田先生だったが、あの魔の2週間をフラッシュバックさせてしまい目が死んでしまった時雨に大いに焦った山田先生だった。

 

「こほん……、織斑、入学前に渡された参考書は読んだか?」

 

と、そこにそんな空気を破壊すべく教室の後ろから生徒を見守ってきた千冬が一夏にまさかとは思いつつもそんな質問を投げ掛けた。表紙にガッツリデカデカと『必読』書かれていた上にあの分厚さ、無くしたとは考えられないが不安になったのかごく僅かだが声が震えている。それに対し答えた一夏はと言うと、

 

「3周目くらいやってたらコーヒーをぶっかけて汚して古い電話帳と間違えて揃って資源ゴミに出しました……」

 

ヒュッ────バシィィインッ

 

なんともまあ言えない理由に教室中が「え……」となるが、投げナイフの要領で一夏に向け投擲された出席簿を時雨がギリギリで白刃取りする。どこの誰だ千冬さんに鉄甲作用のやり方教えた奴は!……俺だわ。多分直撃していたら一夏が頭から机の向こう側にひっくり返るか電子黒板まで吹っ飛ばされる事になっただろうし下手すれば山田先生にも被害がいきそうだったので今回は時雨は全力で介入する事にした。

「千ふっ……織斑先生……正座」

「なっ、つ……時雨⁈」

「正座」

「いやだがここは教室で……」

「せ、い、ざ」

「……はい」

 

出席簿片手にニコリと笑った時雨が立ち上がりそう言う。あまりの威圧感に教室中がシーンと静かになっていた。

 

「体罰禁止、良いよね?」

「はい……」

 

久しぶりにキレたので千冬は大人しく時雨の言う事に従った。いやそもそも体罰は厳禁なので当たり前の事なんだが……ってそこ、「スゲー」とか言ってない。正論だから!

 

「こほん……うん、あれだ。必読と書いてあっただろうが馬鹿者」

 

正座から立ち上がった千冬は何事もなかったかのように(実際はなかったことにはできないのだが)先程の続きを再開する。若干声に元気がないのは気にしてはいけない。そう、気にしちゃいけないんだ!

 

「無い物は仕方ないから再発行の手続きはしてやるから1週間以内に覚えろ。いいな?」

「い、いや、1週間であの分厚さはちょっと……」

「やれ、それに私はアレを2週間でほとんど知らない状態からマスターした奴を知っている」

「……はい。やります」

 

反論しようとした一夏だが千冬の圧倒的目力と先例(時雨の実体験)で封殺された。正論だもんねぇ……死ぬ気でやれば、人間なんとかなるさ……多分、maybe……。

 

「IS単体はその機動性、攻撃力、制圧力と数多くの兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解が出来なくても先ずは覚えろ、そして守れ。残念だが規則や法律(ルール)とはそういうものだ」

 

日常に便利な包丁やハサミだって使い方を間違えたり知らなければ凶器になる、逆説的に言えば銃や核だって兵器にはならないのだ。その最もたる例となるのは通り魔殺人や原子力発電所といった感じだろう。

 

「ふむ、御前達やはり『自分は望んでここにいる訳ではない』と思っているな?残念だが望む望まざるに関わらず、人は集団の中でしか生きられない生きなくてはならない。そういう風に社会はできているしこれからもずっと社会とはそうだろう、だが最低限でもここでそんな社会を渡っていくだけの知識を得られたならば少しくらいはより良い生き方くらいは見つけられる筈だ。だから真面目に授業は受ける事だ」

 

千冬は少しだけ微笑みながらそう話を締め括る。格好良く締めたのは締めたのだが突然響いた「ズコッ」という音に全員の視線が黒板前に向く。意識を向けると、何故か山田先生が何もないところでまたこけていた。

 

「うー、あ痛たたた……」

 

大丈夫なのかな?この副担任……(大丈夫なのか?この後輩……)

 

おそらく、これが生徒先生関係無くクラス中の思いが一致した奇跡の瞬間だと思う。

 

 

◆◇◆

 

 

3時限目休み時間

 

「おうっふ……時雨ぇ……助けて下さい」

「まあ……自業自得だな、学校に連絡すれば再発行くらいはしてくれただろうに……それにコーヒーぶっかけて電話帳と間違えて捨てるとか……コントか」

「げふっ……面目次第もございません……」

 

漫画なら背後に「どよーん」と文字が付きそうなくらい落ち込む一夏の姿に時雨は苦笑いを零す。言っといてなんだが罪悪感が湧いてきたしこういう素直な所は昔から変わらないらしい。

 

「まあ俺は大丈夫だから俺の参考書を貸しとくよ、新しい参考書が届くまでだけど」

「おおっ、時雨よ!お前が神か!それとも救世主(メシア)か!」

「いや、一般人だよ」

 

普通に話をしているつもりだったがなんだか2人で漫才をやってる気分にいつの間にかなってきた事に時雨は笑えばいいのか突っ込めばいいのか分からなくなってきていた。

 

「ちょっとよろしくて?」

「ん?」

「はい」

 

そんなコントみたいな事をしていた時雨と一夏に話し掛けて来たのは少しロールが掛かった鮮やかな金髪と透き通った(ブルー)の瞳を持ち、ただ立っているだけでもどこからか高貴な気品を感じる、そんな雰囲気を持つ海外からの留学生だった。

 

「まあ!なんですの、そのお返事。(わたくし)に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

……訂正、『高貴な気品』じゃない『高貴な気品(笑)』だ。

 

「悪いんだが織斑先生(千冬姉)の目のまん前で自己紹介2回目をやった所為でその後は気を抜いていてよく聞いていなかった。済まん」

「俺はそもそも自己紹介の時にいなかったんだが……何の用ですかセシリア・オルコット嬢」

「まあ、なんですかその理由は!この私セシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を侮辱するおつもりですか!まあそこの貴方はまあまあ礼儀がなっているようですが……」

 

オルコット嬢は一夏の思わぬ返しに度肝を抜かれたのか驚愕したような顔をしているが時雨も実はここに来る前にサッと名前と写真、軽く詳細の書かれた名簿に目を通した程度のうろ覚えに近かった為合っているのか不安だったのだが運良く正解だったらしい。ホッと影で胸を撫で下ろしたのは内緒である。

 

「ま、まあ良いですわ。どうやらお困りのご様子なので私は寛大なので泣いて頼むのであれば貴方達に勉強を教えて差し上げても構いませんわよ?何せ私は唯一入試で教官を倒しましたもの」

 

えっへんと自信満々に胸を張る彼女だがそこに一夏が大型爆弾を投下する事で一気にその自信満々な表情は崩れた。

 

「教官役の先生なら俺も倒したぞ?……いやアレは倒したにカウントされるかは微妙かも知れんないが」

「貴方も教官を⁈ですが担当の方には私だけと聞きましたが⁉︎」

「多分タイミングが悪かったんだろ?俺がやる前に聞いてたんなら知らないのが当たり前だし」

 

一夏のフォローになってない正論のフォローがオルコット嬢に入るが多分彼女は気が動転していてフォローが耳に入ってない。あ、多分この人見てるだけだったらマジで面白い人だ…………巻き込まれたらサイクロンレベルで面倒くさいけど。

 

「ま、まさかとは思いますが貴方も教官を倒したりとかは……」

「いや、そもそも俺はその試験受けてないんだ。試験を受ける間も無くここに叩き込まれたから搭乗時間も起動時と軽い動作チェックの2時間位しか乗ってないし」

「ほっ……、そうですの。ってそれでよく先程の授業付いて来れましたね……」

「はははははは……、頑張ったんだよ……そう頑張ったんだ2週間しかなかったけど……」

「「あっ、(察し)…………」」

 

ついさっき織斑先生が「2週間でほとんど知らない状態からマスターした奴を知っている」と言っていた相手が誰か察しが付いた2人は全く同じ反応をする。

 

キーン コーン カーン コーン……

 

とそんな中虚しくもチャイムの音が鳴り響く。

 

「……ま、また後で来ますわ。次も逃げないで下さいまし、よくって?」

「え、あ、うん」

「ははは……」

 

何ともまあ……締まらない休み時間の終わりだった……。




多分数多いる作者の作品の中で唯一ちっふーに正座させた話だと思う……。でも仕方ないよね、ちっふー人間に鉄甲作用を使って凶器(出席簿)投擲したんだもん。仕方ない……よね?
高貴な気品が高貴な気品(笑)になり更に何処か残念臭の漂ってしまったセシリア・オルコット……済みませんなんか。


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