サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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こちらの手違いで連投をしていました。済みませんでした。


初日の授業

〈25〉

 

 

「……でありまして、世間一般に認識されている『IS理論』、正式名称『宇宙空間用マルチフォーム・スーツ基礎理論』は2007年6月21日に初めてIS開発者『篠ノ之束』博士により発表されました。しかし当時の学会は……」

 

白亜の教室に女性特有の少し高めの声が響く、電子黒板にスラスラと厚さ5㎝、文字の大きさ3㎜でぎっちりと書かれた参考書の文字の海から要点だけを掬い上げ更には分かりやすく噛み砕き纏められて写される文章を生徒達はノートに取る他の高校と変わらない、そんなごく普通の光景がそこに広がっていた。

 

そこに2時限目終了のチャイムの音が鳴る。

 

「はい、2時間目のIS基礎知識の授業はこれで終わりです。次の3時限目の授業もIS基礎知識ですから遅れないで下さいね!」

 

そう言って先程まで教鞭を取っていた山田先生は荷物を纏め1度職員室へと帰って行っ……あ、今何もない所で躓いた。大丈夫だろうかあれ?ふとそう思った時雨だがいい加減スルーできなくなってきた横と背後からの視線の弾幕に遂には時雨が折れた。因みに一夏の方は既に諦めて緊張にノックアウトされたのか机に突っ伏している。

 

うん、現実逃避辞めよう。無理だわ、悪意がないのは理解してるけど……ある意味針の筵の状態だな。

 

現在学校が始まって初の休み時間なのだが、教室が色々凄い。てかむしろヤバい。クラスメイト達(勿論全員女子)は時雨と一夏から距離を取り固まって此方の様子を伺っているし、更には互いに互いが牽制し合っている所為で誰ひとりとして話し掛けてこない。多分誰か1人がこの均衡を破って時雨か一夏に話し掛けて来なければずっとこのままであろうし、逆に話し掛けた瞬間にクラスメイト達は一斉に堰を切ったかの様に怒涛の勢いで話し掛けて(突撃して)来るだろう……。

そしてそんな猛者がなかなか出てこないが故に免罪符となる時雨か一夏から「話しかけて来て下さい」オーラが半端じゃ無い。え、廊下?他のクラスの女子諸君(上級者含む)で一杯だよ。

 

「…………なんでさ?」

 

今なら上野動物園の客寄せパンダの気持ちが理解できる気がする……。

 

「……なあ」

「……ん?なんですか?」

 

とその時突っ伏していた机からいつの間にか起き上がっていた一夏が時雨へと話し掛けた。

 

「不躾に悪いが……若宮 翼って人に心当たりはないか?」

「残念だけど……御免ね」

「そうか……いや、良いんだ。気にしないでくれ。俺は織斑 一夏(おりむら いちか)、さっきのゴタゴタにもあったけど織斑先生……千冬姉と姉弟(きょうだい)なんだ。まあこれからも新しい適合者が現れない限りこの女子校に2人しかいない訳だから仲良くしようぜ……むしろ仲良くして下さいお願いしますパンダ(見世物)はシンドイんです……」

「そ、そうか。天羽 時雨だ、パンダ(見世物)がシンドイのは同感だから仲良くしよう……女の園とかごく普通の一般男子には地獄でしかないし」

「ああっ、よろしく頼む!」

「うん、そうだな」

 

やっぱり時雨が『若宮 翼』と関係のある人物なのかを確認して来た一夏だったが時雨の反応を見て違うと判断したのか普通の挨拶に切り替える。……ただ挨拶だけでなく思いっ切り心の声までがダダ漏れだった事はご愛嬌だろう、実際にパンダは辛いししんどいのだ。多分ここで互いに交わした握手は3度の人生の中でも上位に匹敵する程硬いものだった、悲しい事に。

 

 

「握手!握手よ握手!しかもガッシリ硬いヤツ‼︎」

「なんとッ!これぞまさしく愛だ!」

「天羽君が攻め?それとも織斑君が攻め?どっち?」

「ぐふふ腐腐腐腐腐、ネタがぁっ、次巻のネタがここに!」

「よろしい、ならば戦争だ(作成開始だ)……因みに予算は20万からだ」

「「「マジで⁈」」」

 

 

「「…………」」

「ナニ、アレ……」

「これからは気を付けようか……パンダはパンダでも流石にアッチ系(腐ってる方)のパンダにはなりたくはない……」

「ああ……それには心の底から同感する」

 

何故かどんな学校(特に女子校や進学校で多い)でも一定数は存在してしまう腐女子がクラスメイトに居る現実に時雨と一夏が目が死んでいる状態で嘆いているといつの間にか2人の目の前には箒と栞の2人組が立っていた。

 

「……済まないが少しいいだろうか?」

「あ、箒と栞。2人共なんであの時助けてくれなかったんだよ……視線だけで物理的に穴が空いて死ぬかとも思ったぞ、俺が」

「アハハハ……御免、一夏。流石に私もあの空気に突撃する勇気はないよ……だよね箒……箒?」

「どうした?箒?ずっと時雨を見て」

「あ……、いや……なんでもない」

 

一夏と栞が話す中、箒は一言も言葉を発さずにずっと時雨の顔を見続けていた。それに気付いた一夏と栞は箒に話し掛ける。ふと我に帰った箒は慌てて返事を返した。

 

「箒……、そうだ一夏、屋上に行かない?話したい事も沢山あるしさ!ね?行こう?箒も、ね?」

「あ、ああ、ほら行こうぜ!箒」

「……ああ……、分かった……」

「悪いな時雨、また」

「うん、休み時間もあと5分と少ししかないから気を付けろよ」

「ああ」

 

未だ動きのぎこちない、どこか心ここにあらずと言った感じの箒を連れて一夏と栞は教室を去る。時雨はどうしてもあの3人に本当の名前を偽る自分に罪悪感を覚えるが今はまだ(・・)、打ち開けるべき時ではない。

 

「ゴメン……栞、一夏、箒」

 

きっとこの言葉(謝罪)は意味がないものだろう、相手に届かぬ謝罪などそれは謝罪ではなく『自己満足』なのだから。だがそれでも……決意としてならば……それには違った意味があるはずだ。

 

そう考えていた時雨だったが意識の外から声を掛けられ急いで意識をそちらに向ける。そこに居たのは茶髪のツーサイドアップの髪型で手の部分が隠れている変わった改造制服を着た、ほんわか垂れ目の女子生徒だった。

 

「ねえねえ、しぐしぐ〜」

「へ?しぐしぐ?」

「そうだよ〜時雨(しぐれ)の前2文字から取って『しぐしぐ』、私は布仏 本音(のほとけ ほんね)って言うんだ〜。しぐしぐをしぐしぐって呼んで良い?」

 

何だろう?こののほほんってした人、癒し系?癒し系なのか?知り合いには全くと言って言い程珍しいタイプの人だな。なんか心が安らぎます。

 

「え、あ、うん。大丈夫だよ。俺は何て呼べば良いの?」

「う〜んと、幼馴染は『本音』って呼ばれてるけど友達には『ののほんさん』って呼ばれてるから『ののほんさん』でよろしく〜」

「了解、のほほんさん。こちらこそよろしく」

 

あだ名の通り『のほほん』としたのほほんさんと軽く握手を交わす。そこで丁度3時限目始業のチャイムが鳴り響きのほほんさんは自分の席……時雨の席の左横へと帰っていった。案外近かったらしい。

 

 

……ところで一夏達、まだ帰ってこないのだろうか?始業のチャイムが鳴ってしまって山田先生と千冬さん……織斑先生が教室に入ってきてるんだけど……

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「箒、大丈夫?」

 

一夏と栞、そして私は生徒に一般開放されている屋上へとやって来ていた。元から休み時間になれば栞と一夏を誘って屋上で一夏が国に保護されていた間に起こった事を話そうと決めていたのだが、どうやらその予定は変更となったらしい。……他ならぬ自分の所為で、

 

「箒、やっぱり時雨君が気になる?翼兄とそっくりだから……」

 

ああ、やはり栞達にはバレていたか……

 

「……ああ、私に、私には天羽がどう見ても翼兄にしか見えないっ。だが本当に翼兄ならIS学園に入学なんてできないはずだ、それにわざわざ名前を変えて私達に秘密にして入学してくるはずなんてない筈なんだ……でも」

 

名前が違う

年齢が違う

魔力も感じない

何より眼の色が違う

 

記憶の中の翼兄との違いは沢山ある。だが、だがそれでも私には、私の勘は間違いなく『天羽 時雨』と言う少年はあの日から自分達の前から姿を消した誰よりも大切な人(若宮 翼)なのであると告げていた。

 

「だがそれでも私には……翼兄にしか見えない、翼兄なのだとしか思えない」

「箒、時雨は翼兄の事は知らないって言っていたんだ。って事は時雨は翼兄じゃない他人なんだ」

「でも……」

「時雨は翼兄じゃない、似てるだけだ……万が一時雨が嘘を言っていて本当は翼兄なのだどしても7年前と同じ姿なんてあり得ないだろ。時が止まった(・・・・・)とかそんなお伽話じゃあるまいし」

「確かにそうだね……翼兄は魔法なんてオカルトチックなものが使えたりするし束さんも凄い科学者だけど流石に不老不死みたいな事は絶対に出来ないって本人が言ってたもんね……」

 

栞はそう呟くがそれは間違いなく事実である。魔法や発明と言った便利でありながら数多もの危険な側面をも持つモノに対して翼兄も姉さんも言う事は全て真実を言っていた。何故ならそれは半端であり不確定な事実や認識は必ず何処かで破綻や失敗、大惨事を齎すからである。実際、現実に現在の発明の象徴とも言える『IS』は現在進行形で世界各地で大小に関わらず破綻や失敗、惨事を齎らしている。

そしてふと、そこで思い出したのは昔の出来事、大切な人がいなくなった日突然姉さんが自分の目の前で涙を零しながら「ごめんなさい、ごめんなさい箒ちゃん」と何度も何度も地面に手を付きながら謝り続けていたそんな出来事だった。あの時はソレを完全に理解する事が出来なかった、だから私は姉さんを拒絶してしまった。でもあの時の姉さんと同じ年になった今は、今だからこそ少しは理解できる。あの何度も何度も繰り返された「ごめんなさい」という言葉に込められた想いが。

 

「……姉さんも」

「箒?」

「姉さんも辛かったのかな……?」

「……」

「姉さん達は何も私達には教えてくれなかった。翼兄の妹である栞にも、姉さんの妹である私にも、千冬さんの弟である一夏にも……。だから私は憎かった、教えてくれなかった姉さんが、でも今なら分かる……あれは私達を思って私達には事実を伝えなかったんだって……そう思う」

 

3人の間にシリアスな空気が流れる、だがその空気を破ったのは一夏だった。

 

「あ、ヤベっ。2時限目のチャイムが鳴るまであと2分しかない!」

「お先にっ!」

「あっ、ずるい!待てよ栞置いてくなよ!」

「嫌だよ、千冬さんの出席簿(体罰)絶対に痛そうだもん」

「痛かったわっ!俺実際に受けたし!箒も急げよ!千冬姉の出席簿はマジで痛いぞ!」

「あ、ああ、分かってる。走れ走れ!」

 

あの魔の出席簿(非殺傷宝具)とそれを構える織斑先生(英雄王)を思い浮かべ、遅刻したら絶対に食らう事になる事を直感で理解した私達は全力で教室に向かい走り出す。そんなこんなで全く休めなかった休み時間が終わった。

 

 

……因みに遅れた私達に千冬さん(英雄王)、もとい織斑先生が軽く出席簿アタック(私命名)を落としたのは完璧な余談である……多分。

 

 

 




女の子の勘は凄く鋭いですね……
あと主人公、違うって明言してないんですよね。流石今作最長老(合計年齢120以上)、きたない。

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