〈23〉
若宮翼が7年振りに目覚めて数時間後、3人は秘密地下研究所から場所を変え篠ノ之神社にある『元』篠ノ之一家の暮らしていた家へと移動していた。
「叔母さん、神社と家の管理ありがとうございます」
「気にしないで束ちゃん、私達だって事情は理解しているわ。私達はこれから『外食に出る』けど……束ちゃん達の部屋は掃除だけしてそのままだからね」
「……お気遣いありがとうございます叔母さん」
現在束と箒の家族は出奔している束と若宮家に同居している箒を除き両親は国の『重要人物保護プログラム』と言う名の隔離が行われている。名前、経歴の全てを偽りバラバラの国内の地域に護衛と言う名の監視付きでの生活を強要される。当時幼かった箒がこの保護プログラムを逃れる事ができたのはただ単純に既に『更識』により直接裏から護衛の為されていた若宮家と近しい人物であり、まだ幼かった為である。またこれは一夏にも当て嵌まる。
で、この神社と家にいられなくなった篠ノ之一家の代わりに管理の為に篠ノ之両親から頼まれて引っ越して来た叔母夫婦が今はこの家に住んでいる。
「良いのよ、それにそれくらい出来ずして篠ノ之の女にはなれないのよ?」
「は、はあ……」
そう言いながらにこりと笑ってひとつウィンクを飛ばす自らの叔母に若干引きながら頷く束の様子を背後から見る翼と千冬は会話に入れずにただ黙って聞いている事しかできていない。いや、まあ面識がないのだから仕方ないのだが特に『今の姿』の翼はあまり見られたいものではないのだ。
「あら?そちらの『女』の方2人は誰かしら?」
「初めまして、IS学園で講師をしております織斑千冬と申します」
「は、初めまして……『天羽時雨』です。ハイ……」
黒のレディーススーツを着た女性の隣に立つ
…………もうお分かりだろう。このアリス服を着た少女、その正体は病院服の着替えがないのと身バレしない為に押し付けられた束の予備のアリス服を着て女装した若宮翼である。
「あらあら♪綺麗な肌ね、おばさん羨ましいわ」
「ア、ハイ。ソウデスカ?」
「ええ、それに片目だけ赤色の……オッドアイというのかしら?それも綺麗ね〜」
「ア、ハイ。ソウデスカ?」
「「…………」」
「それに……」
「こほんこほん」
死んだ目をしつつ片言に答え続ける翼の姿に耐えられなかったのか束はワザとらしく咳をつく、2人も中学生の時に女装させて案外似合ってたから悪ノリして今回もさせてみたのだが思いの外翼へのメンタルにクリティカルダメージを与えているようなので流石に駄目だと判断したのだ。……しかし後日またやらないとは言っていない。
「あら、もうこんな時間。主人との待ち合わせに遅れるわ、じゃあゆっくりしていってね。冷蔵庫の中は自由に使って良いから」
「はい、ありがとうございます」
こうしてやたら元気な束の叔母さんは外に出て行った。あとに残されたのは死んだ目をしたまま突っ立っている翼とそれを見て顔を僅かに引き攣らせた
「……取り敢えず食事の準備でもするか……インスタント有るかなぁ……」
「……取り敢えず着替え用意しとこう、うんそうしよう。……そうじゃなきゃつー君が多分ずっとこのままだし……」
取り敢えず翼が復旧するまで個々に動き出す2人だった。
◆◇◆
女性2人組説明中……
説明後、
「……取り敢えず、簡単にだけど現状は把握したよ。
篠ノ之道場に置いてあった道着と袴を着る事で漸く正気に戻った翼はズルズルと千冬が
「まあ……7年前からいきなりここに来たらそう思うだろうな、正直私達もそう思ってるし」
「女権団体とやらが煩いんだよ……こっちはさっさと宇宙行けって色んな企業急かしてて忙しいのにさ」
片や女性で世界最強を示した
「でもまあ、1番驚いたのは俺だけじゃなく一夏もISに乗れるって事なんだけど……結局理由って分かったの?」
「それがさっぱり、幾つか推論はあるけどまだどうとも言えないかな?今後稼働データを調べていけば何か分かるかもしれないけど……まあひとつ言うなら多分、いっくんもまたつー君と同じ様に
束は何処か意味有りげにそう言う、それを聞いた千冬は自分もカップラーメン(塩)を啜りながら彼女がずっと聞きたかった事を口に出した。
「ところで翼、なんでお前の右眼は
「あ、本当だ。確かに言われて漸く気付いたよ、ちーちゃんの魔力感知は凄いねぇ」
「はぁ……お前は浮かれ過ぎてるだけだ。普段ならお前だってすぐに気付く」
カップラーメン(味噌)をとっくの昔に食べ終えて塩おにぎりに手を伸ばしてもしゃもしゃも頬張っている束に千冬は少しため息を零しながらそう言う、彼女もまた手を伸ばしおにぎりを掴むと更に出そうになったため息ごと噛み砕いて飲み込んだ。
「うーん、多分1度に大量の魔力を使った障害かな?回路に大量に魔力を通した所為で閉じてた魔眼が開いたのかも……とはいえ開き方が開き方だったしで不安定な状態だから色も違う上に片目しか発現してないし任意で解除することもできないんだけど」
「魔眼?」
「うん、外界からの情報を得る為の物である眼球を、何らかの影響を受けて外界に働きかける事が出来るように作り変えられた物。それ自体が半ば独立した魔術回路で血筋に関係なく発現、適応できる特殊な魔術刻印に近いもの……かな」
翼は魔眼についての知識を2人に話す。魔眼自体先天的に発現するモノであるし、正直魔法を使う人間がこの世界には翼自身が使い方を教えた5人だけであるので発現する気もさせる気も無かったのだが、いきなり氷系統魔法最高峰の魔法を発動させ魔力を消費した所為か勝手に開いたようだ。いやだがしかし……あの時のあの感覚、何かおかしかった気がする……気の所為か?
「魔眼か……私にもあるのか?」
「あるんじゃないかな?特に千冬さんなら唐突にほんの少しの限定的な未来視、記憶にはない?」
「……あるな、魔法を習い始めてから元はもっとぼんやりと不確定だったがあの日からなんとなく少しだけ鮮明に見える気がする。これが直感かと思っていたが違ったのか?」
「多分ソレは【天眼】、かの剣豪宮本武蔵が持っていたとされる先見の魔眼の一種だね。具体的に一言で効果を言えば最適解たる未来の『確定』、もしくは『限定』。千冬さんの場合は『斬る』事に特化したのではなく全体的に発動するタイプだと思う」
「んじゃ私は?」
「ん……魅了?」
「………魅了」
「うん、
多分1番剣を合わす機会の多かった千冬の魔眼はそうに違いないのだが、何気に最近(7年前だが)あまり魔眼が発動しそうな機会に会っていなかった束については翼も殆ど分からない……そもそも持ってのかも分からない。
「そう言えば翼の魔眼とは一体どんなモノなのだ?」
「【
翼はラーメンを食べ切りおにぎりひとつを手に取ると半分程一口でかじり魔眼についての説明を締め括った。
「ふむ……なるほど。と、それよりもだ。翼はこれからどうする?私としては取り敢えずISが使えるし年齢的にもIS学園に入ってもらいたいところだが」
「そうだねー、事情を知ってる琴乃さんには
「だな、一夏の場合私や束の後ろ盾があったからなんとかなったが、実際に
千冬は翼が女権団体やマッドなサイエンティスト達に攫われる姿を思い浮かべるがすぐに正攻法でも裏からでも脱出してくる姿も思い浮かべてしまいため息を吐いた。多分どんな権力も翼を捕まえる事はできてもすぐ翼は脱走してくる、その辺は多分束より技術は上である。
「うむ、丁度良い場所か……」
「あ」
「あ?」
「丁度良いのかあるよ、ちょっと待ってて」
不意に何か妙案でも思い付いたのか束はとある人物へと電話を掛けた。
「もすもすひねもす?
「束、誰に電話してたんだ?」
「ん、知り合い。IS理論の論文を発表した時の学会で笑わなかったたった2人の内の1人」
「研究家か?お前が普通の対応をしているところを見ると信頼できる人物の様だが……」
「元研究者だね、何やら裏の顔もあるみたいだけど信頼はできるよ。一応私の『夢』の賛同者の1人だしね」
「そうか……なら安心だな」
束が信頼できるというなら間違いないだろうと千冬はそれ以上突っ込むのを止める。ちょっとその裏の顔があるみたいと言う所をもう少し突っ込みたかった翼であったが、そこからの段取りは早く特に翼が口を挟める隙間もなく束と千冬の2人だけであっと言う間に翼の偽造される戸籍の基本情報が完成していた。
「さて、これで準備はほぼ万端。あとは所属面接の合格通知を貰うだけだね」
「ああ、あとは翼……いや時雨自身の問題だ」
トントンと書類を纏めて量子化した束は隣で一緒に纏めていた千冬と共にニヤッと笑う。その笑みに翼の背に猛烈な寒気が走ったのはおそらく幻ではない。
「え、なんか嫌な予感が……」
束さんが指をパチンと鳴らすと食卓の上には大量の紙束がバサバサと落下して来た。パッと見たところ全てIS関連の書類であり中には無駄に達筆で書かれた束直筆のメモっぽい奴も混じっている……アレ?あの内容、アメリカの軍事機密じゃね?あ、こっちはロシア?ドイツもあるの?……えっ?一般人が見ちゃ駄目なやつだよねコレ?
「ともかく、これからはつー君は『
目の前に積まれた紙束の山……某黄色い電話帳にして厚さ3冊分位を前にして束はその豊満な胸を張りながら「ムフゥー」と息を吐き出しながら言い切り、しかも隣の千冬においては小声で「3日であの山登り切るか……うん、そうしよう」と呟く。ここで更に時雨の背に寒気が走ったのはきっと絶対に幻ではない絶対ない。
「
「ア、ハイ……」
……ここから2週間、束と千冬の一対一もしくは二対一の
この世界における魔眼の設定クラス分けです。
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【直死の魔眼】
【石化の邪眼】
【
【破魔の瞳】
【千里眼】
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【天眼】
【
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【石化の魔眼】
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【魅了の魔眼】
【掠取の魔眼】
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【未来視の魔眼・過去視の魔眼】
【
【感情視の魔眼】
【炎焼の魔眼】
【強制の魔眼】
【泡影の魔眼】
【静止の魔眼(仮称)】
【歪曲の魔眼】
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人工魔眼一般