サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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分割投稿後編連続投下です。


『白騎士事件』 交錯する白き対翼

〈16〉

 

 

その日人々は目にする

 

白き甲冑(機械鎧)を身に纏い、まるで天使の様にその翼を広げて降りかかる厄災(ミサイル)の雨を斬り払う1人の『騎士』の姿を

 

白き翼に太陽(日の丸)を背負い、幾つもの姿を使い分けその翼で空を翔けて厄災(ミサイル)を祓い続けた1人の『戦乙女』の姿を

 

戦場を駆け抜け多くの人々の命を救い、救えぬ事に嘆いた者達の絶望を希望に変えたその白き一対の翼は人々の目とその心にソラへの憧憬を焼き付けた。

 

これは『騎士』と『戦乙女』の英雄譚、この日(8月15日)から何年経とうとも決して色褪せる事の無い、世界を変えた1つの時代(物語)が産声を上げた、これはその始まり(序章)である。

 

 

◆◇◆

 

 

太平洋中央海域上空にて、たった1機の戦闘機がミサイルの雨の中を飛び回りただひたすらにミサイル達を破壊、叩き落としていた。

 

「……くそ、ミサイルの量が多い……」

 

翼は操縦桿を傾け機体下に付いている試作30㎜ガンポッドと両翼付け根にある20㎜機関砲をフルバーストで撃ちながらミサイルを撃墜しつつ『人型不明機(IS)』の居る空域を目指し飛ぶ。先にその機体がミサイルを迎撃している空域より遥か前方に割り込むようにして突入したのでまだまだミサイルが雨の様に貫いてくる危険空域を後退しつつ飛んでいるのだ。

 

「ぐっ、……大陸間弾道ミサイルじゃなく普通の大型か小型ミサイルが大半だから何とかなってるけど、これが多弾頭ミサイルや超小型(マイクロ)ミサイルだったらと考えたら………ぞっとしない……っな‼︎」

【前方より地対空ミサイル接近、数3、直撃コース】

「まだまだっ‼︎」

 

ガウォークに変形し減速急上昇、直撃コースだったミサイルを回避し手にする試作30㎜ガンポッドで破壊する。

 

「ぐううぅっ」

 

耐Gスーツなど着る暇もなくジーパンとシャツ(私服)のまま飛び出して来た為身体強化魔法をかけておいても身体にはかなり強いGが負荷として掛かる。腹の中がぐちゃぐちゃになったかの様で胃の中が気持ち悪い。だがそれでも立ち止まらない、立ち止まっている暇など無い。

 

「うおおおぉぉおおーーっ‼︎」

 

掛かる負荷(G)など無視してガウォークからファイターに変形し機関砲を撃ちながら出力最大で大気とミサイルの雨を突き抜ける。

 

「はあ、はあ、はあ……ぐっ」

 

ミサイルを回避する為に降下し海面ギリギリ数十㎝上を飛び回避した後に機首を急に持ち上げる。無茶な機動の所為で機体の各所にエラーが出るが一瞥すらせずに操縦桿を引いた。ミサイルの雨の中を上空向けて突っ切る、その先にあるのは遥か上空にて白線を引きながら飛翔する核の搭載されたミサイルその数24本。

 

「いっ、けぇぇぇええええっっつ‼︎」

【ミサイル誘導開始、4発分の爆破で24纏めて破壊します。着弾まで6秒、退避行動を】

 

主翼に懸架されていた4発の空対空誘導(新型)ミサイルが放たれ一直線に核ミサイルの雨に飛び込んで行く。退避行動に入った次の瞬間ミサイルは命中、起爆し反応前だった幾つもの核を破壊し天に巨大な炎の花を咲かせた。

 

【今の攻撃でこれまで発射された核搭載兵器の7割の破壊に成功、残り3割はたった今未確認機の持つレーザーに撃ち抜かれ反応が消失しました】

「なら……はぁ、後は……はぁ、普通のミサイルを!」

 

休む間も無く機体を反転させ既に通り過ぎた幾つかのミサイルを背後から追撃する。そして辿り着いたその先では時にブレードで斬り裂き、時に光学兵器(ビームガン)で狙撃する純白の不明機の姿があった。ただ少々余力が無いようで、動きにキレが余り無い。あのままでは危険だ。

 

「援護する。これでっ、終わりだっ!」

 

操縦桿を倒し降下、バトロイドに変形し不明機と背中を合わせるようにガンポッドと機関砲を構えて撃ちまくる。20㎜と30㎜の弾丸と不明機のビーム光線が通り過ぎようとしたミサイルを全て叩き落とす。この際銃身が焼け焦げても構わない、残りは僅か、ここで全て叩き落とす‼︎

 

【残りミサイル357、あと5分耐えて下さい】

「いけぇぇぇぇえっ‼︎」

 

長い世界で1番長く、最も沢山の生命が賭かった最後の5分間の迎撃が始まった。

 

 

◆◇◆

 

 

中国、北朝鮮、韓国、露国、米国、豪州、太平洋、北極海にて発射されたミサイルの数は総数約4.000、影にて1人の天災の尽力にて遅延、迎撃精度向上の援護を受けたそれらはその内日本首都東京への直撃コースで予想されていたミサイルの数は領海領土内で自衛隊に撃墜された2.000を除く約2.000発。その内の561発は雪風に乗る翼に撃墜され残りの約1439発はミサイル発射及び到着予想からほぼ同時刻に出現した謎のヒト型兵器により全て残らず日本本土沿岸までに駆逐された。

 

 

そして……、

 

 

全てのミサイルを落とし終えた後、雪風と白い人型機は向かい合うかの様にして太平洋上の空に滞空していた。

 

「…………」「…………」

 

ガウォークのまま翼はただ向かい合い続けるが両者共に互いに無言、どちらも何も言わず何も言えず、ただ互いに(翼と千冬は)向き合い見つめ合う事しか出来なかった。

 

「……千冬さん」「……翼」

 

ただ唯一言えたのは集音器(マイク)にすら拾えないくらい小さな声で互いに相手の名を呟く事のみ。

だが時は、世界は2人を待ってはくれない。2人の索敵(レーダー)範囲内に幾つもの接近する物体(unknown)が光点として出現する。おそらく航空自衛隊の戦闘機かもしくは米軍の戦闘機の緊急発進(スクランブル)したものだろう。方角から推定して4機の内片方の2機は日本から、もう2機……あ、今倍に増えて16機だ。あれ?倍じゃなくて3乗じゃね?とにかくその16機は太平洋上から来ている。雪風のしてくれたデータ照合から日本からの機体がF-15J改、洋上からの機体はF-35B、間違いない空自と米海軍の機体である。

 

「……まずいな、このままじゃ不明機(千冬さん)空自(日本)米海軍機(アメリカ)を相手に戦う事になる。でもそんな事したら不明機だって保たない筈だ、……しかしだからと言って今俺が彼女を見逃す訳にもいかない。一体どうすれば……」

 

最初に『不明機(千冬さん)』に接触したのが自分であると少なくとも日本、自衛隊には知らされている。それに今ここで互いに睨み合っている事も、ならば今ここで万が一彼女と相手もせずに逃げられでもすれば一体どうなるか、理解していない訳ではない。ただでさえ自分は命令無視でここまで飛び出してきた身だ、それもそれを母や研究所の皆んなに庇って貰った上でのである。それでありながらなんの成果もなく、寧ろ見逃す事などすればこの先母達にどれだけ迷惑が掛かるのか翼でも見当もつかない。

 

【……マスター、私は『不明機』への攻撃を提案します。貴方が全て負い目を背負う必要はありません。私は貴方を支えるモノであり共に歩むモノ……だから貴方だけに(後悔)を押し付けたくない】

 

雪風がそう画面に綴るのを見て翼はより惨めな気持ちになる、相棒にそんな事を言わせてしまった自分はどれだけ情けないのか。あの日、もう『後悔だけはしない』ようにと決めたというのに。

 

「くそっ…………ごめん、千冬さん。俺は、俺は……」

 

……そして悩んだ末に翼は千冬でなく自分(他人)を取った。

 

「こちら日本国航空自衛隊次世代型先進技術実証機試験団所属ASF.C.F–X00/YF-0です。貴女の行動に我々が守るべき国民の生命を守って頂いた事、深く感謝します。

しかしここは日本国領空内であり日本の法が適用されます。よって貴女の使用している機体は刑法に抵触しており同時に未確認機である貴女は領空侵犯をしています。多大なる恩人に対し誠に心苦しいですが武装を収め投降して下さい。応じて頂けるならば身柄の安全は保障します」

 

翼は対象を相手だけに絞る接触回線ではなく広域に無差別に発信する国際救難回線(オープンチャンネル)にてそう宣言する。多分、絶対に彼女はこれに応じない。だがこうして先に手を打っ(宣言し)ておく事で彼女が動かない限りF-15J改とF-35Bは手を出せない、つまりこれが本当の意味で牽制している相手は目の前の不明機ではなくここに近付きつつある空自と米海軍の機体に対してである。

 

「…………」

 

返答無し、ある意味想定通りであるがF-15J改とF-35Bが雪風と不明機の目視できる距離まで近付いたその時、そこで事態が急変する。突如雪風の(・・・)操縦席にロックオンアラームが鳴り響いたのだ。

 

【米海軍機、本機に向けロックオン、ミサイル発射、総数4、回避を】

「くっ、駄目だ間に合わない……ぐぁっ⁈」

 

着弾、爆発。ミサイルは雪風右後方に着弾しその衝撃は雪風を、操縦席に乗る翼を揺さぶる。だが雪風は墜ちては(・・・・)いなかった。

 

「!、千冬さん……貴女という人は……」

 

翼が見た先に居たのはついさっきまで雪風と向かい合っていたはずの不明機だった、そしてその手には一丁の銃が握られており僅かにだがその銃口からは銃身加熱による白煙のような物が立ち昇っている。彼女は1度量子化していたビームガンを瞬時に取り出し4発ものミサイルを一瞬の内に全てを撃ち抜いていたのだ。

 

「……やってくれたな米軍め、翼の牽制すら無視して動きを見せる前に奇襲とは。何が「真珠湾を忘れるな(リメンバーパールハーバー)」だ、しかも一番近くに居た翼を連れ去る目撃者となる可能性があるからと排除しようと動くとは、舐められたものだなそこまでして私を連れ去りたいか……」

 

フルスキンフルフェイス(全身装甲)型のISの中でそう呟いた千冬はひとつため息を零す。その口調とは裏腹に珍しく千冬は…………キレていた。

 

「だがそう簡単に私をいいように扱えるとは思うなよ?私の大切な者に手を出したんだ、取り敢えず海に頭から飛び込んで頭を冷やして来い」

 

一閃、米軍最新鋭機であるF-35Bの主翼や尾翼を瞬く間に千冬はブレードやレーザーで両断、もしくは貫通させ脱出させた上で海面に墜落させていく。流石に無闇矢鱈と命を奪う程キレてはいないようだが容赦が無い、それを見てヤバイと感じたのかすぐそこまで来ていた筈のF-15J改は1度空域を離脱していた。

 

「F-35B16機を瞬殺って……これは千冬さんが凄いのか?それともF-35Bが弱いのかどっちだ……?」

 

多分千冬さんが強過ぎるだけです、ハイ

 

しかしこれからどうすべきか……戦うべきなのだろうがイマイチその気にはなれないし助けて貰った手前こちらから仕掛けるのもどうかと考えられる。そして翼のそんな悩みに気付いたのか不明機(千冬)はその手にブレードを静かに構えた。

 

『今後禍根を残さぬ為にも今ここで1度勝負を付ける』

 

言外に彼女から伝えられたその意味に、翼はガウォークが持つガンポッドの銃口を相手に向ける事で答える。

 

互いに間合いをとる

 

戦闘用意

 

(残弾は機銃(20㎜)が241発、ガンポッド(30㎜)が76発、空対空誘導ミサイルは使い切った)

(超振動ブレードの振動率は45%、レーザーガンの銃身は冷却中の上にエネルギー残量も先程の戦闘で尽きた)

 

武装良し

 

(機体は色々と無理な機動をとった所為で損傷は酷い)

(やはり機体が私の反応に完全に対応出来ずズレが酷くなってきている)

 

気合い良し

 

(燃料の残量からしてもう余り長くは飛んではいられない)

(リミッターを途中で解除してしまったから戦闘動作(バトル・スタンス)をとれるのもあと僅か)

 

覚悟良し

 

(なら)

(ならば)

 

目標固定(構え)

 

「「最短でケリを付ける!」」

 

翼も千冬も互いにスラスタを全開にし相手目掛けて一気に間合いを詰める。ガウォークの右手に持ったガンポッドの銃口が標準に合わさり、白き騎士の持つブレードが脇構えで構えられる。

 

発砲、一閃

 

互いにそのままの勢いで通り抜ける(残心する)

 

「……くっ」

「ふっ……私が考えていた以上の腕だな……翼」

 

海に落ちてゆく赤い両断された太陽(日の丸)の描かれていた白い翼と火花を散らし黒煙を上げる白いメインスラスタがその空を彩った。

 

『ちーちゃん!』

「問題無い、このまま海に落ちて(着水し)て姿を隠す。おそらくこのままでも無事に帰れるだろうが一応迎えは頼む」

『了解、手配しとくね』

 

そのまま海に消えた千冬の姿を視界の端に収め翼は雪風の主翼が半ばで無くなった事で不安定になったガウォークのバランスを整える。彼女が海に逃げたという事はおそらく逃げ切られるだろう、元から彼女を捕まえる気も捕まえさせる気も毛頭無かったが、これは勝負には引き分けて戦いには翼は負けたという事だろう。

 

【不明機反応ロスト、索敵範囲外に離脱されました。マスター】

『ようやく繋がった……こちら研究所司令室、……翼』

「……右主翼が欠落していますがガウォークの飛行なら支障ありません。帰投します」

『了解、……気を付けて』

【お疲れ様ですマスター、ですが着陸するまで気を抜かないようご注意を】

 

ASF.C.F–X00/YF-0は機首を日本に向けその空域を飛び去って行く。

 

後日、翼の無断出撃の件は当時責任者であり保護者でもあった若宮琴乃所長の1年間減俸並びに次の可変戦闘機VF-1の開発チーム主任を担当する事、そして問題の翼に対しては下手に処分を下すと存在が露呈してしまう上ただでさえ太平洋上で米海軍機のいる前で自衛隊の所属であると宣言してしまった為に万が一にも存在が公表されれば少年兵にも見えなくはなく国際的批判を受ける事にもなりかねない為自衛隊幕僚本部は書類上のテストパイロットとしての情報を抹消、隠蔽し更識までもを動員し完璧な情報統制を敷いた。それによりテストパイロットの翼という存在は書類上自衛隊には存在しなくなってしまった為になかった事は罰せないという事態が発生、更に米海軍でさえ一瞬で落とされた不明機に善戦し引き分けたという功績(これから配備される可変戦闘機の売り込み)もあった為帳消し、だが何もしない訳にもいかないので将来自衛隊に入隊する事が義務付けらる事でこの一件は闇に葬られる事となった。ただこれはあくまで表の世界での話、裏の世界では未だ完全には葬られてはいなかった。

 

 

◆◇◆

 

 

世界の何処か、誰もが知っている場所であり、誰ひとり知らない場所にあるその一室。暗闇に包まれた円卓には幾つかのマイクとカメラ、そしてその背後に置かれたナニカしか存在しない席には人の気配が何ひとつしない、そんな部屋でひとつのスポットライトが灯った。

 

『……此度の件、実行したのは誰だ』

 

言葉が発せられたそこに映し出されたのは青い旗、青の布地に白い地球儀の模様が描かれた1枚の旗である。

 

『左様、今回の件、我々の計画には無かった(・・・・)ものだ』

 

もうひとつ光が灯る、その下にあったのは1枚の向日葵の絵、紺の下地の上に5輪の向日葵の花が描かれた1枚の絵画である。

そしてその『向日葵』(会計部門の幹部の1人)が言うにはその日起こった事件、後の世では『白騎士事件』とも呼ばれる事となる世界にあのアメリカ同時多発テロを超える影響と衝撃(ショック)を与えたこの事件は、この謎の組織が本来計画していなかった(起こる事のなかった)筈の出来事らしい。

 

『だが予想は付く、あれ程の事(各国軍事施設へのハッキング)を可能とするだけのチカラを保有する部門は少ない。なあ?情報部門、工作部門?』

『私は知らんぞ、会計部門。1番怪しいのは情報部門ではないかね?』

 

更に2つ灯ったライトの下に現れたのは今は亡きとある帝国皇族の紋章の刻まれた金の延べ棒の山とつい最近死んだ(暗殺された)とある独裁国家の長男の写真だった。

そして『写真』(工作部門の幹部の1人)に槍玉に挙げられた情報部門はと言うとその矛先をまるで気にも留めずに口を開いた。

 

『さて、なんの事か分かりかねますね?』

『ええ、分かりませんね』

『いけいけしゃあしゃあとまぁ……、しらばっくれるつもりかね情報部門?』

 

そしてまた灯った下にあったのは50個の星が描かれたとある国の軍事機密の記された紙束と『代理』と書かれた1つのネームプレートだった。どちらも情報部門の幹部なのであるがその内の1人が開発部門の幹部を兼任する事となっている為今その席には代理という名の次期幹部候補がその席に着いている。

 

『しらばっくれるも何も、私は何も手を出してはいませんよ?ねえ?』

『私もです、それに私はあくまで情報部門幹部『代理』ですのでそこまでの権限はありません』

『どうだか……、口ではなんとでも言える』

『確かに』

『…………』

『…………』

 

『ともかく、今後の方針だけは決めて置くべきだと私は思うのだけれど?』

 

そして険悪となりかけたその場の空気に割り込んだのは1人の女性の声、今まで沈黙に徹していたとある国の違法研究所の壊滅報告書(実行部門幹部の1人)だった。

そしてその声に1番最初に声を出した『青い旗(纏め役)』は厳かに同意する。それによりその場の空気は一気に引き締められた空気となった。

 

『ふむ……、確かに実行部門の言う通りだな。では今後我々はあの『翼』達を生み出した『天災』篠ノ之 束と『天才』若宮 琴乃の身柄を確保する事を目的とする。尚同レベルの優先事項として今噂のASF.C.F–X00/YF-0のパイロット、その情報の収集もまた並行して行うとする。異論は?』

 

『無い』

『無いな』

『無かろう』

『無し』

『無いぞ』

『無いわ』

 

『では本会議を終了する、全ては我らが悲願の為に』

 

そこでスポットライト(照明)が全て落ち、その場はまた暗闇の中に還る。各々がそれぞれの思惑で動き、蠢き、誰にも悟られぬまま闇から闇へ移っていく。先代より受け継いだ彼らしか知りえぬ組織の悲願の為、そして隙さえあれば相手の喉笛を噛み千切りその頂点に君臨する(自らの欲を叶える)為に。

 

 

◆◇◆

 

 

白騎士事件以降、世界ではISの『女性にしか乗れない』という余りに大きな特性(欠陥)により世界各地では都心部などを中心に女尊男卑の考えに染まり、ありとあらゆる場所から男達は駆逐されていった。しかしそれでも男達は諦めなかった、腐る事はなかった、決して誇りを失う事はなかった。何故ならば彼らは皆とある『映像』と『事実』を知っていたからだ。

 

とある軍人は言う。

 

「あの時、あの空に、あの翼が存在しなければ今自分はここに居ない。あの翼があったからこそ今自分達は諦めずに前を向けるのだから」

 

僅か467個しかないISコアによる空白を埋めるために配備されたのはISと同じ極東の島国(日本)で産まれたISとは異なる翼、可変戦闘機、通称『ヴァルキリー』。その雛型たるASF.C.F–X00/YF-0(初代雪風)は、そのパイロットはあの『始まりの』IS、『白騎士』と互角に渡り合ったのだから。確かにそのパイロットの名は公表されていない、だが公式発表でそのパイロットは男性だった事が判明していた。

 

ならば腐っている場合ではない、腐っていてはいけない。彼はその身を持って誰よりも早く今、近頃囁かれる『IS神話』を否定して見せた。ならばそれと同じ翼を持つ自分達がソレを否定できない訳がない、否定しなければならない。

 

ISが女にしか使えない?

 

大いに結構、なら我々はISとは違う翼でその隣に立とう。かつて私達の絶望を希望に変えた、あの『戦乙女』の様に。今度は私達が『戦乙女』と共に、

 

では何故私達がそうまでして空を飛ぼうとするのか?

 

自分達よりも前に出て来た女性に対する嫌悪か、今まで空を飛んでいた者としての意地か、それとも女性ばかりを戦いに出す事からきた無力感からの矜持なのか。確かにそれもある。だが敢えて言おう。

 

そんな事決まっている。ただ『飛ばずにはいられなかった』からだ。

 

白騎士(IS)』と『戦乙女(ヴァルキリー)』にソラへの憧憬を焼き付けられた者達はそう答える。

 

 

今、世界の空には今尚続く彼らの英雄譚が綴られ続けていた。

 


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