サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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今回は長めです。最近授業参観があったので書きたくなった。


ミッション:インポッシブル 授業参観に潜入せよ

〈14〉

 

飛行試験から少しして5月の中旬頃、若宮宅(織斑姉弟は半同棲中)と篠ノ之宅ではそれぞれ1年生である栞と一夏、箒の3人がそれぞれ食卓にて食事中にとある事の書かれた1枚のプリント(お知らせ)を渡していた。それは、

 

「「授業参観のお知らせ?」」

 

そう、授業参観のお知らせである。ちなみに授業参観とは学校の授業の一環であり教育規約に定められた真当な学校行事のひとつである。なので平日じゃなく休日に行われても生徒は文句を言ってはいけないのである、なんたって学校行事ですから。

そして栞達の通う小学校では運が良いのか別にそんな事関係ないのかよく分からないが授業参観は来週の金曜日にあるようだった。

そして若宮宅では食卓を囲う琴乃、総司、翼、千冬、栞、一夏の栞が琴乃に、一夏が千冬に渡し、同時刻篠ノ之宅では箒が篠ノ之父に渡していた。

 

「うん、そう。来週の金曜日の5時間目にあるんだ」

「だから良かったら琴乃さん達に見に来て貰いたくて」

 

栞が切り出し一夏が琴乃と珍しくいる(ここに来て初登場)総司に授業参観に来てくれるよう誘うが2人の顔はあまり芳しくはない。

 

「ごめんなさい、この日はF-XでのVF-1の採用前最後のプレゼンがあるの。総司君は?」

「済まないが高2の数学の授業中だ、抜けるにしても放課後に外せない会議があってすぐにとんぼ返りする事になる」

 

なんとも運の悪い事か、2人共しっかりと仕事が入ってしまっていた。

 

「駄目……みたいね、ごめんね2人共。今回の授業参観見に行けないの。次こそは見に行けるようにするから」

「うん、……仕事なら仕方ないね」

「だね……無理言ってごめんなさい、琴乃さん、総司さん……」

 

しゅんと落ち込んでしまった栞と一夏を元気付けようと向かいに座っていた琴乃は2人の頭を撫でる。

 

「貴方達は悪くないわ……、ごめんね。次こそ必ず行くから」

「「うん」」

 

目の前でのやりとりを見ていた翼と千冬は考える。勿論このシスコン(ブラコン)2人の考える事は同じ事、それは、

 

どうやって授業参観を見に行こうか?

 

である。晩御飯の御菜であり翼と千冬(自分達)が下準備し揚げて作った唐揚げをぱくりと口に放り込みながら2人は考える。とそこでふと同じ事を考えているであろう2人は互いに見合わせる。

 

『一緒に作戦考える?』

『無論だ、この後翼の部屋で話し合うぞ』

『了解』

 

僅か数瞬の目配せだけでそこまでやりとりを交わすと小さく頷き合い2人は本格的に食事を再開する。そのスピードは心なしか先程より下品にならない程度に早く良く見ていた者にしか分らないレベルだ。そしてそれを真正面から見ていた総司はそんな内容を伝え合っていた事も露知らず、教師としては止めた方が良いのだがそれに気付けずに仲が良いのは良い事だと勝手に解釈して千冬が作った少ししょっぱめの(塩辛い)味噌汁を啜っていたのだった。

 

 

◆◇◆

 

 

「それではこれより第1回『栞や一夏、箒の授業参観潜入作戦(ミッション)』の作戦会議を始めます。千冬参謀、意見は?」

 

で夕食後、先程のアイコンタクト通り2人は翼の部屋にて作戦会議(話し合い)を開いていた。

 

「さ、参謀?……まあ良いか、取り敢えず先ずは来週の時間割は分かるか?」

「確か……いつも通りで5時間目の数学は先生の出張で自習か時間割入れ替えだった筈だよ」

「何?それなら是非とも自習であって欲しいものだが……」

「でもあくまで予定だからね、どうなるかはまだはっきりと確定してないから過信するのは良くないかな?」

「その通りだ……翼軍曹」

「翼軍曹であります!……って俺軍曹なの?」

 

翼は思いの外階級が低かった事に突っ込むが気を取り直して今度はどうやって潜入するかの話へと変わる。

 

「『認識阻害』と『身体強化』、あと『風』魔法を併用して学校から小学校まで一直線に屋根を走れば授業参観開始ギリギリには間に合うと思うよ」

「ふむ、しかし……束はどうする?アイツを放置して(放って)おいたら後々面倒だぞ?それ以前に絶対に気付く(何処からともなく察知してくる)だろう」

「……いっそ巻き込もう(拉致ろう)か、多分それが後々も平和に進みそうだし」

「否定できない点が悔しい上にアイツ別の意味で信頼されてるな……」

「あははは……分からなくもないよね?」

「ああ……」

 

2人の話し合いはその後も続く、それは琴乃がどちらかが先にお風呂に入るよう呼びに来るまで続いた。

 

 

◆◇◆

 

 

翌週の金曜日、授業参観当日、保護者()達が教室の後ろに集まり静かに見学し、教室がいつもとは少し違う雰囲気を漂わせる中、同じクラスにいる栞と一夏の気持ちはやや沈んでいた。その理由は先週の話の通り、2人には親や親しい人が見にこれていないからである。

 

「それでは授業を始めます」

 

始業のチャイムが鳴り、教師が前で授業を進めるが2人の顔は少し暗い、心なしか少し俯き気味でもあった。

 

ガラガラガラ

 

と、始業から10分程遅れて教室の扉が開かれる音がする。2人は「今度は誰の親が来たのだろうか」と思い自分達には誰も居ない事に少し寂しく思ったその時、

 

「ちょっと済みません……」

「済みません、通して下さい」

 

そうその時、2人は聞えない筈の2つの声に思わず背後を振りかえってしまった。

 

お兄ちゃん(翼兄)千冬さん(千冬姉)⁈」

 

居ない筈のその2人の姿に授業中なので小声ではあったが2人共思わず叫んでしまう。それを見た元凶その1()は苦笑いを、その2(千冬)は「前を向け、静かにしろ」と言いたげにムスリとした顔で前を指差しているが、少し離れた栞と一夏には気付けなかったが真横に居た翼はそんな風にしながらも驚いてくれた(サプライズが成功した)事に嬉しいのか口元が少しにやけていたのをきっちりと見逃さなかった。

そしてそれでも2人は嬉しかった。当然だろう、誰も見にこれなかった筈のここに大好きな()が来てくれたのだから。2人は前を向き直す前に1度目を合わせる、合わせた栞と一夏は笑い合い前を向く。そこからの授業は2人にとっていつも以上に楽しいものとなった。

 

 

◆◇◆

 

 

無事潜入し上手く知り合いに発見されず学校に戻って来た翼と千冬、束の3人は放課後、未だ教室にて残っていた。

 

「帰ろうか、送るよ」

「ごめんつーくん、ちーちゃん、私はこの後用事があるんだ……」

「私もだ、琴乃さんの研究所での秘書仕事が少し残っていてな。寄り道してから帰らなくてはならない、だから一夏の迎えを頼んでも構わないか?」

「構わないよ。それに早めに栞達が俺達があの時間帯あそこにいた事は口外しないように釘を刺しとかないと親にバレそうだし」

「あーーー……、そうだな」

 

あの嬉しそうな2人組の顔を思い出し千冬は同意する。嬉々として琴乃や総司に自慢する光景が目に浮かび2人は少し冷や汗をかいた、因みに束は別クラスの箒のところに行っていたので2人に見つかっていない。なので束も同罪なのだが多分怒られるのはばれた2人だけの可能性が高かった。

 

「頼んだぞ翼、………琴乃さんは怒ると怖いからな……」

「うん……親だからよく理解している」

「えっと……私はあんまり関係ないから……ドンマイ?」

「「……なんか違う気がする」」

「息ピッタリだね……2人共」

 

怯える2人に束はそう言うとそれに翼と千冬は真顔で否定する。無駄に息ピッタリだったりと束でさえ嫉妬するのでなく呆れる程のレベルだった。

 

「……取り敢えず帰るか……」

「うん……そうしよう」

「だねー、そうだねー」

 

「「「…………」」」

 

三者共無言で教室を後にする。その姿を帰り際チラッと見た見回りの先生曰く、「なんかあの歳でスゲー哀愁が漂ってたんだけど……」との事らしい。学校の正門前で別れた3人はそれぞれ違う道を歩き、翼は栞達が居るであろう小学校に向け向かって歩いていた。

その途中、通り掛かった小学校近くの公園にふと目を向けると3人程の男の子に囲まれた黒髪の女の子が目に映った。

 

「ん?あれは……箒ちゃん?」

 

小学1年生にしては大き目の男の子3人に囲まれていたのは家族や知り合い以外には人見知りの激しい箒だった。

 

「何している」

「げっ⁈ヤベっ逃げろ!」

「待て、お前達。その手に持っているものは何だ」

 

イジメっぽいので止めに入る為に向かうと翼に気付いたらしい男の子達は逃げようとする。だがその手に握っていた白い布が目に留まった翼は回り込み3人を捕まえた。

 

「これは……これは箒のリボンの筈なんだがなんでお前達がこれを持っている?」

 

捕まえた男の子の手から取り戻した白い布、箒の頭の髪を纏めていたリボンを手に翼はそう尋ねる。その声は抑えられてはいると言え極寒の鋭さを持ち、そして疑似的ながら魔法すら使わずに物質的重力をその場に発生させているかの如くだった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

「……もういい、行け。保護者と担任に連絡はしておく、たっぷりと絞られろ。俺が言うよりその方がいいだろう」

「「「ひぃいっ⁈」」」

 

余りの重圧に耐えきれなかった男の子3人は黙り込み時間の無駄だと判断した翼は3人を保護者達に報告した上で解放する。解放された3人は恐怖に耐えきれず一目散に逃げて行った。

 

「大丈夫か?箒ちゃん」

「うぅ……、ふぇええーん」

 

蹲っていた箒に翼が目線を合わせると涙に耐え切れなくなった箒は声を上げながら翼に抱きつき涙を流す。それを翼はいつか彼女の姉にした時のように心音に合わせ背中を叩きつつ泣き止むのを待った。

 

「グスっ……グスっ……、つーにぃ……」

「なんですか?箒ちゃん?」

「ごめんなさい……服、汚しちゃって……」

「気にしなくていいよ、洗えばいいしそろそろ衣替えだしね」

「でも……」

 

泣き止んだ箒はまず自分の涙と鼻水にぐしょぐしょになってしまった制服の上着に罪悪感を感じてしまったらしい、そんな所もどうやら姉似なようだ。それを思い浮かべた翼はクスリと笑い箒の頭を撫でる、リボンが無い事でいつもの黒髪のポニーテールがおろされた状態の為珍しい撫で心地だった。

 

「大丈夫、それにやっぱり姉妹なんだね。束さんも昔同じ事言ったよ」

「お姉ちゃんが?」

「昔の話だけどね?想像できない?今はあんな感じだけど」

 

昔の事を思い出しつつ翼は箒にそう言う。が箒にはあまり想像できないらしい。

 

「……うん」

「俺や千冬さんが完璧じゃないように天才の束さんだって完璧なんかじゃない、なんでもできる人だけど人だからこそなんでもできない『普通』の人間なんだよ?それは箒ちゃんだってよく知ってるよね?」

 

翼と問いに箒はコクリと頷く。

 

「束さんは不器用なんだ、誰にでも優しくなれるけど不器用だから誰かに思いを伝え辛い、不器用な人。それは箒ちゃんもだけどそれはきっと伝えられる」

「……それってつー兄にも?」

「勿論、だから箒ちゃんもできるよ」

「うん……」

 

上着を脱ぎ頷いてくれた箒の頭を再び撫でていると何処からかサッカーボール片手に走って来た栞と一夏が駆け寄って来ていた。

 

「あ、つー兄!迎えに来て……って箒どうしたの⁉︎」

「ホントだ⁉︎誰に泣かされたの‼︎まさかおにぃ「いや、違うから」……ホントに?」

「本当だから……なんで妹からの信用こんなに低いんだろ?」

「いやだってお兄ちゃん女の子に鈍いし」

「?」

「いやそれだから鈍いんだよ……お兄ちゃんのばか……」

「なんでディスられたし……はぁ、取り敢えず家に帰ろうか。洗濯物もあるし」

「「はーい」」

 

栞と一夏が少し離れた位置にあるベンチにランドセルを取りに1度その場を離れる。翼も鞄と脱いだ上着片手に帰ろうと立ち上がった。

 

「さ、箒ちゃんも一緒に帰ろうか」

「…………うん、つー兄」

「ん、なんだい?」

 

その時、箒は翼のスボンの端を摘み翼を引き止める。

 

「……ありがとう」

 

振り返った翼の先にはあの時の彼女の姉と同じ、いや姉とは違う彼女らしいまるで白百合の花のような綺麗な微笑みがあった。

 

「……どういたしまして」

 

4人は横並びにして家路につく。そんな今日の家路では、珍しく翼の隣を歩く箒はその手を翼の手と繋いで歩いていたのだった。

 

 

◆◇◆

 

 

「これで……できた、完成したんだ……」

 

ここは何処かにある研究所、束が1人でこっそり作った秘密ラボのひとつである。そして彼女は今、彼女の『夢』を形に変えその完成を迎えていた。

彼女は手にしていた工具を置き、唯一付いている光源の下に鎮座したソレを改めて見る。

 

「遂に……遂に完成した。今まで私が描き続けていた夢が」

 

今まで10年もの間の感傷に浸っていたその時近くの作業机の上に置かれていた束自作のタブレットに着信が入った。束はすぐに『SOUND ONLY(音声のみ)』のボタンをタップし通信にでる。

 

「はい、私です琴乃さん。プレゼンの後すぐに済みません」

『大丈夫よ束ちゃん、それに添付されてたこの論文は……』

「はい、私が今まで10年間を掛けて書き上げた『宇宙空間用マルチフォーム・スーツ基礎理論』です」

 

琴乃との通信が繋がるタブレットからの音声は一瞬沈黙する。その一瞬の沈黙の間の後、琴乃は再び口を開いた。

 

『束ちゃん……確かにこの論文は素晴らしい、人類の宇宙進出を1歩どころか2歩3歩と一気に推し進める起爆剤になるだけの可能性と確実性がある。でも早過ぎるわ(・・・・・)、この技術は革新的過ぎる。今現実化しかけている私が発表した『外装可変型戦闘機(Flame.Change.Fighter)基礎理論と設計』でさえ発表したばかりは夢物語だと相手にもされなかった、航空宇宙産業を新たな分岐点に1歩前進させるだけのあの技術でさえそれだけ反発を招いたのよ。ましてこの技術なら……』

 

学会だけでない、国家、いや世界からさえ抑止力が働くだろう。束の大切な夢を踏みにじる為に……

 

「……それでも私は発表します……。今からこの論文を正式に発表しようとしてももう今年の公募は終わってるからこれが学会で発表されるのは早くても来年になる。それに実用化を考えるならもっと、それも10年単位で掛かる。でも私はこれを今すぐにつーくんに、ちーちゃん達に乗らせてあげたい!それに私の夢を一緒に見てもらいたいから!」

 

束は天才なのだ、それも琴乃を超えるレベルの天才である。だからその程度の事はしっかりと予想はできている。人間の本質が醜いものだとも知っている。だが彼女は信じたかったのだ、人を。そして大切な人達と自らの夢を一緒に見てもらいたかったのだ。

それを聞いて、琴乃は彼女とかつての自分と重ね、そして絶対に折れないと言う確かな確信を持ってしまった。故に彼女を止める説得は諦めた。

 

『……分かったわ、そこまで言うなら私は科学者として、女として、息子を大切にしてくれる母親としてそれを否定することなんて私にはできないもの。

今私の名前は航空宇宙関連の学会では特別な意味を持つわ、だからもしかしたら今からでも無理矢理捩じ込めるかもしれない。でも貴女はそれ(ズル)は望まないんでしょう?でもだからこそ次の発表の公募推薦には私の名前を使いなさい。あくまで推薦だけによ?発表者は貴女だけの名前にしなさい。そうじゃなきゃ貴女の夢を私の夢と勘違いする人も出てくる筈だから……』

「ありがとうございます……琴乃さん」

『束ちゃん……頑張ったね、論文を読んで私はやっぱり束ちゃんは頑張り屋さんなんだって理解できた。でも束ちゃん、1人で頑張り過ぎないで。私も、翼も、千冬ちゃんだってどんな時でも貴女の味方だから……忘れないで』

「……はい」

 

音声通信が切れた暗闇の中で唯一光源に当たる(ライトアップされる)純白の機械鎧に束は目を向ける。薄く蒼い光を燈すクリスタルのようなコアのはめ込まれた胸部をその白く細い指で撫でつつ彼女は呟いた。

 

「……始まりの『白き騎士』、本当の意味での始まりはこの子()じゃないけど……私の夢の始まりは君に託すよ……」

 

無限の成層圏(インフィニット・ストラトス)、後に頭文字を取りIS(Infinite Stratos)と呼ばれる最初のその機体は今、儚げな人工灯の元、ただ自らの出番を待ち続けていた。

 

 




花は私が彼女達に抱いたイメージです。人によって違うと思うかも知れませんが許して下さい。

琴乃→向日葵(サンリッチオレンジ)
千冬→(冬桜)もしくは青薔薇(ブルーローズアプローズ)
束─→(ソメイヨシノまたはカンザクラ)
栞─→雛罌粟(アマポーラ)
箒─→白百合(マドンナ・リリー)

気になったら意味を調べてみて下さい、多分この物語では彼女達はこんなに感じですから、

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