サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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注意、今話はかなり御都合主義が入ります。苦手な方はお気をつけ下さい。


研究の手伝いとテストパイロット

〈12〉

 

翼が千冬や束達に魔法を教え始めておよそ1週間が過ぎた頃、若宮宅には一夏と箒と共に家から外出している栞を除き翼とその母親しか残って居なかった。そして、

 

「え?母さんの研究の手伝い?」

 

リビングのソファーにて文庫本を読んでいた翼は研究者である母親に研究の手伝い(アルバイト)を打診されていた。

 

「良いけど……手伝い(アルバイト)って何するの?」

「んー、取り敢えずシミュレーターに乗ってもらうのとアイディアの提出かな?アルバイトだから一応お給料出すよ〜、最近翼も千冬ちゃんと束ちゃん達とよく出かけるみたいだし文庫本、新しいの買いたいでしょ?」

 

母親である琴音はそう言っていつも貰っているお小遣い(2千円)()アルバイト代(時給千円×3時間)()足した金額(5千円)を翼に掲示する。確かに新しい文庫本が欲しいとは思ってはいるものの浪費家ではなく余りお金には困っていない為別に受ける必要があった訳ではないがわざわざ母親からのお願いである。親孝行できていない身であると考えている翼はこんな時くらい孝行するべきだろうと思いその依頼を了承する事にした。

 

「分かった、良いよ。いつから始めるの?」

「んー丁度良いから今日にしようか、今から私も研究所に向かうし車に乗って」

「服装は?」

「その黒のジャージで良いと思うよ?もし駄目だったらコッチ(研究所)の方で貸すし」

「了解、行こうか」

 

文庫本に栞を挟んで閉じた翼はソファーから立ち上がる、こうして彼は車の鍵を手に白衣を着た琴乃の後を追い随分と久しぶりに母親の研究所に向かう為に家から外出したのであった。

 

 

◆◇◆

 

 

家を車で出発して約20分程、翼と琴乃の乗った乗用車は航空自衛隊の基地に併設された研究所へと着いていた。

 

「随分と久しぶりにここに来た気がする……前に来たのはいつだっけ?」

「前に私にお弁当を届けてくれた日以来だから3ヶ月振りくらいね。こっちよ」

 

車から降りると翼は琴乃の案内に従い一緒に研究所内に入る。軍事施設と併設された研究所なだけあってここのセキュリティーは高い、次回からは専用のセキュリティーカードを渡すそうだが今回はゲスト用のカードを渡され目的地に向け研究所内を進む。

 

「所長、今日はお子さんとご一緒ですか?」

「ええ、シミュレーターのテストパイロットのアルバイトに呼んだの」

「ああ、あれですか。しかし翼君はまだ中学1年生の学生です、上が許可しますかね?」

 

偶然通路で鉢合わせした顔見知りの所員と所長(琴乃)は翼のアルバイトの件について話し出す。

 

「大丈夫よ、やって貰う事はシミュレーターに乗ってデータを取るだけだし、上には「私の手伝いをしてくれているだけですので」で押し通せば問題にはならないわよ?」

「それは………かなり(クロ)に近い灰色(グレー)ですね……また上や副所長に注意されてもしりませんよ?」

「仕方ないじゃない、後はデータを集めるだけなのにテストを担当してたパイロットが転属なんてこっちとしてはかなりいい迷惑よ。それに暫く補填が効かないなんてこっちの研究までストップするじゃない」

「そりゃそうですが……はぁ……、それはそうとシミュレーターを置いてある部屋へはこのルートでは行けませんよ?この先には……ってまさか……」

 

所員の言葉に琴乃はとても“イイ”顔でわらう。重要な事なのでもう1度言うが“イイ”顔である、断じて良いではない。それを見た翼と所員の2人は嫌な予感を察知した、いや察知してしまった。

 

「そう、先に格納庫にある機体を見せておこうと思って」

「はぁ!?所長それ機密です!しかも軍事機密です!一般人に見せて良い訳ないじゃないですか!」

「母さん……それは流石にないと思うよ……?」

「大丈夫大丈夫、中身をスキャンされる訳でもないしもう組み上がってるから見れるのも外形だけでしょ?それに珍しく翼がここに来てくれたんだから親として子にはちょっとくらいは自慢したいじゃない」

「そう言って先週くらいに来たあの……確か千冬(・・)って子と()って子に見せて副所長に見つかって大目玉食らってたじゃないですか!!」

「え?なんでここで千冬さんと束さんの名前が?」

 

思いにもよらなかった2人の名前が突然出てきた事に翼は驚くが、それに琴乃は「そうだった」と拳で手を打つ。1週間前の事を綺麗さっぱり忘れていてようだ。

 

「ああっ、あの時の事?いやあれの目的は別だったしついついあの後も束ちゃんと話し込んでたてたしですっかり忘れてたよ。でも丁度良いから後であの2人もアルバイトに誘ってみようかしら?翼も居るって言ったらすぐ来てくれるって決めてくれるかもしれないしね」

 

「「もう勘弁して……」」

 

親馬鹿と息子に向けられるあの2人の恋心を知るから故のお節介(応援)とちょっぴり自分の仕事が楽になりそうという邪心を胸に珍しく暴走を始めた所長()にその()部下(所員)は盛大に溜め息を吐いた。こうなったら自分達では彼女の暴走を止められないと理解しているからだ。

 

「さて、うっかり話し込んじゃってたけどそろそろ行こうか。あと……そうだ君は副所長にこれを渡しといて」

「……了解です。で、中身は?」

「アルバイトとして翼を雇ったって事の釈明(言い訳)とお給料は私のポケットマネーから出すよって事の(事後)報告書、あとまだ増えるかもって言っといてくれないかな?じゃ頼んだからね?」

「もうどうとでもなれ……分かりました副所長に言っときます……」

「……強く生きて下さいね」

「ああ……、ありがとう翼君(同士)

 

色々と吹っ切ってしまった所員(同士)を背に2人はその場を離れる。同士の為、幸福を祈った翼であるが蛇足としてこの後、琴乃から渡す事を頼まれた事後報告書を宛先人(副所長)に提出しに行った彼だったが副所長である女性(琴乃一番の被害者)にいたく同情され愚痴を言い合う為に夜2人で飲み会に出て、その後何かと色々あって付き合う事になり次の年には職場結婚を果たしたそうな。つまり被害に遭いながらも幸福になれたある意味数少ない勝ち組。

 

 

◆◇◆

 

 

「へぇ……これが母さんの作ってる機体……」

「『ASF.C.F–X00/YF-0』性能評価試験機の前に組み立てた試作実験機で私達はこの機体の事を【雪風】と呼んでいるわ」

「【雪風】……か」

 

薄暗い格納庫にて上から照らされる白い機体、尾翼は真紅で塗られ主翼には日本所属機である事を示す日の丸(赤い丸)が塗装された今や少なくなってしまった可変翼型戦闘機の姿を模した実験機が其処にあった。

 

「モデルは……F-14かF-15?」

「惜しい、機体の主翼と胴体はF-14で機首周りはSu-27がモデルなの。空気抵抗とか変形機構の都合上F-14をそのまま流用できなかったのよ、だから翼の見立てはあながち間違いではないわ」

 

琴乃はそう言って機体に近付きその純白の機首を撫でる、その手付きは翼や栞を撫でる時と同じくらい優しいものだ。それだけ彼女は自らの研究()を大切に思っているという事である。

 

「ASF.C.F–X00/YF-0は、雪風は私の夢の形、だから私はこの子を完成させてあげたい」

「俺もこの機体が実際に空を飛ぶところを見てみたいよ。この機体と母さんを見て俺はそう思った」

「ありがとう、だけど……やっぱり翼は天然の『たらし』なのね……。こんな感じで無意識にこの子は女の子を落とすのかしら……千冬ちゃんも束ちゃんも苦労するわね……」

「っていきなりなんの話⁉︎」

 

機体から翼に向き直った琴乃は自分の息子のたらしっぷりに少しため息を吐きつつそう言う。母親であるにも関わらず不覚にも少しドキッとしてしまったのは内緒だ。少し先が思いやられる、無自覚でハーレムとか作って将来苦労しそうなのは確実にあの2人組なのだから。

 

「こっちの話、翼、千冬ちゃんと束ちゃん、大切にしなさいね」

 

母親としてあの2人組を応援したい琴乃は翼にそう言う。

 

「勿論、大切な友達だから」

 

……ただ、やっぱりこの鈍感具合はあの2人組の為にもどうにかすべきだと思うのは彼女の思い違いなのだろうか?

 

 

◆◇◆

 

 

格納庫からシミュレーターのある部屋に移動して来て30分、ジャージのまま操縦支援用の試作インターフェイスを装着した翼は今、シュミレーターの管理と操作を担当する琴乃と女性所員の人にひと通り操縦方法を教えられ身体に掛かるGまでも再現できるという高性能シミュレーターのコックピットに座っていた。

 

『じゃあシミュレーションを始めるわね。難易度設定は初心者用のEだけど操縦の方は大丈夫?』

「多分問題無いよ、右が操縦で左が出力。左を倒せば戦闘機(ファイター)形態で、中間で中間(ガウォーク)形態、起こせば人型(バトロイド)形態になる。武装選択や標準はインターフェイスの脳波コントロールを使えば良いから初心者でもある程度使えると思うよ」

 

今回は離陸を飛ばして既に飛行した状態から始めるようで操縦席から見える風景は既に空の上、計器などを表示している画面には今回のシミュレートの内容が表示されていた。

 

『なら良いわ、初めは撃墜されても構わないから慣れる事に集中して。では開始(スタート)

 

開始と同時に自動操縦が解除されレーダーに敵機影が映る。数2、北西方向より接近中、会敵まで残り170。このまま行けば真正面からのドッグファイトになるが2対1ではこちらが不利、ならば見敵必殺(サーチアンドデストロイ)先に見つけて先に引き鉄を引き先に一機は叩き落とさねばならない。さもなければ開始早々翼の方が落とされる。

 

「やってみるか……OK、右に旋回」

 

翼は右に操縦桿を倒しもう1度主翼内蔵の機銃と機体下に装備されているガンポッドの引き鉄を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

一方、シミュレーター観測室では……

 

「凄いですね……翼君」

「ええ……想像以上に……ね」

 

シミュレーションから採取されたデータの映し出される画面には機体の稼働状態やそこにかかるG、空気抵抗や機体への負荷などが数字として表示されているがシミュレーションを監視するこの2人が目を見張ったのは機体の稼働状態と現在の撃墜数である。

 

「機体稼働率83%……前任者(職業軍人)より22%も高い(・・)

「しかも開始10分で撃墜数3、しかも被弾無しで……」

 

2人には目の前に表示される数字が信じられなかった。確かに難易度設定は初心者用の1番簡単な『E』、しかしだからと言って戦闘機に乗った事も無いまだ中学生である一般人が前テストパイロットである空自戦闘機パイロットよりもこの機体を圧倒的に(・・・・)上手く使って敵機を撃墜していっているのだ。これを信じろと言われる方が無理がある、しかし目の前で表示されているこの数字に誤りなどはなくそれが現実であるという事を確かに証明していたのだ。

 

「凄い……もう撃墜が6機に!」

「それだけじゃないわ……あの子戦闘機動中にバトロイドやガウォークに急速変形して急減速や急加速をしてAIの隙を突いて攻撃してる」

「せ、戦闘機動中に変形⁉︎そんな事したらGとか機体が」

「保たせている……って感じね。特にドッグファイトから擦れ違いざまにファイターからガウォークに変形してガンポッドで機体下を撃ち抜くこの戦術……今まで誰もやらなかったわね。それに直進してからバトロイドに変形してミサイル迎撃と回避運動、殆ど滞空無しで変形するから隙が少ないわ」

 

ありえないくらい突出した戦闘機動を見せる翼に2人はただ驚く事ばかり。そしてふと2人は同じ事を考えてしまった。

 

「これ……彼を専属のテストパイロットにしたら凄い事になるんじゃ?」

 

女性所員の呟きが漏れる、隣に立つ琴乃はそれをはっきりと耳にしていた。

 

「決めるかどうかは翼次第……か……」

 

彼女は専属テストパイロットの事を翼に打診するかを悩む、()としてはこれ以上は一般人である翼には危険なので関わらせたくはないが夢を叶えようとする研究者としては是非参加して欲しい、そんなジレンマを抱え最終的には翼本人に決定を委ねる事にしてしまった。

 

 

 

その日、その打診を翼が了承した事により所長権限にてASF.C.F–X00/YF-0 雪風 の専属テストパイロットが若宮 翼に決定。後日データを見た航空自衛隊幕僚監部は特例としてこの決定を承認する事となる異例の事態が発生した。

 

 

 




琴乃は母親なんだけどやっぱり研究者としての自分には完全には勝てない。でも翼の事は愛してるしマッドサイエンティストでもないのでその狭間で苦しむジレンマを抱えています。やはり家にいると完全に母親なんだけど研究所では研究者としてのスイッチが入っちゃうからでしょうね。
なのでこれからはかなり彼女の行動には公私混同が混じってきます。むしろ混じって貰わないと作者としては展開的には困る。

因みにその公私混同を受け入れちゃうのがこの研究所の所員達です。(つまりここの研究者達は甘い)

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