サードライフ=インフィニット・ストラトス   作:神倉棐

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転換期、そして……

 

〈10〉

 

 

あれから2年経ち3人仲良く小学校を卒業し新たに中学1年生となった今日この日、俺は今……

 

「さて、説明してもらおうか翼?」

「ウフフフッ、逃がさないぞぉ〜つー君?」

 

真剣(篠ノ之道場の物)を片手に持った千冬と何やらよくわからない棒みたいな物(束印の違法改造スタンロット)を持った束に囲まれていた。……しかも2人共顔は優しく微笑んでるのに目が笑ってない。

 

「い、いや、おふたりさん?兎に角そのヤバそうなブツは仕舞ってくれません?オレハマダシニタクナイ……」

 

あまりの怖さに逃げたくとも背後は自室の壁、右は刀を持った千冬、左はスタンロットを持った束、正しく『前門の虎()後門に狼(千冬)』……今使える限り全ての魔法を使っても何故だろう?今のこの2人からは絶対に逃げられない気がする……。

 

「む、今『魔法』で逃げようとしただろう?したよな?」

「さぁて、つー君ヒドイよ〜。束さんも知らない『魔法』なんてモノを使えるのに親友の束さん達に教えてもくれなかったなんて」

 

そう、彼女達がここまで怒っている理由は今の今までずっと俺が『魔法』を使えると言う事を彼女達に一切話していなかったからである。

 

「さて、覚悟は良いな?」

「うっふっふ〜」

「ふ、不幸だ……」

 

事の原因は今日の朝まで遡る。

 

 

◆◇◆

 

 

入学式当日(本日)、朝

 

「さて、制服は着たし変な所はないかな?」

 

俺はブレザーの制服のネクタイを締めつつ鏡の前で確認する。いつもなら身なりは最低限で余り気にはしないが一生に1度しかない(人生3週目なので3回目だが)晴れ姿なのだから綺麗にしておきたいと言うのは間違ってはいないはずだ。

時間もそろそろなので俺は自室から出て1階のリビングに降りる。そこには珍しく白衣でなくスーツを着た母と準備万端、制服を完璧に着こなした千冬が待っていた。

 

「おまたせ」

「ようやく降りてきたか、男なのに女の私より用意が長くてどうするんだ、まったく」

「ふふふ、千冬ちゃんだって翼が降りてくるまで制服のスカートとリボンを弄ってたじゃない?」

「なっ⁉︎琴乃さん⁈そ、そんな事ないですよっ⁈」

「またまた、うふふふ」

「琴音さーん⁉︎」

「なにこのカオス?」

 

「ふふふ」と笑う母親とキャラ崩壊を引き起こした千冬の2人を見て翼はそっと目を逸らしてそう呟いた。多分ここに束が居たならば混沌(カオス)を通り越して(諦めの境地)でも見えてきそうだが生憎と彼女は途中合流の予定なのでここには居ない。絶対にそれが唯一の救いだろうが、

 

「とにかく、そろそろ出た方が良いよね?もう学校の集合予定時間まで30分は切ったし、束も待ってるだろうし」

「そそそ、そうだな。うん、行こう。すぐ行こう」

「……大丈夫?千冬さん」

「だだだ、大丈夫だぞ?つ、翼」

 

大丈夫な気がしない……、恨みますよ母さん……。

 

大事な時直前に面倒くさい事をしでかした母親に恨みがましい目線を向けるが彼女はそんなものどこ吹く風と「ふふふ」と笑っている。

 

「……取り敢えず家を出ようか。……あア、キョウモソラハアオイナァ……」

「ふふふ、曇ってますね♪」

「ァァァァァァアアア……」

 

………………もう駄目かも知れない。

 

とにかくそんなカオスっていた俺達だがなんとか家から出発でき、途中合流した束とその両親に「何があったし若宮家」と言われたりなんやりについてはやはりどうでも良い蛇足である。

 

 

◆◇◆

 

 

『え〜、本校に今年度入学した君達1年生諸君には本校が掲げる『自治』と『自由』についてを学び……』

 

で、始まった入学式。既にクラスに分けられてパイプ椅子に座らされている訳なのであるが背後から突き刺さる2つの視線、内1つはどこか嬉しそうなぽかぽかした物、そしてもう1つは悔しさと恨めしさが入り混じった無茶苦茶感じてて痛い物……あれか?真の英雄とは目だけで殺す。ってヤツだろうか?

 

はい、入学式早々現実逃避に走っております若宮翼です。いや、考えてもみてくれ。いつも顰めっ面がデフォみたいな千冬さんが目尻を7ミリくらい下げて嬉しそうにしてるのと、いつも二十面相くらいしてる束さんは極寒の冷気を局所的に発しながら倍の二百面相してるんだよ?いやどんな顔だよ⁉︎怖すぎるよ⁈

この原因は入学式前、外に貼り出されていた『クラス分け表』である。つまり2対1、俺と千冬さんが同じクラスで束さんが1人隣のクラスであったのだ。

 

 

(回想中)

 

 

『私は……1組だな』

『お、俺も1組だ。たば……束さん⁉︎』

『…………私だけ、2組?ちーちゃんとつーくんは1組なのに?私だけ2組?』

『た、束さん、「もちついて」‼︎』

『「落ち着いて」だぞ⁉︎そう言う翼も落ち着け‼︎』

『私だけ……私だけ2組……私だけ……』

『束も正気に戻れ、そう、運が悪かったんだ。それにクラスが違っても休み時間にはコッチに来れるだろ?だから……』

『つーくんの裏切り者ぉ!ちーちゃんだって当事者じゃないからそんなこと言えるんだい!うわぁーん‼︎』

『濡れ衣だぁー束さーん⁈』『ちょっと待て束ぇー⁉︎』

 

 

(回想終了)

 

 

……うん、カオス。思い返してみたけど凄いカオスってる。いやカオスってるってなんだよ?

自分で話して自分で突っ込む。うん、冷静な証拠だな(錯乱)!とにかく俺が現実逃避してしまっていた理由は理解していただけたかとは思うが問題がある。

 

「……どうやってこの問題解決しよう」

 

どうやっても根本的解決に至れる気がしない。既に決まったクラスを変える事なんて以ての外だし休憩時間に会いに来る、もしくは会いに行くのも根本的解決にならない。

神よ、俺に何か恨みでもあるのか?俺にどうしろと?

 

「はぁ……」

 

胃に悪い地獄のような入学式は刻々と緩慢にだが過ぎていった。

 

 

◆◇◆

 

 

で、その帰り道。

 

「……づがれだ」

「同感だ……翼」

「ぶぅぅ〜、なんでだよぉ、なんで私もつーくんとちーちゃんと一緒じゃないのさぁ」

 

今よりずっと不機嫌だった束さんを学校出てからずっと宥め続けていた俺と千冬さんは疲労困憊ヘロヘロになりつつ家への帰途についていた。このあと栞と一夏、箒の3人とその保護者全員(親達)が全員我が家に集まって入学祝いを祝しバーベキューをする予定なのだが親達は何故か買い物があるからと俺達3人を先に帰らせ歩いているのだ。

 

あれ?買い物って何買うつもりなんだ?昨日のうちに俺が買い出しに行って肉から酒類まで全部買い揃えた筈なんだけど……

 

親達(一部駄目だと騒いだ人も居たが鎮圧された)の策略に気付けない俺は背を伸ばし気分転換に大きく息をする。

 

「……はぁ」

「ため息か?」

「いや、ただの深呼吸だよ。そう言う千冬さんこそ1回くらいはしといた方が良いんじゃないかな?……精神的に」

「……いや、駄目だ。1回したら100回はしたくなるから駄目だ」

「………………」

 

千冬さんの悲しい弱音に思わず今世で初の自棄(ヤケ)酒をしたくなった。多分将来千冬さんとなら結構飲めそうな気がする、まあ浴びるくらい飲んでも酔わない体質なんだけどアルコールあんまり好きじゃないんだけどね。

 

「そう言えば今夜らしいね、流星」

「ん、ああ。確か実際に地球に降ってくるらしいな。とはいえ、落下予想地点はアメリカの何処からしいが」

「燃え尽きない大きさって事だから今回は結構大きなクレーターができそうだね」

「フッフッフッー、そんな時は束さんにお任せさ!この前ちょっと気分転換にその新しく出来るであろうクレーターの位置と大きさをチョチョイっと計算してみたんだけどね……」

 

とまあ、そんな気まぐれな無駄話を話しつつ歩道を歩いていると歩道橋の近くに丁度新しくできた公園の前に差し掛かった。

 

「ん?黒猫?」

 

と、その時少し先にある公園の入り口から黒猫が飛び出して来た。そしてそれを追うようにして女の子とその後に男の子が飛び出して来た。

 

「なっ⁉︎不味い、赤信号でトラックが‼︎」

 

目の前には黒猫を追い飛び出した女の子と男の子、男の子は女の子がトラックに打つかりかけていることに気付き手を伸ばすが届かない。トラックが衝突するのに存在する猶予はごく僅か、千冬さんでも間に合わない。

 

「間に合えっ‼︎」

 

俺は迷わず『身体強化』と『風魔法』を使い驚異のスピードを出し文字通り翔ける。トラックと衝突する直前、僅か数コンマ0秒の世界を突き抜け女の子を抱き抱えるとひと足で隣の歩道に着地する。やはり急な身体強化による急加速は身体に負担がかかるな……。

 

「うぇ?え?」

 

黒猫を追っていた筈がいきなり景色が変わりしかも見知らぬ男にお姫様抱っこされている事に混乱しているらしい女の子がそんな声を出す。まあ、仕方のない事だろう。

 

「大丈夫か?」

「え?あ、はい…………なんで私轢かれて……ないの?」

「なら良かった、立てるか?」

「はい……」

「イオリ‼︎良かった!」

 

抱えていた少女を地面に降ろすと遅れてこちら側の歩道にやって来た男の子がそう言って感極まって女の子に抱きつこうとする。しかし、

 

「うわ、キモッ」

「ぐふっ……」

 

あまりにも鋭利過ぎる一言に心をぶち抜かれ膝をついていた。いや、君達即効でシリアスぶっ壊すのやめようよ。今さっき君達事故に遭い掛けてたんだけれども?何この慣れてますって猶予の落ち着き、え?何処ぞの不幸高校生レベルの不幸さなのかい君達?

 

「でもどうやって私を助けて?」

 

そんな中女の子はそんなごもっとも疑問を口に出す。そんな女の子を見てちょっとだけ悪戯心の芽生えた俺はとあるセイギノミカタの台詞を真似する事にした。

 

「お兄さんはね、魔法使いなんだ」

 

目の前の2人の目が点になる、確かにいきなり「私は魔法使いです」なんて言われたら驚くよね。だが思うにこの時の俺は明らかに詰めが甘かったのだと思う。だっていくら緊急事態であったとはいえ今まで一体どんなヒト達とここまで歩いて来ていたのかをすっぱり忘れていたのだから。

 

「つ・ば・さ?」「つ・う・く・ん?」

「ビクッ!?」

 

そう、超が付くくらいハイスペックでよく翼の動きを見て知る束さんと千冬さんがいたのだ。

 

「翼、今のはなんだ?」

 

ぽん、と千冬さんの手が俺の右肩に置かれる。

 

「ななな、なんの事?」

「駄目だよ〜、しらばっくれちゃ。ほら、ちゃんと録画っていう証拠も有るし」

「それに私の(動体視力)が良い事はよく知っている筈だよな?翼?」

 

空いたもう片方の肩には束さんの手が置かれ俺は動けなくなる。固まったままの俺はダラダラと冷や汗を流し続けていた。

 

「あ……はい、分かってます……って束さん録画って何さ⁉︎どうやって撮ってるの⁉︎」

「ふっふっふ〜、私の兎耳、舐めちゃ駄目なんだよつーくん。兎耳内蔵スーパースローカメラは億千秒の壁を軽く超えて超画像鮮度で録画できるのだ!」

「なにそれ⁉︎初耳なんたけど⁈」

「耳だけに?」

「ちゃうわ⁉︎ギャグちゃうわ!大事な事だからもう一度言うけどギャグと違うから‼︎」

 

シリアスがシリアルとなり場の空気がカオスと化しかける。

 

「とにかく、お前の部屋でゆっくりと聞かせてもらうとしようか。ゆっくり(・・・・)とな?」

「そうだよ、束さんすごーく気になるんだ今つーくんがした事。教えて……くれるよね?つ・う・く・ん?」

「え〜と、そのぉ……」

「取り敢えず先に帰るのが先決だな。ほら行くぞ翼」

「そーだね!行こっかちーちゃん♪」

「まだ俺返事してない⁉︎」

「拒否権なんてないからな?」

「うん」

「なんでさぁぁぁあっ⁉︎」

 

問答無用とばかりにずりずり引き摺られ連行される俺が見えなくなりその場に残された男の子は「なんだろ、あれ?」と呟く。そしてその隣にいた女の子であるが……

 

「格好……良い」

「ふぇ⁉︎」

 

驚き過ぎて先程の一幕を認識できていなかった女の子はぽっと顔を赤くしながらそう呟いたのだった。

 

「なんでさぁぁぁあっ⁈」

 

最後まで報われない男の子だった……。

 

 

◆◇◆

 

 

でもって現在……

 

「ほう……成る程な、翼の強さの秘密の一角を理解できた気がする」

「魔法!魔力!魔術回路!くぅーっ、この天才である束さんですら知らない技術!知恵!凄い、凄いよつーくん‼︎」

 

観念した翼は隠していた『魔法』についての知識を2人に話す。翼の秘密のひとつを知る事ができた千冬は何処か嬉しそうにそう呟き、一方束の方は『魔法』というものの可能性に大興奮し翼の部屋中を飛び回っていた。

 

「ところで翼、私も魔法は使えるのか?」

 

ふと気になったのか千冬は翼にそう聞く。翼は今まで1度も他人が使えるかどうかを試した事がなかった為憶測ではあるものの答えた。

 

「多分……魔術回路があるなら使える。回路自身は人間が生まれ持つ神経に近い擬似神経みたいなものだから開き方さえ分かれば千冬さんも使えるようになる……と思うよ?」

「ほうほう……」

 

千冬はそれを聞き少し考え込む。その代わりに今度は束の方が質問してきた。

 

「ねーねー、質問!それって物質に転写(・・・・・)とかできるの?」

「物質に転写?できないこともないけど……かなり高度な技術が要るね。一般的には転写する手間が掛かり過ぎるから転写じゃなくて簡単に模倣した擬似回線を敷いて代用するのが一般的(セオリー)だから」

「へぇ〜……『セオリー』……ね?でも魔法なんてものがあるなら長年アプローチの仕方として悩んでたアレについていい案が出るかも……」

 

今度は束が千冬と同じく考え込み始めるが翼はさっきの束の言葉が気になった。

 

「物質に転写?ってなにをするつもりなんだ……?」

 

ぽつりとそんな独り言を漏らす、今の翼には何故束が魔法自体にではなく魔術回路の転写技術について興味を抱いたのかを理解できてはいなかった。

そして翼が束の言葉に引っ掛かっている内に思考を終えたであろう千冬と束は顔を合わせ頷く。

 

「なあ翼」「ねえつーくん」

「「私達に……」」

 

「「「ねぇねぇ‼︎魔法ってなに!僕(私)にも教えてよ‼︎」」」

 

「げっ、栞達も聞いてたのか‼︎」

「うん、最初の方から!」

 

2人揃って翼に魔法を教えて貰おうとしたその時、翼の部屋の扉が勢い良く開き()達が雪崩れ込んできた。聞くに3人もまたかなり始めの方から翼の話を盗み聞きしていたらしくどうやらごまかせそうにない。

 

「と、言う事だ翼……」

 

「「「「「私(僕)にもちゃんと教えてね?翼先生(翼兄)?」」」」」

 

「勘弁してくれ……」

 

結局、翼は千冬、束、栞、一夏、箒の5人に魔法を教える事になってしまったのだった。

 

 




小学生から中学生への転換点でありここからが正史から徐々に食い違ってくるもの型としての転換期、この魔法の流出によってこの先どう変わってくるのか。それは神様(作者)にだって分からない……



何て事はあんまり無いです、はい。筋は作ってあるんですが偶に暴走するんですよね、主人公達が。

因みにこのトラック事故に遭い掛けたこの男女2人組、分かる人にはわかりますよね?こらそこ、季節が違うとか言わない!

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