間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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そして、比企谷 八幡は強いられる

 小町と別れた後、西住の家に向かった。マジで今から女子の部屋に入るのか俺。今更ながらドキドキしてきた。

 

「比企谷、わかってるとは思うけど、女子の部屋だからって変なことしないでよね」

 

 変なことってなんだ変なことって。というか俺がなにかをする前提で話をするな。

 

「さっき勘違いしてたやつが何言ってるんだか」

 

「さ、さっきのことは関係ないでしょ!」

 

 そんな会話をしていたら西住の住んでいる寮に到着。

 

「散らかってるけどどうぞ~」

 

 そう言ったわりに、西住の部屋は普通に片付いている。

 片付いてるけど、目につくのが大量のクマのぬいぐるみ。

 そのクマたちはとこどころ包帯やギブスなどしている。これ全部ボコなんだよな。

 引っ越したばかりでものがないからか、余計にボコの存在感が半端ない。

 

「比企谷くん、これが私の大事なボコのぬいぐるみだよ!」

 

「お、おう……」

 

 よっぽどうれしいのだろう、いつもと西住のテンションが違い過ぎて若干俺がついていけてない。

 包帯グルグル巻きのクマを手に取る。よほどこいつは西住に大切にされているのだろう。ところどころほつれを治している箇所があり、長年使われているのが覗える。これだけで西住がボコのことをどれだけ好きなのかわかってしまう。

 

「ん、いいもん見せてもらったわ」

 

 そんな西住と俺のやりとりが終わり。

 

「よしっ、じゃあ晩御飯作りますか! 華はジャガイモの皮を剥いてくれる?」

 

「あ、はい」

 

「私ご飯炊きます!」

 

 そう宣言した秋山は、背負っていたリュックから飯盒などを次から次へと出してくる。

 

「おい秋山、もしかしてそれいつも持ち歩いてるのか?」

 

「はい! いつでもどこでも野営できるように」

 

 ちょっ、常備サバイバルセット持ち歩いてんのかよ。これにはさすがの武部も苦笑いしている。

 

「きゃっ!」

 

 キッチンから五十鈴のやつの悲鳴が聞こえてきた。これはあれか、指でも切ったか。

キッチンを覗くと案の定、五十鈴のやつが指を切っていた。

 

「すいません。花しか切ったことがないので」

 

 それでよくまかされたな。

 

「西住に絆創膏もらって消毒してきてもらえ、後は俺がやっとくから」

 

「す、すいません……」

 

 見ていてあまりにも危なっかしかったので交代させてもらった。

 

「比企谷、料理できるの?」

 

「ん?ああ、これでも専業主夫目指してるからな」

 

「専業主夫ってことはつまり働かないってことでしょ?

それってニートじゃん」

 

 お前は今言ってはいけないことを言った! 全国の専業主夫に謝れ!

 

「は? 違うから、あんなのと一緒にするな。てか武部、お前こそ料理出来んのかよ」

 

「それは見てのお楽しみってね!」

 

 武部のやつはおもむろに眼鏡を取り出し、なぜか眼鏡をはめる。なに? 眼鏡かけたらパワーアップするの?

 そんなこんなで調理が終わる。まじで武部のやつ料理できたんだな。しかも普段からやり慣れているようで、作業を見ていても特段問題がなかった。

 

「じゃあ食べよっか!」

 

「はいっ!」

 

「「「いただきまーす!」」」

 

「……いただきます」

 

 しかし武部のやつ言うだけあって料理の腕はなかなかだな。

 

「ん~! おいしい!」

 

「いやー男を落とすにはやっぱ肉じゃがだからね~」

 

「落としたこと……あるんですか?」

 

「何事も練習でしょ!」

 

 まあ何事にも練習は大切だが、それが男に披露できずに終わらないといいな武部よ。あれ? そう考えると俺は武部の手料理を食べた初めての男になるのか? 武部に言わんとこ、絶対に文句言われるわこれ。

 

「というか、男子ってホントに肉じゃが好きなんですかね?」

 

「都市伝説じゃないんですか?」

 

「そんなことないもん! ちゃんと雑誌にも書いてあったし!」

 

 それを鵜呑みにするのはどうなんだ。その雑誌を読んで今の現状なんだからそろそろ気づいてもいいんじゃないか?

 

「ねえ、比企谷くんは肉じゃが好きなの?」

 

 そこで俺に話を振るのね西住。

 

「あのな、男は単純なんだよ。それこそ女子の手料理ってだけで喜ぶと思うぞ、味なんて関係なしで」

 

「えー、それはそれでなんかヤだなー」

 

 注文の多い奴だな。だったらどうしてほしいんだよお前は。男に多くを求め過ぎじゃなかろうか。

 

「だってやっぱり好きな人にはおいしいのを食べてほしいじゃん……」

 

「……武部」

 

「なに比企谷?」

 

「ぶっちゃけ、俺的にはどうでもいいんだが」

 

「ちょっ酷くない、比企谷! 今のなぐさめる流れでしょ!」

 

 いや知らんがな。俺がなんでそんな面倒くさいことをしないとならないのか。

 さてと、飯も食い終わったしそろそろ俺は帰らせてもらうとしますかね。

 

「ごちそうさん。ほんじゃ俺は帰らせてもらうわ」

 

「えっ、比企谷くん、もう帰っちゃうの?」

 

「まあこれ以上やることないし、俺がいても邪魔だろうしな」

 

「そんなことないと思うけど……」

 

 いやいや、なんでそこまでして俺を引き留めるの西住? あれなの? 俺のこと好きなの? 違いますね、知ってた。

 たぶんボコのことでいろいろ話したいんだろうが、男子が女子に囲まれながらする話じゃないしな。いやまあ、男子が女子と二人で話す内容でもないな普通に。

 

「後は女子同士で仲良く過ごしてくれ、じゃあな」

 

「うん、じゃあまた明日ね。比企谷くん」

 

「おう」

 

 

 ====

 

 

 そんでもって次の日。

 小町が「昨日は頑張って疲れたからお兄ちゃん小町を自転車で学校までつれてってー」の一言により小町を学校にまで送ることになったのだが、その登校途中、足元が覚束ない女子を発見した。

 

「お兄ちゃん、あの人学校まで連れていってあげなよ」

 

「いや、面倒くさいんだが」

 

「でもここで見捨てて事故にでもあったら小町いやだよ。だから、ね?」

 

 俺が事故したことを思いだしたのか、小町は不安そうな顔をしている。

 まあ、あれは見ていて不安になるレベルではある。正直面倒だがしょうがないか、かわいい妹の頼みだ、やりますか。

 

「……はあ、わかったよ。連れていけばいんだろ?」

 

「さっすがお兄ちゃん、愛してるよ!」

 

「はいはい、俺も愛してるよ」

 

「なんか扱いがぞんざいじゃない? 小町的にはポイント低いよお兄ちゃん」

 

 でた小町の謎のポイントシステム。溜まったらどうなるんだろうか? 小町と結婚でもできるのかしら、いやさすがにそれはないな。

 まあ、とりあえず話しかけるか。

 

「おい、大丈夫か」

 

「つらい……」

 

「は?」

 

「生きているのがつらい……。これが夢の中ならいいのに」

 

「わかる、わかるぞ!」

 

「……ごみいちゃん」

 

 はっ! いかん一瞬共感しちゃったよ。てか小町よ、ごみいちゃんはやめて。

 

「それじゃあお兄ちゃん、ちゃんと連れていってね。小町は学校に行くから。それからまた事故に遭わないでよね」

 

「そんなにひょいひょいと事故には遭わんから安心しろ」

 

 じゃあねーと言って小町は走り去ってしまった。自転車の荷台にでも乗っけていくか。

 

「とりあえず学校までは連れていってやるから後ろに乗れよ」

 

「すまない……」

 

「礼は後で妹にでもしてくれ」

 

 と言っても小町がまた会うかは知らんが、まあいいだろう。

 あまりにもフラフラしていたので運転中大丈夫かと思ったが、後ろに乗ったら俺の腰に手をまわし、がっつりホールドしてきた。状況が状況なら胸がときめいたかもしれんが、なんせこれだからな、正直なんとも思わん。

 自転車を漕いで学校に着いたのだが、校門に風紀委員がいた。これまた面倒である。

 そしてその風紀委員は俺の後ろにいる女子を睨みつけて。

 

「冷泉さん、これで連続245日の遅刻よ!」

 

 え、まじ? なにやったらそこまで遅刻をするんだろうか。あれか、低血圧かなんかなのかねこいつ。

 

「朝はなぜ来るのだろう……」

 

 ……わかる。

 

「朝は必ず来るものなの! 成績がいいからってこんなに遅刻ばっかりして留年しても知らないわよ!」

 

 確かに成績が良くてもこの遅刻だと進級できるかどうかも怪しいな。

 

「それとそこのあなた! 深刻に目が腐ってるわね、どうにかしなさい!」

 

 すいません、これはデフォルトだからどうにもなりませんあきらめてください。

 てか、注意されるほどにやばいんだろうか俺の目は。そんなに腐ってる? 腐ってますね、はい知ってた。

 

「あと途中で冷泉さんを見かけても今度から先に登校するように!」

 

「わかりました」

 

 まあ、今回は小町が頼んだから運んだわけなので別にいいんだが。

 

「そど子……」

 

「なにか言った……?」

 

「別に……」

 

 なんか因縁でもあるんかねこの二人。

 そして別れる際。

 

「悪かった、いつか借りは返す」

 

 フラフラしながらそう言って去っていった。ホント大丈夫かねあいつ。

 そんなこんなで倉庫前に来たときは俺と教官以外全員そろっていた。

 

「遅かったね比企谷くん。なにかあったの?」

 

「ああ、ちょっとな」

 

 俺もだいぶ遅く来たようだが、昨日言っていた教官がまだ来ていない。

 

「教官も遅ーい。焦らすなんて大人のテクニックだよねー」

 

 そしてもう何度目だろうか? 武部のやつもあきらめないな、メンタル強すぎだろ。

 それと俺の予想だと教官はどう考えても女だろう。なんでかって? 戦車道を教えてくれるなら戦車道をやっているのだろう、なら高確率でそいつは女だ。

 そんなことを考えていたら飛行機が飛んできた。

 そこから戦車が飛び出しパラシュートで降りてきて着地したかと思ったら駐車場にあった車を吹き飛ばす。

 おいおい大丈夫なのか? だいぶ高そうだったぞあの車。

 

「学園長の車がっ!」

 

 そんな小山さんの悲鳴が聞こえてきた。そうか、あの車は学園長のだったのか。もうあれだ。ご愁傷さまとしか言えないわ、ホントに。

 そして追い打ちをかけるがごとく、戦車は吹き飛ばした車をバック走行で踏みつけぺしゃんこにした。

 学園長に恨みでもあるのだろうか。

 

「ふう~!」

 

 それを見て会長のテンションが上がっている。これを見ていると一連のことがグルかなんかじゃないのかと疑ってしまう。いやまじで。

 戦車は吹き飛ばした車のことなどまったく気にせずまっすぐこちらに向かってきた。少しは気にしろよ……。

 そして戦車の中から人が出てきた、もちろん女性である。

 残念だったな武部よ、まあ次の出会いがあるさ。

 

「騙された……」

 

「でも素敵そうな方ですね」

 

「特別講師の戦車教導隊、蝶野 亜美一尉だ」

 

「よろしくね!、戦車道は初めての人が多いと聞いていますが一緒に頑張りましょう!」

 

 多いではなく、ほとんどいないんだが経験者。

 そしてなにかに気づいたのか蝶野さんは西住に近づいていった。

 

「あれ? 西住師範のお嬢様じゃありません? 師範にはお世話になっているんです! お姉様も元気?」

 

 そういうことか、これは不味いな。

 そう思って西住を見てみると。

 

「あ、はい……」

 

 目に見えて落ち込んでいる。やっぱりか、まだ色々と折り合いがついていなんだろな西住のやつ。

 それにあわせて周りが騒がしくなる。

 

「西住師範って?」

 

「有名なの?」

 

「西住流っていうのはね、戦車道の中でももっとも由緒のある流派なの!」

 

 まあ一つ付け加えさせてもらうと西住流と並んでもうひとつの流派がある。島田流である。

 実際に今の日本の戦車道で有名なのはこの二つの流派だ。

 

「教官! 教官はやっぱりモテるんですか!?」

 

 武部が西住の雰囲気が変わったの察して話を変えだした。

 前にも言ったと思うがこういうことが出来るのになんでモテないんだろうなあいつ。不思議だ。

 西住もそれがわかったのだろう、嬉しそうに武部を見ている。

 

「うーん、モテるというより狙った的を外したことはないわ、撃破率は120%よ!」

 

 その言葉に女子たちは歓声をあげる。てか120%てオーバーキルしてるよねこれ?

 

「教官、本日はどのような練習を行うのでしょうか?」

 

「そうね、本格戦闘の練習試合さっそくやってみましょう」

 

 は? まじで言ってるの? さっき自分で言ったことをもう忘れてしまったのかこの人。

 

「えー! いきなり実戦ですか!?」

 

「大丈夫よ、何事も実戦実戦! 戦車なんてバーッと動かしてガーっと操作してドンと打てばいいのよ!」

 

 で、出たー、感覚だけで操縦してる人だよこの人。俺の苦手なタイプの一人だ。え? 逆に得意なタイプはいるかって? ……いや、いないけどさ。

 

「それじゃあ、それぞれのスタート地点に向かってね」

 

 まじでこのまま始める気だよこの人。

 各チームが自分たちなりに戦車を動かそうとしている姿を眺めていると、蝶野さんに話しかけられる。

 

「あなたが戦車道を手伝っているっていう男の子?」

 

「あ、ども。比企谷 八幡です」

 

「比企谷?」

 

 ん? どうしたんだろうかいきなり黙り込んで。

 

「……もしかして。あなた、比企谷 小町さんのご家族?」

 

「え? あ、はいそうですけど。小町は俺の妹です」

 

「そう、あなたが……」

 

 そして蝶野さんはなにかを考え始めた。というかこの人なんで小町のこと知ってるんだ? 戦車道繋がりでなにかあるんだろか? そんなことを考えていると。

 

「はい! みんな早く乗り込んで!」

 

 切り替え早いな、なんか仕事ができる感じがする。さっきはあれだったけど。

 

「じゃあ各チーム役割を決めてくれる?」

 

 チームの役割は戦車に乗る人数で決まる。だから人数が少ないと一人当たりの役割が増えていき、逆に人数が多いとその役割に専念できるわけだ。

 どうやら武部たちはくじ引きで役割を決めるようだ。てかくじ引きて、適当だな。

 どうやら各チーム役割が決まったようで、それにともなって戦車が動き出している。

 

「比企谷くん、あなたは私に着いてきて頂戴」

 

「え、俺ですか?」

 

「そうあなたよ。一緒に観戦しながらいろいろお話しましょ。これからについて」

 

 これからってのは私たちの将来とかそんなのじゃないですよね? 戦車道のことですよね?

 俺がわけもわからずビクビクしていると。

 

「小町さんのこととか聞いてみたいことがあるだけよ?」

 

 あまりに俺が挙動不審だったのだろう、蝶野さんはそう言ってくれた。

 

「それと比企谷くん、なにもしなくてはいいけど、みんなの動きをよく観察しといてね。これから必要になってくるだろうから」

 

「観察ですか? 現状今の段階だと素人の集団ですよ?」

 

「あなたも会長さんから話は聞いてるんでしょ? 廃校になることは」

 

 驚いた、会長は蝶野さんにそのこと話していたのか。

 

「まあ、そうですけど」

 

「だから今後のためにもちゃんと見ていたほうがいいわ。あなたも戦車道の全国大会出るのだし」

 

 なんてことを蝶野さんはいいだした。

 は? 今なんて?

 

「……あの、それはどういうことですか?」

 

「あら、そのことは聞いてないのね。私から話すのもなんだし、あとで会長さんから直接聞いて頂戴」

 

 おいおいどういうことになってるんだ? 俺が戦車に乗るのは知っている、会長さんが言ってたからな。だけど戦車道の全国大会に出るって……。

 まじであの生徒会長に事の真偽を確かめないといかんな。

 

「さて、そろそろ私たちも移動しましょうか」

 

 そして俺たちの移動は終わったのだが、まだ西住たちはそれぞれのスタートポイントに着いていないようだ。操縦に苦戦しているのだろう。

 

「比企谷くん的にはやっぱり西住さんが勝つと思う?」

 

「まあ、普通ならそうでしょうけど、状況が状況ですからね」

 

「というと?」

 

「さっき蝶野さんが言ったじゃないですか、西住流は戦車道が強いって」

 

「……そうね」

 

「だから西住たちが誰を狙うかわかりませんけど。ほかのやつらは狙っていくでしょうね、西住たちを」

 

「やっぱり人のことよく見ているわね」

 

「やっぱり?」

 

「ええ小町さんに聞いた通りの人物だわ、あなた」

 

 小町から何を聞いているんだろうか? まあどうせろくなことではない気がするが。

 

「小町のこと知ってるんですね、蝶野さん」

 

「あなたが思っている以上にあなたの妹さんの小町さんは戦車道では有名なのよ?」

 

「そんなにですか?」

 

「ええ、中学ではほとんど敵がいないくらいには強いわよ彼女」

 

「……そうなんですね」

 

「実際彼女の戦車道を見てみたのだけれど、島田流とは全然違う戦い方でびっくりしたわ」

 

 俺の家のポジショニングを説明すると。比企谷家は島田流の分家にあたり、それで小さい頃から小町は戦車道について学んでいる。

 

「彼女ね、中学生とは思えないほど相手の裏をかいたり心理を読んだりそういうのがずば抜けていて、よく相手の戦車を不意打ちや思いもよらぬ作戦で倒していたわ」

 

 島田流とは、「日本戦車道ここにあり」と世界に名を馳せた日本戦車道流派の一つだ。 圧倒的火力と一糸乱れぬ統制で敵を殲滅する西住流とは違い、臨機応変に対応した変幻自在の戦術を駆使する戦法を得意とする。その変幻自在さから「ニンジャ戦法」と呼ばれている。

 だが小町はそのどれにもあてはまらず、まるで相手の考えがわかるかのように戦場を駆け抜け相手の戦車を倒していると蝶野さんは説明してくれた。

 

「だから私聞いてみたの、どうしてそんなに相手の動きがわかるのかってね」

 

「小町は、なんて答えたんですか?」

 

「私はただ兄の真似をしてるだけですよって言われたわ」

 

「俺の……」

 

 ああそういうことか、思い出した。

 昔、小町とよく戦車のシミュレーションゲームをやっていた。俺がやっていた戦法が、とにかく相手の裏を読んで不意打ちなんでもごされの子供らしからぬ戦法をとっていた。

 あまりにもえげつなさ過ぎて、負けまくった小町が泣き出したほど。

 つまり小町はその時の俺の戦法を使っているんだろう。

 

「比企谷くん?」

 

 蝶野さんのその言葉で現実に引き戻される。

 

「なんでもありません、大丈夫です」

 

「そう? そろそろみんなポイントに着いたようね」

 

 そう言って蝶野さんは双眼鏡から目を話し無線機を取り出した。

 

『みんなスタート地点には着いたようね、ルールは簡単、全ての車両を動けなくするだけ』

 

 ウ、ウワー、カンタンダナー。

 

『つまりガンガン前進して、バンバン撃って、やっつければいいだけ、わかった?』

 

 わかるもなにもざっくりしすぎですよ蝶野さん。

 

『戦車道は礼に始まって礼に終わるの、一同、礼!』

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

『それでは!試合開始!』

 

 

 ====

 

 

 試合結果を言おう。西住たちのチームの勝ちだった。

 だが、試合内容はそこまで悪いものではなかった。俺の予想した通り他のチームは西住のチームを狙い多数対一になり最初にバレーボールチームが先制をしかけ、それを皮切りに他のチームも攻撃をし始めた。

 結果、多数対一となり、西住たちは橋の上まで追い詰められてしまう。

 そこから西住たちの戦車の動きが格段によくなり、西住たちがカエサルチームを撃破。次いでバレーボールチームを撃破していった。

 会長たちの戦車もいいポジションにおり二両同時に攻撃をしたのだが、西住たちの攻撃は当たり会長たちの攻撃はかすりもしなかった。残ったのは一年生チームだけなのだが立て続けて戦車を撃破していく様を見て撤退するのは良かったのだが、あまりにも慌てていたせいか履帯が地面に足を取られ空回りし外れてしまったことによりリタイア。

 そんなこんなで西住たちの勝利となった。言っておくが西住を除き全員初心者だったのだ、それを考えると動き自体は悪くないものであり練習をすればより上手くなっていくだろう。だが、戦車道の全国大会で優勝となるとまだまだ足りないものがいくつもある。

 ふう、これから大変そうだ。

 そして蝶野さんのアナウンスが流れる。

 

『DチームM3、Eチーム38t、CチームⅢ号突撃砲、Bチーム89式、いずれも行動不能、よってAチームⅣ号の勝利!』

 

 まあ、これは西住たちが勝ったというよりは他のチームが勝手に脱落していったと言うのが正しいだろうな。

 

『回収班を派遣するので、行動不能の戦車はその場に置いて戻ってきて』

 

 そして全員倉庫前に集まり、蝶野さんの話が始まった。

 

「みんなグッジョブベリーナイス!初めてでこれだけ動かせれば上出来よ!特にAチーム、よくやったわね」

 

 その言葉に西住以外のやつらは嬉しそうな顔をしている。

 

「あとは日々、走行訓練と砲撃訓練に励むように!わかんないことがあったらいつでもメールしてね」

 

 最初はめちゃくちゃで厳しい人かと思ったが、なかなかフレンドリーだなこの人。

 そして河嶋さんの号令がかかる。

 

「一同、礼!」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

 そしてその日は解散となったのだが、俺は生徒会長に聞きたいことがあったので、行きたくはないがしぶしぶ生徒会室に足を運ぶ。

 

「どうしたの、比企谷ちゃん?」

 

「どうしたもこうしたもないですよ。どういうことですか? 俺が戦車道の全国大会に出るって」

 

「ああそのこと、それなら言葉通りの意味だよ」

 

「言葉通りって、俺、男ですよ?」

 

「ねえ比企谷ちゃん、大会の名前言ってみて」

 

 なんだろうか、俺は馬鹿にされているのだろうか?

 

「それはもちろん、戦車道全国高校生大会って……まさか」

 

 そこで気づいてしまった。この生徒会長がなにを言わんとしているのかを。

 

「そのまさかなんだよね~、どこにも女子とは書かれていないんだよ、比企谷ちゃん」

 

 すごい悪い顔をしてらっしゃられる。

 まじでこの会長さん頭のねじが一個どころか全部飛んでるんじゃないのか?

 

「それは詭弁もいいところでしょ、戦車道連盟がなんていうか」

 

「それも別に大丈夫だよ。大会の規定に男子の参加を認めずとか書かれてないから」

 

 いや、そりゃそうでしょうよ。誰が好き好んで女子しかいないところに参加するんだよ。ラノベのハーレム主人公でもない限りその状況は限りなく地獄である。もし自らそこに行くやつは鋼のメンタルか自殺願望者だろう。ちなみに俺はどちらでもない。

 

「それとちゃんと申請すれば問題ないみたいだったから、比企谷ちゃんの分を申請しといたよ」

 

「申請しといたよって、まず俺は出るともなんとも言ってないんですが……」

 

 俺の意見はどうなっているんですかね、存在していないのかな?

 

「比企谷、貴様に拒否権はない。そもそも作文のことを忘れたのか?」

 

「比企谷くん、何事もあきらめが肝心だよ」

 

 あれだ。小山さん、意外とこういうところではいつものほんわか雰囲気ではなくなる。天使だと思っていたらいつのまにか堕天していたみたいな。いや、関係ないか。

 なんだろ、小山さんが堕天すると聞くと少しエロい響きに聴こえてしまうな。

 

「まあ、小町ちゃんに頼まれたって部分が大きいんだけどねー」

 

「いや、それだと別に全国大会出る必要はないですよね俺?」

 

「そこはあれだね、そっちのほうが面白いと思ったからだよ私が」

 

 俺はちっとも面白くないですよ。まじどうしてくれんですか。別の意味で高校デビューしてしまうなんて夢にも思わなかった。

 

「明日から練習始まるから比企谷ちゃんも頑張ってね~」

 

 そして本当の意味で俺の戦車道が始まり始めたのだった。


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