間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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本編
そうして、彼と彼女たちの戦車道が始まる


 戦車道、それは世界で戦車を用いて行なわれている武道である。現在ではマイナーな武芸とされているが、かつては華道・茶道と並び称されるほどの伝統的な文化であり、世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきた。礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸とされ、世界的に広く認知されている。                 

 だが少し待って欲しい、本当に待って欲しい。百歩……いや一万歩譲って戦車道が女子の嗜みと認めるとしよう。そこはいい。

 では逆になぜ男子が戦車を動かすことがおかしいいのだろうか?世界を見渡せば男女共通のスポーツなんていくらでもある。それこそ性別が女子であらねばならない!なんてものはない。

 別に男女が混同にとか俗物的な願いを抱いているわけではない。俺が言いたいのは、テニス・卓球・バレーボール、ほかにもいろいろとスポーツはあるが、男女別にきちんとわかれているからこそ住みわけができているということ。それなのに、戦車道ときたら……。

 

 本題に入ろう。男子が戦車道やるのはおかしくない。戦車に乗ってるのはおかしくはない。どこがいけないのか?俺が間違っている?いやいや、俺は間違っていない。もし間違っているとするならそれは世界の方であり、俺の目が腐っているのもぼっちなのもこの学園艦の自動販売機にMAXコーヒーが置かれていないのも全てはこの間違っている世界のせいである。男女平等を謳うのならこの間違った価値観をどうにかしないといけない。

 

 

 結論を言おう、この世界は間違っている。

 

 題名「戦車道について」 作 大洗学園2年 比企谷 八幡

 

 

 

 県立大洗学園。

 茨城県大洗町の飛び地として建造された学園艦及び学園艦に所在する学校。

 特段特筆すべきところがないこの学校、強いて言うなら歴史だけは古い伝統校と言うだけだろうか?

 そんな学校の生徒会室に、何故か俺は呼び出されているわけだが。

 

「ねぇ、比企谷ちゃん。なんで自分がここに呼ばれたかわかってる?」

 

 俺を今、「比企谷ちゃん」と呼んだこの人がこの生徒会の生徒会長の角谷 杏。

 小さい外見に騙されそうになるが、この人は一応三年生であり俺より年上である。この人に逆らうやつはこの学校にいられなくなるとか言われているほどに生徒たちの間では恐れられている。まじやばい。

 

「なんでですかね」

 

 心当たりがまったくない。

 俺は人間関係以外はそつなくこなして学園生活を送っていたと思うんだが……なんかやったっけ、俺?

 最近のオレの行動を思い返してみるか。

 朝、妹に起こされ朝食を取り学校に向かう。授業中以外は基本的に寝た振りをして休み時間を過ごしてるし、昼食はいつも人気のないところで一人で食べてるし、放課後は部活も入っていないから即帰宅してるし……。うん、どこからどう見てもいたって問題のない普通の高校生活を送ってるな、俺」

 

「……それを普通の高校生活とは呼ばないんじゃないかな」

 

 おっと、途中から声が漏れてたみたいだな。会長さんにつっこまれてしまった。

 

「比企谷。貴様、友達はいるのか?」

 

 俺にそう言ってきた片眼鏡をしているこの女性は、河嶋 桃。この生徒会の広報である。大洗界隈ではヘタレのももちゃんなるあだ名があるそうな。

 

「や、いるわけないじゃないですか」

 

「友達いないの比企谷くん!?」

 

 そしてこちらのおっとりしてる人が生徒会の副会長の小山 柚子。

 密かにファンクラブが作られるほど男子からの絶大な人気を誇っている。え?説明に差がありすぎるだろって?そこは色々察してほしい。

 

「……友達とか必要ないでしょ、べつに」

 

 そもそも友達いない=悪みたいな風潮がおかしい。友達がいなくても勉強はできるし、学業においてなんの支障もきたさない。

 まぁたしかに、青春という言葉を彩る際には必要なのかもしれないが。それこそ「卒業したら絶対また会おうね!」とか言っときながら結局会いはしないのだ。そんなどうでもいい上っ面な関係を友達と呼ぶのなら俺はいらないし欲しいとも思わない。

 

「それで学校生活は楽しい?比企谷ちゃん」

 

「人の顔を伺って大して興味もない話にうんうん頷きながら、友達(仮)と楽しくもしたくもない会話を繰り広げるよりは有意義な学校生活を送ってるつもりですけど」

 

「……これはそうとう重症だねぇ。まあ一旦この話は置いといて本題に戻ろうか」

 

 なんだったけ?あれか。俺が生徒会室に呼ばれた訳か。俺みたいな模範的な生徒なんていないぞ。うん、まじで。

 なんせ誰にも迷惑をかけずに学校生活を送っているからな。俺の席に女子が座っていても席を離れるまで待つ俺マジ紳士(どけと言える度胸がないともいう)。

 

「心当たりがないんですが」

 

「小町ちゃんから話がいってると思うんだけど。話聞いていない?」

 

「……あの、小町って、比企谷 小町ですか?俺の妹の?」

 

「そうそう。君の妹の、比企谷 小町ちゃん」

 

 俺の妹だった。同姓同名ではないらしい。会長さんは俺の妹と言ったから間違いはなさそうである。

 

「ちょっと待ってください。小町に確認とっていいですか」

 

「いいよ~。まあここ学校だから、あんまり長くなり過ぎないようにね~」

 

「ありがとうございます」

 

 俺は携帯を取りだし小町に電話をかける。

 

「もしもし?お兄ちゃんどうしたの?こんな時間にわざわざ小町に電話だなんて」

 

「ああ、そのことなんだが。小町、俺に何か言うことがあるんじゃないか?」

 

「え、なんのこと?」

 

 この妹、完全に忘れてやがる。電話の向こうできょとんした顔が優に想像できるぞ。

 

「ヒントは生徒会」

 

 これでわからないって言われたらどうしうかと思ったが、さすがに大丈夫だったらしく。

 

「あっ、忘れてた!お兄ちゃんに学校で戦車道を手伝うよう言っといてね~って言われてたんだった!」

 

 なんでそんな大事なこと忘れてるの小町さんよ。その年でアルツハイマーとかシャレにならないよ?

 

「ごめんね、お兄ちゃん。後で小町がなにかすると思うから許して!」

 

 するではなく思うなんだな、小町よ。それ絶対にあとで忘れるパターンだろ。

 

「……はぁ、わかった。すまんな、こんな時間にかけて。戦車道、頑張れよ」

 

「うん!じゃあ、お兄ちゃんも頑張ってね!」

 

 なにを頑張れと言うんだマイシスター。

 というか、小町はいつどこでこの生徒会長に会ったんだろうか。悪影響とか受けてないよな?心配だ。盗んだ戦車で走り出さなければいいんだが……。

 

「話は終わったかな?で、どうだった?」

 

「すいません。小町が言うの忘れてたみたいで」

 

「それじゃあ話が通じないわけだ。納得納得」

 

 ホントになんで呼ばれたかわかんなかったからな。

 

「で、さっき小町ちゃんが話した通りなんだけど。比企谷ちゃんには我が校の戦車道を手伝ってもらいたいんだよね~」

 

 手をひらひらとさせながら、会長は軽いノリで俺にそう頼んでくる。

 手伝い、手伝いねぇ。

 

「そもそも、この学校に戦車道なんてありましたっけ」

 

 俺の記憶が正しいならそんなものなかったはずだが。

 

「今年から始めるからね~」

 

「じゃあなんで戦車道なんですか、わざわざ始める意味でもあるんですか?」

 

「……それはね。この学校が廃校になっちゃうからなんだよ、比企谷ちゃん」

 

 今なんて言った?廃校?

 一瞬冗談かと思ったが、さっきまでへらへらとしていた会長さんの顔つきが真剣なものになっている。

 

「か、会長!わざわざそのことは言わなくても!」

 

「あわわわわっ。あ、あのね比企谷くん、これにはわけがあってね……!」

 

 二人の反応を見る限り、はいドッキリでした!みたいな展開にはならいみたいだ。これが演技だったら女優とか目指したらいいと思う。小山さんはグラビアに出れば売れそうだなー。

 いや、しかし、廃校ねぇ……。

 

「つまり、実績を作るってことですか」

 

「話が早くて助かるよ、比企谷ちゃん。つまりはそういうこと」

 

 廃校になる条件がなにかは知らんが。廃校にさせないだけの、廃校にすることができないレベルの実績を作ろうということなのだろう。

 

「簡単に優勝できるなんて思ってるんですか?」

 

「まぁ、パパーっと優勝できるならしたいよねぇ」

 

 えらく簡単に言うな。この人、本当に廃校を免れようとしているのか?

 

「そもそも、俺にメリットがなにもないんですけど……」

 

「これ、なーんだ?」

 

 メタモン!いや、あの鬼畜なシルエットクイズは置いといて。

 俺が素直に頷かないと想定していたのか、会長は一枚の原稿用紙みたいなものを俺に見せてきた。

 その原稿用紙をよく見ると、俺の名前が書いてある。

 

「……あの、どうしてそれが?」

 

 おかしい。あれはたしか授業で出た課題だったはずなんだが……なんでここにあるんだ?

 

「これがここにある事実はどうでもいいんだよ。ねぇ、比企谷ちゃん」

 

「……なんですか」

 

「私が言いたいこと、わかるよね?」

 

 普段から人の行動の裏を読んでいる俺からすれば、会長がなにを言わんとしているかなんて簡単にわかる。

 えーと。つまり、会長はこう言いたいわけだ。

 

 ―――言うこと聞かなきゃこれバラまくぞ、と。

 

 ……理解したくなかった。

 会長がひらひらとさせている原稿用紙が逮捕令状のように見えてきた。

 最初から俺に選択肢なんてなかったらしい……。

 

「責任者を呼んでもらえますか?」

 

 こういう時は上司を呼ぶに限る。お宅の社員の教育どうなってんですかねー?と問いただすために。

 

「責任者?私だけど?」

 

 はい、詰んだ。

 

「生徒会が必要な時には比企谷ちゃんを呼ぶと思うからその時はここに来てねー」

 

 逆らったらたぶん無事じゃすまないんだろうな。

 

「……わかりました」

 

「あ、それと比企谷ちゃんには戦車に乗ってもらうからよろしくね」

 

「……俺、男ですよ?わかってます?」

 

「大丈夫大丈夫。たぶん、戦車道に集まる子たちは戦車道のこと知らないから」

 

 それはいろいろと大丈夫じゃないだろ……。いや、それ以前に、

 

「戦車道やるにしてはいろいろ足りないものが多くないですか?」

 

「それは大丈夫だよ」

 

 会長はなにがとは言わなかったが、自信満々に俺にそう答える。もう対策を打ってるらしい。

 これで話は終わりらしく、生徒会室退出間際の「明日を楽しみにしててね~」と、会長の呪詛にもにた言葉に送り出され、俺は生徒会室をあとにした。

 

 

 ====

 

 

「はぁー、まじでこれからどうなるんだ……」

 

 次の日、あの会長さんの呼び出しもなく昼休みを迎えた。

 てっきり朝からなにかを手伝わされると思ったんだけどな。別に呼び出されないことはいいことなのだが……。

 

「……逆に怖いな……」

 

 まあ考えてもしかたないし、昼飯でも食いに行くか。

 そして俺がいつものベストプレイスへ行こうとした時、一人の女子生徒が目についた。

 そこから奇妙な光景が始まる。

 シャーペンを落としてから拾おうとする。まぁ、普通。

 拾おうとして机の下に潜り込む。まぁ、普通。

 最終リザルト―――筆記用具のすべてをぶちまける。……いや、なにがあったし。

 そんな飛散した筆記用具の中に見覚えのあるものが目についた。ん?あれはたしか……、

 

「ふむ、ボコか……」

 

 また珍しいものを―――

 

「ボコのこと知ってるんですか!?」

 

 まるで生き別れた兄妹をみつけたような勢いで、先程の女子が俺に迫っていた。

 

「ちょ、ちょっと落ち着け!あと近い近い!離れてくれっ!」

 

「あ、す、すみません。突然急に……」

 

「お、おう……」

 

 まじでビックリした。ボッチに気安く近づくのはやめてほしい。

 

「あ、あの。私、西住 みほっていいます」

 

 ん?西住?それってたしか……、

 

「なぁ、つかぬことを聞くんだが、お前って戦車道やってたりするのか?」

 

 俺の言葉にビクッと、西住はわずかに反応した。

 

「……今は、やってないよ……」

 

 今は、ね。

 たしか西住って名前は、戦車道の家元の名前だったはずだ。知り合いの人がよく打倒西住流とか言ってたから間違いないだろう。

 

「そうか。じゃあ、俺の名前は―――」

 

「……聞かないの?」

 

 どうやら西住は俺に根掘り葉掘り聞かれると思っていたらしい。

 

「なんだ西住、話したいのか?」

 

「う、ううん。そうじゃないけど……」

 

「なら別に話さないでいいだろ。俺もそこまでしりたいわけじゃないし」

 

「……ありがとう、比企谷くん」

 

 西住はいきなり俺にお礼を言ってくる。

 

「いや、俺はなにもしてないし……ってかなんで俺の名前知ってるんだ?」

 

 俺はまだ自己紹介はしてないはずだが。

 

「名前は比企谷 八幡くん。それと誕生日は8月8日だったと思うんだけど……あってますか?」

 

「――――」

 

 これには驚いた。俺のこと知っているやつがいるなんて。しかも誕生日まで。ちょっと俺のなかで軽めの革命が起きている。なんだ?なにが起きた?革命返しするなら今ですよ?

 

「その。私、転校してきたばかりでこっちにまだ友達がいなくて。それで、誰とでもいつ友達になっても大丈夫なように名簿を見てクラスの全員の名前と誕生日を覚えてるの」

 

 なるほど、西住もボッチだったのか。俺と違ってアクティブボッチだけど。

 あれだよ。俺なんてクラスのやつほとんどの名前を知らないんだが。逆に俺の名前を知ってるやつなんて一人もいないまである、なんせボッチだしな。いやまぁ、西住は知っていたんだが。

 

「あ、あのっ!それで、好きなんですか!?」

 

「―――は?」

 

 ちょっと待とうか。主語をいれよう。それだとあらぬ誤解が生まれてしまう可能性がある。

 あと顔を赤らめて上目遣いで言うのやめてくださいお願いします。俺のこと好きなんじゃないかって勘違いしそうになるから。

 昔の俺だったら勘違いしてその場で告白までしてすぐ振られるまである。振られちゃうのかよ……。

 

「それってボコのことか?」

 

「うん、そうだけど。なにかおかしかったかな?」

 

 西住って天然なんだろうか?悪い詐欺とかにひっかからないよな?

 

「好きかどうかで答えるなら別に嫌いではない」

 

 まあぶっちゃけ好きだけど。好きになった理由を言うとなると、俺の黒歴史を西住に話さないといけなくなるからそこは割愛させていただいた。

 

「そうなんだ……。ボコを知ってる人がこんなに近くにいたなんて嬉しいなぁ」

 

 さっきまでの筆箱ピタゴラス事件(勝手に命名)を起こしてしょんぼりしていた同一人物とは思えないほど嬉しそうに笑う西住を見ていると、別人なんかじゃないと疑ってしまいそうになる。

 

「まあ、人気ないからな、コイツ」

 

「そうなんだよね……。こんなに可愛いのに……」

 

「か、可愛いか?」

 

「うん!」

 

 可愛いときたか。そんなこと言うやつは西住で二人目だ。ちなみに一人目は親戚の子だ。まじジャンキーかってレベルでボコ好きである。さすがに西住はそのレベルじゃないと思いたい。

 先程から話にあがっているボコなんだが、正式名称はボコられグマのボコといって、ひたすらにボコがボコボコにされるという話のせいか人気が驚くほどにない。

 ちなみになんだが、小町がボコを気に入ってる理由が「なんかボコってお兄ちゃん似てるよね。あっ今の小町的にポイント高い♪」だそうだ。

 待ってくれ小町、それだと俺は常にボコボコにされてるってことにならないか?いや、あながち間違っていないのかもしれないが……妹よ、お兄ちゃん的にポイント低いよ。

 

「それより西住。お前、飯はいいのか?」

 

「あ、そういえば……」

 

 どうやらボコの話に夢中になって今が昼休みなのを忘れていたらしい。ボコのこと好きすぎだろ、西住のやつ。

 しかしあれだな。ボコのことになると人が変わるというか、あの笑顔で迫れば誰でも直ぐに友達になれる気がするんだが……。

 

「Hey!彼女!一緒にお昼どう?」

 

「えっ……?」

 

「ほら沙織さん。西住さんも驚いていらっしゃるじゃないですか……」

 

「あ、いきなりごめんね?」

 

「よろしかったら一緒にお昼どうでしょうか?」

 

「わ、私とですか!?」

 

「そうそう」

 

「え、えっと……」

 

 なぜが西住はチラチラと俺を見てくる。

 行きたいなら行けばいいのに。……あれか、俺のことを気にしているのだろうか?

 

「ひ、比企谷くんも一緒にどうかな?」

 

「……いや、俺は遠慮しとく。女子の中に男子が混ざってもな。俺のことは気にしないでいいぞ別に」

 

「あ、う、うん……わかった。ごめんね?」

 

 そんな捨てられた子犬みたいな目でみないでくれ。

 西住的には俺も一緒に行くものと思っていたのだろうか?でも、そもそも誘われたのは西住だしな俺はいらんだろ。それに俺が行かない方が西住もあの女子二人と話がはずんで仲良くなれるだろうしな。

 

 さてと、いつもより少し遅くなってしまったが、俺も飯でも食いにいきますかね。

 

 

 ====

 

 

 昼休みを満喫して教室に戻ってみると、西住の様子がおかしくなっていた。

 具体的には目のハイライトが仕事をしておらず、授業中だというのに教科書やノートは閉じたまま。教師が西住に授業の質問をしてもしばらく反応がなくどこか上の空だった。

 さすがにそれを見かねた教師が西住に保健室に行くよう促し、先程西住と食堂にいった女子二人もあの状態の西住が心配だったのか、一緒に付いていった。

 あの様子を見る限りじゃ友達にはなれたようだな西住のやつ。

 

 そしてその後滞りなく今日の授業が終わり、あとはHRだけになったのだが。その直後全校放送が流れてきた。

 

『全校生徒に告ぐ、体育館に集合せよ』

 

 昨日の今日でこれとなると、十中八九戦車道絡み。

 

 案の定、体育館に集合させられた目的は戦車道についてだった。

 まず最初に、戦車道が如何に素晴らしく戦車道をやることが如何に女子にとって重要であるのか、というのをひたすらに説明をしている動画を見せられた。

 簡単に言うと戦車道をやれば女子力が上がり男にモテる、と。

 まじで男子に見せる必要なかっただろこれ。

 しっかしあれだな。こんなので戦車道にくる奴なんていないんじゃないかと思っていたのだが、女子の反応を見てみると案外乗り気なのである。

 まじで?お前らもうちょっと物事を真剣に考えた方がいいんじゃないの?馬鹿なの?

 そして動画が終わり昨日の生徒会三人が壇上に上がってきた。

 

「実は数年後に日本で戦車道の世界大会が開催されることになった。その為、文科省から全国の高校大学で戦車道に力を入れるよう要請があったのだ」

 

「んで、うちの学校も戦車道復活させるからねー。選択するといろいろ特典を与えちゃうと思うんだー。……副会長」

 

「成績優秀者には食堂の食券百枚、遅刻見逃し200日、さらに通常の授業の三倍の単位を与えちゃいます!」

 

「ということでよろしくー」

 

 異常なほどの好条件を叩きつけてきたな、あの会長。つまりはこれが会長の戦車道の人員あつめの策ってわけか。

 

 

 ====

 

 

 そして次の日の昼休み、俺は生徒会室に呼び出されてお使いを頼まれる。

 

「比企谷ちゃん。西住ちゃんが戦車道選択してないからここに連れてきてね~」

 

 とのこと。校内放送で事足りるはずだろうに……。

 たぶん昨日と一緒で食堂で食べているだろうと目星をつけ、俺は食堂へと向かう。

 そして食堂を覗いてみると目当ての人物がいた。

 

「西住、ちょっといいか?」

 

「どうしたの比企谷くん?」

 

「ねえ、ミホ……」

 

「そちらのかたは西住さんの知り合いですか?」

 

「えっと、同じクラスの比企谷 八幡くん」

 

「えっ?同じクラスだったの!?」

 

「すいません私も覚えがないのですが……」

 

「あ、あはは……」

 

 さすがのこれには西住も苦笑いである。ステルスヒッキーの性能は伊達ではないのだよ。てか君たち、昨日西住を誘ったときに俺を見ているはずだろ。どんだけ存在感ないんだろうな俺……。

 いつも以上に目を腐らせていたらいつの間にか自己紹介が始まった。

 

「私は武部 沙織、よろしくね!」

 

 無駄に元気がよろしいようで。うん、なんかコイツあれだな。初対面でいうのもなんだが頭が軽そうだ。

 

「わたくしは五十鈴 華といいます」

 

 こちらの方は如何にもな感じのお嬢様な感じがするな。着物とか似合いそうだ。

 

「さっき西住から紹介があったから俺はいらないな」

 

「じゃあ比企谷だからヒッキーだね!」

 

「却下」

 

「即答!?」

 

 ヒッキーってなんだよ。引きこもりだとでもいいたいのか?さすがの俺も泣いちゃうよ?いや、泣かないけどさ。男が泣いても気持ち悪いだけだし。

 

「それで、比企谷さんは西住さんに用事が?」

 

「はっ!まさか告白!」

 

「えっ!?」

 

「あらあら、まあまあ」

 

 西住が驚き、五十鈴のやつは顔に手をあて、武部のやつは興味津々にこちらを見てくる。

 いや違うから、てかやっぱり武部のやつ恋愛脳(スイーツ)かよ。なんでもかんでも恋愛に結びつけるな。あと西住よ、顔を赤くするんじゃない。勘違いしちゃうだろ。

 

「違う。生徒会から西住を呼んでくるよう言われただけだ」

 

「え、じゃあヒッキーって生徒会だったの?」

 

「いや違うが」

 

 あとヒッキーいうな。

 

「じゃあなんで生徒会の手伝いなんてしてるのよ!」

 

 怒らないでもらえます?それにこっちにも色々事情があるんだよ。

 

「ど、どうしよう?やっぱり昨日のことかな……?」

 

「昨日?」

 

 そういや、昼休みが終わってから西住の様子がおかしかったな。

 

「うん。昨日、会長さんに戦車道に入るようにって……」

 

 ああ、なるほど。そういうことか。

 

「私たちも一緒に行くから!」

 

「落ち着いてくださいね?」

 

「んじゃ、ちゃっちゃっと済ませようぜ。昼休みが終わっちまう」

 

「え、ヒッキーも付いてくるの?」

 

「……なんでそんな意外そうな顔してんだよ。呼びに来たんだから連れていかないといけないだろうが。あと、ヒッキーいうな」

 

 俺をナチュラルに仲間外れにするのやめてもらえませんかね?

 

「そ、それもそうだね。……なんかごめん」

 

 謝られるのが一番辛いんだが……。まあいい、さっさといこう。

 

 

 そして場所は変わって生徒会室。

 今その中で二つの勢力がにらみ合っている。ひとつは言わずもがな生徒会である。そしてもうひとつはまあ当たり前だが西住たちである。

 俺は一傍観者として部屋の端で様子を眺めていたのだが……、先程から話が進んでいない。

 生徒会の用件はもちろん戦車道に西住を入れること。それに対して西住たちは戦車道に入らないと言っている。

 明らかに話は平行線なのだが、さらに問題なのは当事者である西住本人がまったくしゃべっていないことだ。先程から生徒会に向かっているのは武部と五十鈴であり、西住は顔を俯かせたまま。

 その西住なんだが、戦車道を頑なに拒んでいる理由を俺は知っている。というか暇だったので、今スマホで調べた。

 西住流は有名だし、なんかヒットするだろうと思い、検索を掛けたらあっさりヒット。んで、調べた内容をまとめるとこうだ。

 

 戦車道全国大会。

 その決勝でプラウダ高校と黒森峰学園の試合があった。

 その日は天候が悪く、その試合中に黒森峰の戦車が山道で滑り、川に落ちてしまった。

 ここまではいい。問題はここからだ。

 黒森峰は戦車道の全国大会で9連覇中、そして大台の10連覇がかかった大事な試合だった。

 西住は、西住流という戦車道の家元であり期待も相当なものだったのだろう。

 だが、彼女は川に落ちてしまった仲間を助けにいった。自分の乗っていたフラッグ車を降りて。

 その後はもうわかるだろう?フラッグ車は撃破され黒森峰は負けてしまった。

 そしてプラウダが優勝し、黒森峰は連覇を逃した。結果だけ言えば、西住は戦犯である。

 そのあとのことは想像に難くない。だから西住は戦車道から離れる為、戦車道がないここ大洗学園に転校してきたのだろう。

 

「―――ミホは戦車やらないから!」

 

「西住さんのことはあきらめてくださいっ」

 

 俺が西住のことを調べている間に状況が変わるかと思ったがそんなことはなかった。

 そしていい加減この状況はダメだと感じたのか、先程から黙っていた会長さんが口を開く。

 

「そんなこと言ってるとあんたたち、この学校にいられなくしちゃうよ?」

 

 シンプルに脅しに来た。まじかよ。容赦ねーな、会長。

 さすがにこれには武部たちも押し黙ってしまう。

 

「これじゃちょっと埒が明かないから第三者に意見を聞くとしようか。……比企谷ちゃん?」

 

「比企谷、貴様男ならガツンといってやれ!」

 

「ヒッキー!」

 

 おいおい、なんでそこで俺に話を振るんだよ。あと武部、ヒッキーいうな。

 まぁ、いいか。これ以上長くなって昼休みがなくなるのも困るしな。

 

「俺から言わせてもらえれば、この話し合いは最初から間違ってますよ」

 

 この問題の当事者は誰だ?―――そう、西住だ。

 ならこれは西住が決めないといけない。外野がいくらぎゃあぎゃあ騒いだところでなにも変わりはしない。意味がない。無意味だ。

 

「西住、お前はあのことをまだ気にしてるのか?」

 

 その言葉に、西住はビクッと反応する。

 

「……比企谷くん、知ってたの?」

 

「ああ、悪いが調べさせてもらった」

 

「そう、なんだ……」

 

 西住は更に俯き、顔が見えなくなった。しかし俺は更に追い討ちをかけないといけないのだが、この顔を見ていると躊躇しそうになる。

 

「はっきり言わせてもらうが。西住、お前は戦車道から逃げてここ大洗学園に来たんだろ、違うか?」

 

「……っ!」

 

「比企谷、何言ってるの?」

 

「何って、西住から聞いてないのか?」

 

 たぶん西住は武部と五十鈴にこのことは言ってないはずだ。たぶん、戦車道もなにも関係ない、普通の自分でいたかったのだと思う。

 

「西住は戦車道の全国大会で仲間を助ける為に戦車を降りてその試合に負けたんだよ」

 

「で、でも、それって別に悪い事したわけじゃ……」

 

「助けたことは悪くはない。が、西住が乗っていた戦車はフラッグ車だった。だから負けた。西住がいた黒森峰は10連覇がかかっていた。あとはわかるだろ?」

 

「そんなの関係ないよ!ミホは悪い事してないもん!」

 

「私も、西住さんはなにも悪くないと思います」

 

「会ったばかりの西住になんでそこまで肩入れする」

 

 俺の質問に武部は躊躇なくこう答えた。

 

「友達だもんっ!」

 

 友達、友達ね。

 

「――――。話を戻すぞ。西住、お前は自分がやったことを後悔してる……だから戦車道をやりたくないのか?」

 

「比企谷!そんな言い方ないでしょ!」

 

「少し黙ってくれ。俺は西住に聞いているんだ」

 

 武部がビクッとなり押し黙る。少し強い言い方になってしまったが、大事なことだからな、しょうがない。

 

「で、どうなんだ西住?」

 

「……後悔は、してないよ」

 

「なら、なんで戦車道から逃げたんだ?」

 

「それは……」

 

 後悔はないと、そう西住は言った。その言葉は嘘ではないのだろう。けど、戦車道はやりたくない。

 俺は西住のことなんてほとんど知らない。が、彼女の気持ちを自分なりに想像はできる。

 たぶん、怖いのだ。否定されることが。

 西住だって馬鹿じゃない。自分がフラッグ車を降りて助けに行けばどうなるかぐらいはわかっていたはずだ。

 けど、助けに行った。

 そしてその行為を否定されたのだろう。お前は間違っている……そう、周りから。

 否定され疑問に思う。自分がやったことは正しかったのか、そうでないか。もし間違っているなら、そんな自分が戦車道なんかをやっていいのかと。

 だから、逃げるように、離れるように、戦車道がないこの学校に来たのだろう。

 

「……西住、お前は自分のことが好きか?」

 

「……比企谷くん?」

 

 別に俺は無理に西住を戦車道にいれようなんて思っていない。

 ここからは誰の思惑も関係ない、比企谷 八幡として西住に問いかけるだけだ。

 

「別に戦車道から逃げ続けるならそれでもいいんだろうよ。それもお前の選択だ。けど、」

 

 そう。けど、

 

「お前はボコボコにされたままで終わるのか、立ち上がりもせず?」

 

 西住、お前がボコを好きというなら、お前は俺のこの問いにどう答える?

 

「……え?」

 

「比企谷!」

 

「あーはいはい。俺はもう出ていくからそう突っかかってくんな、武部」

 

 俺の言いたいことも言ったし、もうここにいる意味はないな。

 

「それじゃあ会長さん、俺は昼休みに戻ります」

 

 そう言って俺は生徒会室を後にした。

 

「あ、あの、私―――」

 

 俺が出ていく直前、西住は会長さんに向かってなにかをいう声が聞こえた。最後まで聞く必要はない。結果はどうせあとでわかる。

 

 

 ====

 

 

 そして次の日、俺たちは倉庫の前で待機していた。

 なんで待機しているかというと、戦車道の授業のためである。

 

「全部で18人、私達も入れても22人です」

 

「まあ、なんとかなるでしょ。結果オーライ」

 

 なんて声が聞こえた。俺は生徒会側としてカウントされているらしい。

 

「いよいよ始まりますわね」

 

「うん…」

 

「さらにモテモテになったらどうしよう~」

 

「うるさいぞビッチ」

 

 しまった。関わるつもりはなかったのに、あまりにも武部がアレだったので思わずツッコんでしまった。

 

「ビッチいうなし!って、あれ?なんで比企谷がここにいるの?」

 

「俺も戦車道だからだよ。選択科目が」

 

「えっ、比企谷くんも?」

 

「えーおかしくない。だって男でしょ?あれ?もしかして女だったりするの?」

 

「いやいやするわけないだろ。俺は正真正銘の男だ」

 

 少し想像しちゃったじゃねーか、どうしてくれるんだ武部。

 

「ま、別にいいけど。ミホには近づかないでよね、比企谷!」

 

 当たり前だが相当嫌われてるな。

 

「これより戦車道の授業を始める」

 

「あの!なんで男子がいるんですか?」

 

 先程気にしていない様子だったがやはり気になったのか、武部は会長に質問する。その一言で全員がこちらを向いてきた。

 

「え?男子?」

 

「いたんだ全然気が付かなったねー」

 

「うんうん」

 

 ここにきても我がステルスヒッキーは活躍しているようで。騒がれないと思ったら実は気づかれていないだったでござる……。

 

「比企谷は私達生徒会が用意した。なにかと男手もいるだろうから、困ったら好きに使っていいぞ」

 

 いや、よくないから。せめて本人に確認取るぐらいしましょうよ。もうやだ、ブラックすぎるこの生徒会。

 

「他に質問はあるか?」

 

「あ、あの、戦車はティーガーですか?それとも…」

 

 ほう、戦車に詳しいやつもいるんだな。ここに集まった女子はほとんど武部みたなやつかと思ったが、さすがにそれはないか。ないと思いたい……。

 

「えーと、なんだったけな?比企谷ちゃん倉庫開けてー」

 

 会長に命令され俺は扉をあける。……やだ、もう下っ端根性が染みつき始めている。

 そして開いた倉庫の奥にあったのは錆びた戦車が一つ。

 

「なにこれ…」

 

「ボロボロ…」

 

「ありえなーい…」

 

「侘び寂びがあってよろしいんじゃあ」

 

「いやこれただの錆だから…」

 

 不満な感想がいろいろあるが、とりあえず五十鈴、お前はちょっと感性がずれてると思う。やっぱりお嬢様なのだろうか。

 あと戦車だが俺の見立てではたぶん…と思っていたら俺と同じ意見なのだろう西住が戦車に近づき確認を行い。

 

「装甲も転輪も大丈夫そう…これでいけるかも」

 

 家元の西住がいうんなら間違いないだろ。そしてまわりのやつらも西住の発言で感心している。

 

 まあいろいろあったが、こうして戦車道が始まるのであった。

 


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